スパダリ系公爵令嬢に告白されました
「もう私、婚約者じゃないんだ」
社交界が行われていたアルティスの屋敷から逃げ出した私は気がつけば近くの公園まで逃げ出していた。
私は公園のベンチに座ると目の前に咲いてあるお花畑を静かに見る。
それは庭園の花ほどではないけど沢山の色鮮やかな花が咲き誇っていた。
普段はその花を見て心が落ち着くけど、今はそんな花を見て気分が沈む。
私はあんな風に色鮮やかには咲くことが出来ない。
大勢の人が鮮やかな花を好む。そして誰も地味な花は美しいとは思わず見向きはされない。
そして私はその地味な花なのだ。故に私はアルティスに愛して貰うことが出来なかった。
「ドレス……二日間掛けて選んだんだよ」
私は青色のドレスをそっと掴む。ここ数ヶ月、アルティスと一緒に居れることが少なかったから久しぶりに会えると私は喜びながら彼のために沢山の時間を掛けてドレスを選んだのだ。
でも結局その時間は無駄だった。たった一言綺麗だと言って欲しかっただけなのに待っていたのは嘲笑だった。
私はまた悲しくなる。でも少し前に涙を溢したからか不思議と涙は出ずただ無言で花を眺めている。
「シア……」
突然名前を呼ばれて驚いてその方向を見る。そこにいたのは一人の男装した女性の姿。
後ろを結った綺麗な白銀の髪、整った端正な顔立ちに透き通るような青い瞳。
その綺麗な姿に思わず言葉を失う。こんな綺麗な人が私に何か用なのだろうか。
「えっと……アデリス様でしたよね。どうしてこんな所に」
この男装した女性ーーアデリス様とは社交界で何度か出会ったことがある。
本名はアデリス・グレナベル。リーナ国最大の領土を持つグレナベル家の公爵令嬢で私みたいな男爵令嬢から見れば彼女は住む世界の違う人だった。
彼女は私の問いに困ったような表情をするとそっと私の隣に座った。
「私も同じパーティーに出席していたからな。泣いて逃げていった君を放っておけなくて探しに来たんだ」
当たり前だが社交界のパーティーでは多くの貴族の人が出席している。
そんな中で私は婚約破棄されて泣いて逃げ出してしまった。
その事実を再確認して私はそっと自分の膝を見ていた。
「……辛かったな」
そっとアデリス様は私を抱き締める。暖かくて優しい感触に先程までは出なかった涙がまた溢れてしまった。
「私が悪いんです。私がもっと華やかだったら綺麗な髪色だったら……彼は愛してくれたかも知れないのに」
自分には華がない。地味な顔立ちで髪の色だって黒色だ。
それは分かっていてそれでも彼はそんな私のことが好きなのだと信じていた。
だけどそれは思い上がりだった。恋人同士だと思っていた私達の関係はただの片想いだったのだ。
「確かにアルティス卿なら派手な見た目の方が好きなのかも知れないな。でもーー」
そっとアデリス様は私の頬に触れる。私の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。きっと酷い顔になっている。そのはずなのに。
「周りのみんなが地味だと君を揶揄しても私は優しい見た目のシアが好きだよ」
「あ、ありがとうございます」
好きと言われてちょっと驚いたけど、普通に慰めてくれているのだと理解する。
でも、アデリス様は流石だなと思った。私なんかに気を遣ったって私の階級は男爵令嬢で貴族ではあるけど身分だって低い。
そんな私に気を遣った所で彼女に利点なんてないだろうに。
きっとメリットデメリットではなく善意だけで私を放っておけなくて助けに来てくれたのだろう。
「言っておくが今私がシアを好きだと言ったのは私が優しいから言ったんじゃない。私が本当にそう思っているから口にしたんだ」
「……え?」
「シア……ずっと前から君が好きだった。私の婚約者になってくれないか?」
それは突然の告白。勿論告白されたのは嬉しいことだけどいきなり好きだと婚約者になれと言われても頭が真っ白になるだけだ。
最初こそは冗談かとも思ったが婚約破棄された私に冗談でそんなことを口にするような人物ではないのは先程の彼女との会話で流石の私も理解している。
でも本気であると分かれば分かるほどにどうすれば良いのか分からなくて固まることしか出来ない。
「私が出会った時には既に婚約者だったからな。この想いを告げることが出来なかった。でも泣いている君を見てもう誰のものにもしたくないと思ったんだ。私だけなんだ、私だけが君を幸せに出来る……幸せにしたいんだ」
アデリス様の言っていることが本心であるということは理解していた。
だからそれを受け入れるのもきっと悪くはないのだろう。
でも彼女の想いが真剣だと分かっているからこそ今の心理状態で告白を受けるわけにはいかなかった。
「ごめんなさい。今の私にはその告白は受け入れられません」
「……なぜ?」
「今の私はまだアデリス様のことを良く分かっていません。なのでアデリス様が真っ直ぐに愛を向けているのならば私も真っ直ぐに愛を受け止めてからでないといけないと思ったのです……それに」
それが大きな理由。でも理由はそれだけじゃない。
「それに私は怖いんです」
「怖い……?」
「人を好きになることが怖いんです」
私は好きな人に婚約破棄をされて嘲笑された。
勿論アデリス様がそんなことをする人ではないと信じたいけど。
でもやっぱりその時の心の傷が癒えていない今は誰かを好きになってもまた裏切られるんじゃないかという不安の方が強かった。
「分かった。それならゆっくりと私を好きになってくれればいい。心の傷だってその過程で癒えるさ」
「……ありがとうございます」
私は小さな声で呟いた。本当は告白を断って失礼なんじゃないかとか不機嫌になるんじゃないかと思ったがそんな私の予想とは裏腹に優しい声でそっと私が好きになるのを待ってくれるらしい。
その心遣いが嬉しかった。
「それはそうとシアはこれからどうするつもりだ。ずっとアルティス卿の屋敷に住んでいたんだろう?」
「実家の屋敷に帰るつもりですけど……」
「もし良ければなんだが、私の屋敷で住んでみないか? 君は私のことを良く分からないとだから愛せないと言った。ならば一緒に住んで君に知って欲しい。私のことを」
「それは……」
少しだけ考える。正直実家に帰った所でこれから先何かあるわけではない。
婚約破棄のことは話したいとは思うが、私から話さずとも今日婚約破棄を行ったということはアルティスを通して手紙で伝わっているだろう。
だからわざわざ私が帰る必要はない。もっと言えばこの状態で家に帰っても両親を心配させるだけだ。
いいや、それらは全て只の言い訳に過ぎないのかもしれない。
単に私はこんな自分を好きだと言ってくれるアデリス様を知りたいと思ったのだ。
だから私は彼女のことを知るために一緒に暮らすことにした。
「私もアデリス様と一緒に暮らしたいです」
「本当か! 良かったぁ! 両親には手紙で伝えるから安心してくれ。なに公爵令嬢からの手紙なんだ向こうも納得してくれるさ」
ただ一緒に暮らすというだけなのに先程までの落ち着いた表情とは打って変わって嬉しそうな笑顔を浮かべてくれる。
私は地味な女だ。なのにそんな私を大事にしてくれる。
一緒に暮らすだけでこんなに喜んでくれる。その事実がとても嬉しかった。




