冬への備え
短い夏も既に終わりが迫ったとき、小生たちは冬備えを進めていた。
「干した草は、この倉庫に収めてくれ」
「トチの実のあく抜きが終わったよ」
「それは、こっちの倉庫に収めて」
レベルアップ牧場のレベル上げも中断し、全員で食料を運んだり乾燥させたりと慌ただしい。
「グラディウス、ハチたちは?」
「たっぷりと蜜を蓄えたから冬への備えは万全みたい」
その言葉を聞いたリチャードも頷いた。
「この夏の間に群れの数も4つに増えましたし、来年の収穫が楽しみです」
そういえば、リチャードたちはハチミツを行商人と取引し、金貨や武器などを手に入れていた。
「この辺りもウルフビレッジも、ハチに蜜をくれる草木がたくさんあるからね。来年も積極的に分群をしていこう」
リチャードたちは賛成だと言いたそうに頷いたが、グラディウスだけは険しい表情をしていた。
「あまり働きバチが少なくなると、天敵に重箱ごとやられることもあるから気を付けてあげないと」
慎重なグラディウスの意見を聞き、とても満足した。
小生も間違った判断をすることもあるのだから、こういう仲間たちの意見を積極的に生かしたいと思う。
しばらく作業を進めていると、狼族の戦士の1人が立ち止まった。どうしたのだろう。
「ん……スンスン」
彼は、川原に荷物を地面に置くと鼻を地面に近づけていた。
「どうしたんだ?」
別の狼族の戦士たちも近づくと、その鼻を引くつかせていた戦士は言った。
「おい、硫黄のにおいがしないか?」
「ん、どれどれ……」
狼族の戦士たちは、鼻を同じように近づけると言った。
「あ、確かに……」
「あそこの岩場から漂ってきてないか?」
「そういえばそうだな」
少女の姿をしていたグラディウスも近づくと、岩場のにおいを嗅いだ。
「本当だね……」
彼女は茂みの中に入ると正体を現し、ユニコーンの姿となって岩場に現れた。
そのレベルは78。父コンドコソトレルに修行を付けてもらっているため、魔法力がとても強化されている。
「この場所の精霊に働きかけてみようかな」
彼女は緑色の角を光らせると、岩場に穴が開き、中から硫黄の臭いと共に湯気と水があふれ出した。
「あちち……やっぱり温泉があったね」
「これは生かさない手はありませんな」
リチャードが言うと、小生ももちろんと思いながら頷いた。
「これこそ、まさに最高の冬への備えだね」
冬用の食料を補完し終えると、今度は温泉施設の建設だ。
まずは、岩などを使って露天風呂を作り、そこに川から引いた水を入れて温度を調整。
周りに柵を巡らせれば、入浴中の敵襲も防げるし、脱衣用の小屋も男性用と女性用の2つを用意する計画を立てた。
ん……。混浴じゃない方がいいよね。だけど、万が一にも敵が襲ってきた時に分断されるのも困る。
「リチャードさん」
「何でしょう、カッツバルゲル様」
「男湯から女湯は見えないけど、女湯からつま先立ちすれば男湯を見えるように設計できる?」
リチャードは、隣の大工バートンを見た。
「バートン……可能か?」
「底の岩を、女湯だけ高めに設計すればできます」
「わかった。カッツ様のご期待に沿えるように設計してくれ」
その計画を壁に耳を当てて聞いていた、アレンと狼族の若者はお互いを見た。
「聞いたか。この計画には岩がたくさん必要らしい」
「岩さえあれば、毎日のように修練後にひとっ風呂ってワケか!」
「俺たちだけで運べば、カッツ様の中の俺様たちの評価もうなぎ上りじゃねえか」
2人はにんまりと笑った。
「いいなそれ!」
「よし、抜け駆けだ!」
彼らが振り返ると、小生の妹スティレットが立っていた。
「残念ながら、そうはさせないよ!」
2人の抜け駆け計画は、あっさりとスティレットに阻止されたようだ。




