家族の肖像
たくましい聖女×振り回される天才魔法師
どうぞよろしくお願いします
星が堕ちる
そんな表現も霞んでしまうくらいその夜は異常だった。
星々の軌道がはっきりと空に残り、夕方から降り始めた小雨は地上に落ちた先から天に昇り、空気の中の水分が結晶になって星の光を受けて光り、甘く爛れた果実の匂いが漂っていた。
まるで上位者が世界を粘土細工のように練り直すための夜。
倒れ伏した同僚たちを背にニーナは空を見上げながらこれから起こることをただじっとみているしかなかった。
***
ニーナは下級神官になるまでは下町で跳ね回っていたおてんばな娘の一人だった。大工の父、サウスと内職で家系を助ける母マーニャ、9歳のニーナと3歳の弟クリスの4人家族。贅沢はできないが真面目で働き者だった父のおかげで贅沢はできないが下町で両親と共に健やかに過ごしていた。
「ニナ、もう日が落ちるから一緒に帰ろう」
路地であそぶニナを仕事おわりの父が迎えにきて一緒に帰る。片方の腕には仕事道具セットをもう片方の手はニナと手を繋いで、まだよちよち歩きのニナに合わせてゆっくり歩く。夕日が照らす長い影を一足ずつ踏みながら、今日あったことを父に話すと優しい分厚い手がニナの頭をぐりぐり撫でてくれる。この瞬間が好きだった。
夕日のオレンジ色に染まった父はとっても綺麗だったし、きっとニナもオレンジ色に染まってとっても綺麗だろう。
今日もニナは父の手を取ってブンブン回しながら、最近意地悪になった友達のことにおかんむりだ。
「とと、聞いて!リオは最近とっても意地悪なの」
「どういうところが意地悪なんだい?」
「ほかのこと遊んでいると、間に入ってきて私のことをどつくのよ。」
「おや」
「今日はそれでしりもちついちゃったの。優しくない男なんか嫌い!」
「むくれる小さなお姫様、そんなに可愛いほっぺを膨らませていると、ほっぺが伸びて戻らなくなってしまうよ。僕はどんなニナでも大好きだけど可愛いお顔を見せてくれるかな?」「ととが言うなら仕方ないわ!抱っこしてここからお家まで走ってくれたら私の機嫌も治ってしまうと思うの!」
ん!と幼女にしか許されない両手を抱っこしてのポーズで父に伸ばすと、
サウスはヒョイと彼女を抱き上げる。仕事おわりで疲れていても娘を抱えて走るくらいは分けないらしい。
夕日に染まった綺麗な父の横顔、光が仕事おわりの金色の無精髭を一本一本光らせている。それをを見ながら、いつもより存分に高い視点ビュンと通りすぎる街並みと夕方の生ぬるい空気が耳を横切っていく様を堪能した。
下町のはじにニーナの家はあった。
木製にとっては銅でできた可愛い扉、マーニャがお手入れする可愛い花鉢。魔法街灯の光で昼間ほど明るくないが、手元不如意にはならない程度。
鍵を開けて入るとマーニャお手製のミルクスープの匂いがダイニングに広がっていた。
「「ただいま〜」」
扉を開け声を翔るとぽっちゃりとした柔らかいマーニャが外から帰ってきた二人をぎゅっとだきしてめくれた。
「お帰りなさい」
ニーナはこの瞬間も大好きだった。母の胸に柔らかく抱きしめられ、安心する匂いを胸いっぱいに吸い込む。
後ろからはサウスがさらに二人を出し決めてサンドイッチだ。ちょっと苦しい。
「今日はお向かいのルアさんがミルクをお裾分けしてくれたからミルクたっぷりの野菜スープよ」
マーニャの日持ちしないからミルクスープはちょっとだけ贅沢品だ。
母も好物なのか、心なしか声が弾んでいる。
「ねーね!」
膝小僧にあったくてふにゃふにゃした弟が体当たりしてきた。
今は父と母にサンドイッチされているのでニナは不動だ。
「お外!僕も!」
今日一日友達と遊ぶ約束をしていたのでまだうまく歩けないクリスは一人家の中でお留守番だったので涙目でニナを睨みつけてくる。可愛い。
ぷにぷにの可愛い幼児が一生懸命目に力を入れても、にらめていない。可愛い。
「明日は私もお家にいるから、家の前で遊ぼうね」
むぎゅっと弟を抱きしめるとおとうとの頭から美味しそうなミルクの匂いがした。
ニナはこの幸せがずっと続けばいいとさらにぎゅっとクリスを抱きしめた。クリスの柔らかいクリームパンみたいな小さな手がニナの背中を掴む。
まだ短いその腕はニナの背に回らず、横腹をぎゅっと握った。痛い。
家族4人の食卓。ミルクスープとパン。今日は豆と野菜がたっぷり入っていてかみごたえがある。
庶民の中では大きめなベッドで4人で寝る。
今日はミルクがあるので、窓辺にいカップのミルクと、大麦と水でねっただけのクッキーをひとかけら置いて1日のおわりを祈る
これがニナの記憶にある。一番最後の幸せだった。




