手当て
イノシシを少年達に倒させた後に迅は剣鉈を鞘に納めサリアと呼ばれた女リーダーの元に向かう。
迅の後を少年2人と少女もついて行く。
彼女も大木から顔を出し一部始終は見ていた。
迅はサリアの前に止まると報告をする。
「あのイノシシは彼等がトドメをさしました」
「サリアと申します。どなたかは知りませんが窮地を救って頂き感謝します」
サリアは礼を述べる。
「サリアさんですか。私の名前は迅と申します」
「迅……さんですか。私に対して敬語など必要ありません。名前もサリアと呼び捨てで結構です」
「では話し方を崩させてもらう。……私も迅と呼び捨てで構わないしそんな窮屈そうな話し方をしなくていい」
「申し訳ないが、それでいいなら助かる」
先程の彼女達の会話を聞いていたがおそらくサリアは敬う話し方など苦手であろう。
パーティーメンバーの1人の少女が迅に近づいてくる。
「迅さん。姉さんをイノシシの攻撃から助けて頂き、ありがとうございます。私はそこのサリアの妹のタリナと申します」
少女は頭を下げ礼を言う。
先程の戦闘中姉さんと呼んでいたがやはり姉妹だったらしい。
イノシシをメッタ刺しした少年達も迅に礼を言う。
「俺はルジー。オッチャン!サリアを助けてくれてありがとうな」
短髪の少年も迅に礼を言う。
「自分はラナンっス。あいつは畑の農作物は荒らすし俺の爺ちゃんもあいつのせいでケガをしたんだ」
背の低い少年のラナンも自己紹介する。
自己紹介が終わったところで迅は切り出す。
「それよりまた別のイノシシが現れるとも限らない。ここは危険だから移動しよう」
「あ、あぁ……。そうだな……ルジー手を貸してくれないか?」
サリアの言葉にルジーが近寄る。
ルジーがサリアに肩を貸し起こそうとするが
「彼女はおそらく足を挫いている。歩かせるのは酷だ」
迅はルジーと呼ばれた少年を制す。
「それじゃ……ふん!んぐぐぐぐぐ~!」
ルジーは踏ん張り、サリアを抱え上げようとするが
「サリア!重いな~!」
ルジーの力ではサリア持ち上がらない。
「違うぞ!鎧が重いだけだ!」
サリアは必死に否定する。
「代わろう」
そう言うと迅はサリアを軽く持ち上げる。
「え!?ちょっ、待っ」
サリアは先程担ぎ上げられた同様の困った声をあげる。
サリアの身長は175㎝くらいか、日本人女性と比べたら確かに背が高かった。
(体重は抱きかかえた感じでは鎧込みで60キロから65キロらいか……)
鎧が重いなんて言っていたが鎧が有ろうが無かろうがサリアなど迅からしてみればどうでもいいくらいの軽量級だった。
移動する前に迅は気にかかっていた事をタリナに聞く。
「タリナちゃんは魔術師なのか?」
「ええ簡単な魔法くらいは使えます」
先ほども見たがこの世界にも魔法はある……。
敵が魔法を使ったら本当に厄介だと思いながら更にタリナに尋ねる。
「氷の魔法は出来るか?」
「私は火の魔法は使えますが、氷の魔法は……氷の魔法が何か?」
タリナは迅に尋ねる。
「いや……氷の魔法が使えれば彼女が捻挫しているなら冷やす事に使えるかなと」
この前の戦いで右足を氷で貫かれた迅は思った。
氷の魔法も使いようだ。傷つける為に使うより人々の生活の為に使うべきだと思った。
「申し訳ありません」
とタリナが謝る。
「彼女を手当てしたいが、村までは遠いのかい?」
(お節介かもしれないが手当てさせてもらうぞ)
「ここからだと20分位時間がかかります」
「それなら応急手当てとして近くの川に向かおう。ラナン君、悪いがあそこにある私の荷物を持ち運んでくれ」
「了解っス!」
捻挫した時は氷で冷やすのが一番だが、何せ保冷が効かない為湿布なんて持っていない。
ならば応急手当てとして川の水で冷やす事に決めた迅は先程魚を捕った川へと向かう。
迅はサリアを抱きあげたまま川へと歩き出す。
川に着くと迅は座れそうな石に一度サリアを乗せる。
「ルジー君、おそらくだが彼女は腰を痛めている。地面に倒れないよう支えておいてくれ」
「あいよ!」
ルジーはサリアが地面に倒れないように後ろから支える。
「ラナン君は私とここら辺にある小石をどかしてくれ」
ラナンと迅は周辺にある小石をどかす。
そして小石をどかした一面に荷物から先程使った投げ網をクッションがわりに敷き、更に野宿もするだろうと持参した防水性の寝袋を敷き最後にその上に自分の外套を脱ぎ寝袋の上に広げる。
「タリナちゃん、サリアの鎧と靴を外してくれ」
「そ、それくらい自分で出来る」
サリアは嫌がる素振りを見せる。
「ケガ人は大人しくしてろ!」
迅は一喝する。
タリナにお願いしたのは男に脱がされるのは嫌だろうと思ったからだ。
タリナは姉のサリアの鎧と靴を外す。
再びサリアを抱きあげ広げた外套にサリアを丁寧に慎重に降ろし左向きに少し足を曲げさせた状態で寝かす。
「少しクッションが悪いが我慢してくれ」
サリアは大木に腰を強打した。もしかしたら歩けないのはその可能性が高い。
それなら座らせる訳にもいかないので痛みを和らげる為の寝方をさせる為、網と寝方と外套を敷いたのだ。
「これではあんたの道具や外套が汚れてしまうぞ」
サリアは申し訳なさそうに言う。
「構わない。女が泥に汚れる方が嫌だからな」
迅はサリアの左足のケガの具合を観る。
「あの……あまりジロジロと見ないでくれるか?」
男に素足を見られたのが恥ずかしいのかサリアは迅に言う。
「そういう訳ではない」
川の水で足を冷やす場合に冷やす部分に傷があると傷口から感染のおそれがあるからだ。
(捻った足首周辺にケガはないか……)
「左足を川に浸すといい。さて……ではその膝上の切り傷の手当てをしないとな」
イノシシに吹き飛ばされた時に負った傷を迅は治療しようとする。
サリアは長ズボンをはいていたがイノシシの牙により膝上の部分は破れてケガをしている。
幸いにもサリアの太ももに刺さらず、かすり傷ですんでいるが傷口からは血が少し出ている跡がある。
「これくらい傷なら唾でも付ければ平気だ」
またもやサリアは拒否する。
「そんな事で治るわけないだろ」
まずは傷口をきれいに洗い流さなくてはならない。
迅は荷物から飲料用に持参したペットボトル水を取り出す。
川の水で洗いながさないのは先程と同じく川の水には菌が含まれている可能性があるからだ。
迅はサリアのズボンをまくりペットボトル水で傷口を洗い流す。幸いにも血が止まっているので止血の必要はなさそうだ。
清潔なガーゼで水分を拭き取る。
昔はケガをしたら消毒が当たり前だったが消毒してしまうと傷口を治す菌まで殺してしまうので今はアルコール消毒せずに傷口を乾燥させない湿潤療法が主流らしい。
しかし動物の牙や爪による傷は別だ。
病原菌が傷口から感染する可能性があるので迅は持参したアルコール消毒綿でサリアの傷口を消毒しようとする。
「何だ?その変な臭いのする綿は?」
サリアが尋ねてくる。
タリナもルジーもラナンも不思議そうな顔で眺めている。
「私の国で消毒に使う物だ」
答えると同時にこの世界でのケガの治療方法が気になる。
迅はサリアの傷口を消毒する。
「く、うぅ」
傷口に沁みるのかサリアは痛みを耐える声を漏らす。
「おと………な…………なんだから我慢しろ」
男なんだから我慢しろと思わず言いそうになったのを迅は抑える。
「今、あたしの事を男と言いそうならなかったか?」
サリアは迅に突っ込む。
「すまない……。一瞬間違えた」
迅は謝罪する。
「別にいいさ。女にしては背も高いし髪も短い、言葉も性格も男みたいだからよく間違えられるから構わない」
サリアは、やや自虐的に言う。
「後ろ姿だけ見たら男といまだに勘違いされるしな。」
ルジーが追撃のように話す。
「そうっスよ。俺達もサリアの事は兄貴みたいなもんだとおもってるしさ。」
迅はサリアの顔を見つめる。
サリアの髪型はショートヘアーで短い。髪の手入れはあまりしないのか出来ないのか少し野暮ったい感じがする。
だが顔立ちは美人に思えるから、化粧の1つでもすれば別嬪さんになるだろうと感じた。
そんな事を思った後迅は口を開く。
「それなら私も男としては背が高いし髪も更に短い。腕も首も太いから知り合いからはゴリラと言う動物によく間違えられる」
ゴリラがこの世界にいるかは分からないし翻訳でどう伝わったかも分からない。
4人は迅をまじまじと見つめる。
「ハハハ!確かにオッチャンはシルバーバックにそっくりだ!」
ルジーが笑う。
確かにと他の3人も頷く。
どうやらこの世界ではゴリラはシルバーバックと呼ばれるらしい。
シルバーバック。元の世界のゴリラは13年程すると背中の体毛が白くなる為そう呼ばれる。
(この世界のゴリラは生まれつき背中の体毛が白いのか?)
疑問が浮かんだが考えても答えは出ないから考えるのをやめた。
「みろ!貴女はまだ人間に間違えられるが私は動物に間違えられたぞ」
「確かにシルバーバックの怪力ならイノシシだってぶっ飛ばしても不思議じゃないっスね」
ラナンは納得した風に言う。
「だがシルバーバックは凶暴だが迅はこうして、あたしの手当てまでしてくる」
彼女の言葉ではこちらの世界のゴリラは凶暴らしい。
消毒した傷口に薬を塗り、ガーゼを当てテープで止める。
「こんなものかな」
異世界人にこの手当てが適用するかは分からない……しかし何もしないよりはマシだろう。
「何から何まで済まない。手当てをしてくれてありがとう。」
「気にしなくていい」
いつの間にかあの人と同じ口癖を言った自分がいる事に気付く。
この言葉は迅の身近な人間がよく言っていた言葉だ。
その人物は性格はで頑固で妥協を許さず迅は名前を呼ばれれば、急いで要件を伺いに行く程恐ろしかった。
タバコを薬と称し健康の為止めてくれと言っても吸い続け酒は水だと言い張り飲めば説教ばかりしていた。
しかし何も分からない自分に1から教えてくれた恩人のような存在であり親身にしてくれた人間。
「迅よ。気にしなくていい」
(……そうですよね社長…。貴男が常日頃から私に言っていた言葉です……)




