使える物は何でも使います
どこへ逃げる訳でもなく宮橋了は夢中で走っていた。
(ここは確かに異世界だ!しかし何なんだ?あれは?)
彼はエルフやドワーフぐらいは知っているが異世界のモンスターや種族に詳しい訳ではない。
(異世界には、あんな種族がいるのか?)
しかし食堂の人間すら驚きと恐怖の表情を浮かべていた。
そんな事を考えながら彼は人通りが少ない路地裏を走って いた。
「絶対、あれはイカサマだっつーの!」
「だったら博打なんて止めればいいだろ」
「有り金を全部、刷っちまうなんて本当に馬鹿だな、お前は」
「うるせー!あ~チキショウ!イライラするぜ!」
路地裏を直進していると十字路からそんな話しをしていた3人組と彼は出会い頭にぶつかってしまう。
「おいおいおい!痛てなーこの野郎!」
何かを騒いでいるが、ぶつかった人物が迅ではないことに安堵した。
「てめー、ぶつかっただろ?黙ってないで謝れや!!!」
3人組に囲まれて、その内の1人に胸ぐらを掴まれた事で彼は、ようやく今の状況を理解した。
自分は3人組とぶつかってしまい、そして絡まれている。
「ご、ごめんなさい。急いでいたもので!」
友達とも喧嘩などしたことない彼は必死に謝る。
「あぁん?どこに目、付けてんだよ?てめぇ!!」
胸ぐらを掴んでいる男の連れだろうか後ろの2人の男達もニヤニヤと笑みを浮かべている。
彼らは、どこにでもいるチンピラ。
自分より弱い相手に強気に出てくる輩。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい!」
彼も【知識】で胸ぐらを掴まれた際の護身術くらいは知っているが怖くて動けない。
彼は素人なのでチンピラ相手といえ倒せない事は恥ずかしい事ではない。
人間は胸ぐらを掴まれると恐怖を感じてしまう。
「俺は機嫌が悪いんだよ!謝って許されると思うなよ!」
胸ぐらを掴んだチンピラは博打で負けた腹いせを一般人を殴って解消しようとしている。
顔面を殴ろうとパンチを繰り出そうとするが殴ろうとした右腕を何者かに掴まれ動かない……。
「すいません。私の連れが何か、ご迷惑をおかけしてしまったようで」
声の主に3人が振り向くと、そこには大柄な男が立っている。
チンピラ達は圧倒される。
服の上からでも分かる太い腕、分厚い胸板をしている、見るからに屈強な男。
圧倒された事により胸ぐらを掴んでいた手を放していた。
「今の内だ。逃げてくれ」
男は宮橋了に言い放つ。
「あの……でも」
「いいから早く行け!」
男に一喝され宮橋了は逃げ出す。逃げる事は決して恥ずかしい事ではない。
むしろ町で絡まれたら逃げる事が1番いい判断だ。
だが逃げた宮橋了は食堂の一件でチンピラより迅の方が圧倒的に怖かった。
「てめぇ!待ちやがれ!」
逃げた者を追おうとするが、迅に腕を掴まれ阻止された。
「離せ!この野郎!」
そう言われたので掴んでいた手を離す。
「彼が、あなた方に迷惑をかけてしまったようでしたら、代わりに私が謝ります。どうか許して頂けないでしょうか」
チンピラ達に深々と頭を下げた。
迅が予想以上に低姿勢に出た事によりチンピラ達は調子に乗りだす。
「ハッ!許してほしいのか?だったらよ。お前が土下座しろよ」
この世界にも土下座があるのかと関心して迅は膝を付く。
「おいおい見ろよ!。このオッサン、こんな体して本当に土下座する気だぜ」
「俺達にビビってんのか?ビビってんじゃねぇの?」
「コイツ、見掛け倒しだな!おい!」
罵倒を浴びせられるが構わない。
自分の仕事は転移者や転生者を連れ戻す事だ。
迅はチンピラ達の力量を見抜いている。
(……こいつらはサリアよりも弱い。ましてやイノシシより強いなど有り得ない)
主君から異世界人を殺すな!とは言われてはいないが異世界人を殺すと主君の悪評になりかねない。
主人の為や仕事の為、そしてチンピラ達とはいえ謝って許してくれるなら土下座でも何でもする。
迅が土下座の為、頭を下げようとした。ところが。
「さっさと頭を下げやがれ!」
チンピラの1人の右蹴りが迅の顔面を蹴る。
………が1番驚いたのは蹴りを入れたチンピラ自身だった。
蹴られた迅の顔は1㎜も動いていない。
「気は済んだか……?だったらもう行かせてもらうぞ」
少しだけ怒りを込めて言い放ち、チンピラ達を横切り立ち去ろうとするが、肩を掴まれる。
そして振り向いた迅に大振りなパンチをお見舞いしようとするが。
(……遅いパンチだな)
そう思い迅は軽くチンピラのパンチをかわす。
「おい!そんな目で俺を見下してんじゃねぇ!」
お前はさっき私を土下座させて見下していただろ!と思いつつ、一般人に絡むような馬鹿を見下すなと思う方が無理な話だなと呆れる。
やはり、あの世でも現世でも、そして異世界でも頭のおかしい奴はいるんだなと思う。
「なぁ。暇じゃないから放っておいてくれないか?」
「うっせー!。気に食わないだよ!お前の態度が」
……別にコイツらに気に入らる気はない
「全く本当に暇な奴だな……。そんなに構って欲しいのか?」
「大人しく言う事、聞いてりゃいいんだよ!。でないと痛い目見るぞオッサン!」
こういう輩は相手を屈服させたいのだ。
またしても大振りな左ストレートが放たれるが今度は避けない。
打撃格闘技の防御の一つである額で拳を受け、逆に相手を痛がらせる。
「てめぇ!」
残りの2人も襲いかかってくるので荷物を地面に放り投げると迅の目は鋭くなった。
相手は迅の顔面に勢いを付けた右フックを打ちこもうするが、動きがバレバレだったので問題なくかわす。
かわしたついでに軽くボディを打ってやろうかと思ったら相手はバランスを崩しコケた。
最初は距離を測る為【ジャブ】や【前蹴り】や【ローキック】を使わなきゃダメだぞ、と思っていら今度は全員ナイフを取り出してきた。
「物騒な町だな……」
そう思い今度はナイフを持った相手と距離を取り対峙する。
武器を持った相手との対処方法も迅は知っている。
武器を持った相手に襲われたらどうするか?まず1番良いのは逃げる事だ。
だが逃げれば宮橋了にも危害が及ぶかもしれないので逃げる事は出来ない。
逃げる事が出来ないのならどうするか?逃げられないのなら最悪、身の回りの物を使って対処するしかない。
軒先に置かれた樽の上にあった手の平サイズの石を掴み相手に投げつける。
迅の投げた石は鍛える事の出来ない股間に当たり、相手はうずくまる。
「野郎!」
そんな言葉と共に残りの2人の内1人が迅目掛けて、突っ込んでくる。
迅は相手の虚を付いた。
ナイフを持った相手が刺してくるのはどこか?それは腹部から上の上半身だろう。
故に下半身はガラ空きである。
サッカーのスライディングぎみに攻撃をする。
だが迅の狙いはスライディングで蹴りを入れる事ではない。狙いは相手を倒す事。
一部の格闘技で禁止されている技【蟹挟】を使い相手の両足を蟹のハサミの如く挟み倒す。
まさかチンピラもスライディングしてくるとは思わなかったか倒されてしまう。
【蟹挟】はテイクダウンを取るのには有効な技なので迅も試合では不意打ちぎみに使用する。
総合格闘技など技術の有る選手ほど足技の使い方が上手い。
そして素早くマウントを取る。
倒れた隙を突いて迅はナイフを持った手を動かせないように手首を握る。
片手は塞がっているが、それでもこの態勢からでも相手の手を握り潰す。【十の字固め】などの寝業も出来る。
だが今回は1対1ではない。
残りの1人が迅に蹴りを入れようとする。
だがそんな事は、お見通しなので【蟹挟】で倒した相手を素早く起こし腰を切って背後に回りこみ相手を盾代わりに使う。
「ぐぇっっ!!」
迅に盾代わりにされてしまった相手は鳩尾を蹴られ倒れてしまう。
気の緩んだ鳩尾を殴らたり蹴られたりすると、恐ろしく痛い。
「な!?ふざけんな!」
おいおい……。仲間を蹴ったのは、お前だろ?とそう思いつつ今度は放り投げた荷物を掴む。
鞄やバックを盾代わりにして武器を持った相手に対処する方法もあるがナイフで荷物を傷付けられたくないので今回はやめた。
代わりにある物を取り出し向かってくる相手に投げる。
投げた物は『投げ網』。
迅は転移者や転生者と闘う場合になった場合に生け捕りの技を考えていた。
他にも生け捕りの技はあるが、とりあえず今は投げ網を使った戦法をする。
もし網を投げられたら果たして剣を使って斬り払らえるだろうか?止まっている物や固定されているいる物は斬れるだろう。
だが網というのはなかなか斬れないし、自分に覆い被さる動く網を一刀で斬るのは容易ではないと考え迅は発案し実行した。
そして網を被せられた人間はどうするか?絶対に振り解こうとする。
無論、この投げ網生け捕り術の弱点も熟知している。
迅は網を投げつけられた相手の振り解こうとする一瞬の隙を突いた。
相手の足を掴んで転ばせテイクダウンを取った。
そして両手で相手の足首を掴み、ハンマー投げの選手のハンマーのように網に包まれた人間を怪力で振り回した。
ナイフでは足首を持つ迅とは離れ過ぎていて届かない。
そして網に覆われた状態のまま振り回されているので網目のせいでナイフを投げても当たらない。
が……予想だにしないアクシデントが起こった。
軽く投げ飛ばして逃げるつもりだったが股間に石を当てられたチンピラの1人が立ち上がろうとする。
そのチンピラの後ろで振り回していたので頭と頭がぶつかってしまい鈍い音が響き渡る。
(偶然だ……。悪気は無かったんだ……)
……まぁ気絶しただけで死んじゃいないだろう、そう確認して迅は、そそくさと逃げる。
そこに居すわって更に相手を痛めつけると過剰防衛になってしまうので荷物を素早く纏め逃げた。
先程逃げろと宮橋了に言ったが彼は遠くから迅の行動を見ていた。
彼の目には今は異形種などではなく人間の迅の姿が写っている。
迅は青年に近付き提案をする。
「また、アイツらが追いかけて来るかもしれないから場所を移そう」
2人はその場から離れ話し合う。
「あの……助けて頂いてありがとうございました」
「君の方こそ絡まれていたが大丈夫か?」
見つけた時、彼は絡まれていたので確認をする。
「俺は大丈夫です。あの……食堂では急に逃げたりしてすいませんでした。」
宮橋了は深々と頭を下げる。
「気にしなくていい。自分でも、こんな顔だから相手を怖がらせてしまうのは分かっているんだ」
自分は誤解されやすい顔と言って誤魔化す。
そんな話をしていると物陰から1人の少女が気配なく現れ彼らの視界に入る。
この都市の子供だろうか?きっと両親は美形と思われる10歳前後の女の子で西洋人と東洋人のハーフのような整った顔立ちをしている。
そして黒と黄色が混ざり合っているが不自然さのない長く伸びた髪を揺らす。
(こんな時間に子供が出歩くなんて危ないな……)
そう思っていると、その少女は怒りのこもった表情で近付いてくる。
そして10歳の少女とは思えない口調で迅に向かって話出す。
「おい!お前か!。私の世界に侵入してきた化け物は?」




