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【連載版】推しの氷結公爵に事務能力で雇われたので、今日も平静を装って尊死しています  作者: 江合 花果
第三章 動き出す脅威

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覚悟(ノエル視点)

【ノエル視点】


 私は今、非常に混乱している。


 なんで。

 どうして。

 なぜなんで。


(ライアスが私のエスコートをする!!!)


 父から聞かされた時は、まさかボケたか父ちゃん、と思った。

 ごめん、お父様。

 ライアスは、本気だった。


(なんでよー!)

(エスコートって、デビュタントのエスコートは家族がするものじゃないのー!)


(ゲームでもそうだった!)


(デビュタントのイベントはあったけど、エスコートは必ず家族だった!)

(攻略キャラがエスコートするシナリオなど、どこにも存在しなかった!)


(なのになぜ!)


(めちゃくちゃ目立つじゃん!)

(地味でゲーム本編にも出ないモブ以下の私が!)

(なんで攻略キャラの一人にエスコートされてデビュタントするんだ!)


 隣のライアスを見た。

 すました顔をしていた。

 余裕そうだった。

 完璧な礼装姿で、真っ直ぐ前を向いていた。


(自分はライアスの訳のわからん提案で絶賛大パニック中で)

(しかも正装ライアスに鼻血も溢れそうだというのに)

(いっそ鼻血を出して欠席したい)


 本気でそう思った。

 思ったその瞬間。


「ノエル」


 ライアスが、呼んだ。


「ひゃい!」


 飛び上がりそうになりながら返事をした。


 ライアスがノエルを見た。

 いつも通りの無表情だった。

 しかし目だけが、少し柔らかかった。


「言うのが遅くなったが」


 ライアスが続けた。


「そのドレス姿、とてもよく似合っている」


 来た。

 鼻血が来た。

 全力で堪えた。


 ライアスは気づいていなかった。

 真顔のまま、前を向いていた。


 ノエルは顔が燃えるのを感じながら、何とか口を開いた。


「あ、ありがとう、ございましゅ」


 噛んだ。

 盛大に噛んだ。


 ライアスが、微妙な顔をした。


(今のは聞かなかったことにしてほしい)


 ノエルは前を向いた。

 顔がリンゴのように真っ赤なのは、自分でもわかった。



 少し前まで、自分はずっと思っていた。


 ライアスは元々、異性に興味が薄い人だ。

 自分のドレス姿に何も言わないのも、そういうものだと納得していた。


 しかし今。


 お世辞なのかもしれない。

 しかしライアスから直接そう言われると、やはり、胸が温かくなった。


 推しとしての崇拝とは、少し違う温かさだった。


 そのことを考えかけて、ノエルは意識的に別の方向に思考を向けた。


(今は、考えない)

(考えるべきことが、他にある)


 ライアスのエスコートで入場する。

 それは、噂と醜聞が大好きな貴族たちの格好の餌になるだろう。


 一応事務員とはいえど、ただの事務員をエスコートする人などいない。

 ライアスは私を守るためにそうしてくれている。

 しかしそれは間違いなく、何らかの火種になる。


 だから。


(コソコソ隠れるのは、嫌だ)


 自分はそういうのが、好きではない。

 ライアスが自分を守るためにそばにいてくれる。

 ライアスにそう思ってもらえた自分を、誇りに思おう。


(堂々としていればいい)


(それに)


 そこまで考えて、ノエルの中でヲタク魂が静かに、しかし確実に、燃え上がった。


(あと少しで始まるゲーム本編の、貴重なお宝スチールを)

(私は)

(間近で)

(見るんだ!!!)


(攻略キャラのエスコートで祝賀会に入場するモブなど、ゲームには存在しない!)

(前代未聞だ!!!)


(むしろこれは役得では!!!)

(いや役得どころではない!!!)

(神様、転生させてくれてありがとう!!!)


 覚悟と興奮が、同時に胸の中で渦巻いていた。


 なんとも自分らしい、と思った。



 その時だった。


 王宮の典礼官が、杖を床に打ち鳴らした。

 高く、澄んだ音が響いた。


 扉の向こうで、会場の声が静まっていく気配がした。

 煌びやかな光が、扉の隙間から漏れていた。

 話し声が遠のいた。

 静寂が近づいてきた。


(あ、これ)

(ドアが開いた瞬間、全員に知れ渡るやつだ)


 ノエルは一瞬、そう気づいた。


 この場にいる全ての貴族に。

 ヴァルトハイン公爵のエスコートで入場する令嬢として。


(でも)


 覚悟は、もう決めた。


 典礼官が、声を上げた。


「ライアス・ヴァルトハイン公爵閣下! ならびに、ベルナード伯爵令嬢ノエル様、ご到着!」


 扉が、開いた。


 ノエルはライアスの腕を取った。

 礼装越しだが、ライアスの温もりを感じた。


 ライアスが、一歩踏み出した。

 ノエルも、一緒に踏み出した。


 煌びやかな広間が、目の前に広がった。

 無数の視線が、こちらに向いた。


 ライアスの横顔を、一瞬だけ見た。

 真っ直ぐ、前を向いていた。

 いつも通りの横顔だった。

 しかしその横顔が、どこか頼もしかった。


(さぁ)


 ノエルは前を向いた。


(ここからは、また別の戦場だ)

(覚悟を決めろ、ノエル)


 二人で並んで、祝賀会の会場に入った。

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