約束を反故にする国王
国王は起き上がれるようになると、城下町を眺めた。
「だいぶ、混乱も収まったように見えるが……実際はどうなのだ?」
「はい、ユニコーンの秘薬のおかげで病人は目に見えて減り、城下町にも活気が戻りつつあります」
「そうか」
大臣の話を聞いた国王は、歪な笑みを浮かべた。
「ならばもう、ユニコーンとの約束を守る必要はないな。おい、カッツバルゲル地方とかいう名称を元に戻せ」
その言葉を聞いた大臣は、ポカンとした表情のまま国王を眺めていた。
「おいどうした。余の話が聞こえなかったか?」
「お、おまちください……そんなことをすれば、次に病に倒れたとき……ユニコーン殿が助けてはくれなくなりますぞ!」
その言葉を聞いた国王は笑った。
「はっはっはっはっは……マッテヨ大臣、お主も愚かだな。そんなものはユニコーン本体を捕らえてしまえばいいではないか」
「へ、陛下……お言葉ですが、カッツバルゲル殿と父君は空を飛びます」
「ならば、母馬や妻子を捕えればいいではないか」
「そ……それは……そうですが……」
「何をグズグズしている。さっさと戦支度をせよ!」
「は、はは……」
国王は嗤った。
「力のない者との約束など、破るためにある。この大地で一番偉いのは誰か……世の者たちに知らしめるいい機会だ」
その直後に、侍女たちが悲鳴を上げていた。
「な、何事だ!?」
国王が向かうと、王妃と侍女たちは真顔のままお互いを見合っていた。
「どうした?」
「あ、あ、あなた……今、目の前で……エリスが消えたのです」
「エリスが……? どういうことだ??」
「わ、わかりません。急に彼女の体が宙に浮いたと思ったら、突然……」
王妃は、深呼吸して息を落ち着けると言った。
「ユニコーン様との約束を反故にしましたね……父上の愚か者! と、叫んだのです」
国王の顔からは、見る見る血の気が引いた。
「ど、どういうことだ!?」
「国王陛下、貴方様はやってはならぬことをいたしましたな」
枢機卿……教会の偉い人が出てくると、国王は偉い人を睨んだ。
「賢明なユニコーン殿は、貴方様が約束を反故になさることも可能性の一つとして考え、担保を取っていたということでしょう」
「た、担保……まさかエリスは!?」
国王が悔しそうに言うと、枢機卿は笑った。
「契約の内容は詳しく存じ上げませんが、これ以上、事を荒立てると……本当に娘様のお命が危うくなることも十分に考えられます。国王としての執務に専念して欲しいところでございますな」
「ぐ……ぐぬぬぬ……」
国大臣は困り顔のまま言った。
「書き換えた地図は……いかがなさいましょう?」
「……カッツなんちゃらに戻しておけ。くそ……忌々しい黒毛馬が!」
「は、ははっ……」
――――――――
――――
――
―
一方その頃、カッツバルゲル地方では……
「カッツバルゲル様、お背中をお流しします」
「ありがとう。ゆっくりね」
「はい」
城から消えたエリスは、村人の服に着替えて小生の世話をしていた。
「ユニコーンのお世話ができるなんて、このエリス……夢のようでございます」
「国王の性格を考えれば、小生との約束なんて、3日と持たずに破ることはわかりきっていたからね」
「その言い草はあんまりですよ。5日持つこともあります!」
「まあ、これで国王の人を見下すクセも治るといいな」
コンドコソトレルはそう言うと翼を広げた。
「あら、コンド様はお出かけですか?」
「魔王の正体が病魔であることが判明したからな。とりあえずシッポンに戻ろうと思う」
小生はニヤニヤと笑いながら言った。
「向こうにも奥さんが100頭くらいいるもんね」
コンドコソトレルは不愉快そうな顔で言った。
「人聞きの悪いことを言うんじゃない。まあ、あれは……つまりだな、馬主である国主様の依頼で……」
直後にコンドコソトレルの耳が動いた。恐らく妻ククリの気配を感じ取ったのだろう。
「じゃ、じゃあ……行ってくる。なるべく早く戻るから」
「種付け頑張ってね~」
「み、身も蓋もないことを言うんじゃない!」
そう言いながらコンドコソトレルは大空に舞い上がった。




