公爵令嬢から部活動に誘われました
「しかし恋は盲目と言ったものだ。私としたことがシアのことを考えるあまり三人で食べるという簡単なことに気付かなかったとは」
少しだけ恥ずかしそうにしながら小さなステーキをナイフとフォークを使い器用に食事をする。
彼女はそれを自分の落ち度だと反省していたけど私はそんなアデリス様の気持ちが嬉しかった。
普通であればアデリス様だって三人で食事をすることを提案できていたはずなのだ。
なのにそれが出来なかった。することを頭に浮かぶことすら無かったのはそれだけ私と一緒に食事をしたかったということだ。
それだけ私を好きでいてくれる。それが凄く嬉しかった。
では私はどうなのだろうか。私は嬉しいと感じている。
アデリス様は素敵な人だ。優しくて私を大事にしてくれる。
だから好きなのかも知れない。でも好きだと恋をしているとそう心が惹かれる度にそれと同じぐらい怖くなってしまってその心が溢れて消えてしまう。
私はまた人を好きなろうとしている。でも同時に好きになることが怖くて好きという感情が恐怖で消されてしまう。
どうしてもまた裏切られるんじゃないかという恐怖が婚約破棄の記憶が心に引っ掛かってあと一歩が踏み出すことが出来ない。
恋愛感情にまで至ることを心のどこかで拒絶してしまっているのだ。
「どうしたんだ?」
「……え?」
「少し暗い顔をしていた気がしたからな。何かあったのなら遠慮せずに言ってくれ」
やっぱりアデリス様はどこまでも私を見てくれてどこまでも私を愛してくれている。
なのにその気持ちがその想いを受け止められていない自分が悲しかった。
「ありがとうございます。何でもないんです……ただちょっと怖くなってしまっただけなんです」
「怖くなったって何のこと?」
私の言葉にステーキを食べていたシオンちゃんが心配そうに尋ねる。
「私……婚約破棄されててそれ以降ちょっと恋愛するのが怖くなっちゃって」
「あーそれ知ってるよ。シアの名前を聞いた時はもしかしてと思ったけどやっぱりシアが婚約破棄された令嬢なんだ」
「……うん」
私は小さく頷く。するとそんな私にシオンはそっと頭を撫でてくれた。
「気にしちゃダメだよ! シアは何も悪くないんだから! これあげる!」
「いや……気持ちだけ受け取っておくね」
シオンちゃんが自分の分のステーキを一枚私に渡そうとしたので慌てて受け取らないようにする。
流石にそんな量のステーキを食べられるほどお腹は空いていない。
でもシオンちゃんが私の代わりに怒ってくれるのが少しだけ嬉しかった。
私はあまり怒ったりすることはないしすぐに自分のせいだって考えてしまうから。
だからシアは悪くないと言ってくれて少しだけ心が軽くなったのだ。
「シア……。ゆっくりでいいよ。今は心を休めて恋愛はその後ででいいんだ。私はそれまでずっと側にいる私の愛は君を恋に落とす為のものじゃない君の傷を癒すための愛なんだよ」
「はい。その……こんな私ですけど……」
ずっと一緒にいてほしい。側にいてほしい。そう言いたかった。
でも言えなかった。言うことで自分はアデリス様に恋をしていると認めてしまいそうな気がしてそれを心が拒絶してしまったのだ。
でも代わりの言葉も出なくて続く言葉は空白のままだった。
「ああ、分かった。ずっと側にいる一緒にいるよ」
「……私まだ何も」
「言わなくても分かる。仮に間違っていたとしても私はシアの表情からそう受け取った。受け取ったからそう言ったんだ」
やっぱりアデリス様は凄い人だと思った。私の気持ちなんて隠せるわけがないのだ。
「それが私の本心かは分かりませんが……でもそう思ったのなら一緒にいてください」
もっと正直になればいいのに。それが出来なくてこれが精一杯の私の正直だった。
私はきっと今凄くアデリス様に甘えている。でも甘えたおかげで想いを言葉に出すことが出来た。
「勿論言われなくたって拒絶されたって一緒にいるよ」
笑顔で言われた。しかも迷いのない笑顔だった。
だからこそ怖がりな私でもその笑顔は信じることが出来た。
ーーー
それからしばらくして私達は料理を食べ終わる。
食後に紅茶を嗜みながら軽く雑談していると話題は部活動の話となった。
「シアは部活動どうすんの?」
「部活動……か」
貴族学院は教養を学ぶ場所。特に芸術方面の部活動には力を入れており、また同時に生徒は部活動に強制的に参加しなければならない決まりがあった。
だが私はこれといってやりたい部活動があるわけではない。
それに自分が芸術面で秀でている所もあるとは思えない。
人並みにダンスを踊ったり絵を描いたりは出来はするが貴族の間からすればそれは凡人並みのものだった。
「決まっていないのなら私と一緒の部活に入ってはみないか?」
「アデリス様と同じ部活?」
「それってシアと一緒に居たいからそう言ってるんでしょ」
「当たり前じゃないか。勿論シオンにも参加して貰いたいと思っているよ。二人ともきっと私の部活を気に入って貰えると思う」
私とシオンちゃんは互いに顔を見合わせる。お互いにどこか入りたい部活があるわけではない。
それならばアデリス様の部活動に入るのも悪くないかもしれない。
「ちなみにアデリス様はどんな部活動に入っているのですか?」
私の質問にアデリス様は少し嬉しそうな声で答える。
「私が入っている部活はーー演劇部だよ」




