デートに行かないかと誘われました
「本当にこんなの見て楽しいのか? 私に気を遣わずとも部屋でゆっくりしていても気にしないよ?」
「ううん……私が見ていたいので。それにアデリス様の練習風景を見れば私も演劇が上手くなるかなぁなんて」
夜中の庭園。そこで青色の花に囲まれながらアデリス様は演劇用の小道具である剣を振るう。
庭園の周囲には青色の光がいくつも浮かんでおり、その光に照らされたアデリス様は酷く幻想的に映った。
この青色の光は演劇に使われる魔法道具の一種、その魔法道具を使いながらアデリス様は次の演劇に向けて役の練習を行っていた。
本人は自分の練習している姿を見ていても楽しくないだろうと言っていたがそんな事はない。
やっぱり元から綺麗な人が演劇の練習をしているというだけでも絵になるし、それに何よりもアデリス様とこうして何気ない時間を過ごすのが私は嫌いではなかった。
それに先程言ったように彼女の演劇の練習を見れば自分も何かしら演技が上手くなるかもしれないと思ったのだ。
演劇部に入って数週間。何度か脇役を中心にいくつか簡単な演劇を行ったがアデリス様や部長のシェリナさんみたいに上手くは出来なかった。
「そういえばずっと気になっていたのですか……アデリス様がいつも男装しているのはやはり演劇の為なのでしょうか」
ずっと気にはなっていた。確かにアデリス様は顔が綺麗で男装が凄く似合っているお方だ。
でも何故彼女は男装をしているのだろうか。そう考えた時に演劇の為なのではないかと思った。
演劇の世界においては女性が男装をすることは珍しくない。
むしろ演技の役に入り込むには男装というのは必要不可欠なものだ。
だからその意識の高さから彼女は普段から男装をしているのではないかと。
「いや……演劇の為とかではないよ。そもそも男装したのだって大した理由じゃないんだ。使用人の一人から試しに男装をしてみないかと言われてね。別に断る理由も無かったしと軽く男装をするまでは良かったんだが、思った以上に評判が良くて気がつけばみんなから男装をするようにと勧められるようになってしまったんだよ」
アデリス様の男装姿は人気だ。それは昔から変わらなかったようで多くの人が彼女に男装をするように勧めたのは何となく想像が出来た。
「もっとも今では男装している方が落ち着くし動きやすいから自分から男装をしているけどね。それにーー男装している方が女性に好かれやすいんだ」
そういって私の方に顔を近づけてきて意地悪な笑みを浮かべる。
それに対して私は恥ずかしそうに顔を俯かせる。
彼女の言いたいことは分かる。要するに男装をしていた方が私を恋に落としやすいとそういっているのだ。
実際こうしてアデリス様にはドキドキさせられてばかりなので何も言い返せない。
「それはそうとシアは次の演劇でやりたい役とかあるのか?」
「特にやりたい演技があるわけじゃないけど……」
演劇部は数週間に一回のペースで演劇を学生達に向けて公開している。
多くの本番を経験することで演技の技術を上げたり人前で演技をしても緊張しないようにするのが目的らしい。
そして当然私も演劇部に入った以上、やっぱり何かしら役を演じてみたいという気持ちはあった。
ただ演劇をしたいという気持ちはあっても何の役をしたいかと問われると言葉に詰まってしまう。
やりたい役は沢山あった。またお姫様になるのもいい今度は王子様役なんてのもやってみてもいいしシオンちゃんのように悪役騎士になるのも悪くないかもしれない。
そんな沢山のやりたい役は頭の中に浮かんでは来るけど、同時に自分に出来る役と考えると何も浮かばないような気がした。何も出来ないような気がしたのだ。
「私に出来る役があるのでしょうか。お姫様に王子様、騎士や村人、みんな私とは違う人みたいで演じられる自信がないんです」
「そうだな。みんな違う人だ。でもだからこそ私達は演技をするんだよ。演技をして違う人になるそれが演劇の楽しい所でもあるんだ」
確かに私は体験入部でお姫様になることが出来た。
そしてその時にアデリス様に対して演技の中でではあるけど愛していると告げて二人は恋人になった。
それは演劇の中の話だ。でも演劇の中とはいえお姫様になれたことがアデリス様と結ばれたことが嬉しかった。
きっとそれが演劇の魅力の一つなのだろうと思う。
「いいじゃないか。お姫様も王子様も騎士も村人も演じてみれば自分と同じ人間を演じるよりも違う人を演じた方が楽しいよ」
「……でも私のせいで演劇がダメになったらどうしようって思うと」
「その時は私や他のみんながカバーするさ。それに失敗するのも含めて演劇なんだ。誰も責めない失敗したなら次成功させればいいんだよ」
アデリス様は軽く笑うと頭を優しく撫でてくれる。
「それに私は見たいな。シアのお姫様も王子様も、騎士も村人も色んなシアを沢山のシアを見たい。だからシアのやりたい役をやってみるといいよ」
それに対して私は静かに頷いた。まだどの役を演じるかは分からないけど自分に似合わないからとやりたい役をやらない。そんな思考は無くなっていた。
「それはそうとなんだけど」
アデリス様は突然私の側に近づいて手をそっと握る。
手を握ってどうしたんだろうと不思議そうにアデリス様を見ると彼女は私を見ながら言葉を紡いだ。
「良ければ明日デートに行かないか?」
「デートですか……!」
それは予想外の誘い。勿論嬉しい誘いではある。
私とアデリス様は正式な婚約はまだしていない。
それは私がまだ恋をするのに怯えているからだ。
なのでデートをするべきかどうか少しだけ迷ってしまった。
でもそれはあくまで少しだけ。すぐに私はデートを了承する。
「わ、私で良いのでしたら……アデリス様とデート行きたいです」
「ありがとう。シアとのデート楽しみだよ」
アデリス様はそういって満面の笑みを浮かべる。
そんな彼女の笑顔を見てデート断らなくて良かったと心底ほっとする。
私は自分に価値を見出だせないけどアデリス様はそんな私に価値を見出だしている。
アデリス様が私の行動に対して喜んでくれる度に私は彼女に愛されていると実感するのだ。




