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転移者や転生者を連れ戻す者  作者: ギャレット
18/27

異世界転生者の裁判と地獄の蘇生術

元の世界へと帰還すると自分を待っていた者がいた。


 地上にいる同胞の鬼の瑠衣(るい)である。


 ここにいるという事はどうやら能力の修得は早く出来たのだろう。


「帰還を、お待ちしておりました」


「ただいま…」


 今回は1度死んだ人間とはいえ、人を殺しているので暗い雰囲気であった。


「転生者の居場所が分からなかったという訳ではなく、その様子だと殺した魂を連れ戻したんですね……」


 焼け焦げたようにボロボロな服装を見て瑠衣は言う。


「あぁ……。ちゃんと殺して持ってきた」


 そう言って荷物から水谷正也の魂が入った瓶を渡す。


「手を汚させるような仕事をさせて、申し訳ありません……」


 瑠衣は頭を下げて謝るが、迅は彼女達が人間並に弱い事を理解している。


「気にしなくていい。適材適所というやつだ。君達、地上に行く者達は知能は高いが肉体的強さは人間の一般人と変わらないから、私のような知能は低いが肉体的強さの強い地獄の獄卒が行くのは当然だ」


 地獄の獄卒達は過酷な環境下で生き抜いているので人間より遥かに強い。


 地上行く鬼達は肉体的強さは人間と変わらないので人間社会に行くまで勉学に励むのである。


 迅も人間社会に潜伏するための勉強として日本語以外に英語、中国語、インド語を学んだが、様々な人種の罪人達の言葉から、日常会話程度なら10ヶ国語以上は話す事が可能である。


 知能の高い瑠衣は世界中を飛び回わっていたので30ヶ国近くの言語を話す。


 鬼は地上に行く組と地獄で働く獄卒組に分かれるが、地上に行く鬼達は獄卒組を馬鹿にしないし、獄卒組の鬼も地上組をガリ勉と蔑んだりもしない。


「主が滝崎さんを選んだのは、一般の獄卒の方では力を貰い強くなった転移者や転生者に負けてしまう可能性もありました……。かと言って変異種と呼ばれる方々は力が強過ぎて異世界に被害を出してしまう恐れがありました」 


 人間の中にも高い身体能力を持った者が生まれるように、鬼の中にも極稀に強い力を持った変異種と呼ばれる者が生まれる。


「それで、変異種の中でも人間社会で生きた私が選ばれたのか……」


 鬼は強い者ほど身体が大きい傾向がある。


 一般的な獄卒の身長は男も女も2m以上あるが、地上に行く鬼達は人間と変わらない。


 地上に行く男の鬼は170㎝前後で、女は155㎝前後である。


 変異種の迅は人間状態でも190㎝あるが形態を解くと更に巨体になる。


 人間形態でも巨体な迅を見つめ瑠衣は言う。


「私は今から水谷正也の魂を届ける為に再び主の元へ戻ります」


「分かった。ここからは君の仕事だから頼むよ」 


「後で私の修得した新たな能力で相手の居場所を伝えますので待っていてもらえますか?私は30分程で帰ってくると思いますので」


「30分?随分早いな……」


 地獄への入り口は世界中に多数あるが、入り口の場所までの移動時間を考えると往復で最低でも2時間はかかる。


「主から、緊急の用事もあるだろうと頂きました」


 瑠衣の指差す方向を見ると小さいが主君を象った石像が机の上に1体置いてある。


「……!?閻魔(ヤマ)様!気付かず申し訳ありません!」

 

 これは分身体の石像だが、分身体の石像だとしても主君は主君だと迅は慌てて跪く。


 閻魔を(かたど)った分身体の石像は世界各地に多数ある。


 それは人々を救いたいと願い地上に残した分身体であり、地獄への道は分身体を通して進むのである。

 

「私は主の元へ行ってきますので、良かったら机の上に置いてある次の相手の資料にでも目を通しておいて下さい」


 瑠衣は閻魔(ヤマ)の石像に跪き、手を触れると飲み込まれるように消えた。


 瑠衣の去った部屋で、迅は異世界の神の監視よりも緊張する主君の石像の前で次の標的の資料に目を通す。



 

ーー天界と地獄の狭間ーー


 人間が見れば誰しも天国と思う場所に閻魔の居城がある。

 

 この空間も地獄も閻魔を中心とした10人の神の力で創設された。


 しかし、今は10人の神は閻魔1人しかいない。


 神とて命は永遠ではない。


 誰しも死ぬように神も生きている以上は必ず終わる時は来るのである。


 1人となってしまった閻魔の居城は華美さなどなく質素な作りだが見窄らしさなど感じさせない。


 豪華さなど必要無い。


 美女が着ればどんな見窄らしい服装でも輝くように偉大なる人物がそこにいれば、どんな建物でも光り輝くのである。

  

 城の近くに転移した瑠衣は閻魔が鎮座する居城の門をくぐる。


 その横を罪人の魂を連行するであろう獄卒達が忙しく働いている。


 獄卒は12時間労働の2交代制だが毎日休む事なく働いている。


 閻魔自身も配下に休むように言っているのだが、閻魔など10人の神がやっていた仕事をほぼ1人でやっている。


 有能な配下達に手伝ってもらっているが忙し過ぎて24時間年中無休で働いている。


 主君が休みなく働いているのに休むなど出来ない!と獄卒達は毎日働く。

  

 「お疲れ様です!」と獄卒達に声をかけ瑠衣は頭を下げる。


 年上の目上の者には敬うが鬼達に身分の差などない。


 「おう!お疲れさん」と気のいい土方のオッサンのように気軽に声をかけてくる。


 自分が来た事は城の門番に伝えたので、少し待たされた後に、若い獄卒の鬼に連れられ、謁見の間に入る前に心の準備を整える。


 最終確認として衣類に汚れが無いか確認する。


(ここに来ると緊張するのよね……)


 それは扉一枚隔てた先にいる主君に会う為。


閻魔(ヤマ)様や側近の神の方々も、お待ちしてますので、お入り下さい」

  

 裁判を受ける人間達の魂は“法廷の間”と呼ばれる場所で行われるが、配下と面会する時は謁見の間と呼ばれる部屋で行われる。


「失礼します!」


 と言葉を発すると、まるで瑠衣を待っていたかのように自動的に扉が開かれる。


 姿勢を正し謁見の間を進む。


 中央には上質な絨毯が敷かれ、神、骸骨、小人、風神、雷神と左右には人間が見れば誰しも顔色を染め上げてしまう配下達が並び立っている。


 司命と呼ばれる閻魔の判決を言い渡す雷神。


 正確には雷神の血を引いた子孫である。


 司録と呼ばれる判決を記録する者も同じく風神の子孫である。


 普段は姿を見せないが転生者の裁判の関係者として閻魔に呼ばれた死神である骸骨のトゥルダク。


 見た目は子人の老人姿の2人の倶生神。


 閻魔の左側にいるのは黒闇天という女神。


 姉の吉祥天と対になる女神であるが、姉の吉祥天は美貌と幸福の女神なのに対し黒闇天(こくあんてん)は醜い容姿と疫病の女神であった。


 そのせいか彼女は神からも人間からも誰にも相手にされなかった。


 しかし10人の神達は違った。


「私は疫病神ですよ……あなた達を不幸にします」


 と黒闇天が言うと。


「我々の不幸は、あなたという(こころ)の美しい女神に今まで会えなかった事だ」


 器の広い支配者達に受け入れられた彼女は喜び、今では姉の吉祥天より美人な福の神になっている。  


 その白く美しい顔は死者や生者の善意を見抜く力がある。


 閻魔の右側にいるのは亡くなった10人の神の内の1人であり亡き泰山王の息子である泰山府君という名の神。


 赤ら顔の泰山府君は死者や生者の悪意を見抜く力がある。


 閻魔は泰山府君には好きな道を歩んでほしかったが泰山府君は閻魔に神として自分の存在理由を告げた。


「私も泰山王という神の息子に生まれたのだから、私も神として業を背負うべきと思っています……」


 閻魔は何度も諫めたが父譲りの信念の強さは変わらなかったので今は右腕として閻魔に仕えている。

 

 他にも七母天、五道神、荼枳尼天(だきにてん)成就持明仙衆(じょうじゅじみょうせんしゅう)など神の眷属はいるが、今は別件で動いている。


 神すらも眷属にする閻魔の神格の高さが伺える。


 異形の者達が並ぶ中を瑠衣は進み主君の前で跪くと胸元に片手を当て、深く頭を下げる。


 地獄の神と言われているが相手は雲の上の太陽のような存在。 


(おもて)をあげよ……」

 

 声は低く短い言葉ではあるが、その中からも神たる威厳を感じさせられる。


 言葉を聞き瑠衣は顔を上げ主君を見つめる。


 水牛を(かたど)った玉座に腰かける、地獄の神である閻魔。


 上質な絹の法衣を纏い、頭部には冠を被り花の形にも似た飾りを付けている。


 肌は浅黒く、顔に白い髭を生やした老人姿の神。


 配下の者達から見れば太陽のように光り輝く神々しい存在。


 右目は、自分に願掛けをした老婆に与えてしまった為に隻眼となっているが、左目は全てを見通すような眼をしている。


 しかし、閻魔が瑠衣を見つめる目は主君が配下に向ける物ではない。


 まるで親が子供に向ける優しく穏やか目。


「この度は、お時間を作って頂き、ありがとうございます!こちらが滝崎さんが持ち帰った水谷正也の魂で御座います」


 鞄の中から瓶に詰められた水谷正也の魂を差し出す。


 近くにいたトゥルダクが水谷正也の魂を受け取り閻魔に差し出す。


「そなたも情報収集や新たな能力の修得など、ご苦労であった」


 閻魔は瑠衣に労いの言葉をかける。


「有り難き御言葉!先祖が使っていた“千里眼”を必ずや閻魔(ヤマ)様の、お役に立てるように力を振るう所存で御座います!」 


 瑠衣の父方の先祖は道教の女神である媽祖(まそ)に仕えた千里眼という鬼である。

 

 この能力を使い転生者や転移者を捜し出すのが瑠衣に与えられた新たな役割である。


「余は、そなたの働きと能力には大いに期待している」


 閻魔が力を使えば全て解決するのだが閻魔は敢えてしないようにした。


 閻魔は主君として配下に絶対にしない事がある。


 それは配下の手柄を横取りする事と配下の仕事を奪う事である。


 会社の社長は有能である必要などない。


 トップに求められるのは有能な人材を使いこなす事である。


 死者の裁判をする時も閻魔1人で出来てしまうが、それでは配下である者達の仕事を奪ってしまうので、判決を決めるのは自分の仕事であるが、泰山府君や黒闇天達には裁量権を与え仕事の一部を任せている。


 しかし、有能な配下達に助けられているのも事実であり閻魔は、いつも配下を大勢の前で褒め称える。


「そなたは仕事が出来るだけではなく器量も美しい。正に“高嶺の花”と沙羅(さら)雨夜(めや)も羨ましがっていたぞ」


「お褒めの言葉、ありがとうございます」


 自身が褒める事も大事であるが、それでは瑠衣が謙遜してしまうので後輩に当たる沙羅と雨夜が褒めていたと間接的に褒めた。


「本題に入るが今回は異世界に転生した者の裁判という事で本日は皆に忙しいところ集まってもらった、感謝しよう」 


「感謝なぞ必要ございません。我ら、閻魔(ヤマ)様の眷属達。至極当然でございます」


 閻魔の右腕たる泰山府君の言葉で居並ぶ眷属の神達は一斉に頭を下げる。


「以前にも1度、そなた達に集まってもらったが、余の帳簿では現世で死ぬまでの賞罰しか書かれておらぬ……。異世界へ転移、転生した者達の賞罰は分からぬ故に集まってもらった」


 閻魔は集めた理由を話す。


 閻魔帳で現世での賞罰はすぐに分かるが異世界へ転生した者や転移した者の賞罰は閻魔帳に記載されていない。


 自分でも分からない事態が起こり得ると考え重臣達を集めた。


「黒闇天よ。まずは、そなたが異世界へ転生した水谷正也の善行を見よ」


 黒闇天に命を出し確かめさせる。


 閻魔は人間を悪行だけで裁かない。


 まずは、その人間の良いところを見る。


「仰せのままに」


 そう言うと黒闇天は目を(つぶ)り水谷正也の異世界での善行を感じ取るように見る。


 やがて水谷正也の善行を述べる。


「仕事は真面目に行っていたようです」

 

 社会で働くという事も誰かの為に役立っている行為なので善行とみなしている。


「泰山府君よ。次は、そなたが水谷正也の悪行を見通せ」


「ハっ!」


 赤ら顔の泰山府君は目を見開き、水谷正也の悪行を感じ取る。


「貰った力でしょうか?男を半身不随にしております……。そして自らの経験値稼ぎや修練と言い、熊の群れを虐殺しております」


「倶生神達よ。水谷正也の賞罰の記録は間違いないか?」


 人間には見えない速度で2人の小さな神は水谷正也の魂に近付く。


「「間違げぇございやせん!閻魔(ヤマ)様」」


 2人の神は声を揃えて答える。


「うむ……。余も、そなた達と同じ結果が見えた。異世界へ転生して再び亡くなった者も現世で亡くなった者と同じく見通せると分かった。念の為に法廷の間より持ってきた浄玻璃鏡で水谷正也の異世界での行動を見るか……」


 閻魔が言うと浄玻璃鏡に水谷正也の異世界での善行と悪行がスクリーンのように映し出された。


 30ヶ国近くの言語を話す瑠衣でさえ異世界の言葉は分からないが、通訳機能があるのでは?と迅に言われた『結び石』を肌身放さず持っていたため異世界の言葉も理解出来た。


 閻魔を始めとする神達は通訳など必要とせず当然の如く理解出来ているようだった。


 場面は少女とゴロツキらしき男の会話を聴いた水谷正也の様子。


「おい!女の子に絡むなんて止めろよ!」


「コイツみたいな小娘は剣や魔法の鍛錬なんかしてないで家で裁縫や料理が出来るように励めって言ったんだよ」


「余計な、お世話よ!」


「オッサン。俺の国じゃ女だってバリバリ仕事してんだよ!」


「お前、他国の人間か?なら、この国の事に口出しするな。ミルテ。お前は剣より料理包丁で料理の鍛錬でもしてろ!」


 ゴロツキらしき大男の言葉と凄みで少女は涙ぐむ。


 それを見て水谷正也は歪んだ正義感を振りかざす。


「女の子を泣かすな!」


 そして、手から電撃魔法を放ち、男を半身付随にしてしまった。


 泰山府君の言ったように相手の男を半身付随にしている。


(わたくし)は善意を感じとれますが、これは違います……。文化や風習が違うのでメビキアの世界の女性達は10代後半で嫁入りで家庭に入るのが一般的なのかもしれません。間違った正義感や価値観だけで判断したのは愚考と言うものです……」


 誰か守る行動や誰かの為に生きる行動は善行だが、これは善行ではないと黒闇天は否定する。


 そして異世界で真面目に仕事はしていたが、ある日、水谷正也は2人の仲間に言う。


「明日は経験値稼ぎに山熊を倒しに行こう!待ち合わせは山の麓で」


 そして、次の日に経験値稼ぎと称し、逃げる小熊まで電撃魔法で次々と虐殺した……。


 それを見ていた骸骨のトゥルダクは肉片が無い口で話す。


(それがし)も異世界で鬼の迅の監視をしていましたが……これは訳が違いますな……」


 迅を監視していたのは、死神トゥルダクである。


 迅もナヒヤの世界で魚の命を奪い、自分が猪の殺すつもりだったが異世界の少年達にトラウマを払拭させる為にトドメを刺させているが訳が違う。


 水谷正也は経験値稼ぎだが、迅は生きる為である。


 相手が殺す気で挑んでくるならば自分も相手を殺さねば生き残れない場合もある。


 故に生きる為の害獣の駆除や正当防衛で殺してしまっても罪に問わない。


 閻魔が迅に異世界人を殺すな!と厳命しなかったのも相手が殺す気で挑んでくる場合は、自分が生き残る為に殺しても致し方ないと判断した為である。


 しかし、迅は襲いかかってきた異世界人も熊も殺してはいない。


 熊は顎を外され餓死の可能性もあるが、互いに命懸けであった為に熊が餓死しても迅に罪は無い。


 魚の命を奪っているが、神も人も生きている者全ては生命を食さなければ生きていけないので、それは罪としない。


 猪を食料にしましょう!と異世界人に提案したのは奪った生命を無駄にしない為である。

 

 全てを見終わった閻魔は司命を呼び寄せる。


 雷神は雷の如き動きで閻魔に近寄る。 


「コヤツも被害者なのかも知れぬが、裁判は公平に行わなければならぬ……。司命よ、余の判決は決まったが間違いないな?」

 

「ハっ!間違いございません」


 司命の雷神に確認させる。


 その人間の死後の命運が掛かっているので間違いなど許されない……。

 

「では水谷正也の判決を述べよ」


 判決を決めるのは閻魔だが判決を言い渡すのは司命の仕事である。

 

「異世界へ転生した水谷正也。等活地獄で250日、極苦処(ごくくしょ)で250日、合わせて500日の刑と処す!」


 隣で聞いていた司録の風神が風の如き速さで判決を記入する。


 司命も普段は判決の時は雷の如き速さで言い渡す。


 何故なら人間は1日に17万人死ぬ。


 17万人が全てが罪人になる訳ではないので効率的に仕事をする為に、奪衣婆(だつえば)懸衣翁(けんえおう)が罪人とそうでない者に(あらかじ)め分けておく。


 判決を言い渡すのは罪人となる者達だけだが、異世界転生者の裁判は未知の部分が多いので慎重に裁判しなくてはならなかった。


 閻魔の判決で罪人をどの地獄に落とすか決めたが、変成王が亡くなっているので閻魔が決めている。


 地獄を作った当初は一番罪の軽い等活地獄の刑期は1兆6000億年以上との案が出たが、閻魔や殺された閻魔の妻の呼ぶべき者の2人は猛反対した。


 罪人となった者達は苦しめ続ける事が目的ではなく、罪人でも転生させるのが自分達の役目であり、神である自分達の生きる寿命で判断してはいけない!と猛反対した。


 次に人間の寿命で500年と案が出たが、地獄の刑罰は厳しいので年ではなく日とすべきだ!と慈悲深い閻魔夫妻は唱えた。


 本来なら罪人でも救いたいが、それが出来ないのは分かっている……。


 と、普段から温厚な閻魔夫妻が涙を流しながら、感情的に訴えたので他の9人の神も認めた。


 地獄へ落ちる罪人の基準は自分勝手な魂を持つ悪行を重ねた者達である。


 近年は人間社会の情勢の変化の為に、地獄へ落ちる者が昔より増え変わった。


 雷神の司命の判決で場は静まり返ったが、「失礼します!」と、瑠衣を謁見の間まで案内した若い獄卒が入ってくる。


 彼は判決が終わるまで部屋の外で待機していたが、判決が終わったら水谷正也の魂を運ぶように事前にトゥルダクより言われていた。


 判決が終わった水谷正也の魂を閻魔から受け取ると等活地獄へと向かった。


 若い獄卒を見送ると閻魔は口を開く。


「皆、御苦労であった。今後共に異世界転生者の裁判を開くと思うが各々には協力願いたい。これにて異世界転生者の裁判は終了する」


 再び頭を下げる眷属の神達の前から閻魔は転移し消えた。


 瑠衣も閻魔の眷属たる神達に頭を下げ退出する。


 閻魔の眷属たる地獄の神達も己の持ち場へと転移し移動し始めた。


 時間を無駄にしてはいけない。


 地獄の神達も獄卒達も、人間を連れ去るような自由気ままで、ぐうたらな異世界の神とは違うのである。



ーー等活地獄ーー


 先程の若い獄卒が水谷正也の魂を持ち等活地獄へと姿を現す。


 彼は15歳の新米獄卒。


滅鬼(めっき)!異世界転生者の魂を持ってきたぞ」

 

 友人である滅鬼と呼んだ鬼に話しかける。


積鬼(しゃっき)か。俺の区画の最後の罪人も、今さっき殺して全員死んだところだ」


 地面には100人以上の罪人達が血まれで死んでおり、最後に生き残った罪人も金砕棒で潰されていた。

 

 新米の若い獄卒の持ち場は等活地獄より始まる。


 若い獄卒達は、だいたい等活地獄か黒縄地獄が持ち場になっている。


 鬼は強くなるほど過酷な下の階層が持ち場となるが強いから偉いわけではない。 


 役割が違うだけである。


「よし!異世界転生者(コイツ)も蘇生させようぜ。今度は俺がやるよ」


「おう!頼むわ」


 積鬼は地獄の蘇生魔法のような術を唱える。


「活きよ、活きよ」


 そう言うと、過酷な地獄に涼風が吹き始め、罪人達は等しく蘇った。

 

 同じく地獄の蘇生術で水谷正也も蘇った。


「どこだ……?ここは?」


 見覚えのない場所だった。

  

「ミルテ、マリナ」


 仲間の名前を呼ぶが仲間のミルテもマリナもいない……。

 

 頭を整理して記憶を糸を辿る。


 自分は武芸者と名乗る男と決闘をしていた……。 


「俺は殺されたのか?」


 しかし、ここはメビキアの狭間の世界でもない……


 何か手掛かりでもないかと辺りを見渡すと驚愕する。


 目に殺意を宿した老若男女100人位の人間の集団がいる。


 見ていると何故か殺したい感情が湧き上がってくる。 


 更に辺りを見渡すと、この世の者とは思えない二匹の化け物がいた。


 その姿は上半身は裸であるが上半身から見える肌は赤く太く筋骨隆々である。


 歴戦の猛者のように全身は傷だらけであった。


 下半身は裁着袴を荒縄で縛り、草履を履いている。


 身長は自分より頭2つ分大きいので身長は2m20cm以上はありそうである。


 頭には太い二本の角と、どんな堅い物でも砕いてしまいそうな牙を口元から覗かせる。


 顔は猛獣と人間を混ぜたような形相をしており手には棍棒や(まさかり)を携えている。


 怒っている雰囲気などないが恐ろしさのあまり膝が笑って震える。


 化け物の一匹が近付いてくる。


 気持ちを強く保たなくては腰を抜かしてしまいそうな威圧感。


「生き返ったか?異世界転生した罪人野郎」


 発する言葉は日本語ではないが魂に響くように何故か理解出来た。


 思ったよりも若い口調である。


「ここは何処なんだ?罪人って何だ?お前達は何者なんだ?」


 怖いが舐められてはいけない。


 剣は持っていないが自分には魔法がある!と精一杯の虚勢を張る。

  

「ここは等活地獄。罪人共が互いに憎しみを抱いて殺し合う地獄で俺達は獄卒の鬼だ。」

 

「地獄!?」


「そうだ。お前は地獄に落ちた。殺し合いが好きなら地面に落ちている好き得物を拾え」


 何も分からない自分に丁寧に教える鬼と名乗る者達。


 襲いかかってきたら武器があった方が良いだろうと思い、取りあえず足下の血に染まった剣を拾うと、更に殺意が湧き上がってくる。 


「さぁ殺し合え!」


 鬼は号令を下すが、そんな事を言われなくても何故だか殺したくて仕方ない。


 水谷正也は罪人達の集団に突撃する。


「炎よ、吹き荒れよ!《炎風》」


 左手を振りかざし炎系等の魔法を唱える。


 水谷正也は土と雷の魔法だけではなく、他にも様々な魔法が使えた。


「何言ってんだ?あいつ?」


「さぁ……」


 滅鬼と積鬼は首をかしげる。


 水谷正也は呪文を唱えるが何も起きない……。


 隙を晒した為に自分の目の前にいた槍を構えた他の罪人に目を貫かれ死亡した。 


「活きよ、活きよ」


 罪人全てが死んだところで再び涼風が吹き等しく蘇る。


 再び、水谷正也は左手をかざし呪文を唱える。


「《飛礫》」


 何も起きない……。


「《電撃》」


 今度は迅を苦しめた電撃魔法を詠唱するが、やはり何も起きない……。


 剣を振るおうとしても上手く扱えない……。


 同じく剣を持った罪人に斬られるが悲鳴をあげる前に喉を貫かれ殺された。


「なぁ、コイツさっきから何言ってんだ?」


「まだ異世界の魔法でも使えると思ってるじゃねえの?」

 

「知らないから仕方ないが……馬鹿だなコイツ……」


「あぁ……。罪人は等しく平等だからな……」


「権力者も乞食も、男も女も、子供も大人も罪人は等しく平等だから、例え神から力を貰っていても、平等故に貰った力は地獄では全て解除されちまうからな……」

 

 哀れむように2人は水谷正也の死体に言う。


「活きよ、活きよ」


 過酷な地獄に再び涼風が吹き始め、水谷正也は蘇っては殺されるのを繰り返す。


「活きよ、活きよ」


 ようやく、ここでは魔法が使えないと水谷正也は理解する。


「嫌だ……。死にたくない……」


 水谷正也は背を見せ逃げ出すが巨体に似合わない速さで若い獄卒は迫りくる。


 200キロ以上ありそうな金砕棒を片手で軽々と振り上げ水谷正也を撲殺する。


「活きよ、活きよ」


 逃げれば獄卒に殺されて再び蘇る。


「もう……許してくれ……」


「俺達も好きで殺しをやっている訳ではない……。だがこれは、お前自身の業だっ!!」


 苦しむのも殺されるのも嫌だ……と、涙を浮かべ許しを乞うが許されず殺される……。 

 

 ルールを守らず死亡し、メビキアに異世界転生され、力と欲望に溺れたので地獄へと落とされた。


 水谷正也もルールを守り、全うに生きて生涯を終えれば、地獄に落ちず再び別の生命体へと転生出来た。


 250日間、殺され続けた後に水谷正也の魂は小地獄の極苦処へ送られる。


 常に鉄火に焼かれ続け苦しみながら刑罰を受けるが、死ねば獄卒に蘇生され断崖絶壁に落とされ殺され続ける。

 

 迅が言ったように水谷正也の異世界生活は終わり、殺され続ける地獄が始まった……。

 

 これより先、悪行を重ねた異世界転生者達は次々と地獄へと落とされる事になる。

 

 罪を犯した者は、神も人も決して許されない……。

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