幽霊屋敷
「両親が攫われた理由は何ですか!!」
鬼気迫る顔で雪斗は咲間に詰め寄る。早く両親を見つけるために雪斗は焦っていた。
「関係ないお前に教えることは出来ない」
咲間はこの時、獄堕の園は雪斗の両親が狙いではなく、雪斗が狙いだったのだろうなと確信する。両親を攫うのが目的だったらこんな印を残すはずがない。
実は獄堕の園の印の描かれた紙以外にもう一枚咲間は見つけていたのだ。
その紙には「会田雪斗。午前零時に桜台公園に一人で来い」と書かれていた。内容からして両親が目的ではなく雪斗が狙いなんだろう。紙は雪斗に見えないように懐にしまったので雪斗にはバレていない。
咲間は一般人の雪斗をこれ以上危険に晒すわけにもいかないので、紙を見つけたことは隠すことに決めた。
「関係ない?!僕の両親のことなのに?」
雪斗は今までで出した声の中で一番大声を出した。これまで雪斗は無理なことはしない、挑戦したことがない。だから感情をここまで高らばせた事がないのだ。
「お前は八咫烏でないから獄堕の園のことを教えることは、規則で出来ない」
雪斗は反射的に「じゃあ、僕八咫烏に入ります」と言った。両親の為なら雪斗は得体の知らない組織にも入れる。
実は雪斗と攫われた両親は血が繋がっていない。攫われた雪斗の両親は雪斗のことを実の子の弟と同じように接していた。雪斗も自分が実の子ではないことを知っている。養子の自分に愛情深く育ててくれたからこそ、両親の為なら何でもできると雪斗は思った。
「お前を八咫烏に入れることは出来ない。両親は俺達が探してやる」
咲間もできることなら雪斗に獄堕の園のことを教えて上げたい。規則ということで断ったが、雪斗は獄堕の園のことを知れば無茶なことをすると思った。だからこそ教えられない。それに八咫烏は簡単に入れる組織ではないし、入った後も大変なのだ。
「あんたには関係ないだろ。僕の家族だ!自分で探す」
雪斗はドンドン興奮していき口調が荒くなっている。
「お前は獄堕の園に関わるな。死ぬぞ」
この時咲間の気迫に雪斗は怯む。怯んではいたが雪斗は絶対に自分で両親を探すことを曲げない。咲間は先ほどまでの柔らかい印象から、刀を握っていた時のような印象に戻った。
「本当にあんた達が両親を探してくれるか、分かんないじゃないか!口では何とでも言える」
雪斗は咲間の襟を掴み凄む。でも、咲間と雪斗の身長の差的に傍から見ると子犬がキャンキャンとライオンに吠えているみたいな状況だ。
そんな雪斗に咲間は襟を掴まれたまま上から睨み「お前死にたいのか?」と言い放つ。雪斗の気持ちも物凄く分かるが、ここは心を鬼にしなくてはと冷たくした。
「僕の家族を自分で探すのが何がいけないんだよ!」
言い争いになり始めた時「はい。ストーップ」と玄関から先ほどの女性宮木まおが仲裁に入ってきた。
「宮木、何でここにいるんだ?」
「任務を全うしてたんですけどー、玄関開きっぱで二人の言い争いが聞こえたんで来たんですよ。それにー、咲間隊長無線繋げたままなのわかってます?言い争い壱番隊員に聞かれてますよ。いい大人がみっともない」
宮木は腰に手を当てやれやれといった風に咲間を小馬鹿にしていた。いつも冷静に対処する人なのに、こんなにも熱くなっている咲間を宮木は不思議に思った。
無線でやり取りを聞いていた咲間の隊壱番隊員達も何してんだ?と若干呆れた。雪斗の為を思って何かを隠しているのは分かる。でも咲間の言い方が悪いと全員が思った。あんな言い方すれば誰でもああなる。
「あんたが何を言ってこようが、僕は両親を絶対に探す!」
「はあー……いつまで掴んでんだ。離せ」
咲間は雪斗を無視した。後ろにいた宮木に「行くぞ」と言って雪斗の家から去っていく。それを雪斗は二人の背中をジッと睨み付けていた。
ジッと見られているのを気づいていた宮木は雪斗が暴走しないか不安になる。でも、今は任務もあるので大丈夫なはずと思い雪斗の事を考えるのを止めた。
二人が去った後、雪斗は玄関に向かう。
「多分これがあれば、夜喰に襲われないはず……ニュースで夜喰が家の中に入って来れないのは、この護符があるからって言ってたし」
玄関に置いてあったのは政府が配布した赤色の旧字体で書かれた護符だ。この護符は家の中にいる者を守るために、必ず家に置いてかなければならないもの。だからこれを持っていれば雪斗は大丈夫なはずと勘違いをしてしまう。
護符をギュッと握り締め、八咫烏の隊員を探しに再び夜の外へ。
「大丈夫、大丈夫。この護符があるんだから……」
しばらく家の周りをウロウロしていたが、八咫烏を見つけるどころか人っ子一人いない。
静かだからこそ虫の鳴き声でさえ大きく聴こえる。
ガサッと音がするたびに雪斗は身体をビクッと反応した。先ほど夜喰のせいで死にかけたばかりなのだから仕方がない。
「……母さん……父さん。無事だよね」
すると突然雪斗は身体がブルッと震える。先ほどのような感覚に後ろをバッと振り向くと、三メートル程ある瘦せ型の夜喰と遭遇した。
「……あ、」
雪斗はさっき夜喰に殺されかけたことを思い出し腰を抜かしてしまい動けない。そんな雪斗に夜喰は赤黒い血のような目の色でジッと見つめる。雪斗は自分の息をする音だけでなく心臓が鼓動する音でさえ大きく聴こえた。
そんな雪斗を夜喰はここに存在していないかのようにスーッと横を通っていく。
「はあはあ……無事、……はは、護符の効力ちゃんとあるんだ」
握りしめた護符を見て雪斗は夜喰がどっかに行ってくれて心の底から安堵した。実はニュースでやっていた護符の効力の話を雪斗はあまり信じていなかった。護符を持って来たのは藁をもつかむ思いでだ。
しばらくうずくまり「よし」と声に出し震える足に力を入れて立つ。
運よく雪斗は八咫烏の隊員を見つけた。八咫烏の隊員はズバズバと夜喰を刀や銃といった色々な武器で倒していく。
その光景に雪斗は目を奪われる。先程まであんなに恐怖していた化け物があんな簡単に倒されるのだから。それに人間の跳躍力とは思えないくらい、ぴょんぴょんと家の間を飛び移っている。
それを見ていた雪斗は「凄い。……でも、何で夜喰を倒してるんだろう?この護符があれば安全なのに」と思わず口に出してしまった。その声を聞いた一人の隊員が「ん?人の声?」と喋る。
「おい、何してんだ」
「いや、人の声が聞こえた気がして」
「はあ?んなわけないだろ」
男性の隊員二人が家の上で会話をしている。
雪斗は物陰に隠れて息を止めるように存在を消すようにした。内心この八咫烏の隊員の二人に見つかってしまうのではないかと雪斗の心臓はドクンドクンと強く鼓動する。
「だよな~」
雪斗はこの二人が自分のことに気付いていないと分かり安心した。ここで見つかれば両親を探す手立てがなくなってしまう。
「なにがなんでも八咫烏に入る」
ハトが「クルッポー」と鳴き始め、太陽が暗闇だった街を照らし始める。太陽を見た隊員達が「さっさと帰って、シャワー浴びてー」や「お腹減った。今日の食堂のメニュー何だろう?」と和気あいあいとなった。
これを見た雪斗は日の出になると夜喰が消えていくことを知らない。だから八咫烏の隊員達の様子を不思議に思う。そんな隊員達のことよりも雪斗は八咫烏の隊員の後を追って、八咫烏の建物の中で獄堕の園のことを調べようと決めていた。忍び込んで調べるのが一番効率的である。
あの時雪斗が咲間に言った八咫烏の隊員になりたいは口からでまかせだった。もしかしたら八咫烏が自分の両親を攫ったかもしれないとも考えていたから。
隊員達は武器をしまい込み、スタスタと公園の裏手の今にも幽霊が出てきそうなボロボロの屋敷に入っていく。
「幽霊屋敷が八咫烏の建物?」
公園の裏手の屋敷は幽霊屋敷と子どもの間では有名。ボロボロのせいか子ども達の親は幽霊屋敷に近づくなと注意している。雪斗も幽霊が少し苦手だから普段近づかない。だから今入らなければならないのにも若干躊躇する。
八咫烏の隊員が入ってからしばらくたったが屋敷からは誰も出て来ない。
雪斗は「寝てる、のかな?」と恐る恐る幽霊屋敷のドアノブをゆっくりと引っ張る。
キイと小さく音を立てながら扉は鍵が閉まっていなくて開いた。
屋敷の中は外観同様に幽霊が出そうな程にボロボロ。どこかにすき間があるのかヒューと風の音が聴こえる。
「本当にここが八咫烏の施設?」
雪斗はウロウロと屋敷の中を音を立てないように静かに歩く。でも、床も所々木が腐っているせいでギイと音がなってしまう。
「古い写真?いつのだろう……ん?この写真に写っている人……僕に似ている」
雪斗は数ある写真の1枚に写っている男性を見て、一瞬自分ではないかと勘違いするほどそっくりだと思った。
「何でだろう……この写真を見ていると懐かしく感じる」
見たこともない場所に人物達なのに雪斗は心の底から懐かしく感じた。
そうまるで自分がそこにいたかのように……。




