第17回 怪物を喰らう愚者
ガイスト王国が富国強兵政策を行う以前、この国はまだまだ弱小国家の1つであった。首都もそれほど賑わっておらず、騎士団も強くはなかった。
冴えない弱小国家の首都で1人の男が生まれた。彼はそれなりに裕福な商人の息子であった。長子ということもあってか、何不自由なく育てられた。
何不自由することのない環境。食べたい物を食べることができ、遊びたい時には遊ぶことができ、女を抱きたい時には抱ける。次第に歪な環境は男の内なる欲望を増大させることになった。
やがて、成人した男は両親の知人の商人のところで働くようになる。ゆくゆくは実家の店を継いで欲しいという親の意向によるものであった。
ところが、そこで男は大きな過ちを犯すことになる。奉公先の店の女中に手を出してしまったのである。彼の犯した所業は奉公先の主は勿論のこと、実家の両親も激怒させることになる。
いくら、長子であっても奉公先の女中に手を出したともなれば、醜聞を免れることはできない。両親は男を実家から追い出し、彼の弟を後継ぎとすることにした。
跡取り息子か落後者へと一転した男。やけくそになった彼は自ら転落の道を歩むことになる。盗みを働き、奪って金で酒を飲む。欲情が渦巻けば、女を襲う。他人を顧みることなく、己の欲だけを満たしていた。
しかし、悪事が何時までも続く訳ではない。何時しか男の素性は割れることになり、ガイスト王国内で指名手配となった。
国すらも追われた男は洞窟の中へと迷い込む。そして、彼はそこで邪なる力と出会うことになった。
暗く閉ざされた森の中、男は肉を食らっていた。悪魔そのものと化した異形の男、最早、彼の姿は怪物そのものと言えた。しかも、喰らっている肉はただの肉ではなかった。
現在、男が貪り食らっているもの、ワニを彷彿とさせる姿をした怪物の亡骸であった。かつてはリゲイツと呼ばれるモンスターであり、噛みつきの力は目を見張るものがあった。
「マズイ……」
血まみれとなったリゲイツの肉を平らげる中、男は言葉を呻くように漏らす。実際、モンスターの肉は血の味しかなく不味いのだ。
酷く不味いにもかかわらず、男が食べる理由、それはモンスターしか食べるものがないからだ。そしてまた、この肉を食べていると、異様なまでに力が高まるのだ。
続いて男は何かを食らう。今度は虫のような怪物の亡骸である。ハンミョン、亡骸が生きていた頃の名前であり、昆虫のハンミョウを彷彿とした姿と特質を持つモンスターであった。
「マズイ……」
再び、男は唸りながら言葉を漏らす。先程と同様、ハンミョンも食べてみて不味い。全身に苦みが広がり渡る。
しかし、飢えを満たすためには、男は食べるしかなかった。そしてまた、ハンミョンの亡骸を食べているうち、男の中で邪気が渦巻き広がるのを感じた。
今、男が食べている物は全てこちらを襲ってきたモンスター達であった。圧倒的な力を持つ彼にしてみれば、モンスターを始末することなど容易いことである。
そして、己の中に生じる食欲の赴くまま、モンスターの亡骸を食べることにした男。そう、文字どおり自らの糧にしたのである。
やがて、男は全てのモンスターを食らい終える。すると、どうであろうか、彼は自身の中で毒々しい力が循環しているのを感じる。まるで異形と怪物と一体化しているかのようだ。
確かにモンスターの亡骸はこの上なく不味かった。しかし、それと引き換えに男は今まで以上の力を得ることに成功した。
狂気に満ちた食事を終えて、その場から立ち上がる男。それと同時に彼の周囲からは邪なオーラが発せられる。
やがて、男の周囲に何かが集まり始める。エスカルゴン、ヘチマン、インセクト・ブランチ、この森に生息するモンスター達である。
まるで王に服従する家臣のように男へと集うモンスター達。彼等の中には同胞を食われたリゲイツやハンミョンもいた。今や憎むべき敵ではなく従うべき主なのである。
モンスター達を支配下に置くことに成功した男の名前はウォズ。現在、ガイスト王国で最も危険視されている男である。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
完結まで頑張ります。




