下世話な殿下
アーノルド殿下と食堂に向かった。歩いている間もアーノルド殿下はすれ違う生徒一人一人に手を振り挨拶をしていた。王家の責務を果たす姿に敬服を覚えるとともに、私はこんな完璧なアーノルド殿下が朝が弱いということを知っているひとりなのだと思うと、胸を張りたくなる思いだった。
食堂はこの学園の理念通り、身分に関わらず同じところを使用する。といっても大多数の生徒が同じような身分の生徒とつるむことが常なのだが。身分の異なるものと進行を深めても、どうせこの学園をでて社交界に出ればそんな関係値は泡と消えてしまう。そのため、私は王の申し付けでアーノルド殿下と二人で食事をとる手はずになっている。アーノルド殿下本人はさまざまな生徒と食事を取りたがっていたようだが。
食堂に入ると生徒たちでいっぱいだった。十分な広さがあったが、今日は入学式なこともあり話が広がる生徒が多いためか、上級生はあまりいないものの長机しか空いていなかった。殿下と二人用の机を使う予定だったのに詰めが甘かったようだ。席取りをしておくべきだった。仕方なく殿下と向い合わせで長机の端に座る。ここの食堂は配膳も魔術で行うため、席につきラクリマを通して料理を注文すればウエイターを介さずに出来上がり次第直接目の前に沸いてくる仕組みだ。机の上のラクリマで料理を選び、アーノルド殿下と食事がでてくるのを待つ。
「なぁウィンセント。」
「なんでしょう。アーノルド殿下。」
「さっき生徒会の歓迎会でアイナ・シュタインというご令嬢と一緒になったんだ。」
「ほぅ、そうですか。」
アーノルド殿下の口から急に彼女の名前がでてきて驚いた。アイナ・シュタインは生徒会の歓迎会に行っていたのか。予知夢と異なる内容に戸惑いを感じた。だから、先程生徒会室前に行った時殿下の取り巻きにいなかったのか?
「そうそっけない返事をするでない。」
「存じ上げない方でしたので。なんです、惚れたんですか。」
自分でも使ったことのない言葉がでてきた。我ながら驚いた、なんだ、王太子殿下に向かって惚れたんですかって。
「まさか。シュタイン男爵令嬢はお前が入学式で助けた女生徒だよ。歓迎会中熱心にお前について聞いてきたよ。まったく、ウィンセントも隅に置けないな。」
アーノルド殿下はやれやれといった様子だ。そんな表情をされても、こちらも困るのだが。
「ア…シュタイン男爵令嬢は何故私について?今日たまたま顔を合わせただけでしょうに。」
思わずアイナ・シュタインと呼び掛けて、慌てて正す。なぜ、彼女が私について聞いてくるのだ。夢では殿下と仲睦まじかったではないか。たかが少し手を貸した程度の私に興味を示すなどにわかには信じがたかった。
「なんだ、照れ隠しかウィンセント。」
「違いますよ。」
「助けてくれたお前に、興味があるんだそうだ。どうだ、今度二人で食事でもしてみたら。」
「それは、アーノルド殿下が他の生徒たちと食事をしたいだけでしょう。」
「ばれたか。」
アーノルド殿下が企みがばれた子供のような顔をする。王族といってもまだ、若い。それにしても、アイナ・シュタインが私と二人で食事だなんて、予知夢ではありえない光景だろう。
「だか、随分うっとりしてお前に助けられた話をしてきたぞ。まるで白馬の王子さまだと。」
「アーノルド殿下がいらっしゃるのに白馬の王子さまなど烏滸がましい限りです。」
「お前というやつは…素直に喜んだらどうなのだ。」
「素直もなにも喜んでいませんので。」
喜ぶわけがないのだ。アイナ・シュタインは夢の中でアーノルド殿下と恋を育んでいたのだから。いくら可愛らしい人だと言ってもほいほい好感を抱くほど、私は単純ではなかったのもある。会話を無理に切り上げて黙々と食事をする。アーノルド殿下は、またによによとこちらを見ていた。本当に困ったお人だ。
「お隣失礼してもいいですか?」
「ええどうぞ」
女生徒が横から声をかけてきた。ここは自由席であり断る理由もなかったので、そちらを見もせずに了承した。それにしても話したことのない私のとなりに座ろうなど、ずいぶん風変わりな人もいたものだ。
「ほんとですか?ありがとうございます!!クラレス様!」
その声にばっと横の女生徒を見ると、見知った女がいた。肩までの桃色の髪を傾けて、丸い薄紫の瞳に喜びを浮かべて、こちらの様子をうかがっている。
絶賛私の頭を支配している、アイナ・シュタインだった。




