神々の正体を知る者と動き出す者達
怒り出す少女に、迅は何を言ってるか分からなかったが冷静に分析を始めた。
この少女は私の世界と言っている。
この少女とは初対面なのに自分の事を知っている。
そして化け物と罵り、自分に怒りを向けている。
その答えが正しいとは限らないが隣にいた青年が迅と同じ答えを出した。
「……ナヒヤちゃん……」
「ご機嫌よう。お兄さん。いい仕事は……見つからなかったみたいね」
「あぁ……俺って不器用だから」
「力になってあげられなくてゴメンナサイね。お兄さん、申し訳ないんだけど、この化け物と話してくるから少し待っててね。あとさっきのチンピラは、逃げ帰ったみたいだから安心してね」
青年にそう言いながら、迅にはこっちだ!と手招きする。
ナヒヤの後を迅も付いていく。
やがて人が来ないであろう路地裏で止まる。
「お前が、この世界の神ナヒヤか?」
迅は自分から切り出す。
「様を付けろ。ナヒヤ“様”だ」
迅の事は嫌いなのであろう、口調が変わるが迅も人間を異世界に連れ去る神が嫌いなので小馬鹿にしたような口調で対応する。
「これはこれは失礼しました。落ちぶれたとはいえ神様ですからね!。落ちぶれた女神のナヒヤ“様”。」
「てめぇ!一体私の世界に何の用だ」
(何の用だと?そんな事は決まっている)
「どうやら、あの人間が迷い込んでしまったようでしてね。あの人間を迎えに来た次第です」
「だったらさっさと連れて出ていけ!今すぐにでも勝手に侵入してきた、お前をぶち殺したいくらいだ!」
「では殺されない内に退散させて頂きましょう。しかし落ちぶれた神のナヒヤ様にそれが出来ますかな?仮に出来たとしても最悪この世界が滅びるかもしれませんよ?」
迅は自分が殺されたら動き出す者達がいると推測している。
「……何だと?……」
「話は終わりです。私はナヒヤ“様”には嫌われているようなので、あの人間を連れて失礼します」
「おい。ちょっと待て、待てって言ってんだよ!」
死ぬほど嫌いな迅をナヒヤは呼び止める。
「……なんだ。何か用か?」
「お前、さっきから私の事を落ちぶれた神と言ったな。お前は私達の正体を知っているのか?」
「答えてほしいなら、こちらも聞きたい事がある。あんたら神は昔から人間を異世界に連れ去る、元の世界で言う『神隠し』をやっていたのか?」
ナヒヤは少し沈黙した後、迅に話しても問題ないだろうと思い口を滑らす。
「あぁそうだ!人間を連れ去っていたのは、あれは全部私達神の仕業さ!」
まさか異世界の神が、元の世界の人間を異世界に連れ去ると自分で認めるとは思わなかった。
「良し。じゃあ、ナヒヤ“様”の質問にも答えましょう」
嫌いな相手だが教えて貰った義理として迅も答えだす。
「お前達、異世界の神々の正体は勿論知っている。正体を知っているからこそ、どうして日本に来て日本人ばかり連れ去るのかも推測はついている」
「ハッ。じゃあならさっさと私達の正体を言ってみろよ」
【神眼】で先程、迅の正体を知った。
コイツは地上にいて人間に化けている奴だ。だからこそ、こんな奴が自分達の正体を知っているはずがない、自分の勘違いだったとナヒヤは思った。
「だったらお前達の正体を言ってやろうか?お前ら異世界の神は最初から異世界の神じゃなかった」
そして迅が異世界の神の正体を言い当てるとナヒヤは衝撃を受け迅に問い掛ける。
「ちょっと待て!お前達は、せいぜい異世界にも神がいるだろうとの認識だと思っていた。なのに何故、お前は私達の正体を知っている!?」
迅が知っているのには訳がある。
実は迅は瑠衣や地上の人間世界で生きている同胞とは少々違う。
ナヒヤが言ったとおり瑠衣などの人間世界で生きて暮らしている同胞は、異世界に神はいるのは知っているが正体までは知らない。
人間として生活してる時は、この任務を始める前までは迅は表の人間で瑠衣は裏の人間だった。
だが、あの世では違う。
あの世では瑠衣は表の者で迅は裏の者だったので、当然瑠衣などが知らない情報も知っている。
その1つが異世界の神の正体である。
しかしナヒヤに話す気など全くないので最後に忠告だけする。
「もうナヒヤ“様”に答える事はありませんので失礼します。それとナヒヤ“様”もいずれ神々の決めた処罰を受けると思うので、覚悟しておいた方がいいですよ」
「私が処罰を受ける?私が人間を連れ去った証拠が何処にある?」
「連れ去った証拠は確かに無い。だが先程食堂でお前は人間達に力を与えただろう?。本来神は力を与える事も禁止されている」
瑠衣の嗅覚で探り当てたが、それだけでは証拠とは言えない。
「そんな証拠が何処にある」
ナヒヤは鼻で笑う。確かに力を与えていたが、もう効力は切れ証拠もない。
宮橋了に与えた【知識】スキルも回収済みだ。
「確かに証拠は無い。だが証人はいる。いや証神と言った方がいいかな。神の眼はごまかせないからな」
ナヒヤはしつこく、どう言う事だ!ど迅に聞くが迅はこれ以上話す事もないと判断しナヒヤの前から立ち去る。
迅は宮橋了の元へと近付く。
騙していた事を詫び、そして自分も元の世界から来て、転移者である君を迎えに来たと全ての事情を話す。
「宮橋君。ここは君の居るべき世界じゃない。一緒に帰ろう」
宮橋了に告げると、彼も知らない世界で生きて行くのは苦しかったのだろう、『結び石』で開いた空間を迅と共に歩き元の世界へと帰り出す。
空間を抜けると転移者や転生者の情報を集めている瑠衣の姿があった。
その書類の多さを見て、そんなに大勢、異世界の神に召喚された人間がいて仕事があると思うと嫌になる。
「お帰りなさい。滝崎さん」
「ただいま。瑠衣ちゃん」
挨拶を交わし連れ戻した相手を4人掛けの事務所の椅子に座らせ、ちょっと席を外すからテレビでも見て茶でも飲んで待っててくれ。と事務所に残し隣の部屋で神と対話した事を結果報告として瑠衣と話し始める。
迅と自分が連れてきた人間がいなくなった後、ナヒヤは都市の片隅で考えていた。
「迅を殺すと世界が滅びる?どういう事だ?」
その迅が立ち去ったので、この世界が滅びる事は無いが考えても答えは出ない。
「それより何故証拠もない私が処罰を受けるのだ?」
ナヒヤは迅の言葉を思い出す。
ーー証人がいる。いや証神と言ったほうがいいかなーー
「証神?退屈だからと遊びに来たメヒルとシウノーの事か?」
彼女達は確かに自分が人間に力を与えた場面や失敗を見ているだろう。
だが彼女達も人間を召喚している自分の仲間だから3人の内誰かが密告すればアイツもやっているぞ!と言われる可能性もあるのだから裏切るはずはないと思っている。
「待てよ……。そもそも何で迅は証神がいるなんて言ったんだ?。迅は神の存在を知っているのではなく私達、異世界の神の正体を知っていた。異世界の神の正体を知る者など神ぐらいか神に非常に近しい眷属ぐらいしかいないのに」
ーー非常に近しい眷属?ーー
その言葉が頭の中で引っかかていた。
やがてナヒヤは長らく忘れていた者を思い出すように答えを導きだした。
「クソッ!どうしてこんな簡単な気付かなかった!確かに迅も神の眷属だ。だが地上にいる奴等は人間に化けても体型は細身だ。鍛えてもあんな馬鹿げた体力や力が付く訳がない!迅は違った。人間の姿でも体躯も大きく馬鹿げた体力も力もあるから、迅は奥深くにいた奴だ!」
声を荒げナヒヤは迅の正体を思い返した。
「それにとんでもない奴が証神として監視していやがった……」
迅を監視していたのは神はナヒヤ達3人だけではない、実はもう1人居たのだ。
「監視していた相手がヤバ過ぎる……。奴は世間では王なんて言われてるいるが、奴は王なんかじゃない。れっきとした神だ!迅の後ろでとんでもない奴が動いてやがる……」
ナヒヤは震えながら処罰を受ける前に仲間の神達に事の重大性を伝える為に2人の神の元へと急ぐ。
「マズイ……。早くあいつらに伝えないといけない。迅を差し向けたのは
“地獄の神”だ!」
その名を叫ぶとナヒヤは都市から消えた。
「ーーーーと、もしナヒヤに仲間の神がいれば、当然このような行動を取ると私は考えている。先程も言ったが私の正体を知ったのだから、ナヒヤも私達の主人が地獄の神だと気付き大慌てだろう。だがバレても問題ないのだろう?瑠衣ちゃん」
瑠衣の私室で迅はナヒヤと対話したことの報告とナヒヤが起こすであろう行動を語った。
「ええ。バレてもむしろ好都合らしいですよ」
瑠衣は口元を上げ笑っている。
「“抑止力”になる訳か。異世界の神でも地獄の神は怖いのかな?」
答えは分かりきっているが、あえてワザと瑠衣に聞く。
「地獄の神の力は強大ですから怖いんでしょうね。私には異世界の神の正体は分かりませんが地獄の神とは繋がりがあるみたいなんですね」
(やはり彼女は異世界の神の正体は知らないらしいが、私の仕事仲間なのだから、いずれ異世界の神の正体を知るだろう……)
「そういえば確か異世界人に、この世界の神は誰だ?と聞いたところナヒヤやジュネスもマイナーな神だった。そんな神は力が弱い。力の弱い神では力の強い主が私達にかけた術は遠くから監視するだけでは分からない。だから間近で見ないと私の正体には気付かないだったかな?」
「はい。ですから滝崎さんの報告ではジュネスとは直接接触してませんから、私達が人間じゃない事ぐらいは気付いたかも知れませんが私達の正体が分からない以上は主の正体までは、分かってないでしょう」
力の弱い神ほど転移者や転生者に与えられる【スキル】は乏しい。
何故なら普通の人間を強くするのだから、その為には膨大な力が必要である。
「しかし瑠衣ちゃん。君も人が悪いな。私が主に監視されているの知ってて黙ってたんじゃないか?」
「黙っていろ!と言われましたので、しかし滝崎さんも良く気付きましたね」
どこか悪戯っぽく笑いながら瑠衣は話す。
迅は自分が異世界の神に監視されているのではないかと思った時、同時に自分の主人も監視しているのではないかと思った。
何故なら地獄の神も迅が転移者や転生者といった者達と対峙した時、異世界の神が連れ去った人間に【スキル】を与えたか証拠として見たいはずだから自分を監視しているのではないかと結論を出した。
力の強い神は水晶越しでも相手の正体や能力が分かる。
迅を監視していたのは、ナヒヤ達3人だけではなく、力の強い地獄の神も迅を監視していた。
「異世界の神ですら監視出来るなら主が監視が出来ないはずがないと思うのが普通だ」
「主も滝崎さんが監視を気付いた事を、お喜びになりますよ」
「喜ぶ?またどうして?」
黙っていろ!と秘密にしていた事がバレたのに喜ぶなんて不思議な御方だと思う。
「私も、最初は黙っていろ!と言われたのは、滝崎さんが敵に洗脳されて話してしまう事を防ぐ情報漏洩の為だと思っていました。しかし、滝崎さん自身が主の監視を気付くほどの成長した姿を見せてほしい。とも言っていました」
「成長ねぇ……。期待させてるみたいだげど圧力に感じるよ。なにせ私は地上にいる同胞の中で一番、頭が悪いからな……」
「そんな事ないですよ!滝崎さんが人間社会に潜伏する為に猛勉強されたのは皆が知っています。滝崎さんは地上で働く私達とは違う役割でしたが、そんな者でもキチンと人間としてやっていけるか、どうかの新たな試みだと聞きました」
「……確かにあれは地獄より地獄だった……」
人間社会に潜伏する為に猛勉強させられた事を思い出す。
「しかし主は人間として真面目に働き、町の人間とも良好に暮らす滝崎さんの報告書をいつも読みながら、結果は成功だった!と、いつも嬉しそうに見ていましたよ」
「情報よりも私が人間として上手くやっているかが気になるから私の報告書に興味を抱いていたのか」
と同時に、だから奴等ではなく自分に、任命したのかと思った。
「さて、瑠衣ちゃん。隣で待たせている彼からも詳しく話を聞いてくるよ。それと町の人間から頼まれていた事も、やろうと思う。詳しい話は、また後でしよう」
そう言いながら迅は、話を切り上げた。




