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君が描く未来  作者: 斑鳩 千早
1章

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予知夢と後悔

  恥ずかしそうに頬を染めるアイナ・シュタインを見つめる。そうだ、この人だ。入学式でアーノルド殿下に助けられたことをきっかけに恋仲になり、身分差による悲恋で終わった女性。肝が冷えていく心地だ。殿下が最愛の人と出会うはずの出来事を自分が横取りしてしまった。


「あの、本当にありがとうございました。」


  見事なカーテシーをして去っていく後ろ姿を見つめていることしかできなかった。予知夢どおりにアイナ・シュタインが倒れた。私がこれを助けた。元来ならこのままこの可愛らしい人と恋に落ち、花で彩られた学園生活を送るものだろう。しかし、私は夢でみた殿下とアイナ・シュタインの微笑む姿が頭から離れなかった。冴えない頭のままアーノルド殿下のもとへ戻る。


「おまえにも春が来たようだな。」

「え?」

「さっきさっとうとご令嬢を助けていたじゃないか。」

「いや、まぁ」

「いじらしいな。耳まで真っ赤にしていたではないか。はは、いいではないか。」

「ご老人の方のような絡み方はやめていただきますか。」

「否定もせずに話を逸らすなど、お前らしくないではないか。」


 によによと笑うアーノルド殿下をいなしつつ、入学式の始まりの鐘の音がなった。上手く殿下と目を合わせられなかった。アーノルド殿下の式辞に感銘を覚えながら、今後の学園生活と予知夢に思いをはせる。私に確信していた。あの夢は予知夢なのだと。夢通り倒れた女性が、夢で見た殿下の想い人だった。彼女と依然あったこともないのに、夢と同じ顔をしていた。こんな偶然があり得るのだろうか。これが予知でなくなんなのだろうか。


  つつがなく終わった入学式。会場から出るとアーノルド殿下は生徒会に入るつもりらしく、そちらの勧誘会に向かわれてしまった。王族たるもの人々を統べる必要がある、生徒会はその予行練習のようなものだとアーノルド殿下はおっしゃっていた。私のことも誘ってくださったが、私も生徒会に入ってしまうと拘束時間が長くなりアーノルド殿下のサポートがしずらくなってしまうため、自重した。この流れも予知夢どおりだ。


  アーノルド殿下を見送ったその足で、図書館へと向かった。この王国立魔術学校には、王宮図書館にすら所蔵されていないような貴重な図書が多数置かれているらしい。予知夢が何らかの魔術の一種なのか、どのような条件で発動するのか、前例があるのか、知りたかった。


  図書館へと向かう。受付の司書の方に軽く会釈して中へ入る。司書の人は私の新品の制服をみて入学そうそう勉強なんて素晴らしい心だ、といわんばかりの笑顔で私を見ていた。図書館の内装は流石と言わざるを得ないものだった。どこまでも続くような大きな本棚がところ狭しと敷き詰められている。手前には長机や丸机などさまざまな人数に対応した読書スペースがあった。


  読書スペース中央の検査ラクリマを作動させて夢に関する蔵書を探す。本来ラクリマを動かすためにはある程度の魔力が必要なのだが、侯爵家三男の私にとっては造作もないことだった。皇太子ともあろうアーノルド殿下にあたっては息を吸うように動かせるのだろう。ラクリマとは、魔力を流すと特定の魔法を使える特殊な石のことを言うのだが、最近は市井にも少しの魔力で動かせるラクリマが流通し始めたらしい。国の発展とは素晴らしいものだ。アーノルド殿下の治世になるころには、より魔術が一般的なものになっているのかもしれないな。


  しばらくして検索がヒットした。共有棚に一冊だけ文献があるようだ。ラクリマを通じてその本を手元へ呼び寄せる。魔力量が多いのはこういうときに便利だ。本を手に取る。どうやらまじないに関する本のようだ。平民にも魔法の普及しつつあるこの国でまじないなんて胡散臭いと思いつつ開き、該当の頁を見る。


  【夢まじない】

  未来を知りたいと望みし強欲な者よ、汝の夢にてそれを叶えてせんじよう。……


  怪しげな手順がかかれていた。やはり、当てにはならないと思いながら本をパラパラとめくる。ふと、目に止まった頁があった。


【未来歩き】

  未来を知りし愚かな者よ、汝の書き換えし未来にはいつか必ず綻びが生まれるであろう。其れを防ぎたくば……


  嫌な文だ。本を閉じ、もとに戻した。収穫はあまりなかったと言えよう。結局この予知夢はなんだったのか、わからないままお昼時を告げる鐘が鳴った。


  まずい、アーノルド殿下を迎えに行かなければ。アーノルド殿下のことだ、今頃たくさんの生徒に囲まれて食事に行くのもままならないだろう。たしか夢だとアイナ・シュタインもその中にいて殿下との仲を深めていた記憶がある。先程夢の内容を鮮明に思い出したこともあり、この後の事が何となくわかるようになっていた。


  案の定、アーノルド殿下は生徒会室前で人々に囲まれていた。しかし、予想に反してアイナ・シュタインの姿は見えなかった。私が彼女を助けてしまったことで、何か変わったのだろうか。まあ、助けたことはいいことなのだが。思い直してアーノルド殿下に声をかける。


「アーノルド殿下。昼食のお時間です。」

「ああ、ウィンセント。待っていたよ。それでは、みなさん、また後でお話を聞かせてくれるかい?」


  その言葉を聞いた生徒たちが、ばっと横にずれ私とアーノルド殿下の間にスペースを作った。まるで神の海割りだ。どいた生徒に挨拶をしながら優雅にそこを通り抜けこちらにきたアーノルド殿下とともに食堂へと向かう。アイナ・シュタインはどこへいったのだろうか。

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