霧の妖獣
翌朝になると、ゴブリンパラディンは部下たちを眺めた。
「昨日はよくやってくれた。城門さえ破ってしまえば、あの村は陥落したも同然だ」
「どーぜんだ!」
部下たちが恐縮した感じにお辞儀をすると、ゴブリンパラディンは剣を振り上げた。
「我ら鬼族を侮辱した犬っころを野放しにはできん。仔犬一匹逃すな……ぶっ潰すぞ!」
「ぶっつぶすぞー!」
ゴブリンパラディン親子に言われると、ゴブリンナイトたちも一斉に席を立った。
「ぶっ潰すぞ、ぶっ潰すぞ、ぶっ潰すぞ」
「おーーーーーーーー!」
間もなく、ツーノッパコマドリのロビンが飛んできた。
「おーい、カッツ……どこだ?」
「ここだよ」
霧の中でロビンはカッツバルゲルを見つけた。
「いつになく濃い霧だな」
「小生としては薄すぎるくらいだよ。空気が乾燥しているから困ったものだ」
「こ、これで……薄いとか……」
「ユニコーン様」
霧の中から姿を見せたのは、狼族の長サーロスだった。
「ご指示通り、配置が完了しました」
「お疲れ様です。後は皆さんは一歩も動くことなく勝利させてみせましょう」
「は、はは……」
ロビンも言った。
「ああそうそう。さっき敵さんが総攻撃を指示してたぞ。今回は御大将自ら出陣だ」
「ゴブリンパラディン殿とご対面か……前脚が成るね」
「そう言えばお前には、腕がないんだもんな」
小生はロビンは見た。
「ああそうそう。小生が言ったら鳥族のみんなも大の字で寝てもらえるように言ってあるかい?」
「もちろん。その辺は抜かりねえよ、な?」
ロビンが霧の先に目を向けると、木の枝に止まっていた無数の鳥の影は頷いた。
別のツーノッパコマドリがやってきた。
「ユニコーン様、ゴブリン軍の前衛が森の半分を走破しました」
「わかった」
それから数分で、今度はスズメが飛んできた。
「敵の軍勢、250メートル以内に接近」
小生は頷いた。
「ヒヒィィィィーン、クオーーーーーーーーン!」
一斉に無数の生き物たちが動いたことがわかった。
小生もまた角を現わし、出来るだけ青白い光が遠くからも見えるようにした。
「角だけじゃなく……」
「ぜ、全身が……光ってる……」
「すげえ」
ロビン、別のツーノッパコマドリ、スズメが呟いたので睨みつけた。
「……」
「……」
間もなく、ゴブリンの一団がウルフビレッジへと乗り込んできた。
「おらーーーーーーー!」
「……あ?」
霧の中を突っ切ってきた一同は、唖然とした様子のままウルフビレッジを眺めていた。
門番役の狼族の戦士たちは、頭を抑えたまま仰向けに倒れ、横向きで口を開いて眠っている。
「こ、これは……なんだ?」
別のゴブリンも青ざめた表情で、地面に転がっている鳥を指さした。
「なななななな、なあ……あれ、何だよ?」
「ななななななな、何ってトリだよ、見てわかんねーのか?」
すぐに到着していたゴブリンパラディンも、目をぱっちりと開けたままウルフビレッジを眺めていた。
「お、おい……! そこの光っている奴……!」
お呼びのようなので、小生はゆっくりと霧の中から姿を現すことにした。
「く、黒い……ユニコーン!?」
更に近づくと、ホブゴブリンだけでなくゴブリンナイトさえも怯えた様子で小生から距離を取った。
「我が名はメア……お前たちにも永遠の夢を与えてやろう!」
そう言って、更に全身を光らせると、ゴブリンパラディン叫んだ。
「ぜ、全軍……撤収!」
ゴブリンたちは先を争うように逃げ出すと、門番役の戦士たちや、側にいた鳥は身を起こした。
「ほ、本当に……退けてしまうとは……」
「今のカッツバルゲル様のお姿、まさに霧の聖獣でしたな」
「どちらかというと悪魔かも。いやー失敗したらどうしようかと、内心ではビクビクだったよ!」
おどけると、一同は笑った。
間もなく、ゴブリンの軍勢は森の前にある本陣まで逃げ帰ったという。




