異形種(ばけもの)
日々の習慣なのか緊張のせいか夜も明けぬ内に目を覚ます。
「さて。朝練でもするか」
荷物は部屋に置いたままにして部屋を出る。
まだ家の人々は起きていないようなので物音を立てずに家を出る。
村の外に出て鍛錬を始める。
あの世でも現世でも自分を強いなどと思った事は一度もない。
あの世には自分より強い同胞もいる。
現世でも人間の姿でも普通の人間より遥かに頑丈で力もあるが自分より強い人間だっている。
自分は弱いからこそ鍛錬に励み、自分を律する。
鍛錬を終えたところで川で水浴びをして石鹸で身体を洗い、ついでに服も洗う。
こちらの人間は風呂はあるが日中に水浴びをするらしい。電気が無い世界なので当然だろう。
「歯ブラシも持って来て正解だったな。」
昨日も食事の後に歯は磨いたが転移した者や転生した者は、歯は磨いているのだろか?と疑問に思う。
大昔のように歯ブラシが無い時代世界なら、読んだ参考書のように可愛い女の子とイチャイチャしてたら考えるだけでもおぞましい……と思いながら歯を磨く。
身体や歯も清潔に保たなくてはならない。
元の世界でも中世ヨーロッパなど衛生環境がとても悪かった。
幸いにも、この世界には木のブラシらしき物があったので、それが歯ブラシだろうと思った。。
おそらく元の世界も他の異世界も似た文化や風習はあるかもしれないが、もし他の異世界に行く時も衛生環境の悪いところは似てほしくないものだと願う。
そう考えながら歯を入念に磨く。
「洗った服はザックにくくり付けて広げておけば乾くだろう。」
服を着替えて日が登り始めた頃に再び村に戻る事にした。
村では、朝早くに起きて外に出ている者もいた。
「おはようございます!」
村人に自分から元気に挨拶をする。
働き始めた頃に社長から仕事が出来なくても挨拶だけはキチンとしろ!と言われたので外に出ている村人全員に挨拶をする。
「おはようございます!奥さん」
「おはようございます。迅さん」
どうやらサリアとタリナの母親も起きていたようなので声をかける。
「昨晩は泊めて頂き、ありがとうございました」
「とんでもありません。早起きされた様ですが昨晩は寝れましたか?」
「はい。とても」
サリアの腰痛の小さな呻き声で何度も目が覚めたが……。
「娘さん達は、もう起きてますか?」
「ええ。起きていると思いますが何か?」
「私は少々ツボ治療が出来ますので、教えますから奥さんも、娘さんにやってあげて下さい」
あんなに呻かれては痛々しいので簡単だが治療をやってやろうと思っている。
部屋に向かうとドアをノックする。
「おはよう。起きているか?」
「ん?あぁ、おはよう。あたしも妹も今起きたところだ」
「今取り込み中でなければ入っていいか?」
サリアの事だから寝起きの顔を見られて恥ずかしいなんて事はないだろうと思った。
「ちょっと待ってほしい!」
(当てが外れたな……。妹に寝癖がないかどうか言っているから女だったな……)
「いいぞ」
「失礼する」
ドアを開き部屋に入るとベッドに腰痛で動けそうにないサリアが寝ている。
「具合は……良くなさそうだな」
「ご覧通り動けないが、いつ死んでも不思議じゃない冒険者家業だ。生きているのも、あなたのお蔭だ。ありがとう」
「今から旅立つが、その前に少し気休め程度だが治療してやるよ」
「昨日の手当てといい、あんたは医者なのか?」
「違う。そんな立派な職業じゃない……」
腰痛に効く簡単なツボ治療と整体術を母親と妹のタリナに教える。
そして少々奇怪な施術もする。
「……なんだか、あんたの手は随分と温かいな」
「そう感じるだけで、たぶん気のせいだ……」
「少し楽になった気がする。ありがとう。」
「しっかり静養してろよ」
歩けない腰痛となると治るには、そうとう時間がかかる。
「奥さん。今から私は都市に向かいます。お世話になりました」
頭を下げ礼を述べる。
「とんでもない。お世話になったのは私達の方です。また是非この村に来て下さい」
「村の外まで見送る事が出来なくて済まない。本当に感謝している、ありがとう」
「そろそろ、嫁入りの歳なんだろ?あんまり無茶するなよ」
この世界の女性は20から嫁入りの年齢と地獄耳で聴いていた。
「あぁ……気を付けるよ」
その言葉を聞き、僅かに微笑みながら迅は立ち去る。
外に出ると2人の少年と少女も見送りに来てくれた。
元の世界なら彼等は、まだ学生の年齢だ。
元の世界でも彼等と同世代で働いている子もいるが本当に逞しいと思う。
3人はもっと強くなると言い冒険者家業を続けるらしい。
「頑張れよ。未来の凄腕冒険者達」
例え仕事は危険でも情熱を持って頑張る若者は応援したくなる。
村人に見送らながら、標的のいる都市を目指し歩き始める。
「この世界の神で私の世界に入ってきた奴はあいつか!」
迅の存在を快く思わない存在がいた。
「丸1日かけて水晶で探したが、あの野郎こんな近くにいたのか。しかも私の連れてきた人間のいる都市に近付いてきてやがる!」
「そんなに怒ってどうしたのぉ?ナヒヤ。私達も暇して退屈だから遊びに来たけど面白い事になってるじゃないのぉ」
女も男も誰もが振り向きそうな妖艶な姿と声をした女がナヒヤに問いかける。
「呼んでもない奴に来られて、私はちっとも面白くねえよ!」
「偶発的でもないようだし、僕達神以外で来客なんて初めてじゃない?どうやって、この世界に来たか分からないけど僕は彼には興味津々だよ。」
少女のような少年のような声と姿をした者が笑いながら状況を楽しんでいる。
「僕、昨日彼がイノシシと闘っているところ観てたけど、颯爽と現れて蹴るわ殴るわ骨は折るし観てて面白かったよ。」
「なんだと!お前アイツを見つけてたのに、どうして私に教えなかった!?」
「だってどちらが早く見つけるかの勝負みたいで面白いじゃん。それに自分の世界の異変は自分で見つけなきゃ。」
「くそッッ……。まぁ都市までなら普段から鍛えた冒険者でも2日。普通の人間なら最低でも3日はかかる。アイツは重そうな荷物を背負ってるし都市まで3日以上は、かかるだろう」
自分の世界に入り込んだ異物は排除しなくてはならない。
「すぐに行くのぉ?。ナヒヤ」
「いや。最近は他の人間候補がいないか探す為、神通力を使い過ぎたから1日寝て神通力を回復させる。私の神通力じゃ連れてきた人間に【肉体強化】なんて与えられなかったから2日目の朝に都市で1番腕の立つ奴を全神通力を使って洗脳してアイツを始末する」
迅自身を洗脳しようとも考えたが迅は、どこか違和感のある存在なので下手に手を出せないと判断した
。
「それ、面白そうだね」
「面白そうじゃないのぉ。私の世界も平和で退屈してたから楽しませてもらうわ」
「私は神通力を回復させる為、もう寝る。私の世界に侵入してきたアイツの死に様で楽しんでやる」
残虐な笑みを浮かべながら他の2人の神にそう言った後にナヒヤは眠り始めた。
山を抜け平坦な道に出た迅は都市を目指していた。
昨日、地図を見してもらったところ都市までの道は村々を伝っていけば着くらしいとの事。
上着を脱ぎ、ザックをキツく締めて揺れないように身体に固定する。
「さて。走るか!」
街道を疾走する。
寒くもなく、暑くもない心地良い風を身体に受ける。
試合の前は、よく走る事にしている。
よく走ると何だか勝てそうな気がするからだ。
足腰の強化とスタミナ作りには走る事が一番いい。
走って、少し疲れたら歩いて休み、そしてまた走るを繰り返す。
村を出発したのが朝の午前8時前。
歩いている時に歩きながら水を飲み保存食を食べ、2日かかるだろうと言われた道のりだったが走り続け、都市には午後の4時前には到着した。
「……さすがに……疲れたな……」
かつて日本の忍者は1日に160~200キロ移動したという。
自分には到底無理だなと思いつつ呼吸を整えて都市に入る前に汗をタオルで拭き、そして都市に入る。
幸いな事に聞いた話では都市に門兵などはいない。
「……さて。換金して金を得るか」
持参した換金物を昨晩に見せたところ換金は出来るらしい。
他にも、この世界の文字を少し教えてもらった。
教えてもらった文字は質屋と職業安定所と宿屋だ。
質屋で換金して、この世界の通貨を受け取る。
「……この通貨。元の世界に戻ったらゴミだよな……?」
そう思いつつ通貨を眺める。
「……まぁ主は珍しい物好きだから、余ったら全部献上品として贈るか……」
通貨をしまい職業安定所へ向かい職業安定所の前の道で標的を待ち続ける。
日が沈み欠けたところで、今日の報酬を受け取る為だろうか冒険者達が続々と職業安定所に入っていく。
標的の宮橋了は、来るだろうかと思いつつ待っていると……。
(来た……。奴が宮橋了か)
中背中肉で大人しそうな外見の青年。
報告と報酬を受け取る為だろうか、青年も中に入っていく。
前回は話しかけたところ、途中で態度が豹変して自分に襲いかかってきたを思い出す。
いきなり剣を振り回す頭のおかしい奴だと思っていたが、途中で神の名前を言っていたので、もしかしたら神と対話してた可能性もある。
そして自分は異世界の神に監視されている可能性もあると感じた。
(……アイツは私の事を魔族と言っていたが全然種族が違うぞ!)
普通の人間達には自分の正体を見破る事は出来ない。
だとしたら転位者や転生者は神の力を授かり自分の真の姿が分かるのかも知れない。
正体が分かるか確かめる必要がある。
おそらくだが奴は晩飯を食べに食堂に向かうだろうと思っていると予想通り標的は食堂の方角に向かっている。
人混みに紛れ気配を消しながら後を尾行して店に入る。
(さすがに奴が自分の正体が分かっても店の中で乱闘騒ぎなんて起こさないだろう。そして奴自身も店に入ってきて律儀に席に着く、異形の者が騒ぎを起こすとも思わないだろう……)
「いらっしゃい。注文が決まったら、どうぞ」
店主がそう言うがメニューを見ても分からないので適当にオススメを頼む。
標的の宮橋了はカウンターに座っていたので、迅も少し離れた席に座る。
店の中で乱闘騒ぎを起こす気もないし、相手も手出し出来ないだろうと思い、トロくさく通貨を落としてしまった振りをして声をかける。
「おっと、スイマセンね」
標的に自分の存在を見せつけ確認する。
「あ……いえいえ」
迅を一瞥するが相手に変わった様子はない。
「あの~お尋ねしたいのですが、こちらの地方の方でしょうか?」
こちらの地方の人間ではないことは百も承知だが、ワザとらしく声をかける。
「いえ……俺は、この地方の人間じゃないんです」
「そうなんですか。実は私も、この地方に仕事がないかと来たんですよ。貴男も、お仕事でこられたのですか?それとも観光でこちらに?」
「俺は仕事で来ました……」
「なるほど。おっと申し遅れました。私は迅と申します。こちらには、いつ頃来られたのですか?」
話好きなオッサンとして友好的に話かける。
「自分は宮橋了と申します。まだ来て2ヶ月くらいです」
「了さんですか。実は私は今日、この都市に着いたばかりで何も知らないんです。良かったら……この地方に来た者同士として、いろいろと教えて頂けませんか?」
相手を元の世界に戻す手段など他にもあるが、なるべく争わず事を運びたいので接近を試みた。
「俺もまだ詳しくは知りませんが俺で良ければ」
やはり親切な青年だなと思い席を近付け、いろいろと話し出す。
「なるほど!了さんは冒険者をやっているんですね」
「と言っても手伝いとか日雇いみたいなもんですけど」
「いやいや。私は日雇いでも職業に貴賎はないと思っていますよ」
そんな事を言ったが自分の今の仕事など、これから先に外道のような仕事をしなくてはならないと思うと、なんだか胸に突き刺さる。
「迅さんは、どんな仕事を就く為にこちらに?」
「私は10年ほど建設関係の仕事をしていました。その経験を活かして建設関係に就きたいと思っています」
面接で聞かれそうな志望動機を答える。
(……もう少し相手との距離を縮めるか)
「私も、この町には知り合いもおりませんので良かったら今後共に話し相手になってもらえませんか?」
迅はこういうタイプの人間は、なかなか新しい環境に馴染めないと知っている。
何も分からない異世界なら話せる相手も欲しいだろう。
「良いですよ。俺も、なかなか話せる人がいないので」
(良し!まずは一歩前進だな)
話を聞いていると青年は、この食堂兼宿屋に泊まっていると言う。
店主も部屋が空いているので泊まっていったらどうだと言われたので泊まる事にした。
寝込みを襲って拘束して強引に連れ帰る手段もあるが返り討ちに合う可能性もあるので相手の能力が分からない以上、迂闊に手を出せない。
(もうしばらく監視しないといけないな……)
ベッドはあるが相変わらず横になって寝ず、壁に腰掛け座って眠りについた。
が………………。
「………………隣の奴のイビキがうるさい……」
聴力が良いので、この世界の冒険者達のイビキや寝っ屁で寝れない事にイライラを募らしながらも少し眠った。
翌朝、鍛錬終えて水浴びをした迅は標的の宮橋了が今日も日雇いで働くと昨日食堂で聞いた。
自分をまるでストーカーだなと思いつつ遠くから監視を始める。
青年の今日の仕事は倉庫の荷物運びをやっている。
「本当に真面目でよく働く奴だな」
そう独り言をつぶやきながら、相手の変化を見逃さないよう監視する……。
「何だと!?あの野郎はもう都市に着いただと」
思いの他、神通力の消費が激しかったナヒヤは夕刻近くまで寝ていた。
起きて状況を聞いたところ驚きの連続だった。
3日は、かかるだろうと思った迅の進行速度が速い。いや速すぎる!と驚愕した。
「奴は転位魔法でも使ったか?」
「違うよ。彼は都市までの道のりを1日で走ったんだよ。」
「1日で走っただと!あの距離をあんな荷物を背負ってか!?」
「うん!彼は凄い体力の持ち主みたいだよ」
「脳筋な化け物め……」
自分自身の世界に侵入された時、どこか人間じゃないと違和感を感じたていた。
自分の世界に侵入してきた異物として感知する事は出来たが、相手は非常に人間に近い為に探し出すのには苦労した。
そして人間に非常に近い感じがするので間近で見なければ正体が分からない。
「しかも彼、ナヒヤの連れてきた人間に接触までしているよ」
「クソッ!クソッ!」
「今から腕の立つ人間を洗脳して殺すのぉ?でも一番の腕利きの冒険者さんは今は、いないみたいじゃない」
一番の腕利きの人間を洗脳して街道で迅を待ち構えて殺すつもりだったが腕利きの人間は用事で都市には今はいない。
腕利きの人間が帰るのを待つべきかと思ったが、連れてきた宮橋了が連れ帰られてしまう可能性もある。
迅の予想外の行動と腕利きがいない予想外の出来事で作戦が失敗して全てが後手へ後手へと回っている。
何か妙案がないかと考えていると1つの策を思いつく。
「いい案を思いついたから今から都市に行ってくる」
そう言い放ち空間を歪め都市へと移動する。
「ナヒヤ何をしてくれるのかしら?」
「僕達は、ただ見ているだけでいい。彼の死かナヒヤの失敗か」
2人の神は傍観を決め込んだ。
仕事が終わり宮橋了は食堂へ向かう。
丸1日監視していた迅も少し時間をずらし食堂へ向かう。
ーー僅かな時間差。
その僅かな時間差を利用しナヒヤは作戦を実行する。
力や意志の強い者ほど洗脳するには神通力を有してしまう。
だが一時的に自分の【神眼】を与える事は、洗脳するほど神通力を使わない。
「食堂にも腕の立つはいる!」
神のナヒヤは力を与える事は出来るが、ナヒヤの個人の力では人間1人殺す事も出来ない。
迅の正体を見れば退治してくれるだろう、そして失敗しても正体がバレれば迅は都市に居られなくなると思い食堂にいる冒険者達や客に、より鮮明に見えるように【神眼】のスキルを一時的に与える。
「迅が来たな。退散しよう」
そう言いナヒヤは姿を消した。
迅が客として食堂に入った時、食堂は異様な雰囲気に包まれた。
「いらっしゃ………………!?」
まず最初に声をかけようとした従業員が驚きで言葉を失う。
そして先程まで話していた他の客や冒険者までもが迅を見て言葉を失う。
何だあの異形種は!?と、全員が同じ事を考えている。
彼ら冒険者は、いろいろモンスターを見てきた。この都市にも観光で獣人などもたまに来たりする。
だが、あんな異形種は見た事も聞いた事もない。
冒険者達に迅を始末させるというナヒヤの作戦は失敗した。
なぜなら見た事もない異形種を見て、闘いを挑む者がいるだろうか?
経験豊富な冒険者だからこそ未知の者には慎重に対処する。
ナヒヤの能力によって宮橋了も【神眼】を得ていた。そして迅の真の姿を見て恐怖で震えている。
宮橋了だけではない、この場にいる全ての者が恐怖を感じ逃げ出した気持ちだが、まるで心臓を握られている感じで動けない。
恐怖とは理屈ではない。
恐怖とは無意識に感じてしまうものだ。
(頼むからこっちに来ないでくれ……)
その青年の願いとは裏腹に隣に座りだす。
だが異形種は青年の方を見て衝撃の言葉を言い放つ。
「了サン。本日モ冒険者ノ、オ仕事オ疲レ様デス」
「…………!!!!」
人間の発音が出せない生物が人間の言葉を話している、そんな硬質で低く鈍い声が耳に響く。
異形種は自分の名前を知っていて、そして敬語で話しかけてくる。
そんな話し方をする人物は1人しか思い浮かばなかった。
(まさか迅さんなのか?)
異形種は今度は、店の店主に話しかける。
「店主、水ト本日ノ、オススメヲ下サイ」
「…………はい!すぐに、お出しします!」
異形種の行動に全て者が驚いている。
暴れる素振りも無く、注文を頼む姿に少しだげ安堵する客もいた。
だが経験豊富な冒険者達は更に恐怖を駆り立てられる。
何故なら、この異形種は人の言葉を理解し話す非常に高い知能と知性を持っていると確信したからだ。
迅も食堂に入った時から、この異様な雰囲気も察していた。
標的の宮橋了に話しかけるが、震えるだけで何も話してくれない。
店の客も誰1人喋らない。
……が、1人だけ意を決して言葉を発した者がいた。
「おい!兄ちゃん、その異形種から、早く離れろ!」
冒険者の1人であろう中年の男が宮橋了に向かって言い放っている。
中年冒険者の昨日とは違う、この態度や自分の事を化け物と言った事から迅は自分の正体がバレたのではと思った。
同時に自分はやはり監視されている、そして自分の正体は神や力を貰った者にしか見破れないので、こんな事をするのは、おそらく神の仕業ではないかと思った。
迅も、その言葉の主である中年冒険者を見てしまった為、一瞬目をそらしてしまう。
迅の視線から外れた宮橋了は、一目散に店から飛び出す。
しまった!と思ったが、店では騒ぎなど起こせないので、仕方ない。
迅は中年冒険者の方に歩き出す。
この中年冒険者も数々のモンスターと対峙してきたベテランだろうが迅の真の姿の威圧感に腰を抜かしてしまう。
(俺は殺される……)
そう感じられずにはいられないほどの威圧感と恐怖。
中年冒険者の頭の中は、これまで味わった事のない恐怖で支配されている。
……だが店の全ての者に異形種と思われた者は予想外の行動を起こす。
「皆様。私のせいで不愉快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございません」
迅は深々と頭を下げて店にいる全ての者に向かい謝罪した。
皆が呆気に取られている。
そして店の店主の方に向かい小さな袋に大量に入った、この世界の通貨を渡す。
「……お代は結構ですので!」
「受け取って下さい。他のお客様には不快な思いをさせてしまいました。せめてものお詫びとして、この場にいる全てのお客様のお代を支払わさせて頂きます」
「こ、こんなに多くの代金を頂く訳にはいきません!」
「余った分は迷惑料と思って下さい……」
実は迅が換金した物は予想以上に金になった。
そしてサリア達の母親から、通貨の基準も聞いておいたので計算して、おおよそだが倍近くであろう金額を支払った。
「それでは失礼させて頂きます……」
と店主に告げて異形種と言われた迅は店を出た。




