妹の特訓
11月にしては珍しく晴れ間が見えた日、小生は母馬ククリと共に空を飛んでいた。
「私がダブルユニコーンに昇格した時には驚いたわよ。まさかカッツがトリプルユニコーンになるなんて」
「首尾よくなれたのは、父さんの助力があったからだよ」
どうやら牝馬は、子供が上位ユニコーンに成長すると特別ボーナスを得られるようだ。
今までは風だけだった母に炎属性も加わったため、冬だというのに隣を飛んでもらっているだけでも暖かくて助かる。
里に下りると、妹スティレットはアレン隊を率いて魔物化したクマと戦っていた。
「いけー! そこだーー!」
「おーりゃーーー!」
「がああァ!」
クマは突進して、アレン隊の支援要員である少女2人に襲い掛かったが、すかさずスティレットはフォローに入り、炎蹴りを見舞った。
「ごぶがらぐ!?」
クマは頭から樹木に突っ込み、ピクリとも動かなくなった。
《油断は駄目だよ。もう一撃》
《了解!》
小生がテレパシーを送ると、アレン隊のメンバーは一斉に投射攻撃を見舞った。
「ぐぎゃーーーーーーー!」
やはり、このアビスベアは死んだふりをしていたようだ。
「よし、これでレベル43!」
なるほど。スティレットも確実にレベルを上げているようだ。元々戦闘能力が高いのだから、さっさと50レベルまで引き上げた方がいいだろう。
小生と母が地面に降り立つと、スティレットはすぐに駆け寄ってきた。
「お母さん!」
「久しぶりねスティレット」
「見てくれた? 私のレベルも上がったし、ボーナスポイントも50くらい溜まってるよ」
「ダメよ。軽々しくそういうことを口にしては……」
「あ、そうだったね……」
スティレットは恥ずかしそうに顔を赤らめると、小生を見た。
「お兄ちゃん、戦い方をもっと教えてよ」
「言っておくけど、小生の稽古は厳しいし荒っぽいよ……ついて来れるかな?」
「言ったな」
「ここまでおいで~」
「待て!」
小生は妹の動きを見ながら森の中を駆けまわった。妹はもちろん追いかけてくるので、巧みに茂みの中に身を隠してから、側面や背後から現れて、首筋などを甘噛みしながら森の中へと引き返す方法で戦った。
「い、一撃離脱!?」
小生は気配を殺しながら再び近づき、今度は身構えた妹の前で翼を広げて飛び上がった。
「え……あうっ!?」
そして、足裏で軽く妹の頭を小突くと、彼女は顔を真っ赤にした。
「や、やったな!」
「闇雲に追いかけるだけじゃ駄目だよ。よく小生の動きを読んで!」
1時間ほど手合わせすると、妹のレベルは45まで上がっていた。
「今日はこれくらいにして、温泉にでも行こうか」
「……ねえ、お兄ちゃん」
「なんだい?」
「実はもう私……クラスチェンジできるかも」
「ん?」
次の瞬間、妹は小生の肩に噛みついていた。あ、やられた……!
見事に小生の不意を突いた妹のレベルは48まで上がっていた。小生に不意打ちを成功させたことが勉強になるだけでなく、自信もついたということだろう。
更に前脚で地面を蹴って泥をぶつけようとして来ていたので、小生は振り払うと素早く後ろに回り込んで妹の首筋を再び甘嚙みした。
「ま、参りました……」
「よろしい」
こうして妹はボーナスポイントを使ってファイアユニコーンへとクラスチェンジした。それにしても、噛まれた肩がヒリヒリと痛い。
これはまさに1本取られた。




