もう援助はしないようです
「おはよう! 昨日はよく眠れたかな?」
屋敷の中、食事の置かれたテーブルを挟んで私とアデリス様は食事をしている。
テーブルに置かれたのは沢山のケーキやクッキーといった菓子類。
それを私とアデリス様は軽く食しながら会話をする。
「はい。お陰さまで……本当にありがとうございます」
正直屋敷に入った時には本当に眠ることが出来るのか心配だった。
何せ本人が良いと言っているとはいえ住むことになるのは公爵令嬢アデリス様のお屋敷。
本来であれば私なんかの男爵身分では中に入ることなど許されない場所だ。
でもその時の私はきっと泣き疲れていたのだろう。
いざ寝室に案内されてベッドで寝転がると一瞬で眠ってしまった。
「それは良かった」
アデリス様は私の言葉を聞いて微笑むとそっと近づいて私の頬を撫でる。
どうして撫でられたのか分からず不思議そうに彼女を見るとアデリス様は照れたように苦笑いをする。
「すまない。少し不安だったんだ。シアが目の前にいる……ずっと好きだった人が側にいるそれが嬉しくて嬉しいから触ってちゃんと居るんだって幻ではないって確かめたかったんだよ」
「そ、そういうこと……他の人にも言ってるんですか」
ちょっと今の言葉にはドキッとしてしまった。なのでアデリス様から目を逸らして小さくそんなことを口にした。
「まさか……シアにだけだよ。私が好きなのはシアだけなんだからね」
「……そうなんだ」
私はどうして良いのか分からず俯くことしか出来ない。
アデリス様はそんな私の心境を察しているのか軽く笑う。
そして椅子を引いて私の近くに寄せると皿にケーキを乗っけてフォークで刺して私に突き出した。
「シア、あーん」
「ええっ!? そ、そういう恋人みたいなのは……」
「婚約はまだ決まっていない。だが恋人として振る舞わないとは言ってないだろ? さ、口を開けて」
「で、でも……」
凄い嬉しそうな顔でケーキを食べさせようとしてくるアデリス様。
流石に恐れ多くて断ろうとするけど彼女の満面の笑みを見て断ることが出来ない。
「だ、ダメか……?」
「い、いえ……わ、私で良ければ食べさせていただきます」
「そうそう。シアは私に甘えていいんだよ。昨日は辛い想いをしたし何よりシアが甘えてくれると私は嬉しいからね」
そう言ってケーキを食べさせてくれる。ケーキはとても甘い味がしたけど、それ以上にこの状況が甘過ぎて結果的にケーキの味があまり分からない。
でもこの状況は私にとっては凄く幸せな時間だった。
ここ最近私はずっと一人で食事をしていた。勿論私だって令嬢だ。使用人達はいてご飯を用意してくれたりはする。
だけどもこうして誰かと一緒に会話をして食べたりすることはなかった。
だからこうしてアデリス様と会話をしたりケーキを食べたり紅茶を飲んだり。
そんなゆったりとした時間がとても暖かいように感じたのだ。
ーーー
食事を終えて私達はのんびりと一緒の部屋で過ごす。
アデリス様の屋敷には大きな書庫があり、そこには沢山の本が並んでいた。
私は昔から本を読むことが好きだったのでつい書庫を眺めていた時にアデリス様がそれに気づいて本を読む許可を頂いたのだ。
なので私は部屋の中で書庫から借りた本を読んでいる。
またアデリス様はアデリス様で何やら手紙を書いていた。
「あの……アデリス様は何の手紙を書いているのですか」
それは何となく気になったから聞いた言葉だった。
それに対してアデリス様は文字を書き続けながら静かに答える。
「アルティス卿への援助を解消する旨の手紙を書いているんだよ」
アデリス様はリーナ国で最大の領土を持ち、その影響力は国王をも凌ぐほど。
当然ながらその資金力も豊富であり、グレナベル家はその資金を使って他の貴族を援助していたりする。
私にアルティスの治める領地のことは彼から何も教えて貰っていないのであまり分からないけど。
一時期財政が圧迫して困っていた時があり、それをとある貴族の支援を受けることで何とか領地を運営することが出来ていたらしい。
よくよく考えれば昔からアルティスは派手な事が好きな人だった。
故に多額の金を用いて派手な政策ばかりを行い沢山の金を消費し続けていた。
それでも彼が何とか領地を治めてこれたのは貴族の支援ーーもっといえばグレナベル家が資金援助をしてきたおかげだろう。
もしもその援助が無くなれば彼はちゃんと領地を治めることが出来るのだろうか。
そこまで考えて心配するのを辞める。だってもう私は彼の婚約者ではない。
その事を考えるような心配するような関係ではもうないのだ。
「そういえばどうしてアデリス様はアルティスの援助をしていたのですか?」
「決まっているだろう。シアがいたからだよ。私はずっと君を婚約者にしたかった幸せにしたかった。でも……君には既に婚約者がいた。だから私は君の側ではなく背後から支えようと資金を援助してたんだ」
「アデリス様は優しいんですね」
「私は優しくなんかないよ。私が優しいのはシアにだけだ」
「あ、ありがとうございます」
私は何だか恥ずかしくなって本でそっと顔を隠した。
そんな私の仕草を見てアデリス様は少し楽しげに笑っていた。
「何にしても私がアルトワ家の援助を解消したとなれば他の貴族達もアルトワ家の援助や支援を辞めるだろうな。そもそも他の貴族がアルトワ家を支援していたのも皆、私が援助していたからそれに賛同してという理由がほとんどだろうからな」
アデリス様はそれだけ言うと手紙を書き終えたのかそれを使用人を呼び出し渡す。
「この手紙をアルトワ家に送ってくれ」
「かしこまりました」
使用人の人は手紙を受け取るとその場を立ち去る。
そしてそれを見届けるとアデリス様そっと私を見てーー。
「ところでシアは学校に興味ないか?」
そんなことを聞いてきた。




