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第21回 次なる道程

 ガイスト王国の玉座の間。最深部の玉座に坐しているガイスト王、すぐ傍に控えているリー。そしてまた、2人の眼前には臣下として膝を突いているゼノンとデュルケムの姿があった。


「この度はご苦労であった」


「はっ」


「はっ」


 リーからの労いの言葉に対し、手短に返事をするゼノンとデュルケム。今回、2人はウォズの討伐が成功したことをガイスト王に報告するために謁見していた。


「特に剛竜の鎧は存分の力を示したそうだな」


「そのとおりでございます」


 ガイスト王からの言葉に対し、頭を下げた状態で答えるゼノン。実際、剛竜の鎧の力がなければ、ウォズを倒すことはできなかったであろう。


「これならば、剛竜の鎧を量産しても良さそうだな」


「……」


「……」


 ゼノンからの返答を聞いて、何やら思案しながら言葉を口にするガイスト王。剛竜の鎧の性能に大変満足しているようだ。一方、ゼノンとデュルケムは沈黙を貫いている・


 その後、異変の事後処理について、リーから指示を受けた後、ガイスト王への報告は終了する。1つの仕事を終えたゼノンとデュルケムは玉座の間から退出するのであった。


 騎士団長の執務室。ここでは団長席に座っているゼノン、目の前に立っているデュルケムが重要な話し合いを行っていた。


「それでお前の決心は変わりないのだな?」


「はい」


 何時になく真剣で険しい表情で問い掛けてくるゼノン。対するデュルケムも真剣な表情で答えてみせる。


 今しがたデュルケムはゼノンにガイスト王国騎士団の辞職を申し出ていた。彼の決断は騎士団長にとって衝撃的な出来事であった。


「お前は優秀な騎士だと思っていたんだが……何があったんだ?」


「一言で言えば、分からなくなってしまったんです……」


 ゼノンからの問いに答えるデュルケム。彼の脳裏には現在、様々な出来事が浮かび上がっていた。力と欲望に溺れて滅んだウォズ、勝利を機に軍備を拡大するガイスト王、一見、違うようで似ている気がしていた。


 このまま先に進めば、何時の日か取り返しのつかないことになる。デュルケムは直感的に感じていた。だからこそ、彼は騎士団の辞めることを選択したのだ。


「騎士団を辞めた後はどうするつもりだ?」


「まずは故郷に戻ります。そこで色々と考えるつもりです」


 騎士団を辞めた後のことについて、ゼノンに説明するデュルケム。今やガイスト王国騎士団の中でも指折りの騎士となり、剛竜の鎧の運用やウォズ討伐の成果も出してきた。

 ガイスト王国騎士団として、それなりの結果は残すことはできた。それならば、故郷の実家に戻ったとしても、体面を保つことはできるだろう。今一度、出発点に戻って己を見つめ直すこともいいだろう。


「成程な。お前のような騎士を失うのは残念だが。心に迷いを持った者を騎士団に留めておいてもロクなことにならないしな……」


 デュルケムからの話を聞いた後、頭をポリポリと掻きながらゼノンは言う。心に迷いがある者がいれば、騎士団としての士気にも関わってくる。これは見かけ以上に大きな問題であった。そうであれば、彼の申し出を素直に受け入れる方が得策だ。


 そしてまた、ゼノン自身、口には出さないでいるが、ガイスト王国の方針に違和感を抱いていた。必要以上に力を求めれば、さらなる力を呼び込むことになり、やがては大きな争いと災いを呼び込むことになるだろう。そのことを考えれば、デュルケムの判断は正当なものとも言えるだろう。


「さて、騎士団を辞める以上は速やかに去ってもらわないとな……明日までに荷物を纏めて出ていくことはできるか?」


「はい。問題ありません」


「そうか。お前との過ごした日々は充実したものだった」


「私もです……」


 この時、ゼノンとデュルケムの脳裏には、ガイスト王国の騎士団で過ごした日々のことが鮮明に思い出される。実に色々な出来事があったが、今にしてみれば、一瞬の出来事であった。


「もう2度と会うこともないかと思うが、元気でやれよ」


「有り難うございます。団長もお元気で」


 ゼノンからの餞別の言葉に対し、感謝の言葉を述べた後、デュルケムはお辞儀をして執務室を後にする。そして、両者が視線を交えることはなかった。


 この日、デュルケム=プロムナードはガイスト王国騎士団を辞職した。果たして、これが騎士団にとって良かったのか、あるいは悪かったのかは誰も分からない。ただ、この選択は彼自身の選択で行われたことは間違いなかった。


 私の意識は深い闇に落ち込んでいた。悪魔の魅惑的な力により、身体と精神が乗っ取られそうになる時、思いもよらぬ形で意識を失ったのだ。


 闇の中、私の前にビジョンが映し出される。それは暴悪な悪魔と対峙する1人の騎士であった。しかも、彼は私の愛馬に跨り、私の武器を使っている。そう、私と共に戦ってくれているのだ。


 やがて、私の槍で悪魔の頭を貫く騎士。それはまるで戦えない私の無念をやり遂げてくれたかのようであった。


 その後、私は意識を取り戻す。気がついてみれば、既に戦いは終わっており、打倒するべき敵は私の仲間が討った後であった。


 この時、私は悟った。これ以上、私は騎士として生きていくことはできない。打倒するべき者を打倒できなくて何が騎士なのであろうか。


 そしてまた、私は騎士団長から1つの事実を知らされることになる。それは苦楽を共にした仲間が騎士団を去ったことであった。


 たった独り残されてしまった私。このままではいられない。私のとるべき道は決まっていた。


人どおりのない街道。現在、この道を1人の男が歩いていた。それは旅装束に身を包んだデュルケムであった。


 ガイスト王国騎士団を辞職した後、王都を後にしたデュルケム。彼は独り故郷までの道程を歩んでいた。


「(静かだ……)」


 人気のない街道を歩いている中、不意にデュルケムは思う。案外、こういう静寂こそが安らげる一時なのかもしれない。


 故郷に向けて黙々と歩き続けているデュルケム。ふと、馬の駆ける音が耳に入ってくる。しかも、心なしか、その音はだんだんと大きくなっている気がする。


 すると突然、馬の唸り声がデュルケムの耳に入り込んでくる。慌てて彼が視線を向けると、そこには愛馬のライムに跨ったミントの姿があった。そして、現在の彼女の格好であるが、騎士団に所属している時の服ではなく、簡素な造りのドレスに身を包んでいる。


「ミント……どうして?」


「はぁはぁ……私、今……はぁはぁ……怒ってるの……」


 戸惑いと困惑の表情を浮かべるデュルケムからの問いに対し、荒い呼吸のままで答えるミント。彼女の様子を見る限り、相当急いで駆けつけたらしい。


「怒ってる?」


「そうよ。どうして、私に黙って騎士団を辞めてしまったのよ?」


「俺は……騎士団のあり方に疑問を持ってしまった。だが、ミントは騎士を続けたいのだろう?ならば、もう歩む道は別のはずだ」


「良いのよ、そんなこと」


「そんなこと?どういうことだ?」


「……私も今回のことで分かったの。私に騎士を続けることは無理だって」


 素直に己の心情を打ち明けるミント。肝心のウォズとの最後の戦闘において、まとも戦うことさえもできなかった。この時点で自身の騎士としての限界を知ってしまったのだ。


「だとしても、何故ここに?」


「貴方と一緒にいたいからよ……私自身、もう実家とは勘当同然だし、騎士団を辞めてきたわ」


 事もなげに語ってみせるミント。デュルケムが騎士団を辞めた後、彼女もまた騎士団を退団して追いかけてきたのだ。騎士としての地位や装備もなければ、実家のシュイヴァン家の後ろ盾もない。残っているものといえば、現在着用しているドレスと愛馬のライムぐらいのものだ。


「……俺はこれから故郷に戻る。これから、待っているものは退屈な田舎暮らしだ……ずっとな」


「望むところよ。かかってきなさい」


 デュルケムからの念押しの言葉に対し、屈託のない表情で答えるミント。彼女も既に覚悟はできているのだ。でなければ、今、この場にはいないだろう。


「分かった。今後ともよろしく頼む」


「任せて!」


 デュルケムの呼びかけに対し、ウィンクと共に返事をするミント。2人にこれ以上の言葉は不要であった。


 それから後、愛馬に跨るミントの傍に寄り添うデュルケム。端から見れば、お転婆なお嬢様と従者のようにも見えなくはない。


 やがて、ガイスト王国の一地方へと向けて、歩みを再開するデュルケムとミント。彼等の道程はまだ始まったばかりであった。


FIN

以上で完結となります。

これまで読んでいただきまして誠にありがとうございました。

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