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転移者や転生者を連れ戻す者  作者: ギャレット
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侍と呼ばれた男 転生者 波多秋就

始まった夏の終わりは程遠く、自分に当たる風は生暖かく太陽の日の暑さは容赦なく照りつける。


 鳴り響く(せみ)の声が、人々に暑苦しさと鬱陶しさを与える。


 少年にとって、(せみ)の鳴き声を聞いて思い出す事といえば、着込んだ胴着が汗まみれになって道場で声を張り上げて練習する事だった。


 男の名前は波多秋就(はたあきなり)


 彼を知る人々が彼に抱く印象は剣道に熱中するスポーツ少年であり、父、母が剣道有段者である事から、5歳の時には竹刀を握り、玩具(オモチャ)より竹刀で遊んでいた程だった。


 少年は末っ子で3歳年上の姉に負けじと足の裏の皮が硬くなるほど毎日練習していた。


 練習は実を結び、中学、高校の個人戦では全国大会で優勝を果たし、剣道連盟からは現代に甦った“侍”と呼ばれ少年は更に活躍を期待された。


 少年の短い人生は期待と栄誉に溢れていた。練習疲れからの疲労で、足を踏み外し階段から転落するまでは……。


 その後の事は驚きの連続だった。少年はビドクアと言う異世界神の力で異世界へと転生した。


 ビドクアは能力を与えるつもりだったが、甦っただけでも有難いと特殊な能力は望まなかった。


 もう1度人生を歩めるなら違う人生でも歩んでみようかと思ったが、剣だけに生きてきた少年にそれは許されなかった。


 適当に飛ばされ転移した場所は不幸にも国同士が領地問題で争う戦争地域で、少年の腕は否応なしに発揮された。


 結局、剣によって活かされた少年は剣によって傭兵として生計を立てている。


「それにしても暑いな」


「あぁ……。今頃、王国兵士共は町の中で旨い酒でも飲んでるのに俺達は町の外で見張りかよ!」


 1人の男が不満を漏らせば同じく不満が部隊の中から沸き上がる。


 見張りとは名ばかりで本当は町に傭兵など入れたくない王国軍の本心など誰でも知っている。


 町の郊外に30名から成る部隊が駐屯している。見渡す限り男だらけの集団なので余計に暑苦さを感じる。


 そんな中でも、むさ苦しさを忘れさせる存分を少年は探し求めていた。


「ナーシャの奴を見なかったか?」


「知らねぇな。また1人で剣の鍛練でもしてんじゃねえのか?」 


 少年は、ナーシャと呼ばれる女仲間を探していた。


 この傭兵団の中にも他にも女はいるが、ナーシャの容姿は際立っていた。


 元々は小領主の令嬢に仕える護衛役の剣士だったらしいが今は傭兵稼業をしている。


 使えた領主は戦争に駆り出され領主と後継ぎは戦死。幼き頃より共に育った令嬢も心労の為に亡くなったと聞いている。


 復讐の為か、ナーシャは部隊では常に最前列で突撃する。


「敵の斥候がうろついているかも知れないし単独行動は危険だ。他に知っている奴はいないか?」


 少年が他の傭兵仲間に聞くと1人の男から返答が返ってくる。


「確か……、川の上流の方に向かったのを見たぜ」


「ありがとよ。ちょっと迎えに行ってくるよ」

 

「秋就、お前ナーシャとは済ませたのか?」


「んなわけねぇだろ」


「なんだ、お前には心を開いているようだから、股の方も開いているかと思ったら、まだヤってねえのか」


 ニヤニヤとからかうように男達は笑う。


「お前も着替えを覗いて殺されかけただろ?俺も同じだよ」


「じゃあ水浴びでもしてたら気を付けるんだな」


 ゲラゲラと笑う仲間達の声を聞きながら少年は仲間のナーシャを迎えに川の上流へと向かう。


 

 木々が日差しを遮り、川からくる風は熱くなった身体を冷ます。


「どこに行ったんだナーシャの奴は?」


 敵の斥候の接近情報はないが単独行動は慎めと隊長から言われているが、集団行動が苦手なのであろうナーシャは戦場でも単独行動を取る。


 まさか水浴びか?と思っていると彼女の靴跡を見つける。足跡は川から外れた場所に向かっている。


 少年は少女の足跡を追うと何か声が聞こえてくる。


 声の主はナーシャだと分かるが様子が変である。理由は罵声の声が聞こえるからだ。


 まさか敵か?と思い慎重に近付く。


「この様な恥辱、絶対に許さぬぞ!」


「殺されなかっただけでも、ありがたいと思うんだな!」


 やはり誰かと話していると思いながら草木に身を潜めながら近付くと目を疑う光景が飛び込む。


「なっっ!?」


 目に入った光景に少年は声を失う。


 仲間のナーシャが手足を手錠で拘束され地面に這いつくばされているからである。


「てめぇっ!何してやがる!」


 少年は声を荒げながら飛び出し仲間を拘束した男を見据える。


 男を見れば誰が見ても巨漢だと思う体躯。潰れた耳や鼻が異様さを更に際立たせる。

 

「ほう……。音と気配から若造だとは思ったが、これは願ってもない」


 吠える少年とは対象的に男は落ち付いた口調で話す。


「秋就、どうしてここへ?」


「迎えに来たんだ。それと単独行動は慎めと隊長からも言われただろ」

 

 目の前の大男は敵だと判断した少年は迷う事なく腰の剣に手を当て抜き放つ。


「てめぇ……何者だ?」


「私の名は迅……。“侍”と呼ばれた男、波多秋就はたあきなりで間違えないな?」


「そこまで名が売れているとは思ってなかったな。誰から雇われた?」


 名のある将兵の首はナーシャと共にいくつも取ってきたので敵から見たら目障りだと思われているのだろう。


 怒りを抑えながら、殺す前に雇い主を聞き出そうとするが、迅と名乗った男の答えは意外な物だった。


「雇われた?違う……私は命令を受けて回収に来ただけだ」


「回収?」


「そうだ。お前も私も、この世界に本来居てはならない存在だ。だから魂を回収しに来た」


「何を言ってやがる!俺は誰から雇われたと聞いているんだ!」 


「雇われてはいない言っただろ。それと依頼人の名前を言う刺客がいると思うか?」


「秋就、逃げろ!こいつは手練れだ!」


「好きな女がこんな目にあってるのに黙って引けるかよ!」


「えっっっ!?」


 突然の少年の告白に少女は驚き戸惑う。


「そんな事を急に言われても……私は……」


 まんざらでもなさそうにモジモジする少女、そして二人の間に沈黙が流れる。


 もしこれが自分とは関係ない男女のカップル成立なら迅という男は2人を祝福した。


 しかし、片方が異世界転生者という抹殺対象なので祝福は出来ない。


「お前らデキてたのか。さて彼氏君、君は彼女ちゃんの忠告を聞いて逃げるか?」


 ナーシャの提案は迅にとって非常に厄介な提案だった。助けを求めるのは非常に合理的な判断だからだ。


 適切な判断をさせない為に更に迅は挑発する。


「逃げても良いが逃げると、お前の彼女がどうなるかなぁ?」


「なん……だと?」


 不敵な笑みが少年を更に殺気立たせる。


「こいつは問答無用で私を殺す気で来た……。だったら殺されても文句ないよな?」


 少女の美しい栗色の髪を掴み、細い首元に剣鉈の刃を突き付ける。


「狙いは俺だろ?ナーシャは関係ない!」


「そうだ、この小娘は関係ない。お前が一騎討ちに応じるなら、私はこいつを傷付けない」


 互いの意見が一致した。


 迅は少女から手を離し、少女を巻き込まないように少年と共にその場から少し離れた場所へ移動する。


 互いに睨み合うが、迅は対象者を抹殺する前に問い掛ける。


「侍と呼ばれているそうだな?お前に侍としての覚悟は当然あるよな?」


「俺は剣と共に生きてきた。そしてこれからもだ」


「いい覚悟だ。始めようか!」


 少年は剣道の基本的な中段の構えをとる。


 肩の力を抜き、剣を両手で持ち、剣先を相手の目の位置に合わせる。左足はいつでも踏み込めるように踵を浮かせ、右足も紙1枚入る程浮かせる。


「せいぁぁぁぁぁあ!!」


 己の気持ちを高めるように少年は声を上げる。そして侍と呼ばれた男の連撃が襲いかかる。


 鋭く速い面や喉元を狙った突き。拳を構えれば、それを狙う小手。


 剣を持った相手を倒すには3倍の力量が必要と言われるが、今まで剣を持った相手とは桁違いの強さを見せる。


 厄介な敵だな……と、そう感じられずにはいられなかった。


 相手は魔法や能力(スキル)を持たない無能力者。しかし修練の末に積み上げた剣技だけなら最強であろう。


 迅は鬼の姿にはならなかった。


 相手は人間で10年以上竹刀を握り剣道に全てを費やしてきたような男。そして能力は得ていないのだ。


 ならば自分も人間になって10年以上鍛えた技で応じるのが、せめてもの礼儀だと心得ている。


 少年の剣は戦場で幾人も異世界人を殺してきたのだろうか、人を殺すのも躊躇ない剣筋。


 自分は接近戦を得意とするインファイターだった。しかし剣の間合いのせいで中距離と遠距離の打撃も出来ない。


 相手が面を狙ってくれば斬撃をヘッドスリップでかわしていく。


(練習した通りだ)


 何度も何度も剣道の試合を動画で視て分かった事がある。それは剣道と剣術は違うという事。


 踏み込んでの面は振りかぶらず斬るのではなく、手首を絞り速く当てるような技になっている。それは間違いだ。


 剣道が弱いとは迅は思わない。剣を扱った事の無い者に比べれば格段に強いだろう。

 しかし、相手を殺したいなら上段に構え一刀両断にすべきであると思った。


 そんな事を思いながら少年の剣撃をかわし続けていると構えと剣筋が変わった。


 喉元を狙う突きを高速で繰り出し剣が頬を僅かに切り裂く

 

 生物が環境に適するように変化するように、戦場で生き残る為に剣筋も変化したのだろう。


 何とか剣撃を避け続けるが、命綱無しの綱渡りのような死に直面したような感覚を避ける度に味わわされる。


「せやぁぁぁぁぁあ!!」


 少年が叫ぶ度にうるさい奴だと鬱陶しく思う。


 西洋の戦いでは騎士は声を張り上げて戦わない。


 故に戦国時代に日本に来た宣教師ルイス・フロイスは声を張り上げて戦う日本の兵士達に驚いたと言われる。


(避けるだけじゃらちがあかないな……) 


 剣鉈やナイフは何種類も持っているがナイフ術に秀でている訳ではない。


 得意の金砕棒かなさいぼうは人間世界に旅立つ時に地獄に置いてきたし、人間形態の腕力では持つ事も出来ないので持ってくる事も出来ない。


 肉を切らせて骨をつしかないなと考えた迅は額に拳を当てて顔面を守るような構えをする。MMAの試合ではいつも顔面を守るこの構えをする。


 身体や頭を揺らし的を絞らせないようにしているが、剣術に秀でた相手から見れば腕を斬ってくれと言わんばかり構えだろう。


「小手ぇぇぇや!!」


 振りかぶらす腕を切り落とすような相手の右腕を狙う小手が迫ってくる。


(この角度だっ!!)


 迫り来る斬撃に対し僅かに角度をずらし、サポーターで覆った前腕で相手の小手を受ける。


 迅の腕を切り落とさんと狙った小手。有効打突である剣先で当てたので試合なら波多秋就の一本先取であろう。


「どうした?剣道は確か2本先取した方が勝ちだろ?なら、まだ勝負終わってないぞ」


 少年を絶句した……。腕を切り落とさんと狙った小手だが、腕が斬れていないのだ。


 驚いている相手に迅は前蹴りを喰らわす。


「ぶっっっ!!」

 

 相手は革鎧を着ているが、身体が強化されていない無能力者なので、110キロを越える男の前蹴りを喰らった少年は、よろけながら後退あとずさりする。


 何とか少年は体勢を立て直して、今度は左足を前に出し、中段に構えていた剣と腕を上げて自分の1番得意な左上段の構えを取る。

 

(地獄の蜘蛛と餓鬼さん達の技術に感謝だな)


 迅の衣類は全て地獄の蜘蛛の糸で作ってある。


 これは瑠衣に製作を依頼した物である。


 蜘蛛の糸は強靭で鋼鉄5倍の強度を誇り、ケプラー繊維以上の伸縮性や柔軟性を持ち、質量は鋼鉄の6分の1程軽く、耐熱性は300度まで耐える夢の素材である。


 更に地上には、ダーウィンズ・バーク・スパイダーと言われる生物が作り出す最強の繊維を作り出す新種の蜘蛛が近年発見された。


 だが、過酷な地獄には獲物を捕らえる為に更に強靭な糸を作り出す蜘蛛達がいる。


 熊の突進のダメージを軽減出来たのも地獄の蜘蛛の糸のおかげである。しかし、伝導率が高い為に転生者の電撃魔法は軽減出来なかった。


 その地獄の蜘蛛の糸を同胞の鬼である餓鬼達に加工してもらった。

 

 餓鬼達は小さく戦闘能力も皆無だが、ドワーフが手先が器用なように地獄の餓鬼達も非常に手先が器用なのである。

 

 肘まで覆ったサポーターが盾代わりに使えると分かった迅は、拳を構えながらジリジリと距離を詰めながら前に出る。


 その威圧感に押されたのか少年は後退する。そんな少年を見た迅は問い掛ける。


「おっと。確か、その上段の構えは後退するのが許されない構えじゃなかったか?」


 迅の言葉に思うところがあったのか少年も距離を詰める。

 

 傭兵になっても、長年身体や心に染み込んだ教えは抜けないのだろう。

 

『百日の行いをきたえ、千日の計画をねり、そして勝負は一瞬』

 

「せいやぁぁぁぁあああ!!」


 一撃で決めてやる!!


 気迫を込めて得意の上段からの一撃を振り落とす。


 全ての一撃をかけた転生者の剣。自身に振り落とされる剣を、迅は”それ“を待っていた。


 真剣白刃取りなんて芸当は自分には出来ない。なので剣ではなく一瞬で踏み込み相手の腕を止めた。


「なっっっ!?」


 一瞬の虚を突かれてしまった少年は動きが止まってしまう。


 動きが止まった少年とは対照的に、迅の動きは止まらなかった。


 腰を捻って柔道の払い腰を波多秋就に決める。


 波多秋就は剣道に全てを費やしてきた男なので体術に秀でている訳ではない。


 今まで、ひたすら剣を持ってきた人生だったので受け身も取らず地面に叩きつけられた。


 この機を逃さず、迅は相手の左側に回る。両手で持っていた剣の手を引き離し、左手に腕ひしぎ十字固めを決める。


 毎日、毎日、何度も練習して繰り返した事だ。親指を上に向けて、腕を足で固定して、テコの原理で技を決める。


 波多秋就は腕を引き離されても左手に剣を持ち決して離さなかった。


 剣を離さなかったのは流石さすがだと思いながらも全ては狙い通りだった。


 左手に技を決めたのは、それは剣道の基本は左手だからだ。

 

「うげやっっっ!!」

 

 波多秋就の左腕は十の字固めで破壊された。


 破壊された腕から剣を離し、今度は足下へ回る。


 相手の膝を少し曲げて、左足の踵を右肘の内側にフックして、大腿部を両足でがっちり挟み固定する。


「さぁ、いくぞ!」


(こいつは防御方法を知らない……。まぁ知ってても次の技に繋げるがな)


 ネジを外側に回すように少年の左足にヒールホールドを決めた。危険な技なので禁止されているが、これはルール無用の殺し合いなので容赦はしない。


「あがぇぁあっっ!!」


 左足の靭帯をねじ切られた少年は断末魔を上げる。


「間接技や絞め技って良いよな。少し力で相手を嫌がらせられるからな」


 目の前の少年の戦績は栄光で満たされたに対し、迅の戦績は決して栄光で満たされてなどいない……。


 この間接技や絞め技の上手い選手に最初は幾度も負けてきた。自分にはパワーはあったが、それでは勝てなかった。


 更に言えば力があってもカウンターでマットに沈められた事もあった。鼻が潰れたのはそれが1番の原因だ。

 

 仕事と同じだ。


 頭では分かっていたが大切なのはパワーではなく技術テクニックだと人間に深く学ばされた。


 迅に左腕と左足の靭帯を破壊された少年は激痛で叫び続ける。もがき苦しむが何も出来ないでいる。


 もはや勝敗は決した。


 すぐに殺さないのには訳があった。立ち上がって少年の剣を掴むと少年に剣を突き付ける。


「さて……。お前は罪人だが侍らしく名誉ある死で殺してやろうと思う」


 少年の意識は痛みと恐怖で支配される。今は自分は狩られる側なのだ。


 そして侍らしく少年に名誉ある死が突き付けられる。


「切腹しろ!」



 


 

 

 


 

 

 

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