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小さな手で

幼い手で母の手をトントンと叩き、魔法師の元に一歩踏み出し背の高いその人を見上げた。


「私がいく。母は選べない。でもお願いがあるの。

いやいや行くのではなく、きちんと言うことを聞くわ。

だから私のお願いも聞いて」


見上げた魔法師は南の海のような色の目を見開いて固まっていた。

首を傾げながら、自分の手をワンピースでゴシゴシ拭いてから魔法師の衣をくいくいひく。

金と黒の装飾に白の羽衣、間違いなく上位魔法師。

マーニャはダメだ。交渉は予想外のところから予想外の方法でしなければ。

AとBしかないのだと思ってはいけない。選択肢は無限大だ。

多分、私かクリスもしくは両方が行くことは決定事項だ。

そうしたらマーニャが、母が一人になってしまう。


私も一人は嫌だ。でも、二人のためなら頑張れる。

先手必勝。無理そうなお願いでも、150%提示してから絶対欲しいものを手にいれる。


ニナは自分が一番可愛く見える角度でお願いした。

サウスを骨抜きにしたおねだりポーズ。


パチクリと目を瞬かせた魔法師は

「検討しよう」

温度のない言葉でこういった。


ニンマリと笑って

必須条件を並べていく。

「母とクリスの衣食住の保障と安全」

「可」

「2人との面会」

「不可」

「私の食事と睡眠と健康」

「可」

「ここの支払い」

「可」

「連れて行かれるのが何か仕事なら報酬を頂戴」

「検討する」

「私の命」

「・・・」

どうやら命の保障はないらしい

私の後ろで、マーニャが息を飲み込む音が聞こえた


「最善を尽くそう」


「君は混じり気なき混じり物。まれびとの聖女か」


「ヒュッ」

上級医官、下町の医官のおじいちゃんが息を飲み込んだ


母のそばからチャリと金属音が聞こえる。


この世界には聖人がいる。

10-12歳、第2次成長期までに神聖力が発現した魔法師のことで主にこの国では治安維持に使われる。聖人は生きているだけで体から神聖力が漏れ出す。その神聖力を「楽園」が吸収し、空気中の魔素の安定と国を覆う結界に使用する。

常に楽園に神聖力を吸収されているので魔法師としてはほぼ成り立たない。その神聖力は聖人がつけられた腕輪によって履行する。

何世代までかは首輪だったらしいが、人道的な観点から腕輪になったらしい。

まあ、常に献血している状態と考えてほしい。首輪でも腕輪でもどっちもどっちだ。


聖人は10-12歳までに見つかり楽園へと招集され一生を終える。楽園は男性と女性のエリアで分かれており、ほぼ童貞処女のままで終えることがほとんどとされている。聖人は血統では引き継がれることはない。子供を産むと女性の神聖力が下落するのだ。なので、結婚が推奨されていない。神の一瞥で力が発現する力。

楽園で世情から隔離され、世間から隔絶され教育され力を搾り取られて一生を終えるはずの聖人。なぜか下町で暮らす浮世離れした美しい夫婦。


サウスとマーニャは楽園から出て結ばれた聖人の夫婦だった。

つまり、クリスとニナは本来ならばあり得ない聖人同士の夫婦から生まれた聖人のサラブレット。


二人は追跡されていた。前例のない聖人どうしの結婚。楽園が気づいた時にはマーニャの腹の中にはニナがいた。1箇所崩れればなし崩しだ。二人は楽園を出され人間の生活をすることになった。子を産むなら2人以上。つまりサウスとマーニャより多い神聖力を楽園に捧げるという契約をして。


12歳から聖典を誦じ、聖歌をうたい、花をめで、聖水と楽園で取れたものだけで生活してきた二人からすれば、どうしていいかわからないものだった。座っていても食事が出てこない。持たされた金は恵めば自分と妻が飢えてしまう。初めて働いて得た賃金を見たら二人はちょっと笑ってしまった。あまりにちょびっとだったから。それと同時に信者が自分たちに捧げていたお布施の額の恐ろしさにふるえた。

下町のご近所さんがいい人揃いだったのも幸いだった。買い方がわからないものは助けてもらえた。作りすぎたご飯を分けてもらえた。隣人たちもちょっと変わったおっとりとした浮世離れした夫婦が好きだったから。まるで童話の中から出てきたような二人を支えてくれた。

大工の仕事を紹介してもらってからは生活が安定した。サウスは聖人にしては、恵まれた体躯と体力を持っていたから。


聖人がいる場所は安定する。

サウスが巻き込まれた事故は起きるはずがないものだった。


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