第18回 討伐任務
ガイスト王国騎士団長の執務室。ここには現在、ゼノンと向かい合うデュルケムとミントの姿があった。
今回、デュルケムとミントが執務室に呼ばれた理由、それは騎士団長であるゼノンによる直々の指示であった。恐らく余程の理由があるに違いないないだろう。
「デュルケム、ミント、ここに集まってもらったのは他でもない。ウォズがいると思われる場所が分かった」
ゼノンから告げられる一言に息を飲むデュルケムとミント。もしも、ウォズの居る場所が判明したとなれば、今回の騒動は一気に終わりへと近づく。
「奴は恐らくデモスの森にいる」
静かに告げた後、事情を説明するゼノン。宮廷魔道士によれば、ここ数日、デモスの森の瘴気が急激に強まっているのだと言う。しかも、その瘴気は以前、ダロスの荒野北端で感知したものと同じものらしい。
「そこにウォズがいる確証はどこにもない。しかし、デモスの森で何かしらの異変が起こっていることは間違いないだろう」
淡々とした様子で語るゼノン。対するデュルケムとミントも黙って聞いているが、考えていることは騎士団長と同じであった。ゼノンの森に何かあると踏んでいた。
「たった今より討伐隊を編成して出撃する!デュルケムとミントも直ちに準備してくれ!」
「了解!」
「了解!」
ガイスト王国騎士団を率いる団長として、デュルケムとミントに向けて出撃命令を下すゼノン。対する2人も騎士として簡潔に返事をしてみせる。
その後、すぐさま執務室を退出した後、準備に着手するデュルケムとミント。他の騎士達も慌ただしく動き回っている。
やがて、剛竜の鎧を装備したデュルケム、錬の鎧を装備したミント。準備を整えた騎士団長のゼノン、他の同僚の騎士達と一緒に騎士団の詰所を出立するのであった。
デモスの森付近の平原。本来、この場所は比較的安全なはずであるが、今は異様な雰囲気に包まれていた。大気は重く澱んでおり、上空は不気味な暗雲に包まれていた。この様子は以前のダロスの荒野北端と近しいものがある。
変貌した平原の中を進軍しているガイスト王国騎士団の討伐部隊。騎士団長であるゼノンが先頭に立ち、その脇をデュルケムと愛馬のライムに乗ったミント、後方を大勢の騎士達が追随している。
「いよいよ、デモスの森が見えることになる。決して油断するな」
配下の騎士達に指示を出すゼノン。相手がウォズであれば、どんなことを仕掛けてくるか分からない。以前、奴隷同然と化したスカーレット隊の件もある。油断は厳禁だ。
行軍の最中、デュルケムはふとミントの方へと視線を向ける。彼女はいつもどおりを装っているが、心なしか身体が僅かに震えている。
「どこか具合でも悪いのか?それとも怖いのか?」
「平気……って言えば、嘘になるわね。少し前のことを思い出していた」
デュルケムからの問い掛けに素直に答えるミント。彼女自身、スカーレット隊での苦い経験がある。簡単には払拭はできないだろう。
「大丈夫と言える保証はできない……だが、できるだけのことはすると約束しよう」
「うん、ありがと」
デュルケムからの気遣いの言葉を聞いて、少しだけ顔を柔らかくして答えるミント。このまま進軍が進むと思った時であった。
「いやあああああっ!」
突然、どこからか女性の悲鳴が響き渡る。思わぬ事態に騎士団はその場で動きを止める。しかし、異変はそれだけで終わらない。
「~~~~!」
今度は赤ん坊の泣き叫ぶ声が聞こえてくる。まるで母親ではなく、他の誰かに助けを求めているかのようである。
「……」
今しがたの悲鳴を聞いて沈黙しているゼノン。今回の目的はデモスの森に蔓延する瘴気の排除である。ガイスト王国に仕える者として、自らの役割は全うしなければならない。
しかし、我々は騎士である。か弱き者が襲われているのであれば、真っ先に助けなければならない。それこそが騎士の本懐である。
王国から命じられた役目を優先するべきか、あるいは騎士としてのモットーを貫くべきなのか、騎士団を率いる者として、素早い決断を迫られるゼノン。
「ミント……」
「分かっているわ」
お互いに頷き合った後、1歩前へと踏み出すデュルケムとミント。騎士団長のゼノンは勿論のこと、他の騎士達の注目も2人の方に注がれることになる。
「何をするつもりだ」
「決まっています。救援に向かいます」
ゼノンからの問いに対し、さも当然のように答えるデュルケム。彼は騎士としてのモットーを優先しようとしていた。
「勝手に動くことは命令違反だぞ」
勝手に動こうとするデュルケムを咎めるゼノン。無論、彼の騎士道を重んじる行為は理解できる。しかし、騎士団を率いる者として、独断行為を許す訳にはいかなかった。
「それでは団長、進言します。我々は救援に向かい、団長はこのままデモスの森に向かってください」
「続いて進言します。先程の悲鳴ですが、もしかすると、デモスの森で起こっている出来事と関係あるかもしれません」
二手に分かれることを提案するデュルケム。合わせてミントも彼を擁護する言葉を付け加える。
「……よかろう。許可する」
デュルケムとミントの進言を受け入れるゼノン。確かに二手に分かれれば、王国からの命令も全うできるし、騎士としての役割も全うできる。また、何かしらの情報も掴めるかもしれない。
「だが、これ以上戦力を分散することはできん。デュルケム、ミント、お前達だけで何とかするんだ」
「はっ!ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
念押しの言葉を付け加えるゼノン。一方、デュルケムとミントは進言を受け入れたことについて感謝の言葉を述べる。
そして、デモスの森への行軍を再開するガイスト王国騎士団。助けを求める声の方へと急ぐデュルケムとミント。それぞれの戦いが始まろうとしていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
完結に向けて頑張ります。




