お姫様になることの勇気
「ここが演劇部……」
私はシオンちゃんと一緒に演劇部の中に入り驚く。
貴族学院は教養を学ぶ場。だからなのか演劇にも力を入れているらしく演劇部の部室は学院に設置されている大きな劇場が部室になっていた。
全校生徒が入ることの出来るほどの大きな場所で三十人ほどの生徒が集まっている。
その全員が輝いているように見えて私は何だか場違いな気がした。
「あら? 貴方達、体験入部の人?」
私達がこの劇場の雰囲気に圧倒されていると一人の女性が声を掛けてくる。
綺麗な白銀の長い髪に整った顔、赤色の瞳。その幻想的な姿に緊張しながら私達は慌てて首を縦に振るう。
「私はシェリナ・ルーズ。この演劇部の部長を勤めているわ。よろしくね」
彼女の自己紹介に私達も自己紹介で返した。シェリナルーズの名前は勿論知っている。
社交界ではお会いになったことはないけど確か彼女もアデリス様と同じく公爵の位だったはず。
だからなのだろうか彼女の立ち居振舞いはとても洗練されておりどこかアデリス様と近い雰囲気を持っていた。
「ふーむ。貴方達が確かアデリスが言っていた入部希望者なのよね」
「そうだけど……なにジロジロ見てるのさ」
シェリナさんは私とシオンちゃんの顔をじーっと見ていた。
それに対してシオンちゃんはシェリナさんを睨み付けるがそれを意に介することなく感心したように頷いていた。
「二人とも良い逸材ね。見た目だけなら今の時点でも十分役者になることが出来るわね」
「え……シオンちゃんはともかく私もですか?」
シオンちゃんは端正な顔立ちをしている。髪の色も水色で綺麗な髪を持っている。
だから劇場に立てば沢山の人が彼女のことを好きになるだろう。
でも私は違う。私はそんな華やかな人間ではない。
なのでシェリナさんにそう言われてもあまり自信は持てなくてそんなことを聞いてしまった。
「逆に聞くけどシアはどうして自分が役者になれないと思うの?」
「それは……私が地味だからです」
「確かに派手な見た目ではないわね。控えめな見た目で貴方の言葉を借りるのなら地味って言えるのかも知れない」
そう言いながら私の頬を触る。そして髪もそっと触ってきた。
私の髪が彼女の手にさらりと乗っかってそのまま溢れるように落ちていった。
「でも地味なのって悪いことなのかしら。地味なのを短所ではなく才能だとそう捉えるようになればいいんじゃない?」
短所ではなく才能。勿論シェリナさんが優しいことを言っているのは分かる。
でも私はその才能が嫌だった。私はこの自分の姿に自信が持てない。
それは才能だと言われても言葉では何も実感など沸くわけがない自信など付くわけがないのだ。
「ま、言葉で言われても納得は出来ないでしょうね。でも貴方が役者として才能があるって言うのは本当よ。見た目も可愛いし髪もサラサラだしアデリスの婚約者じゃなければ私が貴方を婚約者にしていたかもね」
「私が婚約者って知ってるんですね」
「アデリスが嬉しそうに話していたのよ。今日婚約者が部室に来てくれるって」
喜んでくれるのは嬉しい。でもまだ私は婚約者になるとは言っていないんだけど。
それでも否定はしない。否定することに意味はないだろうし何より私自身が否定したくなかった。
「それで役者として才能あるって言ってたけど私はどこら辺が才能あるわけ?」
私が会話を終えてシオンちゃんが気になっていたのかそんなことをシェリルさんに尋ねる。
「勿論その悪人顔よ。美人な見た目で可愛らしくもあるのに同時に相手を見下すような冷たい視線を送ることが出来る。貴方はきっと良い悪役になれると思うわ」
「それ褒めてるの?」
「褒めてるに決まっているでしょう。どの劇だって悪役は重要な役よ。それで活躍できるってことはそれだけで名誉なことなの」
「うーん。でもなぁ私はどちらかというとナイトとかなってみたいんだけど」
「なら悪役騎士になればいいのよ」
「悪役騎士か……悪くないね」
騎士ならなんでもいいのか悪役騎士の言葉に納得するシオンちゃん。
そんなシオンちゃんと私を見てシェリルさんは言葉を紡ぐ。
「それじゃ二人とも試しに演劇やってみない?」
「演劇ってそんないきなり……」
「大丈夫。何も本番とかそういうのじゃないし台本だって短いのを用意するわ。ただ役を演ずるってこんな感じなんだと分かって貰えればそれでいいの」
私達は体験入部でこの演劇部を訪れている。であれば何もせずに見るだけでは演劇の良さも大変さも何も分からないだろう。
それならばと私達は頷いた。
「決まりね。役に関してはシオンが悪役騎士、そして貴方がーー」
そういえばシオンちゃんに関しては悪役がピッタリだと言われていたけど私は何の役になるんだろうか。
村人とかの役なら務まるだろうかそんなことを考えているとーー。
「貴方はお姫様の役でもやって貰おうかしら」
「えっ!? お姫様って……そんな」
「大丈夫よ。台詞は一言だけだから王子様役に関しては私がーー」
「いや私が王子様役をするよ」
シェリルが話し終えるよりも早く話を聞いていたのかアデリス様がこちらに近づく。
「あら、貴方が自分から王子様役に立候補するなんて珍しいじゃない」
「姫が魅力的だったからね。つい居ても立ってもいられなくなってしまったよ」
アデリス様はそういうと私の肩に手を触れて自分の方へと抱き寄せる。
彼女の声は柔らかいし表情もいつもと同じ、でも抱き寄せているその手は力強くて誰にも渡したくないと言っているみたいだった。
「折角可愛い子に愛を囁けるチャンスだったのに邪魔されたわね。それじゃ一時間後に演劇を始めましょうか。それまでに軽く準備しておきなさい」
シェリルさんに言われて私達は演劇の準備を始める。
でも私は準備とかそういう以前の問題で、確かにこれは本番じゃないってことは分かっているけど。
それでも私なんかがお姫様なんて大役をやっていいのか。
そんな不安が少しだけ心に残ったけど。
「シア……私はシアがお姫様で良かった。ずっと私は君の王子様になりたいと思っていたからね」
アデリス様の笑顔を見ていると不思議とその不安は無くなっていた。
だってアデリス様は私がお姫様になることを喜んでくれたから。
私が喜べなかった分まで喜んでくれたから、それが嬉しくて例え不相応だとしても彼女のためにお姫様になってみようと思えたのだ。




