もし出会う人物が違っていたら
サリアの傷を手当てした迅はまだ彼女の捻挫は冷やすべきと思い、それまで彼女達から情報を聞こうとする。
「サリア達は狩人なのか?」
「いや……あたし達は普段はこの近くの村で牧畜や農耕をやっている」
「さっきルジー君が爺ちゃんにケガを負わせやがって!と言っていたがあのイノシシによる被害が多発しているのか?」
「そうだ、畑は荒らすし撃退しようとしたルジーの爺もケガを負うなど被害が多いんだ」
(イノシシの被害はこちらの世界も同じか…)
「あたしは暇な時は冒険者として害獣やモンスター駆除の仕事をやる事もある」
……ほう冒険者とは何でもやるんだなと思いながら質問を投げかけた。
「聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「狩猟ならば腕利きの冒険者の人間か、行政に頼むべきじゃないのか?。それは行政の対応が遅いからか?それとも腕利きの冒険者を雇う金がかかる金銭的な問題か?」
サリアはともかく正直このパーティーは即席で作った感じのするパーティーだと思った。
「両方だ。それとルジーが爺の仇は自分で取りたいと言ってな」
「だから自分達でやったのか、無茶すぎるぞ」
しかしそれならもう1つ気になる点もある。
「本来なら村の若い男がやるべきだと思うのだが、ルジー君もラナン君も若すぎる。若い男は町に出稼ぎでいないのか?」
「……そうだ。あたしと同世代の連中は働き口を求めて村を出た。あたしは妹のタリナと母さんを残していけないから村に残ったんだ」
(母さんと妹さんの為とはいい娘じゃないか。しかし若者の地域離れはこちらも同じなのだな)
「さっき冒険者組合と言っていたが組合があるのは大きな町だと思うがここからだと歩いて何日くらいかかる?」
「そうだな……歩いていくとなると山を越えれば小さな村々はいくつもあるが冒険者組合のある都市までだとは2日ぐらいだな」
(2日……。距離に換算してだいたい60~80キロといったところか)
「オッチャン、冒険者になりに町にいくのか?」
「いや……違う」
突然の質問に迅は答える。
自分の目的は転移者や転生者を連れ戻す事だ。
確かに相手が冒険者なら近付く為に冒険者になることもあるかもしれないし、情報収集や日銭を稼ぐ為になるかもしれないが冒険者になりたい訳じゃない。
「こいつらは活躍する冒険者の話を聞かせる度になりたいと言うんだ。あたしは反対したんだがルジーもラナンもタリナも言うことをきかなくてな。あれはキツい仕事なのに」
強いモンスターを倒す冒険者は少年達には英雄なのだろうか?昔の日本でいえば侍に憧れる農民の少年のようなものだうかと迅は思った。
「この子達は最近冒険者になったのか?」
「そうさ。あたしもそうだが、こいつらはまだまだ剣もロクに振るえないヒヨッコ共さ」
「聞きたい事がある」
迅はサリアに尋ねる。
「なんだ?」
「つい最近冒険者になった者で凄腕の奴はいるか?」
もし標的が神から貰った力で無双しているなら、すぐ噂になるだろう。
「あたしもそんなに仕事を請け負う訳じゃないから詳しくはないが、そんな奴はいないな」
「そうか」
相手は能ある鷹のように爪を隠しているかもしれない。いや……そもそも冒険者などやっているかも分からない。
この世界からたった1人の人間を探すのは途方もない事だ。
「最近登録したばかりのサリアと同年代くらい若い男はいるか?」
就業している可能性はある。
「う~ん……。冒険者も結構いるから新入りを全員覚えてる訳じゃないがどうしてだ?」
サリアは当然の如く聞いてくる。
「実は知り合いが、いつか有名になってやると言って私達の国から旅立ったんだが音沙汰が無くてな。もし夢破れたなら帰ってこいと連れ戻しに来たんだ」
当たらず遠からずと言った返答する。
「こんな顔した奴だ。知らないか?」
迅は荷物から一枚の紙に書かれた似顔絵をサリア達に見せる。
本当は写真の方がいいが写真を見せて人捜しなどしたらおかしな技術を持った奴がいると知れ渡る危険性がある。
だからなるべく厄介事は避けたい。
この似顔絵は瑠衣に書いてもらったものだ。
出来はどうかと言うと……はっきり言って上手である。
瑠衣の腕前はその道で食べていけるのではと思うほど、そっくりに書かれている。
「その男なら見たことある」
「本当か!?」
迅は身を乗り出す。
「あぁ……見慣れない格好をしていたから目立つ奴だった」
「先程言っていた、ここから2日の都市にいるのか?」
「ああ、ひたすら黙々と働く男だった」
「私達の国の人間はとても真面目な人間が多い。この地方からすれば珍しく感じるかもしれないが他にも、この地方の人間と比べて何か変わった感じたところはあったか?。」
変わった能力を持っているかもしれない。
「そうだな……何でも教えてもいないのに知らない筈の事も知っている不思議な男だった」
「教えてくれてありがとう」
今回も標的は近くにいる。
しかし迅は疑問を感じる。
自分はこの世界について何も知らない。
しかしならば奴も同じ条件の筈。
迅は建設業の職人を10年やってきたが他の業種など全く分からない。それはどんな人間だって同じだ。
ならばなぜ奴は教えてもいない事を知っている?。
経歴を見る限りでは奴は飛び抜けて頭のいい人間ではなかった。
おそらくは『スキル』だろうか?。
心が読める『読心術』或いは『1聞いて10を知る』、ただ単純に『知識』もしくは知力が異常に上がっているのかもしれないと推測するが答えは分からない。
(他にも『スキル』をもらって隠しているとしたら厄介だな……)
迅にも多数の資格という技術意外で自分で身に付けた『スキル』はある。しいて言うなら地獄耳。
地獄耳とは異常に聴力が良いこと、一度聞いた事は忘れない、噂を早く聞きつけるという意味がある。
迅が聴力がいいのは耳で仕事を知ろ!と言われ続けて培った技術だ。
そして迅は住んでた町の情報に精通していた。
会社の社長の奥さんなど町一番のおしゃべりなので話すだけで情報が入ってくる。
情報収集の為とはいえ会話は面白い。どんな人間でも自分の知らない事は知っている。
仕事と同じだ。
自分の知らない事は相手に聞いて引き出せばいい。
更に一度聞いた事は忘れないようにする技術も身に付けた。
何故なら仕事で忘れようものなら怒られるからだ。
だから記憶力はいい方だと思う。
しかし人間というのは誰だって忘れる事も多い。先程の社長の奥さんすらそうだ。
「どうして迅ちゃんそんな事知ってるの~?」
なんて良く言われた事もある。
……いいえ奥さん。それは全部、貴女の話していたことです……。
おかげで付けられたあだ名が“地獄耳の迅ちゃん”
迅は町の人間とも良好に接している。
試合に出ているから有名人ということもあるが人間として生きているので町内会の行事にも積極的に参加する。
町の廃品回収やドブ掃除などには毎回必ず参加している。
最近は近所の奥様方の利用で独身なのに小学生の登下校の旗振りをしていた。
迅の前職の職場は週休2日制の世の中で週1日しか休みがないが事前に言えば好きな曜日に休めた。
その休日を平日に当て週1日で小学生の通学路の横断歩道の旗振りをしていた。
ちなみにやはりゴリラに似ている為か低学年の小学生からゴリラというあだ名を付けられた。
別に変なあだ名を付けられたと言っても怒る事はしない。
むしろ大笑いした。自分でも前々から動物に例えるとしたらゴリラだと思っていたからだ。
さて……『地獄耳』こんな元の世界で身に付けた『スキル』で対応出来るのかと不安になるが『スキル』は能力の良し悪しではない!どう使うかだ!と自分に言い聞かせる。
「迅さん、黙ってどうしたんスか?」
ラナンが黙る迅に問い掛ける。
「う~んとな。アイツそんなに物知りだったかなと思ったんだ」
「どんな人だったんスか?。」
「真面目で大人しくて無口な奴だったな」
憶測で言ってみたが間違ってはいない。宮橋了は生真面目で無口で大人しい内向的な人間だ。
迅はここにはいない標的に心の中で問いかける。
(……なあ宮橋君。この世界で働いているのはこの少年達のように冒険者に憧れていたからか?それともいつまでも派遣で働くのが嫌になったのか?それとも女神ナヒヤに無理やり連れて来られて仕方なくか?)
派遣で働くのが嫌になってナヒヤの口車に乗ってしまったのならナヒヤより先に自分に会うべきだったと迅は考える。
昔と違って今は時代が変わった。
迅の知り合いの中小企業の社長達や、お偉いさんからは、いつも言われる。
「知り合いに若くて頑張れる奴はいないか?」
(23歳なんて若いじゃないか。もし正社員の仕事でいいなら、いくらでも紹介するぜ……)




