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転移者や転生者を連れ戻す者  作者: ギャレット
22/27

斬首刑

耳をすませば川のせせらぎが聴こえてくる。意識を集中しなければ蝉の鳴き声がうるさく鳴り響く。


 だが、波多秋就にとっては蝉の鳴き声が、目の前の男の言葉をかき消してくれる事はなかった。


「切腹しろ!」その言葉が頭の中で何度も木霊する。


 この男は何を言っているのだろうか?冗談ではないかと迅と名乗った男の目を見るが男の目は笑ってなかった。


「聞こえなかったか?なら何度でも言ってやる。切腹しろ」


「切腹……?」


「そうだ、侍の勝負は常に生か死だ。お前は罪人だが名誉ある死で死ねるのだから光栄に思え。介錯人は私が務めてやる」


「さっきから俺の事を罪人て言っているが何の事だ……?」


 激痛に耐えながらも少年は口を開く。


「お前の罪状は戦争で、この異世界人を殺した事だ」


「罪状?戦争なんだから、当たり前だろ」


「そうか。じゃあ、お前が地獄に行くのも当たり前だな。覚悟しておけよ」


「地獄……?」


「死ねば分かる事さ。さて……侍なら当然、自害用の懐剣は持ってるよな、侍なら見事切腹して散ってみろ」


「何を言ってるんだ?あんたは……?なんで俺の世界の侍や切腹の事を知っているんだ?」


「さっきも言っただろ?私は、お前の魂を回収する為に、お前と同じ世界からやってきたからだ。それより、なんで傭兵になったんだ?傭兵隊長ヴァレンシュタインにでも、なるつもりだったのか?」


「ヴァレンシュタイン?」


 波多秋就は日本史の成績は良かったが世界史には詳しくないのか、ドイツの傭兵隊長ヴァレンシュタインと聞いてもピンとこないようだった。


 そんな話をしていると、何処からか夏鳥の声が鳴り響く。


「この鳴き声は、ホトトギスか……。お前は、ホトトギスの句を読んだ戦国時代の人物は知っているか?」 


 何を言っているんだコイツは?と思いながらも時間を稼ぐ為に少年は返答する。


「……織田信長、豊臣秀吉、徳川家康」


「よく知ってるじゃないか。実は他にもホトトギスの句を読んだ戦国時代の人物がいるが知っているか?」


 問いかけるが、波多秋就は知らないと表情で答える。


「加藤清正、足利義輝、信長の妹、お市、そして織田家筆頭家老の柴田勝家がホトトギスに関する句を読んだ。お市と柴田勝家と2人の辞世の句は知ってるか?」


「知らない……」


 蚊の鳴くような小さい声で少年は答える。


「お市の方の句は『さらぬだに 打ちぬる程も 夏の夜の 別れを誘ふ ほととぎすかな』だ。それに対して柴田勝家はこう辺歌したそうだ。『夏の夜の 夢路はかなき 彼の名を 雲井にあげよ 山ほととぎす』意味は分かるか?」


「分からねえよ……」

 

「現代文に訳せば、お市の方は、『そうでなくても夏の夜は短いのに、ほととぎすが今生の別れを急かすようですね』柴田勝家の方は、『夏の夜の夢のように儚い人生だった。山ほととぎすよ、せめて我が名を雲の上へ語り伝えてくれまいか』と、こんな感じだろう。柴田勝家は脳筋のイメージがあるが、豊臣秀吉より先に刀狩りを実地して農民に農具として渡したり、領地をきちんと整備したそうだ。そしてさっきの句から私は柴田勝家は知勇を兼ね揃えた名将だと思っている。お前も辞世の句を読むなら書き留めてやるぞ」


「あんた……何者なんだ……?」


 レスラーのような巨体や厳つい顔に似合わず、饒舌で知的であるところが不気味さを増す。


「そうだな、ホトトギスと言ったところか」


 平安時代から近世にかけて、ホトトギスは黄泉の国からやってくる鳥だと思われていた。


 自分は黄泉あのよから迎えにきたホトトギスだと伝える。目の前にいる抹殺対象の少年から見れば死神に感じただろう。


「辞世の句は読まないのか?まぁそれならいい。こっちは準備出来ているから、いつでもいいぞ」

 

 後ろに立ち、少年の首を斬り落とす為に剣を構える。


「懐剣なんて持ってない。だから今は切腹出来ない!」


 生きる為の時間稼ぎだろうか少年は必死に返答する。


「じゃあ、私の剣鉈を貸してやるから早くしろ」


 少年の返答に間を置かずに返答する。


 自分の剣鉈を少年の前に投げ出すが、容赦なく釘を刺しておく。


「その剣鉈で最後の足掻きをしてもいいぞ?出来たらの話だかな」


 元々、波多秋就は切腹させて殺すつもりだった。右腕を残したのは切腹させる為に、左足を破壊したのは逃げれなくする為に。


 波多秋就は迅の剣鉈を握るが震えが止まらない。突然の死より確実に迫りくる死の方が遥かに怖いからだ。


 なかなか自害する雰囲気を見せない相手に対して、ある疑惑が浮かんだので少年に尋ねてみる。


「……お前、もしかしてキリスト教徒か?」


「え…………?」


 思いがけない問いかけに波多秋就は呆然とする。


「お前を切腹させるつもりだったが、キリスト教では自害は禁止されているからな。だが、お前の家は仏教徒だと思ったが……」


 波多秋就は、何故、そんな事を知っているんだ?という顔をするが、情報漏洩を避ける為に、その答えを資料で読んだとは言わない。


「まぁ、信教は自由だ。だから親が仏教だからといって、お前も親の信仰している宗教を信じる必要も義務もない。我等も、我が主君も、その辺は非常に寛容だ」


 閻魔は人間が何を信仰していようが、それが人に迷惑をかけない限り悪行として裁かない。鬼も閻魔も1人、1人、考え方が違うのは当然だから、信仰も自由と尊重して容認する。


「キリスト教徒なら切腹は出来ないな。だったら細川ガラシャの様に胸を突き刺して殺すしかないか」


 今度は正面に立って心臓に狙いを付ける。


「違う!俺はキリスト教徒でも仏教徒でもない!」


「じゃあ無神論者か。それも選択の自由だから構わないが、だったら早く切腹しろ」


 再び、少年の後ろに回って剣を構えると、ゆっくりだが人の気配と足音が迫ってくる。

  

「待ってくれ!」


 突如して聞こえた第三者の声に思わず手を止め、波多秋就と迅は声の主を見る。

やはり来やがったか……と、思ったが声の主は何も出来ない女なので再び少年に視線を戻しながら話かける。


「まさか助けに来たのか?お嬢さん」


 見れば、手足を拘束された少女が立っている。


「ナーシャ……どうしてここへ?」


 視線を戻した理由は手足を拘束した手錠の鍵を渡していない為。前回は邪魔されそうになったが今回は先に拘束しているので邪魔される心配は無い。


秋就(そいつ)は勘違いしているんだ。悪いのは問答無用で斬りかかった私なんだ」


「怪しいからと問答無用で斬りかかって来やがって……どうゆう神経してんだ……」


 異世界転生者の居る街の近くまで来た時に、どうやって標的を捜そうか考えていた。とりあえず川の上流で水を飲みながら一服していたら、この異世界で満足に寝れない日々が続いたせいか強烈な眠気に襲われ眠ってしまった。


 寝ていたのは時間にして僅か数分。物音だけで起きれる訓練をしていたので自分に接近した少女の足音に目を覚まして気付いた。起きていれば少女と遭遇する事もなく身を隠せたが寝ていた為に対応が遅れてしまったので接近を許してしまった。


 そして敵の斥候と間違われて問答無用で少女が斬りかかってきた。必死に弁明をしたが話が通じる相手ではなかったので仕方なく少女を拘束した。そこへ抹殺対象である波多秋就が現れた。


「頼む!許してくれるなら貴方なら望むだけの金額を支払うから──」

 

「……お前は、私と立場が逆だったら、問答無用で殺す気で襲いかかってきたくせに、立場が悪くなったら謝って金銭で済まそうとする奴を許すのか?」


「虫が良いのは分かっている。何でもするから秋就(そいつ)だけは許してくれ!」


 少女は頭を地に付け許しを乞う。


「何を勘違いしているんだ?お前達は?」


「え?」


「お前達は命懸けの勝負に負けた敗北者だ。敗北者に決定権など無い。お前達の生死を決めるのは勝者の私だ」


 音程は低くドスの効いた声で言葉の速さは、ゆっくりと相手の目を見つめながら2人に言い放つ。言葉は、ゆっくりと低い声の方が相手に伝わりやすい事を人外の者は知っている。


 ドスの効いた冷たい言葉に波多秋就とナーシャは恐怖した。


 男の言っている事は何1つ間違っていない。弱ければ奪われる立場である事を2人は知っている。


 そんな2人の表情を見た迅は、少しだけ逃げ道を示す。

 

「だが、お前が切腹するなら、その小娘だけは見逃してやろう」


 生かさず、殺さず、相手に逃げ道を開けておきながらも相手を追い詰めていく。


「待ってくれ!だったら私が代わりに首を差し出すから許してくれ」 


 やはり、小娘と言えど女だな。


 そう感じずにはいられなかった。


 男と女、いざという時にに肝が据わっているのは女の方だ。彼女が妊娠を知った時や、妻が命懸け出産の時でも、どっしりと構えている男は少ない。いざという時に男は狼狽(うろた)えるだけだ。


「お前の命などに興味は無い。それと私は、どんな小さな約束でも守るし、無益な殺生は好きじゃない」


 その言葉は目の前にいる少年少女ではなく、むしろ自分の行動を見ているであろう、敵の転移者、転生者、そして異世界神達に投げ掛ける。


「さぁ観客を待たせるな!豊臣秀吉に『日本一の武辺』と言われた清水宗治しみずむねはるのように見事散ってみろ!」


「嫌だ……。許してくれ……」


 少年も頭も地に付け許し乞う。


「お前は侍であり罪人だからダメだ」


 侍で無ければ最後まで足掻けと言うが侍は高潔の存在である。その侍を名乗った以上、無様な様は敵でも許さない。


「殺り合う前に尋ねたよな?侍としての覚悟はあるかと?お前はこう答えた『俺は剣と共に生きてきた。そしてこれからもだ』と」 


「う……」


 もはや逃げ道など何処にも無い。


 迅は(あらかじ)め逃げ道を塞いでおく為に抹殺対象の少年に問いかけていた。閻魔を初め敵の異世界神達でさえ少年の侍として覚悟を観ている。


「私は嫌い奴は多い。ボクシングで負けたら切腹すると言いながら、負けそうになったら反則行為を繰り返し、結局、切腹しなかった亀の次男も大嫌いだ。お前は侍だから違うよなぁ?」


「違う……。俺は侍なんかじゃない……。周りが、そう言ってだけだ」


 侍を名乗っていた少年のメッキが剥がれていく。


「そうか。じゃあ、お前は罪人だ。首を切り落としてやるから大人しくしていろ」


 追い詰められ逃げられない状況に少年は反乱狂になり狂いだす。


「止めろ、止めろ!嫌だって言ってんだろ、俺を殺すな!」


 恐怖により少年は冷静さを失い声を張り上げる。そんな少年に対して迅は呆れなかまらも冷静になっていく。 


「彼女ちゃん。お前の彼氏君は随分と見苦しいと、そう思わないか?」


 同意を求める様に迅は少女に問い掛ける。


「それでも私に出来た仲間なんだ!許してくれ!」


 女に庇われる男はなんとも格好悪い。これ以上見苦しい姿を見たくないので斬首して始末しようと決めた。


「お嬢さん、こいつの首を切り落とすから、この場から離れろ……。」


 少女にこの場を離れるように促す。ここからは目を背けたくなるような光景が始まる。


 いよいよ殺されると分かった少年は迅の剣鉈を握るが、それは切腹の為ではない。


「嫌だ!お前が死ね──!!」


 この状況を打破するには、相手を殺すしかないと追い詰められた少年は迅の剣鉈を迅に向かって投げつける。


 だが、その剣鉈が当たる事は無かった。相手の行動、剣鉈の投げられる軌道を読んでいた迅はサイドステップで波多秋就の投げた剣鉈を避ける。


「この……侍の面汚しが!!」


 怒りの込もった剣が少年の首へと落とされる。


 侍と呼ばれていたくせに負けたら死ぬ覚悟もない、そんな偽物の侍に刑罰が執行される。


「げがぇ……!」


 名人の首切りの執行人なら、首は宙を飛ぶように見事に一刀両断出来る。しかし、迅に剣の技量は無い。力任せに振り落とした剣筋は、首を一振りで切り落とす事が出来ずに首の骨当たりで止まる。 


 味わった事の無い痛みが少年を襲う。出来る抵抗といえは自分の首に落とされた剣を、これ以上進めない為に剣を握る事だけだった。


 剣を握る右手も血に染まるが、その右腕も執行者の凄まじい握力で握り潰され破壊された。


 更に少年を、うつ伏せに倒し肩甲骨の当たりを右足で踏んで相手が動けないように固定する。


 一刀両断出来なかったのでのこぎり引きの要領で波多秋就の首を切り落とす作業をする。


 仲間と呼んだ男が苦しみながら殺される光景に少女は言葉と意識を失う。


(女は楽でいいもんだ……)


 女はいざとという時は、気を失えば許されるが男は許されない。


 最初は呻いていた声も途中で止まり、波多秋就の首は切り落とされた。 

 

平敦盛たいらのあつもりは、お前と同じ年頃で熊谷直実くまたになおざねに負けた時には、早く首を斬れ!と実に潔かった。お前は侍の面汚しだ!」


 侍と呼ばれた男は無様に命乞いをする生き恥と斬首される死に恥を晒した。そんな覚悟のない奴を許しなどしない。

 

 首を切り落とした胴体に近付くと、迅は波多秋就の魂を抜き取り瓶に納める。


 せめて墓くらい作ってやろうと剣の鞘で穴を掘り斬首して殺した少年の首と胴体を埋葬する。最後に剣を地面に刺し墓標代わりにした。


「うぅ……ん」


 立ち去ろうとすると気を失っていた少女が目を覚ます。


「秋就っっ!!」


 しかし、目の前に波多秋就の姿はなく、彼の剣だけが地面に刺さっている。


「秋就を何処へやった!?」


「奴ならそこに眠っている」


 迅が視線で示すと少女の視線も周囲とは違う地面の色の部分に注がれる。 

 

「許さない……」


 目の前で斬首される光景に気を失っていた少女は小さくも憎しみの言葉を発する。少女の目と心には憎悪の炎が宿る。


「許さない!お前だけは絶対に許さない!」


 憎しみの言葉を受けながらも、迅は少女に近付く。


「そうだよな。愛しい人を殺したんだから、ちゃんと怨まれないといけないよな」


 少女の憎しみを業として、迅は受け止める。前回のように人を殺しておいて許されるより怨まれる方がずっと楽だ。


 少女の顎を持つと、顔を上げて自分の方に向かせる。澄み通るような蒼い瞳も今は憎しみに満ち、復讐者の瞳が迅に向けられる。 


「お前も戦争で人を殺してきたんだろ……?だったら、私を怨む前に、お前も“お前が殺した人間の遺族”に怨まれろ!」


「ふざけるな!お前だけは必ず私の手で殺してやる!」


「自分勝手な奴だな。お前も我等の世界に生まれていたのなら地獄行きだぞ」


 そう言葉を残しながら、立ち去りながら少女に手錠の鍵を遠くから投げ渡す。少女は後ろで両手を拘束したので解錠には時間が掛かるだろう。


 対象者の抹殺と魂の回収を終えた迅は元の世界へと帰還する。


 この地域では戦争が起こっているが、転生者や転移者が起こした戦争なら止めなくてはならないかもしれないが、これは、この世界の異世界人が起こした戦争なので止める気はない。


 波多秋就が殺した異世界人も本来死ぬ筈ではなかったので蘇生しろと、自分を監視している敵対する異世界神は言うかもしれない。殺した異世界人の特定は瑠衣の能力を使えば出来るかもしれないが、それは筋違いだ。


 殺した異世界人は波多秋就か波多秋就を蘇生した異世界神ビドクアがやるべき事である。


 後に罪を犯した異世界神ビドクアは、閻魔と親交の深いコトオビ達に捕まり波多秋就が殺した人間を蘇生させられた後に処罰が下された。


 異世界の少女ナーシャは、迅を殺す為に傭兵部隊を離れ、復讐の旅に出たが、この世界から元の世界へと帰還した迅が見つかる筈もなく、最後は戦争で自分が殺した人間の遺族の者の刃に殺され短い生涯を終えた。

 

 異世界転生した波多秋就は等活地獄へ送られた。剣技に優れていたので罪人達の殺し会いでも最後の1人まで生き残るが、若いとはいえ訓練や拷問により鍛え抜かれた金剛の身体や強さを持つ獄卒達に勝てる筈がなく、かすり傷1つ負わせる事も出来ずに、若い獄卒達に殺され続けた。


 後に波多秋就は刀を使って異世界人を殺した罰として刀輪処とうりんしょへ送られた。樹木から刃が生える刀林処とうりんしょより、両刃の剣が頭上より降り注ぎ、剣に生きた少年の最後は、転生の日まで剣に貫かれる地獄で終わりを告げた。



 

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