第20回 最後の戦い
デモスの森の外れでは現在、大勢の騎士達とモンスター達が入り交じり、類を見ない程の大規模な戦闘が行われていた。
「そこだ!」
「この!」
インセクト・ブランチに向かって、果敢に戦いを挑む2人の騎士。数で勝る彼等は瞬く間に怪物を仕留める。
「遅い!」
モートンは素早い身のこなしでヘチマンに近づいて短剣を突き立てる。彼の迅速な攻撃はモンスターの息の根を確実に止める。
戦闘が混迷化する中、ハンミョンとモドキモンキーがゼノンに向かって襲い掛かる。しかし、怪物の強襲を受けても彼は動じることはない。
「無駄だ!」
愛用の長剣でハンミョンとモドキモンキーを一閃するゼノン。瞬く間に2体のモンスターを仕留めることに成功する。流石はガイスト王国騎士団長と言ったところであろう。
そして、ガイスト王国騎士団とモンスターの集団が衝突している頃、別の場所では1つの戦いが幕を開けようとしていた。
眼前に立ち塞がるウォズ。巨大な敵を前にして、轟のハルバードを構えるデュルケム、愛馬のライムに跨った状態で鋭のランスを構えているミント。ガイスト王国を騒がせた異変の最後の戦いが始まる。
「ガアアアアアッ!!」
鋭利な爪でデュルケムを引き裂こうとするウォズ。これまでと変わることのない単調な攻撃であるが、今までよりも力を得ているためか、勢いや速度が尋常ではなかった。
「ぐっ!!」
ウォズの攻撃を轟のハルバードで真正面から防御するデュルケム。以前のように捌こうとすれば、こちらが力負けてして得物を落としていたことだろう。
だが、ウォズの力は途轍もないものであり、デュルケムは今にも押し合いに負けそうであった。
力と力の推し合いで両者が拮抗する中、デュルケムに助け舟を出す者がいた。それは一緒に戦っているミントであった。
「隙だらけよ!」
鋭のランスでウォズに攻撃を仕掛けるミント。相手の虚を突いた彼女の攻撃は相手の右肩に直撃する。
「グガッ!!?」
次の瞬間、叫び声を上げているウォズ。確かにモンスターを捕食して力を得たが、ミントによる攻撃は確かに効いているようである。
「グガガガ……ジャマ……!」
ミントからの攻撃を受けて怒りを募らせるウォズ。それと同時に悪魔は両眼を不気味に光らせる。
「!!」
ウォズの発した光を浴びるミント。一見、何てことはなさそうであったが、彼女の身に異変が起こる。
「あ、ああぁぁぁぁぁっ!!」
次の瞬間、両手で顔を抑えながら悲鳴を上げてしまうミント。その時、鋭のランスを地面に落してしまう。
熱い。全身が熱い。それと同時に虫が全身を這うような感覚に陥る。身体と精神がグチャグチャになりそうだ。
「ミント!」
正気を失いつつあるミントに呼びかけるデュルケム。しかし、彼の呼びかけに相手は一向に返事をしようとしない。
「あの時と同じか!」
即座に状況を理解するデュルケム。それと同時に彼は廃墟となった砦での出来事を思い出していた。
かつて、ウォズの不気味な力により、奴隷と化してしまったスカーレット隊。まさにあの時と同じ事態がミントの身に起こっているのだ。ましてや、1度は支配下に置いたことのある相手である。操ることは容易いのかもしれない。
「ああああああ!」
昂ぶる身体と精神を制御できないでいるミント。その時、彼女はバランスを崩して、愛馬のライムから落馬してしまう。
「危ない!」
急いで駆け寄るデュルケム。寸でのところで彼は地面に落ちそうになるミントを受け止めることに成功する。
「許せ!」
「!!?」
次の瞬間、デュルケムはミントの首に当て身を喰らわせる。ウォズの力から逃れるためには、彼女の意識を失わせるより他はない。
その後、ミントの身体を抱きあげた後、別の場所に安置させるデュルケム。戦いに巻き込まれないようにするためである。
「いくぞ!」
轟のハルバードを構え直して、ウォズを正面から向かい合うデュルケム。ミントが戦えない現在、彼1人だけで強大な悪魔と戦わなければならなかった。
「ムンッ!」
「くっ!?」
力に任せたままデュルケムに打撃を見舞おうとするウォズ。一方、彼は迅速な動作で攻撃を避けるものの、それが精一杯の状態であった。
「(どうする……?)」
ウォズと距離をとりながら次の一手を思案しているデュルケム。力も速さも相手の方が上である。しかも、一緒に戦ってくれていたミントもいない。この暴悪な悪魔に対し、どう戦えば良いのだろうか。
「ブルルルル!」
その時、馬の鳴き声がデュルケムの耳に入ってくる。彼が視線を向けた先、そこにはミントの愛馬であるライムがいた。
「ブルル!」
鳴き声を上げた後、デュルケムに向かって、何やら首を振るう動作を行うライム。まるで彼に背中を預けると言わんばかりである。
「乗れってことか……」
すぐさまライムの意図を理解する。そう、ミントの愛馬は戦えない主人に代わり、自らが戦いに赴こうとしていた。そして、自身の背中をデュルケムに預けることにしたのである。
「すまない。力を借りるぞ!」
ライムに断りを入れた後、素早い動作で騎乗するデュルケム。そのまま彼はミントの愛馬の手綱を握る。
ライムの背中に跨ってウォズと対峙するデュルケム。それは御伽噺等に登場する悪魔と対決する騎士そのものであった。
「!!」
次の瞬間、口から火炎を吐き出すウォズ。その火力は触れた物を炭化させるほどのものである。
「当たるか!」
巧みな手綱捌きをもってライムに指示を送るデュルケム。彼の的確な指示でウォズの攻撃を回避することに成功する。その動きはミントと同等か、あるいはそれ以上かも知れない。
馬術に関しては、幼い頃から父の指導を受けており、騎士団でも訓練を重ねてきたデュルケム。この程度のことは動作もないことであった。
「デュルケム!」
すると突然、デュルケムの名を呼ぶ声が聞こえてくる。彼が視線を向けると、ミントが使っていた鋭のランスが投げ渡される。
すぐさま鋭のランスをキャッチするデュルケム。彼の視線の先にはゼノンが駆けつける様子が見えた。そう、先程の行為は騎士団長によるものであった。
そしてまた、騎士団長のゼノンだけではない。モンスター達を倒すことに成功した騎士達が次々とこの場に駆けつけていた。
「デュルケム、焦る必要はない。俺達がいる……後は分かっているな?」
「“物事はスマートに運べ”ですね……了解しました」
ゼノンからの激励の言葉に対し、落ち着いた様子で返事をするデュルケム。これは彼等が常々モットーとしている言葉だ。それと同時に彼は手にしていた轟のハルバードを宙に投げる。
それだけではない。デュルケムは断のダガーを引き抜いたかと思えば、ウォズに向かって勢いよく投擲する。そしてまた、麗のレイピアも同様に投擲する。
すると次の瞬間、断のダガー、麗のレイピア、轟のハルバードが不規則な軌道を描きながらウォズに襲い掛かる。まるで自らの意識を宿しているかのようだ。
「そうか……剛竜の鎧の念動機能を使ったのか……」
この時、目の前の状況を理解するゼノン。そう、デュルケムは剛竜の鎧の念動機能を用いて、ウォズに攻撃を仕掛けていたのである。
「グムッ!?」
目にも留らぬ速さで近づいてくるデュルケムの武器に驚きながらも、巨大な手で叩き落とそうとするウォズ。この時、彼の手は確かに攻撃の軌道を読みとっていた。
ところが、迎撃が成功する寸前、断のダガー、麗のレイピア、轟のハルバードは軌道を変えて、それぞれ別々の角度からウォズに襲い掛かる。
「グガッ!?」
次の瞬間、ウォズの肩を断のダガー、頬を麗のレイピア、さらに胸部を轟のハルバードが切り刻む。それと同時に巨大な悪魔の身体からは毒々しい血が出る。致命傷には至らないものの、確かな損傷を与えることはできたようだ。
「皆、あの怪物に攻撃を!早く!!」
ウォズが損傷を受けた姿を見た途端、騎士団の仲間に追撃を依頼するデュルケム。今こそ勝負を決めるには絶好の機会であった。
「よし、全員、奴に剣を投げつけろ!」
この場にいる騎士達に指示を出した後、自らもまた、手にしている剣をウォズに向かって投擲するゼノン。
そしてまた、騎士団長に続く形で他の騎士達もまた、自身の手にした剣をウォズに投擲してみせる。
そして、ガイスト王国騎士団の騎士から投擲された無数の剣がウォズに襲い掛かる。それはまるで罪人を裁くための針串刺しの刑であった。
「……」
無言の状態で精神を集中させているデュルケム。現在、彼は剛竜の鎧に内蔵された念動機能を発動させていた。念動機能で操作する物、それは騎士達が投擲した剣であった。
すると突然、騎士達の投擲した剣の勢いが増す。剛竜の鎧の念動機能によるものである。これは威力と速さは格段に増しているはずだ。
「グオオオオオオオッ!!」
次々と襲い掛かってくる剣に対し、怒声と共に叩き落とそうとするウォズ。悪魔の剛腕で何本かは叩き落とせたが、全てを防ぐことはできず、次々と剣が突き刺さっていく。
そして、気がついてみれば、ウォズの巨大には無数の剣が突き刺さっていた。同時に刺さった箇所からは毒々しい血が滴り落ちる。それはまさしく醜悪な剣山とも形容できるだろう。
「フンヌッ!!」
気合の叫びと共に全身に力を込めるウォズ。その途端、悪魔の身体に刺さっていた剣が全て抜け落ちる。そしてまた、夥しい量の血が噴き出すことになる。
「……」
すると、その場に膝を突いてしまうウォズ。刺さっていた剣を無理矢理引き抜き、大量の血を出してしまったことによる代償であった。悪魔にはこれまでの勢いは見られず、急激に力が損なわれていることが見てとれる。
「今だ!スパーキング!!」
この機会の逃す訳には行かない。デュルケムは構えた鋭のランスに自身の生命エネルギーを注ぎ込む。この時、長時間の戦闘や念動機能の使用等により、彼は心身の限界に近づいてきたが、気力を振り絞って己を奮い立たせていた。
デュルケムの気迫に感応するようにして、鋭のランスには稲光のような光が宿る。これで準備は整った。手綱を握った彼はライムと共に突撃を仕掛ける。
「うおおおおおおおおっ!!」
勢いに乗った状態でウォズの頭部に向かって、眩い光の宿った鋭のランスを繰り出すデュルケム。持てる力を全部出し尽くした文字どおり最後の攻撃だ。
「ガッ!?」
敵の攻撃に気がついたのか、慌てて防ごうとするウォズ。しかし、デュルケムの攻撃の方が速く、鋭のランスの穂先が巨大な悪魔の頭部を貫く。
それはまさしく一瞬の出来事であった。全力を込めたデュルケムの攻撃により、ウォズの頭部は粉々に砕け散り、そのまま巨大な身体は地面に倒れ込んでしまう。
ついにウォズを倒すことに成功した。デュルケムは倒した相手の亡骸を黙って見ている。気がつけば、彼の傍には騎士団長のゼノンの姿もある。
すると思いもしない出来事が起こる。巨大な悪魔の身体はどんどん縮小していき、そこには全裸の男性の死体が転がっていた。恐らく、これが本来のウォズの肉体なのだろう。
随分とみすぼらしい体つきをした男の死体である。そしてまた、首から上はデュルケムに破壊されているのでなかった。
「これが力と欲望に溺れた者の末路か……」
「……」
最早、何も語ることのないウォズの死体を眺めつつ、誰に言う訳でもなく呟いているゼノン。一方、デュルケムはただただ沈黙を貫いている。そしてまた、彼の表情は実に難しげであった。
こうして、ガイスト王国を騒がせていた異変は終わった。しかし、そこには勝利の歓喜などはなく、ただ騎士団としての役目が1つ終了しただけであった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
もう少しでこの物語も完結となります。
お付き合いいただければ幸いです。




