一緒に踊ってくれますか? 後編
「シア……一緒に踊ってくれないか」
貴族の一件が終わって私達が二人でしばらくゆったりと演奏を聞いているとその曲を聞いて踊りたくなったのかアデリス様がそっと声をかける。
勿論答えは決まっている。私だって実のところいつ誘ってくれるのかと期待していたりした。
「わ、私で良ければよろしくお願いします!」
正直なところ私はダンスはあまり得意な方ではない。
だから上手く踊れるのか心配だし緊張だってしている。
でも今回は遠慮などしない。アデリス様と私も一緒に踊りたいのでしっかりと了承の言葉を口にした。
「それでは姫、手を取りますね」
「は、はい」
アデリス様は流石に慣れているのか優しい動きで私の手を取ってダンスを始める。
やはりというべきか私のダンスはあまり上手ではなかったけど不思議なことにダンスはすんなりと上手に踊ることが出来る。
それは何も私にダンスの才能があったとかではなくアデリス様がしっかりとリードしてくれていたからだった。
しばらくの間。二人でダンスを踊りある程度踊ったところで私は疲れたのでアデリス様と一緒に休憩用の椅子に座る。
そして用意された紅茶を飲んだりして身体を休ませることにした。
「疲れたぁ……ダンスってこんなに疲れるんですね」
「シアはダンスを踊り慣れていないのか?」
「は、恥ずかしながら……」
勿論ある程度の基礎教養としてダンスを踊ること自体は出来るけどあくまでそれだけ。
普段から運動とかして来なかった私はダンスをするだけで疲れはててしまうのだ。
「そうか。それなら疲れが取れる飲み物を頼んでみよう……シア?」
「あれ? あそこにいるのってシオンちゃんだよね?」
アデリス様との会話中、私は会場の隅でポツンと立っている水色髪の少女を見つける。
多くの人が踊ったり雑談したりしているこのパーティー会場で彼女はずっと一人で立っていた。
「今回の社交界は沢山の人がいるからな。知り合いにも会うだろうな……彼女のことが心配か?」
「……はい」
「そうか。なら私はここでのんびりシアを待つことにするよ」
「ありがとうございます!」
きっと見なかったことにするのが無難なんだろう。
そうすれば明日には普段通りの学校生活で普段通りにシオンちゃんと会話できる。
でもそんなことはしたくなかった。だってそんなことをすればこれから先、彼女に対して本当の友達でいられなくなると思ったから。
勿論私が来たところで何かが解決するわけではないのは知っている。
でも……私が来たことで少しでも寂しさを和らげることが出来るのなら声をかける意味はあると思った。
私はすぐにシオンちゃんの所へと向かう。シオンちゃんもそこでようやく私のことに気づいたのか驚いたようにこちらを見る。
「あ……シアも来てたんだ」
「うん、私も招待状届いたから。シオンちゃんは今一人なの?」
「そうだよ。こんな見た目だからね。女性も男性も誰も寄ってこないんだよ。まあ慣れたけどね」
私はシオンちゃんの見た目はとてもカッコいいものだと思ってる。
でも同時にやっぱり目付きが悪いのは事実で多くの貴族が彼女に声をかけることをしなかった。
こんな時何かしら気が回る台詞を言うことが出来ればと思う。
アデリス様とかならきっとその場に適した言葉を言うことが出来るのだろう。
だけども私はアデリス様みたいに器用な人間ではないから。
だから私は不器用なままで彼女の心に寄り添おうと思った。
「シオンちゃん……わ、私と一緒に踊ってくれますか?」
そっとシオンちゃんの手を握って言ってみる。ちなみにちょっと緊張して声が上擦ってしまった。
そんな私に対してシオンちゃんはくすっと笑った。
「どうしようかなぁーシアは騎士にしては頼りないからなぁ」
「ううっ……」
困る私を見てシオンちゃんは更に笑った。そしてある程度笑うとそっと私の手を握り返した。
「でも私にとっては最高の騎士だよ。どんなに頼りがいのある騎士よりもどんなにかっこいい騎士よりも可愛くて頼りないシアの方が私は好きだから……だからいいよ。一緒に踊っちゃおう!」
私達は二人ともドレス姿。でも社交界では女の子同士で踊るのも珍しくはない。
私達は一緒になって踊る。踊るときは騎士っぽく振る舞ってみたが実際ダンスとなるとやっぱり上手いのはシオンちゃんだった。
そして私達は楽しく踊ることが出来たのは良いんだけど。
「はぁ……はぁ……つ、疲れたー」
「そんな一時間踊っただけじゃん」
「私はアデリス様と一緒に踊ってるから疲れちゃったんだよ」
「あ……そっか。シアは私以外とも踊ってるんだね」
ちょっと落ち込んだ様子のシオンちゃん。何か不味いことでも言ったのかと焦っていると彼女はすぐに元の調子に戻る。
「シア一緒に踊ってくれてありがとう。シアと一緒に踊ったこの時間……私、ずっと忘れないから……だからシアもずっと私と一緒に踊ったこと覚えていて欲しい。シアの心の中に少しでいいから私を残して欲しい」
「うん。二人で一緒に踊ったこと忘れないよ」
正直そこまで喜んでくれるとは思わなかったけど。
でも喜んでくれたことが嬉しくて一緒に踊って良かったと思った。




