千里眼
紙に穴が開く程、資料を見ていると部屋の主である瑠衣が地獄より戻ってきた。
「お待たせしました」
「ご苦労様」
空間から人が出てくるのも、なんとも不気味な事と思うが何となく慣れてきた。
瑠衣は迅に異世界へ転生した者が地獄に落ちた事を伝える。
命は死ねば終わるが、罪は死んでも終わらない事実を真摯に受け止める。
「ところで、さっき君は能力で居場所を教えると言っていたが……今、私達は異世界神に監視されているか……?」
自分は異世界神達に、おそらく監視されていた。
今、異世界神に監視されているとは情報漏洩になる。瑠衣の“千里眼”は情報の生命線であるので異世界神に狙われないとは限らない……。
「それは無いと思います。閻魔様の石像は結界となっているそうです。異世界神達は、今、私達のいる場所は覗き見る事は出来ません」
「では、私は異世界神達に監視されていたと思うが、私が元の世界に戻った事で異世界神達は私を見失ったという訳か……」
「それに異世界神の闘いの主導権は、閻魔様が握っています」
「どういう事だ……?」
分からない迅に瑠衣は説明する。
「滝崎さんが転移者や転生者と接触間近になった時に、異世界神達に場所を知らせていたようです」
「そこまでは読めなかったな……。私はメビキアの世界に入った時から監視されていると思ったよ。だから仙就様より教わった術を使って異世界で過ごしていたよ」
「どういう術なのですか?」
「人間は飯を食っている時、寝ている時、ヤっている時、糞してる時に隙が出来る……。仙就様の術は辟穀食気の術と言ってな。水や空気を生命エネルギーに変換する術だ。だから食べ物も必要ないし、排泄行為もしない術なんだ」
「……便利な術ですね。私にも出来ますか?」
瑠衣が興味津々に尋ねてくる。
「これはダイエットの術じゃないぞ……。それと君には毎回言ってるが、もっと食え!」
もっと食え!と言って毎回奢りで飯屋に連れていき食わしたら、少しは肉付きいい体型になったが、まだ細身だ。
ウエストなど折れてしまいそうな程細い。グラビアアイドルが、いかに嘘を突いているか分かる。
「しかし驚いたよ……。君が、あの“千里眼”の子孫だとは」
「言ってませんでしたからね」
そう言いながら瑠衣は笑う。
臭いで相手の情報が分かるだけではなく、千里眼で相手の居場所まで分かるなんて、もはや絶対に敵に回したくない。
「千里眼と言われても相手の居場所が分かる程度の認識しかないのだが……どうやって見つけ出す術なんだ?」
科学では解明出来ない事は山程ある。人間にも神秘的な力を持つ者もいるが答えは分からない。
「この能力は機密事項なのですが、滝崎さんは私の能力を知ってる以上、お話しましょう」
瑠衣の言葉から迅は察する。
千里眼の能力は情報漏洩を防ぐ為に秘密にしておきたい。しかし迅も瑠衣の千里眼の能力を知っているし、仕事の上では話さなくてはならない。
自分が相手の能力により自白してしまったら情報漏洩だが、それがどうした?と言う事だろう。
バレたのなら堂々と千里眼を持つ者が居ると敵の異世界神達に告知すれば良い。
“自分達には例え異世界に居ても見つけ出してしまう能力者がいる”
例え瑠衣自身が殺されても、死んだ者を蘇生させる特例の1つに、本来死ぬべきではなかった者には蘇生は許されている。
彼女が蘇生を望むかは分からないが、そうすれば不利なるのは殺した異世界神になる。メビキアの世界に行く前の強い意志は、その覚悟もあったのかもしれない。
そして苦労して習得した自分の能力を話し出す。
「“愛着”と言う言葉があるように物に思念が宿ります。私の千里眼は物に宿った思念を感じとり相手を見つけ出すのです」
「凄いな……」
相手の臭いで情報が分かるだけでも超能力だが、新たに相手を見つけ出す能力を得た。
「物に宿った思念が強い程、相手の情報が正確に分かります。思念が強ければ相手の現在、そして過去も」
「何だと!?」
居場所だけではなく、過去も分かる。その言葉に迅は思わず立ち上がる。
標的を知る上で重要な事を瑠衣は口にする。
「はい。ですから物に宿った思念が強い程、相手の能力も分かります」
「…………」
もはや驚きで言葉が出ない。
自分が考えている以上に瑠衣の能力は凄まじいと感じると同時に恐怖する。
本当に味方で良かった。こんな奴が敵にいたら怖くてしょうがない……。
そう思い、改めて瑠衣の顔を見る。
十代の頃は長い黒髪を1つに纏めていただけだったが、二十歳を越えてからは茶色に少し染めている。
付け睫毛などせずとも長い睫毛。
潰れた自分の鼻とは違う均整の取れた鼻。
戦国時代の美人の条件は切れ長の一重瞼だが、瑠衣の瞳は二重で大きい。
女らしく出ているとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
美人の条件の時代によって異なるが、絶世の美女だった彼女の先祖のDNAは時代共に変化するのではないかと疑いたくなる。
(これで酒癖の悪いところと、料理下手が無ければ最高なのだがな……)
目下の泣きホクロも、口元の美人ホクロも、女なら欲しがるホクロも酒癖の悪さで全て台無しになる。
残念な美女の顔を見ていると、瑠衣は能力を話し出す。
「実験として、この千里眼の能力で先に滝崎さんが連れ戻した2人の転移者の異世界での行動を視てみました……」
「ほう……。何か不味い事でもあったのか?」
自分が連れ戻した転移者達は大した能力も強さも無かった。真面目に働いているように思えた。
「立木弘樹なのですが……異世界で自分のレベルアップの為でしょうか?自分から狼を殺しています……」
「何だと……!?」
迅は眉を潜め不快感を表す。生きる為の正当な理由なく他の生命を奪う行為は重罪である。
「はい……。自分から襲いかかっていました……」
「水谷正也の小僧も経験値稼ぎと言って熊を殺していやがった……。どうしようもないクソガキ共だな」
瑠衣も、地獄の神達と異世界へ転生した水谷正也が熊を虐殺していた行為を観ていた事を話す。
「今、死ねば地獄に落ちると思うが、だが……立木弘樹の小僧は生きているし若い……。まだ善行積む機会はある」
悪行を積み死んだのなら地獄に落ちるしかないが、生きているなら、いくらでもやり直せる。
「宮橋了も何か罪を犯したのか……?」
大人しい性格と言うか臆病な性格の為、罪を犯しているとは思えないのだが、人の本性は分からないので聞いてみる。
「いえ。宮橋さんは異世界でも真面目に働いていたので罪など犯していません。むしろ真面目に働いていたので善行を積んでいます」
「それは良かった」
やはり自分の思い過ごしだった。
罪を犯した少年達とは違い、冒険者として名を上げたかった訳でも無く、対した能力も無かった。
人は苦労や努力の末に能力を身に付けるが、何の努力もせずに力を与えられた人間は力に溺れる。
与えられた能力が対した事が無かった事や、目的が違った事が地獄行きか、そうではないかを分けた。
「彼には仕事を紹介した身として、たまに仕事先の社長さんに様子を聞きにいかなとな」
お前も働け!と、また言われそうだが、仕事を紹介した者として責任もある。
「滝崎さんて、強面の割に面倒見がいいんですよね」
顔は関係無いだろ?と迅は鼻で笑う。
獄卒になる者は、5歳ともなれば拷問を受け、時には過酷な地獄へ訓練として放り込まれる。
当然、歳の上の者は下の者の面倒を見る。
そして自分を監視していたのが死神トゥルダクと知る。
「師が……私を監視していたのか……」
既に隠居の身である死神トゥルダクは迅の学問の師に当たる。
閻魔や泰山府君のように強大な力こそ無いが、太古の昔から生きるトゥルダクの頭には脳味噌こそ無いが叡智が詰まっている。
師のトゥルダクも、主君の閻魔も迅の異世界の行動は知っているが、瑠衣は知らないので仕事の報告としてメビキアの世界での出来事を話す。
少女の逃走を助けた為に熊に襲われた事を話すと、瑠衣は驚愕する。
「滝崎さんて、本当に今は人間ですよね……?」
鬼の状態ならともかく、人間の状態で熊を倒したとは信じられないらしい。
「当たり前だ!弱体化している人間状態だから殺されると思ったぞ」
「熊を素手で倒す人間なんていませんよ……」
「私は周りからゴリラと呼ばれてるから、ゴリラなら熊を倒して不思議じゃないだろ?」
「そ、そうですね……」
鬼の時も怖かったが、人間の状態でも絶対に怒らせてはならないと、引き吊った笑いを浮かべる。
そして逃走を助けた少女が、刃を向けてきたと話すと瑠衣は薄い眉をしかめる。
「我等は約束は破りません……何故なら出来ない約束はしませんから。地上に行き、住まう鬼の私達は人間に世話にもなりますので感謝の心は忘れず、受けた恩は人間でも返します……。ですから……その小娘には不快感を覚えます」
鬼は姿が人間に近い程、知能が高い。
そして人間タイプから、かけ離れた異形の者は肉体的には強いが知能は低い。
人間タイプの鬼の瑠衣達は知能が高い為に、武力での争いを好まず話し合いでの解決を望む。
口先だけで甘えてばかりで、知らなかったとはいえ恩を仇で返し、自ら納得したにも関わらず約束を反故する行為が許せないのだろう。
「別にいいさ。お礼を言われたかったから助けた訳でもないし、刃を向けられるのも想定内だ」
もしかしたら、私の最大の敵は“女”かも知れないな……。
愛に生きるが故に、その愛しき人間を奪われた女の怒りは計り知れない。
報告を終えた迅は瑠衣に次の相手について尋ねる。
「では、君の能力で次の相手の事を教えてくれ。“侍”と呼ばれた男の事を」
分かりました。と、瑠衣が頷くと鞄から次の標的である遺品であろう籠手を取り出す。
次の標的は、事故で階段から落ちて転落死したと書かれてあった。
瑠衣は瞳を閉じ、思念を感じる取るように籠手を握りしめる。集中力が必要な行為なのであろう、その行為を静かに眺める。
不細工な自分と違い、美人はどんな事でも絵になるなと眺めていると瑠衣は、次の標的の事を話し出す。
「……見えてきました。次の相手も、ビドクアと言う神の力で異世界に転生しています……」
「……そうか」
今度の相手も魂が異世界を彷徨っている訳ではないと知ると何とも言えない表情をする。
異世界転生者を殺さずに、元の世界に連れ戻す方法もあるが、それは異世界転生者は望むとは思えないので、やはり殺して連れ戻すしかない。
「転生者が居る場所は“アルトネ”と言う町のようです……」
「アルトネ……」
これで異世界転生者が、どこに居るかは分かった。闇雲に探すより遥かに効率が良い。
しばらくの間、千里眼の能力で相手の能力や状況を思念で感じ取った瑠衣は、ふぅ~と長い息を吐く。
「大丈夫か……?」
やはり能力の使用には負担が掛かるのであろうか?と心配しながら迅は瑠衣に声をかける。
「平気ですよ。大体の事は分かりました」
大きい瞳を開くと、瑠衣は微笑みながら答える。
「その前に教えてくれ……。その千里眼の能力を使うと、君の身体に負担が掛かるのか?」
もし、命を削るような能力なら使用はやめて欲しい……。
「心配し過ぎですよ~。ちょっと走った程度に疲れるくらいですから」
「それなら良かった」
考えてみれば、そんな危険な代償を払う能力など主君は習得させないだろう。
「では、私が透視した転生者の事を話します……。まず、次なる相手はチート能力やスキル等は持っていません。無能力者です……」
神から能力を授かってはいない無能力者でも安堵しない。
鬼の状態になれば勝負は一瞬で終わるが、自分にも弱点はある。
人間形態とは一心同体なので、人間形態で殺されれば鬼の姿に成れずに死ぬ。
「そいつは私の事を知っているか?」
メビキアでの世界での出来事を敵対する異世界神達と見ていたのなら用心しなくてはならない。
しかし、人間達の暮らす待ちでは人間形態で行動しなければならないので、1番怖いのは待ち伏せされ不意討ちを受ける事である。
「相手は滝崎さんの事は知らないようです」
「それは好都合だな」
メビキアのいた世界での行動を知らないのは様々な推測が出来るが自分の事を知らないのはビドクアの世界で動くにも非常に好都合である。
「ですが、アルトネの町に潜入するのは非常に困難かもしれません」
「アルトネと言う町は治安が悪い地域なのか?」
もし治安が悪い地域でも異世界人とは揉め事は極力起こしたくない。
「元々治安が悪かった訳ではありません。最近、町の近辺で戦が起こり、今は占領された状態にあるからです」
「能力を持っていない奴が、どうしてそんな物騒な場所に居るんだ?異世界で無能力で生きていくなら、まず安全な場所に移住すると思うのだか……巻き込まれたのか?」
「いえ……違います。相手は自ら戦乱の地に向かいました」
瑠衣は、転生者は戦禍に巻き込まれた地域にいると言ったが、戦乱に巻き込まれたのなら逃げるのが普通であるがそうではないらしい。
そんな地域に行く奴は大抵予想が付く。
「火事場泥棒か?復興支援者か?戦争をしている兵士……もしくは傭兵と言ったところか?」
迅が何択か予想を言うと、瑠衣は迅の予想から1つの答えを選ぶ。
「そうです……。次なる転生者は……“傭兵”です」
「傭兵だと!?」
自分で答えの予想案を言ったのに、つこっむのも変だが訳が分からない。
そんな迅に瑠衣は話す。転移した先が不幸にも戦争地域で戦いに巻き込まれた事。
そこで町を襲って来た敵方の隊長の首を取り、町を守っていた側の傭兵部隊の隊長にスカウトされ今は反撃に出たと言う。
「と言うことは、次の相手も地獄に落ちる訳か……」
「そうですね……。戦争で多くの人間を殺しているようですから」
古来より戦では農民を雑兵として徴収された。前線では相手も殺しに掛かってくるし、怖じ気づいて逃げ出せば罰として味方によって殺される場合もある。
無理やり徴収されて、殺さなければ殺される状況で殺してしまったのは罪にならないが、生きる為に金銭を得る殺人は許されない。
「そいつは略奪や強姦をしているか……?」
兵士による略奪や強姦は当たり前のように行われたが、略奪や強姦をしていれば更に下の地獄に落とされる。
「私の透視で見た限りでは行っていませんでした」
僅かに残った人間の理性がそうせたのか、略奪や強姦は思い留まったらしい。
「教えてくれてありがとう。そういえば、どうして君は異世界の町の名前が分かったのだ?」
千里眼で透視しても、身振り手振りだけで理解したとは思えない。
「それは、この石のおかげだと思います」
「なるほど……そういう事か」
石には翻訳機能があるので身に付けている限り言葉は翻訳される。
瑠衣が千里眼で透視した相手の会話も翻訳されたのだろう。
「この石からも、強い思念を感じます……。この石を与えた神と、受け取った持ち主も……」
そう言って瑠衣は【結び石】を握りしめる。
「分かったのか?その石を与えた神が?」
「はい……。トゥルダク様に報告しましたが、石を与えた女神は既に亡くなっているそうです……」
「そうか……。罪人になった奴は600年以上前に、地上で犯した罪だけで無限地獄に落ちたが、無限地獄でも石を与えた神の為に口を割らなかったらしいが無意味になったか……」
地獄でも長らく謎だった事が解き明かされたが、なんとも呆気ない結末だった。
「石の持ち主は異世界では女神や異世界人の女性達と楽しく暮らしているのが透視で分かりました。彼も地上では英雄とされますが……地獄では重罪人ですけどね……」
それは異世界へ転移や転生して好き放題やっている者の事を指しているとも思えた。
悪しき者達を倒して英雄と称えられる者も、見方を変えれば、ただの大量虐殺者に過ぎない。
自分自身も、神の命で何万回と罪人を殺し、蘇生してきた。
そして、これからも神の命ではあるが異世界へ転生した者達を殺す事になる。
ならば自分も見方を変えれば、ただの大量虐殺者に過ぎないだろうと迅は思う。
「この言葉を知っているか?“One murder makes a villain; millions a hero.Numbers sanctify”(「一人の殺害は犯罪を生み、百万の殺害は英雄を生む。数が(殺人を)神聖化する」)」
「喜劇王の作品の戦争狂時代の主人公が処刑前に言ったセリフですよね?元はベルイビー・ポーティーズの言葉を引用した言葉らしいですけど」
瑠衣に尋ねると返答がオマケ付きで返ってきた。
「私は思うのだ。異世界で好き放題やってる奴等も英雄と呼ばれる存在か?ただ、自分の欲望を満たしたいだけに過ぎないと思うのだがな」
「そうかも知れませんね……。彼等は一体何処に向かうのでしょう?」
飽くなき強さ。女に囲まれたハーレム。自らの王国。人間の欲望にはキリが無い。そしてその欲望の為に多くの犠牲が生まれる。
「何処に向かう?決まってだろ?罪人達は“地獄”に向かう。その為に俺達、獄卒がいる。
その言葉に瑠衣は、何故自分は獄卒に生まれなかったのかと後悔する。自分は非力な女で、目の前にいる男は地獄では金砕棒の扱いにかけては右に出る者がいない程の屈強な獄卒だった。
全身の骨は砕かれ、内臓は潰され、四肢がもがれる程の拷問や訓練を受ける事を生まれた時から宿命付けられた獄卒達。
自分は千里眼で相手の居場所や能力を教える事しか出来ない……。
そんな手を汚さない自分は、先程の口先だけと思った小娘と一緒ではないのかと目の前にいる男を見ると思い悩む。
長い付き合い故に、瑠衣の表情から、また悩んでいるのかと思うだけで迅は下手に慰めなどしない。
「先程も言ったが適材適所だ。手を汚さない自分に負い目を感じているのなら、君も己の命を果たせ!」
「己の命……」
「君は千里眼や、その嗅覚で情報を提供してくれれば良い。肉体労働は私の仕事だ」
「ですが……」
「いいか良く聞け。どんなに頑張っても無理な事は何をやっても無理だ……。だから出来ない事は出来る奴に頼むんだろ?物事はそうやって上手く回ってるんだ」
じっと瑠衣の目を見て更に迅は話しかける。
「難しい事を言っているか?私は出来ない事より出来る事をやれ!と言っているだ。簡単な事だろ?」
肩をすくめ、少し笑いながら迅は瑠衣に問いかける。
「……滝崎さんはズルいですね。そう言われたら、ハイと言うしかないじゃないですか」
「そりゃそうさ。そう言う様に仕向けてるからな」
「ズルいは訂正します。ズル賢いです」
僅かだが沈んだ顔に笑顔が戻る。
「スマートと言って欲しいな。身体はsmartじゃないがな」
「なかなか上手い事を言いますね」
日本ではsmartは細いを表す単語だが、本来の英語のsmartに細いの意味はない。自分の身体は細くないと身体が細いのはsmartじゃないを掛けたのかと瑠衣は感心する。
「さて、相手について調べる事もあるし、怪我の治療の為に寝て休みたいから、ここら辺で失礼させてもらうよ」
本当は練習に行きたいが、この怪我とダメージでは無理だ。
「お疲れ様でした」
地獄の罪人の謎と異世界転生者の情報を聞いた迅は帰宅の途につく。
ーー翌日ーー
次なる標的のいる世界に向かう前に瑠衣の千里眼で異世界転生者の動向を聞く。
もしかしたら異世界転生者は移動している可能性もある為である。
「相手は昨日の場所から動いていません。街に留まっているようです」
「教えてくれてありがとう。瑠衣ちゃんも気を付けてくれよ」
この世界の裏の人間達も瑠衣の能力を知れば欲するので、敵は異世界神達だけとは限らない。
「大丈夫ですよ~。閻魔様の加護が私にはありますから」
そう言いながら瑠衣は主君の分身体に頭を下げる。
それもそうだな、と思いながら迅も同じく頭を下げる。
閻魔も瑠衣が情報の要になるだろうと、瑠衣を守る為に自身の分身体を配置し、更に周囲には荼吉尼天の配下達が守っている。
「私も私にしか出来ない事をやります。滝崎さんも、どうかご無事で」
「ありがとう。それでは行ってくるよ」
準備を終えた迅は後戻りが出来ないようにビドクアと異世界転生者の居る世界へと向かう。
「“侍”と呼ばれた男か……。お前は罪人だが、侍らしく名誉ある死で殺してやる……。侍なら無様な醜態を晒すなよ」




