考察と推測
時間の過ごした方は人それぞれ違う。有意義に過ごす者と無駄に過ごす者が当然いる。
では人外の者だか人間として人間社会で生きている2人はどちらだろうか。2人は室内で壁に掛けられたダーツボードに交互にダーツを投げている。
無意味な事や関係ない事が重要だっりするが特に意味はない。人間の遊びを知る為に始めた事だったが今は人間の遊びが好きだった。
仕事の話だけでは息が詰まるので、こうした息抜きの時間だけが人間として生きている実感を感じさせる。
やっているのは01ゲーム。どちらが先に0にするか競うゲームだ。
先攻は瑠衣が投げる。
「ナイスワン!」
真ん中のブル狙いで狙ったダーツは、その内の1本がダブルブル50点に命中したので迅は掛け声をかける。
後攻の迅に順番が回ってくる。ダーツも久しぶりだなと思いながらボードに向かってダーツを投げる。
「ナイスハット!相変わらず上手ですね」
1ラウンドで迅の投げたダーツは真ん中の50点のダブルブルに3回突き刺ささりハットトリックを決めた。
「さて、今日は瑠衣ちゃんの意見も聞きたいと思ってね」
チェス等のボードゲームでは瑠衣には勝てないがスポーツゲームなら迅の方が得意だった。
「私の意見ですか?」
「聞きたい意見は異世界での魔術の事だ」
迅は今まで異世界で魔法を使う者を見てきた。大した魔法ではないのかも知れないが問題は使える事実だ。
瑠衣の能力で調べれば相手が、どんな種類の魔法を使うかも分かるが、知りたいのは種類ではなく原理だ。
風、氷、火、土、電撃と様々な術を使う能力者を見てきたが科学的に考えれば原理が分からない。
「例えば風の魔術だが、風が自然に起こるのは簡単に言えば熱エネルギーによって暖められた空気が冷やされる事によって空気に流れが生じ風になる。だが小僧の魔術は自然ではなく団扇で扇ぐように人為的だった」
「私も千里眼で視ましたが機械等無しに人を傷付ける風を起こすのは不可能です」
「その通りだ。それは神の力を授かったとして使用出来たと言えば納得は出来る……」
「神の力の事で聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「古来では人間に神の力を授ける事が許されていたのですか?」
「今は禁止されているが古代では例外的に認められた事があったらしい……。それは、この世界の人間が異世界に行ってしまうなら、古代では逆に異世界から異物がやってきた」
「異物ですか?」
「神達は、その異物から世界を守る為に戦ったが、どうしても自然や動物、そして人間全てを守る事は出来ない。だから例外的と認めたり代償を払わせて力を与えたそうだ。まぁ、誰も信じない、おとぎ話だがな」
古代には超人的な能力を持った人間も存在した。しかし、それは信憑性のない神話や、おとぎ話として伝わっている。
「人間に力を与えるのを禁止したのは危険過ぎるからですか?」
「そるもある。人間なんて欲望の塊だ。力を正しく使うなんて限らないから禁止したそうだ。だが少々抜け道もあるんだ……」
長年の付き合いと知能の高さから瑠衣は迅の言いたい事を導き出す。
「神は禁止されていますが、それ以外なら禁止されていないのですね……」
「そうだ……。例えば精霊の類いは神じゃないから禁止はされていない。だから怖いのは神の力を越える精霊だっているかもしれない事だ」
「精霊や悪魔が人間を蘇生したら罪になるのですか?」
「場合によりきりだな」
神の配下である精霊達が人間を蘇生すれば、それは神の罪になるので神は配下の精霊達に固く禁じなくてはならない。
しかし、神に属さない者達に制限は無い。もしかしたら長い年月の修行の末に蘇生術を自力で習得した者達もいるかもしれないので、自力で習得した能力に制限をする筋合いなど誰にも無いのである。
「では精霊や悪魔が能力を与える可能性も……?」
「無いとは言い切れないな。しかし、悪魔ってのは狡猾だから自分にメリットが無ければ能力なんて与えないだろうと思うがな」
「では能力を与えようとしたら?」
「人間の詐欺師と同じさ。悪魔は優しく微笑みかけるだろう。悪魔は契約を結ぶ、その時までは優しいからな」
「私は人間の方が、よっぽど悪魔に思えます……。忌避を犯す異世界神達が人間に対してチート能力を与えるのは、やはり見返りを求めているのでしょうか?」
そう言いながら瑠衣は異世界神の企みを述べる。知能の高い瑠衣は異世界神達の企みに気付きつつある。
「答え合わせをしたければ千里眼で私の過去を視ればいい。場面は私が16の時に参加した異世界への報復戦争の時だ。敵対する異世界神の正体も分かるぞ」
「それは無理です……。滝崎さんの過去を知るという事は獄卒時代の拷問も視る事になります。それは私には直視出来ません……」
「そうか……」
やはり時期をみて話すしかないかと思いながらダーツを投げる。
敵対する異世界神達の正体も、人間に力を与える事を禁じた話も、報復戦争の時に閻魔の名代として獄卒達を率いた泰山府君より聞かされた。
事の発端は偶発的に転移してきた異世界人。
異世界人達は同胞の餓鬼達を殺したが、それは異世界人達にも仕方なかった事情の部分もあったので閻魔は許した。
「私は10歳の時だったので、よく覚えていませんが……」
瑠衣が覚えているのは当時、あの世が怒りに包まれていた事だった。
理由は異世界人達は恩を仇で返す行いをしたので地獄の神達や鬼を怒らせた為。
結末は手錠と首輪で繋がれた異世界の王達と関与した異世界神達が閻魔の前に罪人のように裸で連行されている尊厳を壊された光景だった。
それは報復として戦争に参加した獄卒達が報復先の異世界に破壊と殺戮、そして再生の地獄を見せた事実。その後、戦争に参加した獄卒達は裏の者と呼ばれるようになった。
「子供は戦争を体験しなくていいし、知らなくていい……。歴史から戦争の悲惨さを理解すればいい」
敗戦国には戦争は悲惨さが伝わり勝戦国に栄光として伝わる。しかし、異世界の超大国に勝ったにも関わらず得た物は何も無かった。同胞を失った事実しか残らなかったからだ。
「話を再び戻すが、転生者、転移者達は力を授かった故に魔術が出来たとしても、以前出会った異世界の少女は火球を生成していた。火を生成するのには酸素と熱エネルギーと燃料が必要だ。しかし彼女は燃料なんて持っていなかった。瑠衣ちゃんはに原理は何だと思う?」
迅は科学的に考える。火を起こすには酸素は空気中にあるが、熱エネルギーと燃料が不明だ。
「そうですね……もしかしたら私達とは身体の構造が違うのではないのでしょうか?」
「見た目は私達と同じだった。赤い血も流れている。ならば外見ではなく中身だろう」
「体内のエネルギーを、火を生成する燃料に変換しているのではないのでしょうか?」
「そうだとしたら凄まじい能力だ。彼女は魔法使いには初歩的な魔法と言っていたが私はそう思わない」
異世界の少女は精霊と悪魔とも契約を交わしていないと迅に語った。少女が言うには大なり少なり誰しも魔力を宿しているらしいとの事。
空気中にある酸素とエネルギーを結合させて火を起こしているだけでも凄い能力である。更にそれを自在に操るなど超越者にしか思えない。
「私達にも特殊な力は有りますが不可能ですからね」
千里眼や蘇生術を使う者達でも自分達には出来ない術には驚嘆する。
「まぁ転移者や転生者達の大半は、何で魔法が使えるのかも分かってないだろう。それじゃ駄目だ」
「異世界の少女は仕方ありませんね。まだそこまで文明や科学が進んでいないようですし、彼女は村娘ですから高度な教育も受けていないかもしれません。アイザック・ニュートンもリンゴが木から落ちるのを何故?と思ったからこそ引力を発見したそうですし」
当たり前の事を当たり前だと思ったら、そこで人類の進化は止まる。何故?と考える事も必要なのだ。
「ちなみに、あのリンゴは不味いそうだ。リンゴは青森産に限る」
「滝崎さんにも、こだわりがあったんですか?」
リンゴ1つでも2人のリンゴ対して、どう扱うかは違う。瑠衣は原産地や出荷ルートが気になり暇なら立体的にスケッチする。迅はリンゴを握力で粉砕して場を沸かせようとする。
「食い物は美味い方がいいだろ?野菜も無農薬が良いなんて言うが、農薬も少しは使った方が美味い物を作れるらしいぞ」
2人が話すと会話が脱線するが、それはそれで楽しみながら互いにダーツを投げる。
「ゲームが終わったら、また居場所を教えてくれ。君の能力は本物だからな」
異世界転生者のいる場所や情勢なども正確に当てた瑠衣の能力は凄まじかった。
「本物……というのはどういう意味ですか?」
少しだけ気になる言い方をしたので迅に尋ねてみる。
「君はトゥルダク様に石を渡した神を伝えたが、閻魔様達は最初から知っていたと思う」
「どういう事ですか?」
「考えてもみろ、閻魔様や泰山府君様に嘘など通用しない。全てを見通してしまうから最初から知っておられたのだろう。そして全ては閻魔様の思惑通りだったという訳さ」
「もしかして私がトゥルダク様に報告するという事も……」
「分かっていた筈さ。そして君は大罪人“桃太郎”に石を渡した神を言い当てた。千里眼の能力が不完全なら、何か言う筈だが言わなかったという事は能力が本物という証だ」
「では、どうして私達に隠し事を?」
「隠し事ではない……。我々が知る必要が無いと言われたら、それまでだ」
敵対する異世界神達の正体も裏の者と呼ばれる一部の獄卒達しか知らない。
「隠し事と言えば……君も何か隠していないか?」
「え……?」
「君は石の思念から無限地獄へ落ちた桃太郎の事を語っていた」
「それが、どうかしました?」
「相変わらず、無表情は下手だな。君はトゥルダク様に報告したところ石を渡した神は既に亡くなっていると言った。しかし、思念を読み取れるなら石を渡した神の事も分かるんじゃないのか?」
「バレてましたか……」
「隠したのには理由があったのか?まぁ言いたくなければいいが……」
瑠衣が隠し事をしたのは知らなくていいからだろうと思う。見たくもないものをみたかのだろうかダーツを持った瑠衣の手が震える。
「これは私の推測だから正解とも不正解とも言わなくていいから聞いてくれ」
そう言って迅は自分の疑問に思っていた事と推測を瑠衣に話す。
まず標的となる転移者や転生者とは早く出会う事が出来たのは何故か?答えは自分達の陣営には、勘が鋭い人物もしくは、的確な占いの出来る人物がいると推測している。
そして何故、閻魔様は自分に桃太郎が持っていた石を使わせたのか?それは恐らくだが主君は桃太郎と女神の間に産まれた子孫の神を誘き出そうとしているのでは考えている。
理由は敵対関係にあるに他ならない。
その為に自分に石を使わせて相手の出方を窺っているのだろう。
確証として異世界へ行く道具を渡すなら、わざわざ桃太郎の持っていた石など渡す必要など無いからだ。こちらには大義名分もある為に特例として異世界に行く道具を渡せばいいのだから。
迅の推測に瑠衣は何も言わない。
それでいいのだ。敵に情報がバレたとしても推測なら確かな答えではないからだ。
ダーツボードに連続でダブルブルの50に当ててきたが、終わりを迎える時がきた。20のトリプルでもよかったが、久しぶりに50に連続で何回当たるか挑戦したかったので50狙いにこだわった。
ルール設定はシングルアウト。自分達はプロではないからシングルアウトルールでいいと決めた。
最後に狙うのは1点。迅は己の命運をダーツゲームに重ねる。
生か死か。
過程は重要ではない。大事なのは結果。決める時に決めなければ意味はない。
外せば死が待ち受ける……。
どんな結果であろうと、これを最後の1投と決めダーツをボードに投げる。
結果を見届けた迅は、瑠衣より千里眼で相手の居場所を聞く。
「さて、行くとするよ」
「無事に帰って来て下さいね。私も負けっぱなしじゃ悔しいですから」
「あぁ。またダーツやろうな」
再戦の約束を交わした迅は次の異世界へ旅立つ。
「やっぱり勝てないなぁ」
暇を見つけては練習していたつもりだったが、迅の腕前に勝てなかった。
迅が次なる異世界に出発したので1人残った瑠衣は部屋に飾ったダーツボードに刺さったダーツを片付けようとダーツボードに近付く。
やっぱり片付けるのは止めにしよう。
片付けるのは迅が帰還した時でいいと思った。
迅の投げたダーツは最後の1点に当たっていた。




