宣戦布告
冬空の下、想いを寄せていた相手を目の前で抹殺された2人の少女達の行動は大局的だった。
「いや……。正也……」
魔法使い風の少女は力無く崩れ落ちる。
「うわぁぁぁーーーーー」
もう1人の少女は激情に任せ、咆哮をあげながら斬りかかる。
しかし、その剣は憎い相手の迅には届かない。
少女の剣を回避し足をかけて少女を転ばし、ポケットから、ある物を取り出し少女の両手足を拘束する。
それは通販で買った拘束用の手錠。
本物ではないが、かなりの強度がある。
少女を立ち上がるが両足を拘束されているので、上手く歩けずに再び転んでしまう。
「だから、水谷正也にも言われただろう。あの場に待機していろと」
迅は首の骨を折り、殺した水谷正也を見る。
迅が1対1の決闘を提案したのは標的の抹殺の為だけであり、標的以外の者には手を出さない為である。
そして、少女達に邪魔されるのも嫌だが、想いを寄せている相手の死を見せない為もあった。
「ふざけるな!絶対に許さない!」
激しい怒りの憎悪を言葉にして相手にぶつける。
「お前に許しを乞う気など無い」
怒りの言葉に対して迅は冷たく言い放つ。
「この人殺し!」
ミルテは迅を罵るが、迅は言う。
「人殺しだと?お前達は馬鹿だ。特にお前には覚悟が足りない」
「覚悟……?」
「そうだ。お前達は自分が殺される覚悟がない。私や熊を殺す気で来たのだから、お前は私や熊に殺されても文句は言えない立場だと理解しろ!」
無論、殺す気などないが、迅は異世界では常に殺される覚悟と生きる覚悟で望んでいた。勿論、殺す気で来る相手には生きる為に最後まで全力で抗う。
「熊?あんた、見てたの?」
「あぁそうだ、迷子の迷子の子猫ちゃん。お前が馬鹿な行動を取ったから、私が死ぬかと思ったぞ……」
迅の言葉でミルテは理解した。
ゴリラかと思ったのは、この男で、この男が熊を止めたのだと。
そして、もし熊に勝ったのなら、この男に自分が敵う筈がないと……。
「あたしを助けてくれたの……?どうして!?」
「人間だから助けるのは当然だ」
閻魔から『困っている者がいるなら見返りを求めず無償で助けよ』と言われているので異世界人だろうと無償で助けるつもりでいる。
「だけど、あんたは畜生にも劣る人殺しよ!」
「お前は本当に馬鹿だ。畜生にも劣っているのお前自身だ」
「何ですって?」
分からないという表情のミルテに、迅は木に止まっている鳥を指差し語る。
「そこの木に止まっている鳥を、お前が殺したら、その鳥の家族が、お前を復讐の為に殺すと思うか?」
「する訳ないじゃない!」
「何でだ?動物にだって感情は有るのだぞ?復讐しないのは動物が馬鹿だからか?」
そんな事を考えた事もない少女は、迅の問い掛けに黙り込む。
少女を見て迅は言う。
「動物が相手を殺すのは生きる為の狩猟と自らの身を守る時だけだ。生きる為以外に必要最低限には殺しはしない。じゃあ、お前はどうだ?生きる為の駆除や狩猟の為に熊に襲いかかったのか?私に殺されると思ったから刃を向けたのか?」
「………………」
少女は答える事が出来なかった。
迅や熊に斬りかかったのは自分でも倒せると思ったからであり、生きる為ではない。
「好きな相手を殺されて復讐するのは人間だから当然だ。だが、動物は親や兄弟を殺されても復讐なんてしない。私に好きな相手を殺されて復讐している人間の、お前の方が動物以下と言う事だぞ」
「でも……勝負は着いていた。なら何故、あんたは正也を殺したの?」
「それは、水谷正也が、この世界に居てはならない存在だからだ」
「……どういう事ですか?」
と、殺された水谷正也に、今まで抱き付き泣いていたマリナが迅に問い掛ける。
「奴が異世界転生者という事は知っていたか?」
「はい……」
泣きながらもマリナは答える。
「奴は一度死んだ人間だ。だが奴が生き返ったせいで様々な問題が起きた………」
熊を修練の為と殺していたが、水谷正也が生き返らなければ熊だって死ぬ事は無かった。
「あたし達と異世界生活を送っていただけよ!何が悪いって言うの?」
(……どうせ見てるんだろ?異世界の神々と転生者共……。ここらで宣戦布告をさせてもらうか……)
閻魔の命を受けた時から迅には後には引けない戦いは始まってる。
「死んだ後は異世界生活だと?……ふざけるなっ!!」
「……ひっ」
泣いているマリナを泣き止やらせる程の怒号を迅は言葉にして放つ。
「人生は一度切りで死ねば終わりなのだ。だがら、人間は一生懸命に生きるのだ!だが転生者と呼ばれる、お前達は何故生きている?」
その場に居ないが、すぐ近くで聞いているような転生者達に問い掛けるように迅は言う。
「異世界転生だと?要は人生をやり直したいだけだろ!転生とは何だ?それは人生をやり直す為じゃない……それは新たな別の生命として生まれ変わる事だ!」
転生とは人生をやり直すものではなく、記憶を消され新たな生命へと生まれ変わる事であり、死ねば全ての生物は生まれ変わる為に楽園と呼ばれる場所へ行くが楽園とは天国ではない。
天国のような風景であるが、そこは死んだ者が暮らす場所ではなく、死んだ者が新たな生命体へと生まれ変われる場所があるところである。
死んだ生物は全て別の生物へと転生し生まれ変わるが異世界転生者達は違う。
記憶を持ち、神から力を貰い、人生を再スタートしている。
その力を善に使う者は少なく、多くの者が力と欲望に溺れ、中には罪の無い異世界人を悲しませる者もいる。
そんな事は許されない。
人間を連れ去る異世界の神も然り。
「人間を異世界に連れ去る神々共、今、転移者や転生者の魂を返すと言うのなら閻魔様は寛大な御心で、お許し下さるだろう。だが、拒否するとあれば実力行使させてもらう!」
異世界転生者も転移者も、神による被害者なのかもしれない事は迅も分かっているが、転生者の存在を認め許す訳にはいかない。
「異世界転移者よ。お前達は生きている人間なのだから生かして連れ戻す!だが、異世界転生者よ。お前達は一度死んだ人間なのだから魂を連れ戻す!罪を重ねる転生者達よ、簡単に許されると思うなよ…………お前達を殺し、その魂を地獄を送る事、それが……………」
力の弱い神は自分の正体が分からないだろう……と、迅は己の正体を口に出し明かす。
「閻魔様より命を受けた俺達“地獄の鬼”の使命だ!」
閻魔は全ての生物を愛しているので涙を流しながら瑠衣を通して迅に、この命を伝えた。
『異世界へ転生した人間は“必ず魂を連れ戻せ……”』
死んだ者は異世界ではなく、元の世界で転生させなければならない。
人間も誰よりも深く愛しているからこそ、死んでも罪を重ねる転生者達に、これ以上罪を重ねてほしくないので殺してでも魂を連れ戻せと命を下したのである。
張り裂けんばかりの鬼の咆哮の演説を多くの神々と転生者、転移者も見ていた。
「何を言ってるんだコイツは?」と大半の神々は笑った。
「やってみろよ。クソ雑魚の鬼が」と多くの転移者や転生者達も迅を見下し笑った。
迅も自分より強い転移者や転生者もいる事も分かっているので、いつ死ぬかは分からないが自分の最後は転移者か転生者に殺されて終わるのだろうとも理解している……。
自分が死んでも主君の閻魔の勝利は決して揺るがないが、それでも迅は最後の最後まで無様でも抗い足掻き続ける。
人間を連れ去る異世界の神々と閻魔の戦いは閻魔の詰め将棋であり、自分など所詮は歩兵に過ぎないと思っている。
しかし王の閻魔は歩兵の迅を決して捨て駒扱いしない。
“歩のない将棋は負け将棋”、“歩兵はチェスの魂”である事を知略に長けた王は歩兵の重要性を当然の如く理解しており、捨て駒ではなく強力な一手として迅を先鋒として異世界に投入した。
歩兵の役目は後続を生かす事や防衛など利用価値は大きいが歩兵の1番の恐ろしさは敵陣に侵入した時である。
敵陣に潜入すれば将棋なら歩兵はト金、チェスなら歩兵は敵陣最終ラインに到達出来れば最強の王妃に昇格出来るのである。
ナヒヤの仲間である神のシウノーとメヒルも迅の宣戦布告を見ていた。
「メヒル。彼、神である僕達に宣戦布告しちゃったよ」
少女か少年か区別のつかないシウノーは最高の退屈しのぎだと笑う。
「でも相手は閻魔と配下の鬼、ナヒヤも言ってけどヤバいじゃないのぉ?」
どこか鼻に付く声を放ちながらメヒルは問い掛ける。
「ナヒヤは神と言ってたけど閻魔は大王でしょ?地獄に引きこもっている王が神に挑むなんて滑稽だよ」
知識も無い傲慢な神は笑った。
「私は降伏するわ。相手がヤバ過ぎだものぉ……」
降伏を決意した神もいた。
「そうかい。じゃあ僕は他の連中の神と閻魔を、おちょくって遊ぶ事にするよ」
10年前に人間を連れ去っても何もしてこなかった閻魔大王に何が出来るの?とシウノーは笑うが、閻魔を本気で怒らせたので閻魔は既に手を打っている。
閻魔の配下は迅と瑠衣だけではない。
自分の配下である双子の地獄の番犬を始め、多くの配下や協力者達を地上や異世界に放っている。
メヒルが降伏を決意した様に降伏を決意した神は他にもいた。
「閻魔自身が本気で敵意を向けたら世界など焼失してしまう……。俺も焼き殺されだろう……」
力が弱くても相手の力量が分かるメヒルや、この神は降伏を決意し転移者を元の世界へと帰した。
配下と共に見ていた神もいた。
「メヒシオ様。如何なさいます?」
女で有りながら美しくも忠義と知勇を兼ね備えたメヒシオの配下は自らの主君に跪きながら問い掛ける。
「私の蘇生した転生者は、私の邪魔者たる魔の者を打ち倒そうとしている英雄です。今や転生者自身が世界の求心力になっているのだから、そう簡単に返せる訳がありません……」
メヒシオと呼ばれた女神に異世界転生され異世界を救う為に戦っていると思われる転生者もいた。
「では閻魔と、あの鬼と戦うのですか?」
主君が間違えを犯しているというのは分かっているが世界を救う為に異世界転生させたのは間違えではなかったと思っている。
主君が間違えを犯してしているなら正すのが配下の役目かもしれが、絶対の忠義を示すのも配下の務めと考えている者もいる。
「閻魔の術で力を抑えられていますが、あの鬼は強過ぎます……。相当深い階層にいたのでしょう……」
「…あの鬼の強さを見抜いた神は他にも大勢いると思われますか?」
「分かりません……。しかし、あの鬼の強さを見抜けない者など恐るるに足らないという事でしょう……。オヌマよ。もし貴女があの鬼と戦ったら勝てますか?」
「あの鬼が人間状態なら魔法で私が瞬殺出来ますが、鬼の状態なら逆に私が瞬殺されるでしょう……。この世界の地上の鬼とは格が違います……」
オヌマは、メヒシオの世界で本能のままに生きている地上の鬼と、過酷な環境下で生まれ生き抜いた地獄の鬼では強さや知性も桁違いだと感じた。
「あの鬼を弱いと思った者には油断を誘い一気に喉笛を噛み千切るつもりなのでしょう……。あの鬼が本気で暴れたら天災そのものです。貴女は新たな候補者を見つけ戦力の増強を急ぐのです!」
「ハッ!了解しました」
閻魔や迅と戦う決意した神もいたが、その事を予測出来ない閻魔ではないので既に地上には網が張り巡らされ異世界神が網に引っかかるのを蜘蛛の如く閻魔は待っている。
前に敵がいるのなら、後ろには味方がいるように閻魔や迅に協力しようとする神々や神の配下達もいた。
「メビキアよ……。閻魔殿に、お前が転生者を蘇生して力を与えたと聞いた……。偶発的かもしれないので、本当か否か、調べる為に閻魔殿の配下の会話や戦闘から調べたが、お前が力を与えたという事は明白だったな」
筋骨隆々たる男の神と、狼のような獣人の配下にメビキアは取り押さえられている。
「くぅっっっ!」
屈辱と悔しさの声をあげるが、相手が強過ぎるので何も出来ない。
「メビキア様、神ならジタバタしなさいますな!」
メビキアは邪魔しなかったのではなく、迅を邪魔出来なかった。
何故ならメビキアは処罰を与える神と配下に拘束されていたからである。
相手は自分より強い神なので気配を察知すれば別の異世界に逃げる事も出来たかもしれないが自分を捕らえに来た神の接近を許してしまった。
迅の仮説は当たっていた。
人間にも気配に敏感な人間がいれば鈍感な人間もいる様に神にも感知する能力が低い者と高い者がいる。
メビキアは前者で感知能力が弱ったのは、対して強くないのに自分は強いと思っている傲慢な性格から来ている。
ナヒヤは後者で力の弱い神だが排除的な性格の為に感知能力は高かったのである。
「お前は、これより連行し処罰を下す。よいな?」
「くそ!どこから情報を得た!?コトオビ!」
メビキアは拘束されているコトオビから閻魔から聞いたと言うが、閻魔自身は動けないと知っている。
「神からだ」
短く答える問いにメビキアは理解出来なかったが、閻魔も神であるから異世界の神と繋がりはある。
当然、異世界にも現世にも親交の深い神もいるである。
「我々も報告が無ければ分からなかった……。メビキアのような横行を許してしまっている無能な自分達が恥ずかしい……」
異世界の神々が人間を連れ去っていると言う情報はあったが数多くある異世界と、1つの広い異世界から力を貰った転生者や転移者を探すのは多大な労力と時間を使ってしまい対象者の捜索が空振りに終わってしまう事も多かった。
そんな時、閻魔から通達があった。
『余の配下には、鬼の強さを持ちながら無益な殺生を好まないと者と、非常に鼻の効く配下達がいます。その他にも大勢の協力者達がおりますので貴方達も協力しては頂けないでしょうか?』
親交はあったが自分達よりも力強く智恵もあり、慈愛の心を持ち、徳も兼ね備えた神格の高い地獄の神が自分達に頭を下げるような低姿勢で協力を願い出たのである。
閻魔に協力をお願いされながら逃がしてしまっては閻魔にも申し訳ないし、違反した神を捕まえる自分達の沽券にも関わるのでコトオビは絶対にメビキアを逃がさない覚悟でメビキアの捕縛に当たった。
死んだ人間を裁くのは地獄と楽園と呼ばれる天界を管理する神である閻魔の仕事であるが、生きている人間を裁くのは人間がするように、神の裁きは神が行うのである。
他にも神に処罰を下す神の同僚は多数いるが、今は別世界の神の調査に当たっている。
処罰を下す神は通常は二人以上で動くが、コトオビが1人で動いたのは、自分の配下にも場数を踏んで成長して欲しいと思ったからである。
調査に当たっている他の人間を連れ去る異世界の神の捕縛も時間の問題であるが、違反者の神は他にも大勢いるのが現状である。
「流石は…………。いや……今は閻魔殿であったな……」
思わず閻魔の別の名前を言いそうになったのを抑えた。
迅や瑠衣が人間状態の名前で、本来の鬼の名が別にあるように閻魔にも名前がある。
どれ程の神が見ていたかは分からないが、鬼である迅は宣戦布告をした事で異世界の神達に波紋を呼んだ。
迅の前身は、あの世という地獄で生まれた罪人に刑罰を与え殺す地獄の鬼の獄卒である。
凶暴そうなイメージがあるが地獄の鬼達は好き好んで人間など殺しはしない。
何故なら仕事としてやっているからである。
「やはり私には演説の才能は無いようだな……」
地上にいる鬼の同胞には政治家もいるが、頭の悪い自分には上手く演説出来なかったと溜め息を吐く。
殺してから魂の回収をする為に殺した水谷正也の近くにいるマリナに「どいていろ…」と言い放ち荷物から瓶を取り出し手に『力』を集中させる。
迅が手に宿している力とは東洋医学で言う『気』である。
『気』とは生命エネルギーであり、やる気や殺気など人間は無意識に気を放っているが自在に操れる者は少ない。
生物は死ねば肉体と魂は分離するが魂とは生命エネルギーである。
人間は霊魂に触れる事は出来ないが、幽霊に触られたなどの報告は生命エネルギーと生命エネルギーの接触の為に起きた事であると迅は思っている。
迅は水谷正也の魂を掴み瓶に入れ札をする。
札には霊魂となった悪霊を防ぐ役割もあるが、閉じ込める使い方もある。
第三者の少女達から見れば何をしたのか分からないが、迅は水谷正也の魂を掴み瓶に封じ込めたのである。
何故こんな事が出来るというと地獄に送らた罪人は殺されては蘇生され、殺されては蘇生さる事を繰り返されのだが、中には魂となった時に逃げ出そうとする者もいる。
広大な地獄を逃げ切れる訳も無いのだが、そんな魂だけとなった罪人を掴まえる為に、鬼達は手に『気』を纏い罪人の魂を掴まえるのである。
これは鬼ならば誰でも出来る事であるので、当然地上にいる鬼達にも出来るが、地上にいる鬼達は情報収集の仕事とは別に重大な役割がある。
それは地上に漂う魂を閻魔の元へ送る仕事である。
地上にいる鬼達は知能は高いが、地獄の獄卒鬼に比べると肉体的強さは遥かに弱く人間並である。
それでも魂の回収くらいは出来るのである。
魂の回収を終えたので迅は元の世界へと帰ろうとしたが、ミルテが迅を呼び止める。
「待って!鬼って何なのよ?あんた人間じゃないの?」
(地獄の鬼でも鬼はオーガと伝わるのか……)
そんな事を思いながらも少女の質問に答える。
「私は心は人間のつもりでいるが、お前の言うとおり人殺しの殺人鬼だ。異世界人に恨まれて刃を向けられるのも覚悟の上でいる……」
これから自分は、もしかしたら英雄になっている転生者達も殺す事になる。
そうすれば何千何万人もの異世界人に恨まれる事になるだろうが、そんな恨みなど主君の背負った業に比べれば軽いものだと自分に言い聞かせる。
そんな迅に今でも止める事の出来ない涙を我慢して止めたマリナが言う。
「人殺しでも私は貴男を恨みません……。貴男は正也との決闘に勝っただけです。冒険者は常に仲間や自分の死が付きまとう仕事ですので覚悟が足りなかったの私達の方でした……」
そんな魔法使いのマリナの言葉に「そうか……」と複雑な気持ちで短く答えた迅は、ミルテの両手足を拘束した手錠の鍵を遠くから投げ渡し、その場を立ち去る……。
自分を恨んでいたミルテも迅を追いかける事をしなかったのは迅に敵わないか、マリナに説き伏せられたかは分からない……。
重い足取りで歩きながら、迅は考えていた。
殺した水谷正也は悪行として自分勝手に熊を殺した。
それを帳消しに出来る善行も積んでいるとは思えないので最低でも等活地獄に落ちるだろう。
他にも異世界へ転移したり転生した者のせいで異世界には多大な被害も出ているかもしれない……。
殺生、盗み、邪淫、飲酒、妄語、邪見、犯待戒人、聖者殺害など、力を貰い自分勝手な悪行を重ねる転移者や転生者ならば止めなければならない。
これ以上、閻魔様を悲しませてはならないと、元の世界へ水谷正也の魂を持ち帰還する。




