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君が描く未来  作者: 斑鳩 千早
1章

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13/15

パートナー探し

 私とアーノルド殿下は午前の講義を終え食事を取ろうかと、学園の廊下を歩いていた。感謝祭の準備が始まりつつあるため、アーノルド殿下と食事を取る機会も減ってくるだろう。近頃はアーノルド殿下は国王陛下から行動の自由を認めていただけた(認めさせた)ようで、私が逐一同伴する必要性もなくなってきていた。アーノルド殿下とは学友らしい距離感で時間を共有することが増えてきたところだ。


 近ごろ、後夜祭で行われるダンスのパートナー探しに奔走する生徒を見かけることが増えた。1ヶ月後に控えたこの学園の感謝祭では、打ち上げにダンスパーティーが開催される。基本的には男女二人組、もしくは友人と組んで参加する。そのため、同伴してほしい相手にエスコートの話をもちかける男が増えるのだ。


 貴族が大半を占める王国立魔術学園では、女性からエスコートを申し込むことはまずない。将来家庭を背負う男が責任を持って女性を誘う。女性は淑やかに時を待つ。これが原因で男はパートナーの申し出を受けてくれそうな女性を探すのに骨を折るのだ。もし、友人と参加すれば、自分は女性も禄にお誘いできない貴族子息です、と言っているようなものだ。大多数がその状況は避けたがっている。


 自身の体裁を保つため、意中の人に気持ちを伝えるため、あの手この手でパートナーの打診をする様子が散見されるのだ。だいたいの生徒は花や装飾品の贈り物を渡してエスコートを申し込むことが王道らしい。廊下や中庭でそれらしい会話をする男女を散見している。


「ほら見ろ、ウィンセント。あの生徒は同伴者が決まったようだぞ。」


 アーノルド殿下がおもしろいものを見たとばかりに肩で中庭の方を指す。見れば、一人の男子生徒が女子生徒に小さな花束を渡していた。あの二人は…確かバレンタイン公爵家の嫡男だったか。お相手の女子生徒は…見覚えがない、ということは男爵家か子爵家のものなのだろう。純朴そうな見た目をしている。柔らかく微笑んで男子生徒から花を受け取っている。


 次期公爵となる彼が身分の低い女性をエスコート相手に選ぶなど、本当に大丈夫なのだろうか。公衆の面前でダンスを披露するなど、最早婚約者と宣言していると捉えられても仕方のない事態になってしまうが。


「ところでお前は誰を誘う予定なんだ?ウィンセント。」


 アーノルド殿下が首を傾けて聞いてくる。そちらが本題か。アーノルド殿下の顔を見て理解した。そうか、今の光景をみせることで、身分を気にせずアイナ・シュタインを誘え、と言いたいのか。回りくどい御方だ。いや、私を気づかって直接言うのはやめたのだろう。きっと私の悩みに少なからず気づいていらっしゃるのだ。


「…特には、考えていません。私はアーノルド殿下のエスコートがありますので。」


 思ってもいないことを口走ってしまった。なんだ、アーノルド殿下のエスコートって。確かにアーノルド殿下は安易に相手を誘えない都合上お一人での参加の可能性が高い。だからといって、


「ははっ。馬鹿を言うなウィンセント。私はもうパートナーは決まっておるよ。」

「…?すみません、チョットナニヲオッシャッテイルカワカリマセンデシタ。」

「だから、私はもうハイネ嬢をお誘いして了承をいただいた、と言ったんだ。」


 私を試すように片目を細めて言ってきた。ハイネ嬢ってオーランド伯爵令嬢のことか。確か領民想いで平民とも分け隔てず接し、目上の者にも臆せず発言する強い意志を持つと評判の令嬢だったはずだ。緑の宝石を思わせる瞳から"翡翠の貴婦人"なんて呼ばれていたはず。


 なぜ、彼女を誘ったのだ。どこでアーノルド殿下とそこまで仲を深めていたのか。そもそも顔見知りだったのか。気品ある令嬢とはいえ伯爵家では位が足りていないのではないだろうか。アーノルド殿下は何をお考えなのか。それよりもアーノルド殿下にはパートナーがもういる?おまけに今ファーストネームで呼んでいなかったか?私の知らない間にお二人の間に何があったのだ?私の顔に浮かんだ疑問を解消するためにアーノルド殿下が説明してくださった。


「なに、つい先日生徒会とハイネ嬢の所属する戦闘応用魔術会と感謝祭でのパレードに関する打ち合わせがあってな。彼女の実直さと誠実さに意気投合してしまってな。お互い後夜祭の相手がいないということで共に参加することになったのだよ。」

「アーノルド殿下は気軽に女性をお誘いできる御立場ではないとおもうのですが。」

「その点も問題はない。なんでもハイネ嬢は将来的に伯爵位を継ぐつもりらしいのでな、互いに家を継ぐもの同士、後腐れもない。私も未来ある令嬢を巻き込むほど浅慮ではないよ、ウィンセント。」

「女性が伯爵位を継ぐ?」


 この国では爵位は男しか継ぐことができない。娘しかいない家は婿を招き、その者に爵位を譲り渡すのが慣例だ。翡翠の貴婦人とは傍目でしか見たことがないが、わざわざ慣例を覆して伯爵位を自分が継ぎたいと思う深い事情でもあるのだろうか。


「ああ、前例はないが彼女の考えに胸を打たれてな。私がハイネ嬢とダンスを披露することで、後ろ盾に王家がいると表明する意図もあるのさ。」

「オーランド伯爵令嬢の考えとは?」


 アーノルド殿下の発言に思わず食いついてしまった私に、ふっとアーノルド殿下が笑う。


「それに関しては彼女に直接ききたまえ。お眼鏡に叶えば教えていただけるだろうよ。」

「そうですか…」

「まぁ、彼女も目的達成のための手段として、おいそれと自分の理想をひけらかすような安直な方法はとらないだろう。お前次第だな。」

「はぁ。」

「ああ、意中の女性も誘えないような腰抜けでは厳しいだろうがな。」

「?違いますよ。」


 アーノルド殿下が隙ありとばかりにアイナ・シュタインの話を持ち出してきた。私にとってアイナ・シュタインは意中の女性とはいえない。私の中で燻ぶるこの気持ちに整理がつくまでは。


「はは、お前も頑なだな。…彼女はゆくゆくは国を支える素晴らしい御仁になるだろう。今の内に恩を売っておいて損はない。お前も、私も、な。」


 アーノルド殿下は打って変わって王族としての意志を宿した表情をして言った。そこまでアーノルド殿下の心を動かす何かがオーランド伯爵令嬢にはあったのだろうか。今の発言は、お前も彼女の信頼を買っておけ、という意図が込められていた。


「ま、今のお前はそれどころではないか。」

「それは…」

「さぁ、そろそろ食事時だな。腹も空いたし食堂へと向かうとするか。」


 アーノルド殿下は私の反応を笑い飛ばして食堂へとさっさと向かってしまった。

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