困惑する狼族の人々
ゴブリンたちを追い払った狼族の人々だが、疲れ果てた様子で壊れた城門を眺めていた。
「直るか……これ?」
「また派手にぶっ壊されたもんだな」
「ん……なあ、あれは?」
ひとりが小生のことを指さすと、他の狼族の人たちもひきつった表情をした。
「お、おい……今度は空飛ぶ馬か!?」
「つーか、あの馬……見たことがあるぞ。雹を降らせた奴じゃねえか!」
「でもあの時は、角が生えていたよな?」
「つーか、近づいてくるぞ!」
狼族は一斉に弓矢に手をかけた。
「待って! 小生は戦いに来たわけじゃない!」
「じゃ、じゃあ……何をしに来たんだ!?」
「長に会いたい」
地面に着地すると、狼族の人々は距離を取った。
「長に会いたいんだな。わかった……俺が案内する」
狼族の長は、建物の中で怪我人の手当てをしていた。
毛色から年を取っていることが伺えるけれど、体はとても鍛え抜かれており、レベルを見ると131と表示されている。
「長……」
狼族の戦士が話しかけると、長は表情を変えずに言った。
「そろそろ、使者が来る頃かとは思っていたが……」
その瞳は鋭く小生を映した。
「まさか、御大将自らいらっしゃるとは」
小生は頷いた。
「戦いの行方を拝見していましたが、今の集落の様子では、次のゴブリンの攻撃は防ぎきれないでしょう」
そこまで言うと、内心では緊張した。
「我が傘下に組みしませんか?」
狼族の長は、じっと小生を眺め続けた。
「なるほど……」
「……」
「……」
長はゆっくりと質問を返した。
「もし、我らが貴方様に従えば……援軍を出して頂けるのでしょうか?」
「お、長!?」
案内した戦士は、愕然とした様子で駆け寄ったが、狼族の長は意に介していない様子で小生の答えを待っているように見える。
「援軍は派遣しません。というより、小生ひとりで十分だとだけ答えさせていただきます」
そう答えると、狼族の長は面白い話を聞けたと言わんばかりに笑った。
「なるほど。いいでしょう……このサーロス、今から貴方様の番犬となりましょう」
そう言うと、長であるサーロスは騎士のように跪いた。
対照的なのは、小生を案内した戦士である。目を白黒させ、とんでもないと言わんばかりに声を荒げた。
「ほ、本気ですか長!?」
狼族の長サーロスは、鋭い視線を戦士に向けた。
「私は本気だ」
そう言われた戦士は、じっと小生を眺めた。
「先ほど、ユニコーン殿は1頭だけで十分を仰っていました。一体、何をなさるおつもりですか?」
小生はしっかりと戦士を見た。
「ゴブリンたちの戦い方は十分に拝見しました。次の戦いは……小生ひとり。あなた方は動く必要もなく勝利してみせましょう」
そこまで言い切ると、質問をした戦士以外の人々もお互いを見合った。
「なるほど。もし本当にそんなことができるのなら……我々も貴方様に従いましょう……なあ、みんな!」
「おう!」
狼族の長サーロスは、早速という感じで尋ねた。
「して、ユニコーン様……早速、我らにご命令ください」
「サーロスさん、確かゴブリンには3つの号令がありましたね」
「え、ええ……ぶっ潰せ、飯だ、寝るぞ。でしたね」
小生は頷くと言った。
「小生が2回嘶いたら……3つ目の指示に従ってください。以上です」
狼たちはキョトンとした。
「ね、寝る……?」
「これは命令です。もし背いたら厳罰を持って対処します」
狼族の戦士たちは、お互いを見合った。
「は……ははっ!」
彼らは一様に困惑した表情のまま敬礼した。




