社交パーティーに行くことになりました
「シア……そのもし嫌ならハッキリと言って欲しいんだが」
庭園のコテージ。そこで私がアデリス様と一緒に紅茶を嗜んでいると普段は落ち着いているアデリス様が珍しく憂いげな表情でこちらに声を掛けた。
何事かと不思議に思っていると彼女は紅茶を口元に運んでからそっと言葉を紡いだ。
「近々社交パーティーが開かれる予定があるんだ。シアにも誘いが来ているんだ。行けそうか?」
「……社交パーティー」
社交パーティーと聞いて私の表情が曇る。その言葉を聞いて思い出すのはあの時の婚約破棄の光景。
勿論それから時間が経ってその時の心の傷は癒えてはいるけどそれでもあの時の苦い思い出は心に残っている。
でも自分も分かってはいた。こんな身なりだけど私も貴族であり、同時に貴族に生まれた以上は社交パーティーからは逃げることは出来ない。
それに私が社交界に出ることには意味があることも理解していた。
既に私は大衆の前で婚約破棄を受けている。ましてやその場で涙を流して逃げるように会場を出ていった。
そんな私が招待された社交界に出席しなければどうなるだろうか。
恐らくは多くの人がシア嬢は未だに失恋から立ち直っていないと噂をするに決まっている。
勿論それは事実で今も私はあの状態から完全に立ち直っているとは言い難い。
しかしだからといってこのまま辛いからと社交界を断り続ければ他の貴族に弱味を見せることに繋がる。
そうなれば私個人が軽んじられるのは勿論の事、何より私の家名まで軽んじられることに繋がる。
だからこそ私は社交界に出席することで婚約破棄をされたがもう大丈夫だと示す必要があるのだ。
「正直まだ不安だけど……行くことにします。行って証明したいんですもう大丈夫だと他の貴族にもですけど自分自身にも」
私の言葉にアデリス様は少しだけ悩んでいるみたいだったけど私の言葉の覚悟を受け取ったのか静かに頷いて社交界に行くことを了承してくれた。
「あ……でも流石にあのドレス行くのは少し嫌かも。あのドレスはアルティスの為に用意したドレスだから」
流石に元婚約者の為に用意したドレスを正式な婚約者ではないにしてもアデリス様と一緒の社交界で着ていくのは失礼だと思った。
それにアルティスのために用意した服をまた着るのは色々と辛い。
「分かった。というより元からシアの為にドレスは用意するつもりだったんだ。シアには私が用意したドレスを着て欲しかったからね」
そういえばと思う。今ではすっかり当たり前になってしまったが私の服は既にみんなアデリス様が用意してくれた服になっている。
なので当然アデリス様はドレスだって予めある程度の用意はしているようだった。
「ドレス楽しみにしておいてくれ。君を守れるような素敵なドレスを用意する」
ーーー
「うわぁ……本当にこんな綺麗なドレスを着て良いのかな」
私は屋敷の中で鏡に写った自分の姿を見て思わず固まる。
普段の私が選ぶような地味なドレスではなくきらびやかな綺麗な白銀のドレスに私は身を纏わせていた。
「すごいです! まさにお姫様って感じがします!」
そんな私を見て使用人が目を輝かせながら呟いた。
いつもの私ならば否定していただろう。でも本当に鏡に写っている私の姿は自分でもお姫様みたいだと思ってしまっていてその言葉に顔を赤くすることしか出来ない。
「シア……どうだ? 気に入ってくれたかな」
「あ……凄く素敵でその……こんなに綺麗なドレス初めて着ました。本当にありがとうございます」
私は本心からそう呟いた。それに対してアデリス様は嬉しそうに笑いながらそっと私のドレスに触れる。
「このドレス……どうして白銀の色にしたのか分かる?」
「えっと……白色は純粋な感じがするからとか?」
それに対してアデリス様は首を横に振るうと私をそっと背後から抱き締めた。
「違うよ。ほらこのドレス……私の髪の色と同じだろ?」
「そうですね……アデリス様と同じ綺麗な髪の色」
「少しでも君に安心して欲しかったから私が近くにいない時でも安心できるように私の髪と同じ色のドレスを用意させたんだ」
「アデリス様……」
自分の手でドレスをそっと触る。アデリス様の優しい心遣いが手の感触を通して伝わってくる。
「さ、シア……一緒に出掛けようか」
「……はい!」
まだ社交界は不安だ。でもこのドレスのおかげでその不安が少し和らいだ気がした。
私はアデリス様の手を取ると彼女と一緒に社交界の会場まで向かうのだった。




