消失
父の同僚のトーマさんが家に駆け込んできたのは、サウスが木の切れ端で作ってくれたおもちゃで天高く聳える(ニナ談)塔があと一パーツで組み立て終わるところだった。
「サウスが現場ではしごから落ちて、重症なんだ!」
震えるマーニャを支えながらクリスの手を引き父が運ばれた医院に辿りついた時には父は儚くなっていた。昨日はあんなに力強くニナを抱き上げて走っていたのに今はベッドから起き上がらない。昨日までニナをぐりぐりしていた分厚い手はもうニナをぐりぐりしてくれない。
父は城壁建設の現場作業中、足を滑らせた同僚を庇って亡くなった。
打ちどころが悪く運ばれてきた時には下町の医院では手の施しようがなく、庇った同僚の実家が派遣してくれた上級医官が到着した頃には父の魂が離れてしまっていて、もうどうしようもなかった。
上級医官が外側の傷だけは綺麗に治してくれたから、サウスは眠っているかのようだった。
父の暖かった体から失われていく熱を補完するようにマーニャはずっとサウスの手を擦っていた。まるで、そうすればサウスがもう一度笑いかけてくれるかのように。
分厚い父の手を持ち上げ、だらんと落ちる。もう父がここにいないことを理解したニナは部屋の隅で状況をわかっていないクリスをずっと抱きしめていた。
「ねーね、とと、起きない?」
何か怖いことが起きている。幼いクリスでもそれを感じ取っている。
ニナ自身も震えている。
「嫌よサウス私を一人にしないで」
父の遺体にとりすがり、泣いている母、そんなに泣いたら身体中の水分がなくなってしまうのではないかな、、、
ニナもクリスもいるのに、母にとっては父が唯一なんだなと、泣き疲れた頭でそう、思った。
ガララ、シャン、シャラン、シャン
高くて純度の高い金属音が医院に鳴り響いた。
下町の医院には場違いなほど、絶望の先にさらに大きな絶望があるなんて幼いニナは知らなかった。白く輝く羽衣を纏った魔法師が空間から現れた。
「聖人サウスの消失を確認。血族から一人貰い受ける」
お悔やみの一つもないまま、魔法師は事務確認をするかのように淡々と要件だけを言葉にした。
マーニャは部屋の隅いる二人の子供を引き寄せ
「お願いです!ラウルクラフト様どうかどうか二人だけは今サウスが消失しただけでも心が削れておりますのにご慈悲を!ご慈悲を何卒!」
普段ふわふわしたマーニャから出た言葉とは思えず、母の顔を見上げた。
見上げた母の表情はこわばり、必死に逃げる糸口を探っているように見えた。
「否、否否否。不可である。契約は履行された。聖人は帰還する。一人選べ。選べぬなら私が選ぶ。幸運なことに二人いる。どっちだ」
母の腕に力が入った。
どちらも選べず、どちらも大事だとその腕が言っていた。
クリスは小さい。まだ母のてが必要だ。
私も小さい。でもクリスよりは手がかからない。
私もクリスも母の元にいたい。
でも私はねーねだ。この小さいものを私も守らないといけない。
どう言う状況かはわからない。なぜこんなことになっているかわからないでもニナは思った
「行くべきは私だ」と。




