魔術属性適正検査
ことあるごとに恥じらうアイナ・シュタインとのぎこちない食事をした後、午後の初講義へと向かった。何を話したのかは正直あまり覚えていない。ぎこちない返事だけを返していた。彼女がたまに恥ずかしそうに笑う顔だけを覚えている。
食事を終えアイナ・シュタインと別れた後、他の生徒と会話に花を咲かせているアーノルド殿下をつまみ出した。アーノルド殿下はわたしの小言を意にも介さず、良いことをしたとばかりにるんるんで廊下を歩いていた。
午後は講義のため、新入生が庭に集められた。アーノルド殿下と一番奥で生徒たちががやがやとしているのを眺めていた。少しはなれたところからアイナ・シュタインがこちらをチラチラとうかがっているのが見える。
「随分仲良くなられたようだなぁ、ウィンセント。」
隣にいるアーノルド殿下が、またもやによによと問いかけてくる。
「たかが食事をともにしただけでしょうに。アイナ嬢との仲を勘ぐられても困ります。」
「ふ~ん?シュタイン男爵令嬢の名前を出したわけではないのだがなぁ。それもそうか、名前で呼び合う仲のご令嬢と、二人で、楽しそうに、食事をしていただけだものなぁ。」
この御人はいったい何がしたいのだ。アーノルド殿下とアイナ・シュタイン、両者の視線に耐えきれず目を朝っての方向に反らす。
「では、今から午後の講義を始める。」
講師の先生が到着したようだ、拡声器用ラクリマを通した講義開始の言葉が聞こえる。新入生の視線が一斉に前に集まる。さすがは貴族令嬢子息だ、先程とはうってかわり私語を話すものはいない。おかげでアーノルド殿下からの追求からは難を逃れた。
ちなみに講義と言っても座学ではなく、今日はこの学園において重点的に学んでいく『魔術』に関する属性の適正を確認する検査が行われるのだ。この検査の結果をもとに今後の実技授業のカリキュラムが個別に決まる。私やアーノルド殿下など高位の貴族子息は既に検査を受けている場合があるが、新入生全員が一律受ける決まりとなっていた。
以前受けた試験では、アーノルド殿下は光、炎、水の三属性、私は氷属性の適正があった。夢でみた検査も同様だ。魔術属性といってもアーノルド殿下こように複数属性を使う適正を持つものと、私のようにひとつの属性を深く扱えるものがいる。それらを調べることもこの検査の意義である。
講師の呼名順に前に歩み出て検査用ラクリマに手をかざす。魔力を流すと属性に対応した魔術が放たれる仕組みだ。続々と風や雷、水がラクリマから放たれていく。ある程度魔力量に比例した大きさの魔術が放たれるため、細々とした魔術に肩を落とすものもいた。
アーノルド殿下の番が来た。殿下がゆっくりと袖をまくりながら、ラクリマに手をかざした。するとラクリマから大きな花火と噴水のように水が上がった。光と炎が花火となり、それを彩るように水が舞っていた。あたりは感嘆の声で満ちた。流石は王家に連なる御人だ。
講師からおほめの言葉を貰いながらアーノルド殿下がこちらに戻ってくる。どうだ、といわんばかりのどや顔だ。
「いつもの如く素晴らしい魔術ですね。」
「当たり前だ。私はこれでも王家の血筋に名を刻んでいるのだからな。」
私の名前が呼ばれた。どうやら次は私の番のようだ。アーノルド殿下の後とはなんともやりづらいものだ。
「ほら、ウィンセント。呼ばれているぞ。」
「わかっていますよ。」
足早に前に歩み出て講師に会釈した後、ラクリマに手をかざす。手のひらから軽く魔力を流す。それに反応するようにラクリマが光始める。すると、私のまわり半径2mほどの地面が凍りついた。アーノルド殿下ほどの威力はないものの充分だろう。講師の先生から軽い褒め言葉を貰いもとの場所へ下がった。
「お前も相変わらずだなウィンセント。みろ、講師の方が地面を溶かしておる。足まで凍ってしまっておかわいそうに。」
「…面白がっていませんか?」
「気のせいだな。」
はしゃぎたくなる気持ちもわかる。魔術に使用する魔力の体内保持量は高位の貴族ほど多い、つまり魔術の出来が家柄のよさに直結しているようなものであるため、私に箔が付いたことに喜んでいるのだろう。アーノルド殿下は部下思いの人なのだ。
しばらくして、アイナ・シュタインが呼ばれた。そういえば、さっきの食事中に、魔術属性を知れるのが楽しみだとか言ってたか。
「ほれほれ、シュタイン嬢の番らしいぞ。いったいどんな属性なんだろうな、ウィンセント。」
アーノルド殿下が私をこずいてくる。本当に飽きない人だ。そこで、ふと、予知夢の内容を思い出した。確か、アイナ・シュタインの属性は氷だったか。アーノルド殿下の水属性と合わせればより強大な魔術にできると喜んでいた記憶がある。
アイナ・シュタインがラクリマに手をかざす。記憶通り氷の結晶が振ってきた。キラキラと舞う氷の中央にいるアイナ・シュタインはまるで冬の後に現れる春を思わせた。
予知夢はやはりある程度は予知しているのか…夢への疑惑がまた募り始めた。
「ウィンセント様。魔術、お揃いですね。ふふふ、嬉しいです。」
いつの間にかアイナ・シュタインが目の前に立っていた。
「そうですか。氷属性は対して珍しい属性ではないですけどね。」
「ウィンセント、そういってやるな。なんだ、反抗期なのか。」
アーノルド殿下が肘でつついてくる。
「違います。事実を述べただけですので。」
「ふ~ん?へ~。安心したまえシュタイン男爵令嬢。こいつは嘘を付くとき目を反らす癖がある。」
「そうなのですね。では今度、魔術の使い方教えてくださいね、ウィンセント様。」
そういって笑うとトタトタと離れていった。
「そんな癖、ないですけど。」
「さぁな。私の取って置きの情報だったからな。お前は素直じゃないからな。特別にシュタイン男爵令嬢にも教えて差し上げたのだ。」
「ですから、そんな癖ありません。」
まったく敵わないな。私は肩を落とした。アイナ・シュタインを見るたびに夢でみたアーノルド殿下との仲睦まじい姿が浮かぶのが気がかりだった。




