楽園
柔らかい水の匂いでニナは目を覚ました。懐かしい夢だった。父が亡くなった日の夢。
あれからもう二年と少し。ニナは明日で12歳になる。
あのあと、医官のお兄さんが条件を詰めてくれた。
なんでそこまでやってくれるのかって聞いたら、
「小さなレディが一人で頑張っている時に差し伸べない手なんか持ち合わせていないのですよ」
と言っていた。イケメン。
そこから、父の葬列に加わることなく
母と父と同じ、緑の宝石のはまった金の腕輪をつけられ私は楽園へとほうりこまれた。
初めは父と母が恋しくて、クリスと一緒に寝たくてわんわん泣いた。
その度どこからかあの上級魔法師が飛んできて、むすっとしながら隣にいるものだから、泣き止むのも上達した。
一緒にいてもらえばいいじゃないって?
とんでもない。
楽園では聖人は12歳まですっぽんぽんで過ごすのだ。
少なくとも九年下町で過ごしてきた私はその感覚に慣れるまで、時間がかかった。
下着も洋服もない。楽園はすっぽんぽんの聖人に合わせ全部の角がなかった。
柔らかいリネン、ふかふかのカーペット、ぷにっとした壁
危険がないとはいえ、すっぽんぽんは心許ない。
母が作ってくれたワンピースを返してってお願いしたが返してはもらえずまた泣いた。
すっぽんぽんのないている私をみた魔法師の顔は秀逸だった。
すっぽんぽんを男性に見られてさらに泣いた私を困った顔で、これで見えないと
自分の羽衣を目に巻き付け、私と背中合わせに座った。
もしかしたらこの人は人から優しくされたことがないのかもしれないと思った。
楽園は本当に「楽園」だった。
聖人はここで過ごすだけで国に大事にされる。
つまり衣食住が保障されたグータラパラダイスだった。
ただここには、両親とクリスがいないだけ。
聖人同士もほとんど出会わない。
12歳までは楽園の聖樹の力に聖人を馴染ませる期間なのだそうだ。
私のお世話をしてくれるのは聖樹の精霊、儚い人たちだ。男性型も女性型もいる。
私は一目見て大好きになったネーナを選んだ。ネーナは一言でいえばボンバインぼんのふかふか体型の精霊だった。決しておっぱい目的ではないことを公言しておく。
彼女たちは聖樹と共に消滅するので「儚い人たち」と呼ばれているが聖樹じたい五千年ほど生きているので長命なのに儚いって違和感があると思っている。
私の仕事は聖典を覚えること。男子は写経、女子は口伝。
ここの聖樹が歌う聖典を私はそのまま覚えた。
家族に会えない以外、素晴らしい環境。
下町から来たからっていじめられるのでは?とビビっていたがそれもない。
聖樹の下で寝転びながら父と母について考える。
ここに入って、二年精霊とあの魔法師以外には会ったことがない。
神官も見かけなければ、聖人もいない。
父と母はどうやって出会ったのか?




