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転移者や転生者を連れ戻す者  作者: ギャレット
16/27

力量の差

熊との激闘を終えた迅は崖の上へと続く道を見つけ、荷物の元へ歩み寄る。


「熊のフックも爪攻撃も強烈だった。一般人なら死んでいたな……」


 そんな事を言いながら、怪我の治療をする。


「これは、あの小娘の剣だが届けてやるべきだろうか?」


 先程、熊に背を見せて逃げ出すという愚行を犯した少女の落とした剣を握っていた。


 自分は地獄にいた時は剣ではなく金砕棒を使っていたから剣は分からないが、細身だが美しい刀剣である。


 この剣を少女に返したても、水谷正也と一緒にいたら、この剣を自分に向けられるような気がする。


「だが、これは小娘(あいつ)の剣だから届けてやろう。しかし……汚いな」


 先程の熊との戦闘で少女の剣は熊の血で汚れている。


「異世界人の血液型も私達と同じなのか?」


 疑問に思ったのは良く見れば普段から手入れしていないのか、血だけではなく土汚れもある。

 

「まぁ、私の血液型もO型で大雑把なところもあるから、人の事は言えないが……」


 そんな事も言いつつも少女の剣の汚れを落として綺麗に磨いた。


 荷物と綺麗にした剣を持ちながら、とりあえず少女に剣を返してやろうと少女の逃走した道を歩き出す。

 

「もし小娘が見つからなかったら、この世界の落とし物の届け先は兵士か?それとも職業安定所(ギルド)に届けるのか?」


 しかし、鞘が無いので抜き身の剣など持っていたら危険人物である。


 しばらく歩いていると寝技のやり過ぎで何度も潰れた耳に人間の話し声が聞こえてきたので足を止めた。


「人数は3人か……。声からして女2人と男1人……」


 その内の1つは、先程聞いた少女の声だったので、3人に近付く。


 しかし、近付くと練習や試合で殴られ潰れた鼻に獣と血の混じった異臭を嗅ぎ取る。


「山熊は、いい経験値になったし、そろそろ帰ろう!」

 

 と、切り出す少年の周りには無数の熊の死体が地面に転がっていた……。


 だが、それより衝撃を受けたのは無数の熊の死体をよそに1人の男の両腕を「私の正也よ!」と取り合う2人の美少女の姿と、それを困ったなと笑う少年の姿。

 


(私の感性がおかしいのか……?)


 その光景を見た迅は狂気すら感じ思えた。


 以前、ナヒヤの世界で猪の駆除をしていた者達は駆除として連携プレーで猪を殺していたが、彼女達は殺した後も命に向き合う者として表情は真剣そのものだった。

 

 おそらくはゲーム感覚でやっているのだろう……と思いながら再び、彼等に近付く。


「やぁ、こんにちは」

 

 こんな山中で人に出会うと思わなかったか、迅に声を掛けられ3人は驚きながら反応する。


 迅の風貌に3人は言葉に詰まっていたので、更に話を進める。


「冒険者の水谷正也と思うが間違いないな?」


「そうだが……。あんたは一体?」


「私の名は迅と言う。諸国を渡り歩き武者修行中の身の者だ。麓の町に凄腕の冒険者がいると聞いたので来てみたら山で修練中と聞いたので会いに来た次第だ」


「俺に会いにきた……?」


 諸国ではなく異世界を渡り歩き、連れ戻す為に会いに来た訳だが武者修行中の武芸者として名乗った。


「そうだ。単刀直入に言うが、今、1対1で勝負がしたい」


 何を言っているだ、このおっさんは?という態度を示す3人に、迅も当然の反応だろうと思いながら相手の返答を待つと髪の長い少女が答える。


「おじさん。正也は熊を倒す実力者です。やめた方がいい思いますよ」

  

「さずがは短期間で凄腕冒険者となった者達だ。そこで1つ聞きたいのだが熊を倒したのは熊に襲われたから倒したのか?」


「違う、修練の為だ」


 水谷正也の返答に、やはりなと迅は思った。


 そして決闘の申し出に闘う理由がない。と水谷正也は当然の如く断る態度を示す。


 そんな事を言われれば自分だって断ると迅も思うが、闘わなければならない理由のある迅は少年を挑発する。


「ならば、冒険者の水谷正也は名も無き武芸者に恐れをなして逃げ出したと噂を流させてもらう。この先、お前がいくら名を上げようと私には勝てない事実になるが構わないな?」


 決闘を断っても引きずり出すつもりでいる。


「正也は、あんたに構っている程、暇じゃないの!帰って!」


 先程、熊から逃がした少女が口を挟んでくる。


「そうだ。これは先程拾った剣だが、お嬢さんの鞘には剣がないな……。お嬢さんの剣か?」


 勿論、彼女の剣だと知っているが敢えて知らないフリをした。


「あたしの剣……」


 腰に差していた抜き身の剣を指紋を付けないように布で刀身の腹を持ち、柄の部分を相手に渡す。


「さて……。お嬢さん方には、もう……はない。私が用があるのは、そこのモテ男君だ」


「だから、暇じゃないし正也も受けないって言ってるでしょ!」


「お前に用は無い」


 お前など眼中にない。そんな態度が琴線に触れたのか少女は鞘から剣を抜き迅に向ける。


「何の真似だ?」


「正也から聞いたけど、あんたみたいな、いかにも噛ませな大男の相手なんて、あたし1人十分よ!」

 

「お嬢さんと事を交える気はない……」


 敵対され刃を向けられるのも想定内だが、異世界人と闘う気はないと答えるが少女は一度抜いた剣を戻さなかった。


「ミルテ!やめろ!」


「ミルテ!やめなさい!」


 少年と魔法使い風の少女が同時に制止する。

 

 寸止めのつもりだが少女は迅に向け剣を振るう。


 だが殺気の無い剣だと察知した迅も少女の剣をかわし、顔面に拳を寸止めし言い放つ。


「女の顔を殴る趣味は無いし、危害を加えるつもりも無い……。剣を納めろ……」


「馬鹿にするな!」


 ミルテは自分の目の前にある迅の腕を切り払おうとする。


 咄嗟に手を引いた迅も相手が本気になったと感じ、真剣な顔付きになる。


 切り上げ、突き、横薙ぎ、袈裟斬りを最小限の動きでかわす。


 一流の格闘家は相手の攻撃を見てから攻撃をかわさない。


 相手の足運び、筋肉の動き、動作、視線、表情などから相手の攻撃を予測して攻撃をかわす。

 

 少女の上段からの一刀両断をかわし、少女の右腕と襟元を持ち、足を掛けてミルテに大外刈りをかける。


 女なので地面に激突させないように襟元を持ちながら、ゆっくりと転ばせ再び右拳を相手の顔面の前で寸止めした。


 例え剣を持っていても、熊を倒せない少女と素手で熊を倒してしまう迅との力量の差は歴然であった。

 

「何度やっても同じだ。それと噛ませは……お前の方だったな」


「まだ負けてない!」


 余程悔しいのか少女は負け惜しみを言う。


「やめなさいミルテ!私やあんたじゃ、その男には勝てない!今まで見てきたゴロツキとは力量が違う!」


「マリナは黙ってて!」


 マリナと呼ばれた魔法使い風の少女は、迅の雰囲気から自分とは格の違いのような物を感じてた……。 

 

 対応こそ真剣だが、迅に手加減されているとも分からないミルテは迅に刃向かおうする。


 殺す気も傷付ける気もないが、首元に剣鉈を突き付け戦意を喪失させようと右腕を剣鉈にかけようとした。


「やめろーーー!!」


 凄まじい速さで水谷正也が剣を抜き放ち、横薙ぎに迅に切りかかる。


 咄嗟に剣鉈で受けるが少年の剣は名刀なのか、迅の剣鉈の

刀身を切り飛ばした。


「この剣鉈も名刀なんだ。それを切り飛ばすとは、いい剣だな」

 

 人間は長い時間を積み重ねて技術を身に付けるので今の身体能力や剣捌きは神から貰った『技術(スキル)』だろうと思った迅は剣だけ誉めた。


 通販でも結構高かっただよな……と切り飛ばされた剣鉈を見て落ち込む……。


「決闘なら受ける!だからミルテを傷付けるな!」


「最初から傷付ける気もない……。それに私の狙いは、お前1人だ、色男君」


 傷付ける気は無かったが、女が傷付けられると思ってようやく、やる気になったかと相手を見る。

 

「ミルテ、マリナ、下がってろ!」


 少女達に指示を出す少年に迅は意見を述べる。


「下がらしても、お前の魔法で被害が出るかも知れないぞ。お前の女達はここに残して離れた場所で()らないか?」


 その言葉に納得したのか、水谷正也は少女達を待機させ、「すぐに戻る」と言いながら迅と共に広い離れた場所へ移動する。


 森の開けた場所へ移動した2人は睨み合う。


「オッサン。どうして俺と闘いたがるんだ?オッサンの腕なら俺なんか倒さなくても名を売れると思うし、俺並に強い冒険者や剣士だっているぞ?」

 

「この異世界のメビキアから話は聞いていないのか?」


「なぜメビキアさんを知っている!?」 

 

「メビキアはこの世界の神だろ?。そうか、どうやらメビキアからは聞いていないようだな……」


 少年の反応を見て迅は察した。


(水谷正也(こいつ)は何も知らされてないし、自分を“オッサン”と呼んだので自分を正体を見破るスキルも無い)

  

 しかし、ナヒヤの世界ではナヒヤが邪魔をしてきて、ジュネスの世界では、おそらく転移者と会話して、転移者をけしかけてきたのに、何故メビキアは何もしてこないのだろうか?と疑問に思う。 


 もし処罰を受けたなら、神から授かった能力は消されてしまうから、先程の身体能力からして有り得ないからメビキアは処罰は受けていない。


 自分の主君であり太陽神の子である御方を閻魔(ヤマ)なんて対した事ない!と舐めているならメビキアは相当の馬鹿である。


 そこで、飽くまでも仮説だが、もしかしたら神にも邪魔者を感知する能力が弱い者と強い者がいるのでは?と思った。

  

 それならメビキアは自分の存在を気付いていない事になり、何もしてこない事にも納得いく。


 自分の存在を感知出来ない神がいるなら別の異世界に潜入する上でも好都合である。


 感知出来る神なら、偶発的だと言い訳しても、どうして自分よりも転移者を感知しながら何もせず放置した!と追求が出来る。

 

 単純にメビキアが暇つぶしに眺めているだけかもしれないが、今はメビキアの強さが、どの程度か調べる為に蘇生された転生者に聞いてみる。


「様々な魔法を使いこなす凄腕冒険者らしいが、お前は蘇生魔法は出来るか?」


「蘇生魔法?それは出来ない。それは女神であるメビキアさんくらいしか出来ないと他の人間も言っている」


「教えてくれてありがとう。十分だ」

 

 メビキアは強い神の部類だが、やはり下っ端の存在だろうと確信した。


 別の異世界の住人や神から強い力を貰った転移者や転生者でも蘇生魔法を使える者もいるかもしれない。


 しかし蘇生魔法はかなりの魔力を使うので1日に使用出来る回数は無限ではないだろう。


 このメビキアの世界の人達も魔法が使えるらしいが、蘇生魔法は神しか出来ないと言う少年の答えに、迅は思わず吹きそうになるのを抑えた。


 瑠衣など地上にいる同胞は出来ないが、人間を蘇生させる事なんて地獄にいる同胞や人間形態を解除して元の姿に戻れば自分にだって出来る。


(まぁ、あれは人間に第二の人生を歩ませる生易しい物じゃないがな……)


 それは罪人を蘇生させる物で地獄に居た頃、自分は15歳から20歳になるまで、毎日、毎日、「()きよ、()きよ」と言いながら、何万回と罪人を生き返らせ蘇生してきた。

 

 勿論、罪人は1人ではないので多い時には1度に100人以上も生き返らせた。


 試した事は無いが、蘇生だけに専念すれば1日1000回位は蘇生出来るかもしれない。

  

 この命令を受けた時も瑠衣から『もしも時は形態を解いても構わない』との主君の言葉を聞いたが、水谷正也(コイツ)を倒すのは弱体化している人間形態でやる事に決めた。

 

 それは舐めプではない。

 

 形態を解くには集中力も時間もいるので、先程の熊の戦闘では一瞬でも気が抜けなかったので出来なかった。


 自分は主君に『人間として生きよ』と言われたが、今では自分を人間だと思い込む事が多くなった。

 

 拳は軽く握っているが意志は強く固い。


 人間形態になり弱体化しているが、10年鍛えた努力の力が貰った力より強いという武を示す事に意味がある。

 

 自分の正体も目的も力の強い神は分かっているだろう。



 両者は互いを窺っていたが、強い力を貰った者と強い意志を持った者は同時に動き出した。


 少年は自らの身体能力を過信して突撃する。


 迅は積み重ねた力を確信して迎撃する。


 相手は剣や魔法を使うので、力を解放していない人間形態では対応を間違えれば、即、死へと繋がる。


 少年の動きは先程の少女とは比べ物にならない身体能力だが、所詮身体能力に任せた動きだった。


 首元を狙った横薙ぎや突きをダッキングやスウェーでかわしていく。


「シッ!シッ!シッ!」


 少年の攻撃を回避した直後に何発も顔面にジャブを当てるのを繰り返す。


 流石に肉体が強化されている為かヘビー級のジャブを受けても相手は倒れない。


 しかし、ジャブというのは何発も受けると非常にウザったい攻撃である。


 イラついた少年の剣が雑になったのを迅は見逃さない。


 少年の溜めの大きい袈裟斬りを回避して、左のジャブは軽く早く、そして右のストレートは腰の入った重い左右のワンツーを顔面に当てる。


 人間の中にはコンクリートブロックを粉砕するパンチ力を持った者もいるように同じくコンクリートブロックさえ楽々と破壊するパンチ力を持った迅に殴られた少年は吹き飛ぶ。


 接近戦は不利と判断したのか水谷正也は詠唱を始める。


 魔法など使われたら厄介だと思った迅は詠唱を阻止するために距離を詰めようとしたが、相手の詠唱は恐ろしい程早かった。


 少年の左手の前に無数の小さい石の塊が精製されたと思ったら飛礫の如く迅に襲いかかった。


「くっ!」

 

 恐らく飛礫は牽制用の魔法だろうが、当たれば痛いものは痛い。


 何十発と当たる飛礫を何とか顔面だけは守り踏みとどまっているが一方的な展開である。


「喰らえ!」


 と、少年は直径50cmはありそうな球状の石を右手で精製して迅にぶつけようとする。


「喰らうか!」

 

 迫りくる石を迅は両手で受け止めた。


 受け止めた事も驚異的だったが、次の瞬間、少年は度肝を抜かれた。


 フンッ!という掛け声と出しながら、迅は石を握力で粉砕した。

 

「な……!」


「ほら、返すぞ!」


 驚く少年に対して迅は野球ボール程度に小さくなった石の一部を手に握り相手に石を投げ返す。


 球はストレートだが肩の強い迅が投げた球は野球選手が投げるような豪速球。


 動揺した少年の身体に石がヒットする。


「がっっ」


 ダメージこそ受けているが頑丈(タフ)で倒れない少年に迅は戦いながら疑問を感じていた。


 確かに身体能力は凄いが、自分の(パンチ)一発でよろけるレベルなので、どうやって熊に勝ったのか気になる。


 おそらく名刀と披露していない魔法と思うが、とりあえず剣を持っている右腕を破壊しようと関節技を仕掛けようと接近した時、突如として身体に電流が走った。


「っ!」


 追撃を与えようとした迅が止まったのを少年は左手を突き出しながら笑っている。


「咄嗟だから威力は出なかったが、タフだなオッサン」


 動きが止まった迅に水谷正也は再び魔法攻撃を繰り返すが

更なる追撃魔法を受けながらも迅は眼を見開く。


 バチバチとうるさい音を鳴らす水谷正也に迅は尋ねる。

 

「……それで熊を倒したのか?そのバチバチとうるさい“電撃”で?」


「ご名答。最近は雷属性の練習の為、熊で練習してたんだ。あの熊は群れで生活するから、いい練習台だった」


 こんな風にな!と言いながら今度は持続性の長い電撃が襲うが迅は声1つ漏らさず耐え抜く。


 熊で練習と言っていたが、それが本当なら迅の予想通り水谷正也は襲われたのではなく自分から襲いかかった事になるので、やはり水谷正也(こいつ)は許されない奴であると思った。


 歯を食いしばり電撃を受けながらも迅は前進する。


 そんな迅に水谷正也は焦りを覚える。


 仲間のミルテをゴロツキから助けた時もゴロツキは軽い電撃でダウンした。


 先程の熊だって強い電撃を浴びせ倒したのに、何故この男は倒れない!と焦り恐怖する。


 「くるな!」と振り払う剣を、迅は回避して流れた右手首を持つ。


「お前は電撃の耐性はあるのか?私はあるぞ。私の前職は電気設備の仕事だったからな」


 迅が詠唱者の右腕を握った事で詠唱者の放った電撃は再び詠唱者に還元される。


「うげぇぇぇーーー」


 自らの電撃で水谷正也は感電する。 

  

 電撃の耐性があるのは前職の仕事だからと言ったが、確かに迅の前職は電気設備の仕事だが、監視している異世界の神に本当の事を話す気はない。


 雷や電撃に強い理由は別にある。 


 本当の理由は地獄では年に1度、自分の主君が最愛の人物…………を失った命日の日に、悲しみで天変地異の雷雨が起きる。 


 その人物は病死や寿命で亡くなった訳ではなく、ある人間…………に殺された。


 運悪く閻魔(ヤマ)の悲しみの雷を何度も受け死にかけたが奇跡的に助かった。


 抵抗力が付いたのか弱体化している人間状態でも前職の仕事で、よく感電していたが平気だった。


 自らの電撃で怯んだ水谷正也は電撃魔法を止めた。


 その隙を迅は見逃さない。


 以前ナヒヤの世界の魔法が使える少女に聞いたが、魔法を詠唱するには集中力が必要で精神を乱されれば魔法は上手く発動出来ないと聞いた。


 ならば精神を乱すなど簡単である。


 物理的に精神を乱そうとして、背後を見せるのは愚行だが水谷正也(コイツ)は締め技の技術(テクニック)もない奴だと判断し実行する。


 厄介な右腕を破壊しようとを背を向け、右腕を上に向け肩を支点にしたショルダーバックブリーカーで肘を破壊した。


「がぁああああ」

 

 水谷正也の悲鳴が響き渡るが更にそのまま投げ飛ばした。


 無理な体勢で投げた為、更に相手の肩を破壊したので、水谷正也は痛みで魔法詠唱どころではない。


 呻き声をあげながら破壊された右腕を庇う水谷正也に、迅はマウントを取りマウント状態からパウンドを何発も撃ち落とす。


「オラどうした!ブリッジするなりしてスイープしてみろ」


 下の状態の人間が上の状態の人間をひっくり返すスイープすら知らないじゃなかと迅は思ったが右腕を破壊され技術も無い相手には無理な話だった。


 割と整った顔立ちの水谷正也の顔は迅の拳で鼻血にまみれ歪む。


「参った……。俺の負けだ……」


 降参する相手に迅はマウントを解くが無理やり立たせ背後(バック)に回りこみ、腕を動かせないように拘束して相手を高く持ち上げようとする。


「私の格闘技のバックボーンは総合格闘技、ブラジリアン柔術、カポエラなんかも最近取り入れた。だが私はプロレスも大好きなんだ。ジャーマンスープレックスって技名くらいは知ってるよな?」


「………!?」


 それは、この世界の人間が知らない用語ばかりなので、何故知っている?と少年は疑問に思った。


「お前も殺す気できた。ならば殺されるのも覚悟しておけ……。人間だから足掻くのは一向に構わないぞ」


 水谷正也は理解する、この男が自分を殺す気だと……。


「は、離せ!」


 必死に抵抗するが無駄な抵抗だった。



「正也を離せ!」


 フィニッシュホールドを決めようとした時に邪魔者の声が響き渡る。


「チッ!余計な奴等が来やがった……」


 その場に待機していろと言った筈の少女達は言い付けを破り、この場に来た。


 迅は舌打ちをしながら少女達を睨む。


「正也。今、助けるから!」


 離れた場所にいるが武器を構える少女達に迅は言う。


「これは1対1の決闘だ。水谷正也(コイツ)も、それを受け入れ、お前らも水谷正也(コイツ)の指示に従った。だから手出しするな」


「うるさい!」


 迅は正論を言うが、感情で動く女には効果はない。


 そんな奴と口論しても平行線なので、迅は閻魔(ヤマ)の命を遂行する。


「お前達の冒険は、これで終わりだ。だが、水谷正也(おまえ)の地獄は、これより始まる!」


「ミルテ……。マリナ……」

 

 それが水谷正也の見た最後の光景になった。


 高く持ち上げられたと思ったら、水谷正也の見ていた景色が急に回り始めた。


 第三者から見れば、それは綺麗な放物線を描いた芸術的な技。


 少女達も、その技に意識という時を止められ魅入ってしまう。


 使用者はベタ足派と爪先立ち派がいるが、迅は後者であり首に圧迫をかける為に爪先立ちをしながら額を地面に付け綺麗なブリッジを決めた。


 プロレスラーは投げられ際に受け身を取るが、腕を拘束したダルマ式の高角度のジャーマンスープレックスでは受け身を取るのは難しい。


 技術も無い少年なら尚更であるが、迅は敢えて受け身を取れないようにした。


 それは異世界に居てはならない異世界転生者を抹殺する為。


 マットではなく固い地面に落とされた水谷正也は首の骨を強打する。 


 クラッチを解き、素早く立ち上がりピクピクと痙攣する水谷正也の首に追撃のニードロップを落とす。


 首の骨を折られ頸椎を破壊された水谷正也は絶命する。


「まずは1人……転生者の抹殺完了だな」


「い、いや……そんな」


「正也ーーーーーーーーー」


 少女達の絶叫と悲しみが冬空の下に鳴り響いた。

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