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第七章 学園防衛戦

 セフティーヌ学園の正面門が吹き飛び、勇者タカシ率いる異界の『転生者軍勢』五百名が乱入した直後――校庭は、まさに修羅場と化していた。学園の生徒たちは、いずれもヴォルクレイス皇国から選りすぐられた魔族のエリートたちである。四天王の血を引くアールト・シャプティーナをはじめ、魔王長女のクレア・ル・トロイ、そして幾多の修羅場を潜り抜けてきた熟練の教師陣。彼らは即座に迎撃陣形を組み、多重複合結界と高位の属性魔術を展開して侵入者を迎え撃った。本来であれば、どれほど洗練された人間界の騎士団であっても、魔族最高峰の学園防衛陣を破ることなど不可能である。しかし相手が持つ『チートスキル』と『現代知識』という理外の存在は、その常識を根底から打ち砕いていた。「ハハハハハ! 無駄無駄無駄ぁ!お前らの魔法なんて、俺様の『スキル:魔術概念相殺(マジック・キャンセル)』の前には意味ねえんだよ!」先陣を切って突撃してきたのは、大剣を掲げた転生者の一人であった。結界魔法担当のヴァルディ教師が放った特級の拘束結界が、男の身体に触れた瞬間、パリンとガラスのように砕け散る。「な……なに!?詠唱も陣の構築もなく、我が絶対結界が消去されただと……!?」ヴァルディが目を見開いた刹那、別の転生者が放った異形の武器――現代知識を元に異界の魔導鉱石で再現された『魔導連発自動小銃(アサルトライフル)』が火を噴いた。



タタタタタタタンッ!



 魔力の弾丸が超音速で空気を引き裂く。魔導士の詠唱速度を遥かに凌駕する圧倒的な「物理的連射速度」。教師陣の防壁は一瞬で蜂の巣にされ、前線に立った実力派の教師たちが次々と血を流して倒れ伏していった。「くっ……!詠唱の隙を与えない連続物理攻撃に、魔力そのものを無効化する特殊能力……!?なんだあのデタラメな戦術は!」物陰に隠れたアールト・シャプティーナは、ガタガタと全身を震わせていた。四天王の息子としての誇りを胸に、アールトもまた前に出ようとした。しかし、視界に飛び込んできたのは、同級生のエリート魔族たちが「ステータス閲覧」や「絶対命中」といったチート能力の前に、一方的に蹂躙されていく絶望的な光景であった。「おいおい、魔王学校のエリート様も大したことねえな!俺たちの『現代兵器知識』と『チート能力』の組み合わせには勝てねえよ!」「ハハハ、経験値稼ぎにちょうどいいぜ! おい、あっちの赤髪の女も早く捕まえろ!」転生者たちの下品な嘲笑が、校庭に響き渡る。「ふざけるな……ふざけるなアアアアッ!!!!」爆炎を破って飛び出したのは、魔王長女のクレア・ル・トロイであった。燃えるような赤髪を振り乱し、両手に限界以上の高熱魔力を宿らせる。十二歳にして一軍将校に匹敵する彼女の気魄は、周囲の空気を灼熱へと変えていた。「この誇り高きセフティーヌ学園を……魔王家の領地を汚す下等な侵入者ども!私の『極大灼熱波』で、灰すら残さず消し去ってあげるわ!」クレアが放ったのは、魔王家に代々伝わる最上位の火炎極大魔術。紅蓮の炎が奔流となって押し寄せ、転生者たちの前衛を呑み込もうとした。



その時。



 転生者軍勢の影から、眼鏡をかけた一人の男が前に出た。「ふん……『極大灼熱波』か。典形的な高火力魔術だな。だが、俺の『チートスキル:熱エネルギー吸収変換』の前では、ただの無限燃料だ」男が手をかざすと、クレアが放った渾身の紅蓮の炎が、まるで吸い込まれるように男の手のひらに集束し、一瞬で消滅してしまった。そればかりか、吸収した熱量が男の魔力へと変換され、周囲に強力な衝撃波となって跳ね返ってきたのだ。「きゃああっ!?」自らの魔力を利用された反動で、クレアは激しく地面へと叩きつけられた。「クレア!」兄のレオンハルトが即座に刀を抜き、妹の前に滑り込む。しかし、レオンハルトの鋭い居合い斬りも、相手の『未来予知スキル』と『絶対回避』の前に空を切るばかりであった。「くっ……!攻撃が……当たらない……!?こちらの動作が完全に読まれているというのか!」血を流し、膝を突くクレアとレオンハルト。校庭の中央では、勇者タカシが不敵な笑みを浮かべ、大剣を地面に突き立てていた。「ハハハ! 分かったかよ、魔族のドブネズミども!お前らが何百年かけて積み上げてきた魔法理論も、俺たちが神から貰った『チートスキル』と『現代の軍事知識』の前には、ただの古くさい玩具なんだよ!」勇者タカシは勝利を確信し、大剣を掲げた。「終わりだ!セフティーヌ学園!俺たちのチートの凄まじさを知ったまま、あの世へ行きやがれ!!」タカシが放ったチートスキル『絶対貫通撃』の超高熱光線が、絶望に伏せるクレアたちに向かって解き放たれようとした。まさに、その瞬間のことであった。



 「――あ、皆様。校庭でそんなに大きな音を出して遊ばれては、お掃除をする方が困ってしまいますよ?」



 静かで、可憐で、どこまでも朗らかな声が、戦場のあらゆる爆音を突き破って響き渡った。生徒たち、教師陣、そして勝ち誇っていた転生者たちが一斉に振り返る。破壊された校舎の瓦礫の上。そこに立っていたのは、栗色の髪を風に揺らし、素朴な麻の作業着のような服装(※または学園の制服)に身を包んだ一人の少女シャルレット・ル・トロイであった。その肩の上には、三十センチメートルの愛らしい姿となった漆黒龍ル・レットがポスンと乗っており、つぶらな紫色の瞳で不快そうに転生者たちを睨みつけている。「シ、シャルレット……!?」血を流すクレアが、驚愕の声を漏らした。「逃げなさい……!奴らは普通じゃないわ!私たちの魔法が一切通用しない、理外の力を持っているのよ……!」クレアの必死の制止。しかし、シャルレットはトコトコと瓦礫を駆け下りると、首をかしげてクレアたちの前に立ちふさがった。「通用しない……?いいえ、クレア様。あの方たちのお使いになっているのは、魔法ではありません」「え……?」シャルレットは澄み切った瞳で、勇者タカシたちが誇るチートスキルのオーラを見つめた。「あれは……魔力の結び目がグチャグチャに絡まって、今にも破裂しそうになっている『間違った魔力の手習い』です。お父様が仰っていました。『正しく学ばない魔力は、自分も周囲も傷つけるだけのゴミになる』と」「ゴ……ゴミだと……!?」勇者タカシが額に血筋を立てて叫んだ。「ふざけるなガキが!これは神から与えられた『チートスキル』だぞ!俺たち転生者だけに許された無敵の力だ!お前みたいな野良魔族に何が分かる!!」タカシは大剣を激しく振り下ろし、チートスキル『絶対貫通撃』をシャルレットへ向けて全開で放った。空間を削り取り、あらゆる防御を無視する絶滅の光柱。生徒たちが「危ない!」「シャルレット殿!」と悲鳴を上げる。だが、シャルレットは避ける素振りすら見せなかった。「お父様から教わった、正しく美しい魔力の結び方は……こうするのです」シャルレットは、可憐な右手の指先で、チョンと空中に触れた。



――その瞬間。



 世界から「音」と「法則」が上書きされた。タカシが放った『絶対貫通撃』の光柱が、シャルレットの指先に触れた瞬間。まるで一本の薄いリボンのように、綺麗に「解けて」しまったのだ。「な……なに……っ!?」タカシだけではない。五百名の転生者たちが展開していた『絶対回避』『魔術概念相殺』『熱エネルギー吸収』『自動照準』神から賜ったあらゆる『チートスキル』の数々が、シャルレットが指先をひと振りするごとに、ガラガラと音を立てて分解され、ただの「素朴で綺麗な魔力の粒子」へと還元されていく。「バ……バカな!? 俺のスキルが……俺のチートが消えていく……!?そんな魔法、この世界の理論に存在するはずがない!!」 転生者の一人が狂ったように叫ぶ。それに対し、シャルレットの肩に乗った三十センチメートルの漆黒龍ル・レットが、重厚な声で冷ややかに言い放った。『愚か者め。お前たちが「チート」と呼んで誇っていたものは、太古の神代においては『魔力の構造欠陥(バグ)』に過ぎん。正しく魔術の理(ことわり)を極めたシャルレットの前では、そのような雑な結び目など、解いて整えることすら造作もないわ』シャルレットはニコリと微笑むと、両手を胸の前で合わせ、軽く一回、手拍子を打った。



――パンッ。



 その澄んだ音と共に、五百名の転生者たちが保持していたすべてのチートスキルと現代知識の魔導兵器が、跡形もなく浄化され、一調の心地よい風となって大空へと消え去ったのである。校庭に、完全な静寂が訪れた。チートスキルを失い、ただのレベル一の凡人へと戻った勇者タカシと転生者たちは、己の手を見つめながら、ガタガタと震えてその場に崩れ落ちた。「あ……あ……俺たちの……無敵の力が……」エリート生徒たちや教師陣が苦戦を強いられた最悪の脅威『学園防衛戦』は、シャルレットの「正しく美しい魔力の手習い」によって、わずか数秒で完結したのだ。絶句するクレアとレオンハルト。アールトは言葉を失い、見学していた四天王たちは口を半開きにして開いた開いた口が塞がらない。そんな中、シャルレットはトコトコとクレアの元へ歩み寄ると、膝を突いてクレアの汚れを優しく払ってあげた。「クレア様、お怪我はありませんか?皆様が無事で、本当によかったです!」一切の不遜も、自慢気な色もない、どこまでも純粋な笑顔。クレアはその手を取られ、真っ赤になった顔を背けながらも、ボソリと呟いた。「……ほんと、あんたの『普通』は……デタラメなんだから……」こうして、セフティーヌ学園を襲った最大の危機『学園防衛戦』は、シャルレット・ル・トロイという絶対的な存在によって、見事に収束を迎えたのであった。



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