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転移者や転生者を連れ戻す者  作者: ギャレット
19/27

地獄の番犬

戦いは始まる前に終わっている。


 迅が人間を連れ去る異世界の神達に宣戦布告をする数ヶ月前に閻魔(ヤマ)の命で動いていた2人の番犬がいた。


「ご理解頂き、ありがとうございます!」


「準備が出来ましたら、閻魔(ヤマ)様の居城までお越し下さい」


 名を沙羅(さら)雨夜(めや)と言う双子の姉妹で瑠衣の後輩に当たる地上組の鬼。

 

 2人は自分達に協力してくれると約束してくれた老人の神に頭を下げ、その場を退出する。


 空を見れば夕と夜が入り混じり、時計を見れば時刻は午後6時を過ぎていた。

  

 一仕事終えた2人は町へと赴く。理由は空腹の為。


 学校帰りの学生や仕事帰りのサラリーマン達で溢れる町を2人は歩き、目当ての地下街の飲食店へと入る。

 

 席に着くなり双子という珍しさもあるが、大人の顔立ちに少女の面影を残した顔立ち2人は周囲の注目を集める。

 

 艶のある黒髪に色白の肌。


 長い(マツゲ)に、黒目がちの大きな瞳。


 薄紅色の唇から、時折見える八重歯が周りには魅力的に映る。


 地上に行く鬼は外見は人間に非常に近いので角を隠しているだけである。  

  

「地上の食べ物って美味しいわね……。薄かったり、濃かったり、苦かったり、甘かったり」


「地上にいる(ひと)達が地獄へ戻らず生涯を終える理由の1つが人間世界の食べ物だそうよ」


 地下街で夕食を取りながら和やかに談笑する。


「瑠衣先輩は、お酒にハマってるらしいけど、お酒って美味しいのかしら?」


 自分達は18で日本人にされたので二十歳にならないと飲めないが沙羅は興味津々に妹の雨夜に尋ねる。


「さぁ……。獄卒の人達も、ご馳走だと言っていたけど」


「そういえば、この前、人間のゲームをやったんだけど、この金獅子てモンスター、滝崎さんの鬼の時にそっくりじゃない?」


 そう言いつつ携帯画像を映し出されたモンスターを見せる。


 見せられた画像に、雨夜は確かに似てると笑う。


「でも、この金獅子は人間の作った武器で倒せるけど、小さい頃から、絶えず地獄の拷問や訓練を受け続けた獄卒の人達には人間の武器や筋力じゃ傷一つ負わせられないわ……」


「苦痛を与える方も痛みを知らないといけないって言ってるけど肉体が金剛のような硬さだもんね……。そんな獄卒の滝崎さんが人間になって人間に負けるってショックじゃなかったのかしら?」

 

「そうでもないみたいよ。人間になる事で人間も強いと感心してるって聞いたわ」


「昔の滝崎さんは太い眉毛に一重瞼(ひとえまぶた)に鼻筋も通った男らしい顔だった聞いたけど、鼻も耳も潰れて、顔も少し変形してるらしいから人間の時も何だか怖そう……」


「地獄に居た時も憤怒のゴリラ顔だったもんね……」


 地獄にいた時に面識は有ったが人間の世界では、まだ会った事もない。


「滝崎さんの名前の由来って、若い頃に滝の先で閻魔(ヤマ)様の落雷に直撃したからと聞いたけど、本当?」


「本当らしいよ。落雷に打たれて、声が完全に変になったみたいだけど……。名前は疾風迅雷の迅から取ったのかしら?」


「え?私は人間になっても元は人外の男だから迅にしたって聞いたけど……」


「まぁ名前の由来なんて分からないけど、現世でも地上組の人で大食いの人なんていないけど滝崎さんは大食いみたいよ」


「そりゃ、人間状態でも大柄な体格なら食べるでしょうね……」


「何でも地上の食事が美味しくて、ご飯食べまくって筋トレしてたら筋肉ムキムキになって、瑠衣先輩に“もっと食え!”って毎回言ってるみたいなのよ」


「……私達は人間になっても、食が細いから身体も細身だけど食べたら育つのかな?」


 2人は互いに自己主張の少ない胸元を見合わせる。


「……先輩は食べたら大きくなったと言ってたから私達も可能性は……あるんじゃないかな?」


 モデルと間違えられそうなスレンダーな体型。


 同性から見れば羨望の眼差しを受けるが、女であるが故に自分の体型には決して満足していない。


 そんな話をしながら湯気の立つコーヒーを一口飲む。


 厳選された豆を使っているのだろう。


 缶コーヒーとは雲泥の差だった。

 

 人間になっているので腹が減っては戦は出来ないと腹ごしらえを終え店を出る。

  

 地下街を歩いていると少し離れた場所から涙の臭いを感じ取る。


「この涙……子供ね。迷子かしら?」


「子供の元へ行きましょう。沙羅」


「放っておけないものね。雨夜」


 迷いや躊躇う事なく迷子と思われる子供の元へ向かう。


 親とはぐれたのか、2人が駆けつけると泣いている幼子がいた。


「雨夜。私が親を捜してくるから、この子をお願い」


 2人で子供を連れて親を捜したら誘拐犯と間違えられてしまう。


 雨夜が頷くと沙羅は嗅覚で幼子に付いた、僅かな親の臭いから居場所を割り当てる。


 人混みの多い地下街からでも人間を捜すのは地獄の番犬の異名を取る自分達には造作もない事。


 雨夜は自分より高い位置から物を言うと子供は怖がってしまうので、しゃがんで少女の目線に高さ合わせて話しかける。  


「大丈夫。すぐに、お母さん来るからね」


 やがて沙羅が迷子の少女の母親を連れてきて2人は子供と母親を再開させる。


 母親も余程捜していたのか子供を抱きしめ母親まで泣く始末だった。


 それを微笑みながら見届けると2人は足早に立ち去った。


 番犬が地上に来たのは、番犬は瑠衣以上に非常に鼻が利くので自分達には重大な任務がある。

 

 沙羅は自分達に与えられた任務を双子の妹の雨夜に尋ねる。


「それにしても閻魔(ヤマ)様は、どうして私達に弱い地上の神様達の捜索を命じたのかしら?」

 

 異世界の神達に対抗する為に地上の強き神達に協力を求めるのは分かるが、主君は何故か弱き地上の神達の協力も重要視して捜索を命じた。


「それは私も思ってた……。情報の伝達係と情報の提供の為と言ってたけど……」 


 自分達の任務は地上の弱き神達を捜し協力を取り付ける事である。

  

 強い神の居場所は簡単に分かるが弱い神達の居場所の特定するのは困難だった。


 そこで番犬の異名を持つ自分達が捜索に当たった。


 地獄で嗅覚と聴力で自分達に勝る者はいない。


 嗅覚は瑠衣を凌ぎ、聴力も迅より遥かに良い。


 弱い神を1人を見つければ、更にそこから捜索に手を伸ばした。


 捜してみれば神とて様々であった。


 人間として働く者。


 人間と結婚して子孫を残した者。


 力の弱い神達は人間として生き、人間として生涯を終える道を選んでいた。

  

「そういえば、老人の神様達の態度も色々だったね」


「そうね。ちょっと脅して無理やり協力させちゃった神様も

いたけどね」


 人間を連れ去ったり、死んだ人間を甦らす異世界の神に対抗する為に協力してくれませんか?と言えば弱い老人の神達

の態度は様々だった。


 閻魔が怖くて渋々協力する神。


 禁句(タブー)を犯す異世界の神達に怒りを覚え、喜んで協力してくれる神。


 人間の仕事を定年して再雇用先が見つかり喜ぶ神。


「理由は何でもいいんだけど……私はボケた振りして、「乳は無いが、ええ尻しとのう」てお尻触られたわ……」


「でも、あのスケベな、お爺ちゃんの神様が1番協力的だったのよね……」


「私達、鬼達は皆ボケる前に死んじゃうから介護とか必要ないけど、今の日本の人間達は老人の介護に頭を悩ませて大変よね……」


「若い頃は遊んで老後の蓄えもせず子供に面倒みさせる老人て地獄に堕ちるよね……。自業自得だけど」


 2人は昔と変わった地獄に落ちる罪人の現状について話す。


「長生きも罪なのかな……?」


 どうして?と聞く姉に妹は答える。


「だって若い時に亡くなると、その死を惜しまれるけど、認知症で長生きして死んだ老人は、悲しまれず、やっと死んだ……て安堵されるそうよ」


「仕方ないよ。日本の現状も超高齢化社会。罪人の現状も高齢者の老人が増えてきてるし」


 変わりゆく現世と地獄の事を話ながら2人は人間の街を歩く。


 人間達の街は飽きる事なく自分達を満足させてくれると、ある地上組の鬼が言っていた。


 地下街を出ると空は暗くなったが街はネオンの光で明るく彩られている。


 あの地上組の言っていた人の言葉は本当だ。


 人間の街を満喫したい気持ちも有るが仕事の為に予約したホテルへと向かう。


 明日は隣県に住む神に会わなくてはならない。   


 夜の街を楽しむ若者に羨望の思いを抱きながら、人通りの少ない路地裏を歩いていると背後に何者かの気配を感じ取る。


 自分達に(よこしま)な視線や好奇の視線を向ける人間は多くいたが、それとは違う何か。


 むしろ気配は穏やかで優しく、神々しさすら感じる。


 

「そなた達、御苦労であったな」


 宿泊先へと向かう途中に背後から聞こえた声の主に背筋を凍らした。


 そんな筈がない。


 番犬なので嗅覚も聴力も遥か良いので声の主を間違える筈がないが間違いであってほしい。 


 2人は震えながら背後の声の主に振り向く。


 常に剃髪して丸めてある頭部。


 上質な法衣を着ている為に、お坊さんとも思えるが豊かな白髭を蓄えているので、むしろ仙人を彷彿させる。


 犬は主人を忘れないし間違いない。


「「や、閻魔(ヤマ)様!?」」

 

 2人は慌てて跪こうとするが閻魔は制す。


「ここは地上だ……。地上でその様な事をすれば怪奇な目で見られてしまうぞ」


 信じられない光景だった。


 地獄の最高神の閻魔が地上に、そして自分達の目の前にいるのだから。 


「「何故!?、何故、このような場所に!?」」


 予期せぬ出来事に2人は戸惑いを隠せない。 


「余の分身体より、そなた達も神の協力を取り付けたと知ってな。労いにきたのだ」


「我等を……」


「労いに……」


 恐れ多い事ですと恐縮する2人に閻魔も自分の結果を伝える。  

 

「余も今し方、黒闇天と共に黒闇天の姉君である吉祥天殿と、その夫である毘沙門天殿に盟約を取り付けたきたところだ」


閻魔(ヤマ)様と黒闇天様が……」


「吉祥天様と毘沙門天様と盟約を……」


 地獄の神が闘いの神と言われる毘沙門天夫婦と盟約を結んだ。


 やはり大物同士ではスケールが違うと2人は唖然とする。


「無論、毘沙門天殿を通じ更に他の四天王殿方にも盟約を結ぶつもりだ。五道神には中国地方に向かわせて中国の神達に協力を要請している。七母天達も同じくアジア各国へ向かわせ盟約を取り付けているところだ」


「「………………………!!」」 


 開いた口が塞がらなかった……。


 盟約を結ぶつもりだとは知っていたが日本だけではないのだからだ。 

 

「余も、これよりインド地方に赴き、古き友人達に会い盟約を取り付けるつもりだ。いずれは世界中の神達と盟約を結ぶ……」


閻魔(ヤマ)様までも……」


 まずはアジア各国だが、いずれ世界中の神と盟約を結ぶと言う主君の壮大な計画。


「恐れながら……。黒闇天様、五道神様、七母天様、閻魔(ヤマ)様まで地獄を離れて大丈夫なのでごさいましょうか……?」


 盟約を結ぶのは重要だが首脳陣達や閻魔までも忙しく動いている状況。

 

 もし敵対する異世界の神に先手を取られたら……。


 地獄には鍛え抜かれた獄卒がいるが異世界には鍛え抜かれた獄卒より強い者達もいるかもしれない……。


 自分達が子供の頃に偶発的に地獄と別世界の空間が繋がり別世界の者達により戦闘力の無い同胞の餓鬼達が殺される事件があった。


「留守は泰山府君達に任せてある。余が不在でも泰山府君なら問題なく政務や問題事も対処出来る筈だ。」

 

 絶大な信頼を寄せられる泰山府君は閻魔に匹敵する実力を持つ神。


 動く時も万全の体制を整えている主君に自分達の心配など

取るに足らない事だった。


閻魔(ヤマ)様。愚かな私達に教えて下さい。何故弱き神達に協力を要請したのでしょうか?」


 強き神ならともかく弱き神の力が必要なのは分からない。


「そなた達は弱き神を簡単に見つけ出す事が出来たか?」


「いえ……。人間と殆ど変わらない為に非常に苦労しました……」


「番犬の異名を持つ、そなた達の鼻、耳、知能を持ってしても難しかったであろう」


「我等が不甲斐なき故に申し訳ございません!」


「弱き神達を見つけるのは難しい事だ……。そなた達のせいではない。そなた達だからこそ見つける事が出来たのだ」


 閻魔は2人の功績を誉め讃える。


「なら何故、そこまでして弱き神達を捜し協力を要請するのですか?」


「余の真の狙いは情報の伝達役ではない……」


 その言葉を聞き、沙羅と雨夜は、ハッとする。


 この御方は恐ろしい御方だ……。武力ではなく知略を持って事に当たっている。


 自分の狙いに気付いたと察した2人に対し閻魔は命を伝える。


「沙羅に雨夜よ。地上にいる弱き神達の協力も必要不可欠なのだ」


「「ハッ!引き続き、地上の神達の協力を取り付けてまいります!」」


 2人は同時に頷き、同時に答える。


「今日は御苦労であった……。まだ寝るのには早かろう。この後は地上を満喫するが良い」


 そう言い閻魔は、沙羅と雨夜に褒美として金一封を渡そうとする。


「「お止め下さい!恐れ多いです」」


 沙羅と雨夜は双子の為に感情が一致する事が多い。


「お主達は地上を耳で聞いたが肌では知らぬ……。地上を楽しむ事も必要なのだ」


「私達は給金を頂いております」


「先輩方やトゥルダク様達に大目玉を喰らってしまいます」

 

「余が許可したのだ。何の問題がある?」


「「し、しかし……」」


 閻魔の命令は絶対だが遠慮したい。


「良いか。そなた達も、いずれ人間の男と付き合いもするだろう。人間の遊びも知らぬのでは困るであろう」


 殆どの地上の鬼達は人間と結婚する。


 人間と鬼だが閻魔の術は精巧で人間と変わらないようにしているので問題ない。


 女の鬼の彼女達が人間の男と結婚しても産まれてくるのは角のない人間の子供である。


 せいぜい八重歯があるくらいである。


 同じく男の鬼が人間の女と結婚しても産まれてくるのも人間の子供である。


 閻魔は人間との結婚に反対などせず祝福する。


「「閻魔(ヤマ)様が働いているのに私達が遊ぶなど言語道断です!」」


「違う。余は遊びからでも学べというのだ。人間の若い娘らしく振る舞う事も出来なければ任務に支障をきたすぞ」


 閻魔の命令は絶対なので逆らえない。


「……私達のような若輩者に、ここまでして頂けるとは感謝のしようが御座いません」 


閻魔(ヤマ)様の、ご期待に応えるように必ず成果を出してみせます」


 頭を下げ、街へと駆け出した彼女達を閻魔は微笑みながら見送る。

 

「大きくなったものだな……」


 閻魔は2人が赤子の時を思い出す。


 彼女達は産まれた時は、体が1つに頭は2つの結合双生児であった。


 それ故に名前は閻魔の番犬のサーラメーヤと名付けられた。


 人間ならば異形の者と怪奇な目で見られるが鬼達は異形な者も多いので珍しくもなかった。


 彼女達の両親など「産まれてきてくれて、ありがとう……」と涙を流して喜んだ。


 だが、彼女達のお産に立ち会った死神トゥルダクは彼女達を見て言った。


「結合双生児である為に長く生きられん……。どちらか1人を切り捨てなければならないという危機的状況だ……」


 トゥルダクは病魔を司ると同時に医学にも非常に精通している。


 両親は衝撃を受けたが、どちらかを選び、どちらかを切り捨てなるど出来なかった……。


 しかし神は、どちらも見捨てなかった。


 日に日に弱るサーラメーヤの知らせを受けた閻魔は全ての仕事を一時中断してサーラメーヤの元へ向かった。 


 幼い命を救う為に閻魔の力によって1つの体に2つの頭から、1つの体に1つの頭と完全な2人の双子となった。


 名もサーラメーヤから沙羅と雨夜となったが、閻魔に命を救われた事実を2人は知らない。


 言う必要がないと閻魔は皆に口止めした。


 そんな彼女達の寿命も50~60と短い。


「沙羅、雨夜。そなた達は裏方故に離脱する事も出来よう。もし添い遂げたい男が出来たら、余の命より自分達の幸せを優先せよ……」

 

 人間の世界で子を宿し、親になった為に戦いに参加出来ない者も大勢いたが、配下の幸せを望む閻魔は、“己の幸せを優先せよ!”と容認した。


 彼女達は自ら異世界神との戦いに志願した。


 これから彼女達には異世界神との裏方の戦いが始まる。


「そなたには死を命じる事になってしまうな……。余の命令故に死んでも蘇られるが、それは決して望まないだろう……」


 どうしても離脱が出来ない1人の男を思い浮かべていた。


 


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