俺たちの戦いは、これからだ! 第二章・完
茜と二人で並んで歩いていると、通路の先からあの特徴的な落ち着いた声が聞こえてきた。
「今は非常事態です。使える物資は全て使うように」
「「はい!」」
松下さんだ。
相変わらず背筋をピンとさせて、傍らにいる警察官たちに指示を出している。
「……おや? 望月さん」
松下さんが眼鏡の奥の目を細めて、俺と、俺の腕に絡みついている茜を一瞥して微笑む。
「ふむ、顔色が優れませんね? もっとゆっくりしてもらっても良いのですが。身体の方は大丈夫ですか?」
松下さんが少しだけ心配そうにこちらを窺う。
たぶん、茜の血の影響の話だろう。
俺の身体に茜という吸血鬼の血が混ざったおかげで、昼間は身体に軽いデバフがかかるらしい。
その代わり、夜は身体能力が上がるとのこと。
「ええ、今のところ大丈夫です。少し全身がダルいぐらいで。ほら、茜。そろそろ離れろ」
「えー」
えー、じゃねぇよ。
なんでお前の方がそんな元気なんだよ。
昼間だぞ吸血鬼。
「……おい、茜」
「って、分かったわよ。そんな目で見ないで。離れる、離れるわ」
お前、柔らかそうなほっぺたプクッと膨らませて、ぶってるけどな?
俺より遥か歳上なの忘れんなよ?
具体的な数字は知らんが100歳以上のおばあちゃんだろ、お前。
「もう仕事の時間だ。ここは職場だってこと忘れんなよ」
「わ、分かってるってば!」
あと、仕事にプライベートの、しかも男女のアレやコレやを持ち込むのはやめろ。マジで。
おっぱいを当ててくるのは大いに結構だがけじめをつけろ、けじめを。
「……なんで仕事モードの時はあんな死んだ魚の眼みたいになるのよ……ゾンビとかのアンデッドだってもう少しマシな眼してるわよ?」
ブツブツうるせぇな、おい。
誰がゾンビよりも腐ってるって?
俯いてないで俺の目を見ろよ、目を。
「すみません、松下さん。それで避難所の――って、なんすかその顔」
松下さんの方を見ると、薄っすら笑う仏がこちらを見ていた。
「いえいえ。仲が大変よろしいようで。良いことですねぇ」
「松下さん、その顔やめてください。あと全部誤解です。別にそういうのじゃありません」
「ふぅむ。誤解ですか。先ほど梅野くんからも『大変仲睦まじい様子だった』と報告されましたが……まぁ、そういうことにしておきましょうか。お熱いのは結構なことですよ」
絶対分かってて楽しんでるよな、この人。
昨日の夜のこともそうだ。
あの勇者に掃除を頼んでいた時、なんだか妙に「配慮」しているような、奇妙な丁重さがあった。
俺と相部屋にした時だって、何か確信めいた含み笑いをしていた気がする。
この人は時々、俺たちがまるで見えていない「何か」を、当然のように観察して楽しんでいる節がある。
観察力や判断能力が妙に高いのは、流石はベテラン刑事というべきか。
「……松下さん。そんなニヤニヤしてないで、状況を教えてください。勇者は本当にもういないんですか?」
「ええ。夜明けと共に、風のように去っていかれましたよ。アリスさんのおかげで避難所の立て直しもスムーズに行きそうです。特にあのスライムには、正直なところ助かりました」
「ですよねー。いや、あのスライムは反則すぎるでしょ。影山がいろいろ言ってたけど、あれだけで問題の半分くらいは解決って」
「ああ、トイレに行かれたんですね。影山くんも姿を見かけないと思ったら、そんなところに」
「なんかあいつ、昨日の夜、勇者に詰められたみたいですよ。『日頃の行い』がどう、とかで」
「なるほど……。では、しばらくそっとしておきましょうか」
松下さんは何かを察したのか、やれやれと小さく首を振った。
……影山、昨日はあんなに頑張ってたのにな。
でも覗きはいかんよ、覗きは。
「……それよりも、望月さん。さらに良い報告があります」
松下さんの表情が真剣なものへと変わる。
「竹原くんに奪われていた数々のスキル。先ほどから続々と元の持ち主の元へ返還されているようです」
「本当ですか!?」
「ええ。今朝方、アリスさんが去る前に『勇者の権能』を使って、そのように。これでようやく、こちらの戦力も多少は立て直せます。……ところで、茜さん」
松下さんが、いまだに俺の袖を指で摘んだまま離さない茜に視線を向けて、遠慮しつつ口を開く。
「あなたのスキル――『魅了の魔眼』も戻ってるはずです。そのことについて、アリスさんと何かお話をされていたようですが……」
茜は一瞬だけ指先にギュッと力を込めて。
「……ええ」
それから、短く答えた。
「消してもらったの」
「は? 消した? 『魅了の魔眼』をか?」
あれを消すなんて、もったいない!
何考えてんだこいつ!
「私には、もう必要ないから」
「いやお前必要ないわけないだろ。何勝手に判断してんだよ。ひと言くらい俺に言えよ」
マジでふざけんなよ。
お前はもううちの社員なんだぞ。
うちの社員てことは、その能力も全部うちの大事な財産。つまり俺のもんってことだ。
俺のもんを勝手に捨てんじゃねぇよ。
「だって貴方、寝てたじゃない」
「いや、起こせよ! そういう会社の運営に関わるだいじな判断をだな」
「だって貴方が言ったのよ? 『アレがなくてもお前の魅力だけで魅了できるだろ』って」
「そうは言ってもな、アレがあれば色々簡単に――」
「いいの! 私が一番魅了したいものは、もう手に入れちゃったんだもん!」
茜はそう言って、勝ち誇ったような、それでいてどこから恥ずかしそうな顔で見上げてくる。
……自分で言ってて照れるくらいなら、言うのやめろよ。
それに、こいつの過去をそれなりに知ってる身としては、これ以上強く言えないじゃぁん……。
「あと……モチヅキ、いらないとも言ったわよね? 私がいれば必要ないって」
ほらぁ、また目のハイライト消えてるしぃ。
いらない、とは言ってないぞ。
あと、お前がいれば必要ない、なんてひと言も言ってない。記憶を捏造しないでもらいたい。
……あー、マジでこの感じ面倒くさいな。
デバフとかより何より、これが、このダルい絡みが今の俺には一番キツい。
「はぁ……。いいよ、分かった。消しちゃったもんは仕方がない。でも次からはちゃんと報連相しろよ。今のお前は会社《俺》のもんなんだからな?」
「お、おお俺の、もん!?」
「おい、分かってんのか? 返事!」
「は、はい! 分かりました!」
なんだ、やけに素直だな。
またなんかブツブツ言ってるし。
情緒大丈夫か。
「望月さん。あなたのことですから分かってはいると思いますが……一つだけ」
松下さんが眼鏡の奥の目を細めて言う。
「彼女の『魅了の魔眼』。それを使っての仲間集めは、やめておいたほうがいい」
「それは……」
「あなたのジョブは『魔物使い』。しかも、望月さんの場合、本来の魔物使いとは覚えるスキルそのものが違うとのこと」
「はい、俺みたいに『話し合って仲間に』って感じじゃないみたいです」
聞いた話だと、魔物をボコってから強制的に支配して命令するタイプらしい。
ドラ◯エとかポケ◯ンみたいな。
正直言えば、そっちのタイプの方が良かったよ。
まぁ、実のところスキルが強化されたから俺もそれ、できるんだが。
でもやったらデメリットあるっぽいしなぁ。
なんだよ、話し合いの末お互いの合意のもとで契約って。仕事か。このツッコミ久しぶりな気がする。
「望月さんのタイプだと、魅了は逆に悪手になりえます」
竹原の事があったから、ね。
「まぁ……大丈夫ですよ。ちゃんと分かっています」
分かってる。俺が『魅了の魔眼』を手に入れてたら、竹原みたいなミスはしない。
「……ふふ、大きなお世話だったみたいですね」
いくら魔物相手とはいえ、アイツラの中身は人間とたいして変わりゃしない。
茜と深く関わってしまった今、誰かに魅了をかけるってのも気が引……けないでもない。
それが魔物だとしても、若干の躊躇はある。
だが、それだけだ。俺には関係ないし。
つーか、茜を見たあとだと魔物とか人間とか関係ないような気がする。見た目ほぼ人間だしなぁ。
「俺はただ、持てる手札は持っておいたほうがいいと思ったんです。なにより、アレがあればこの先無駄な争いとか避けられそうですし」
世界がこんなになったんだ、この先、魔物だけじゃなく人間も襲ってくることは容易に想像できる。
その時に、『魅了の魔眼』があれば。
煩わしい問題を簡単に排除できる。
「それは……そうですね。アリスさんではありませんが、世の中にはそういう手段を容易に選択する、選択せざるを得ない方々もいますから」
「でしょ? やっぱりあったらあったで便利だと思うんですよね」
松下さんもそう言って考える素振りを見せた。
二人して違う意味で思案顔をして唸っていると。
「ちょっと、二人とも」
そこへ、茜がため息混じりに声を上げた。
「もう『魅了の魔眼』は消しちゃったって言ってるでしょ! 無いものねだりしてないで、先のこと考えなさいよ!」
「いや、だからその先のことをだな」
「何があってもそれ以上に強くなればいいでしょ! 今回みたいに人質とか取られても問題ないくらいに!」
「「……」」
松下さんと二人、顔を見合わせる。
「ふふ、それはそうですね」
「まぁそう言われればそうなんだけど。そうは言ってもお前なぁ……」
「でしょ? せっかくステータスとかレベルなんてものが人間にはあるんだから、さっさと強くなればいいのよ!」
こいつ、なんか妙に吹っ切れてない?
あんだけ魅了の魔眼がどうだとか、過去がどうだとか言ってたくせに。
「今回の件で我々は自分たちがいかに弱いか身をもって思い知らされました。たしかに、アリスさん……あの『勇者』くらい強ければ……」
「いやいやあれは例外中の例外でしょ、松下さん。あれを基準にするのはだめです」
あれは素のフィジカルでバケモンだから。
レベルカンストしてるって言われても驚かんぞ。
でも、松下さんの言葉に異論はない。
竹原みたいなぽっと出のうんこマンにいいようにされて。
しゃしゃり出てきた勇者一人に、いろんな意味で掃除までされて。
ステータスなんていう不平等で、平等なモノが配られた以上、力のない善意なんてもんはただのカモでしかない。
「まぁ、そうだよなぁ……俺は元々ソロでもやってけるくらいレベル上げるつもりだったし。強くなるのには賛成かな」
「はい。そのためにも、まずは避難所の立て直しです。戦力もそうですが、これからの生活、避難所としての運営についても、腰を据えて考えなければいけませんね」
松下さんがそう言って、少しだけ表情を和らげた。
……が、すぐに何かを思い出したように人差し指を立てる。
「ああ、そうでした。去り際にアリスさんから望月さん、あなたへ伝言を預かっています」
「伝言?」
イカれ勇者から伝言とか、何気に怖いんだけど。
ちょっと聞きたくない。
「ええ。では……コホン。
――『ユウト、僕は女神に会ってくる。「勇者」として。次に会う時には質問の答えを返すよ。ただの面倒くさい、アリスより』
……だそうです」
「…………いや、松下さん、声マネ、うまっ!!」
勇者の声って割と高めだったのにすげぇな!
この人、多芸すぎだろ!
松下さんの意外な特技が判明した件。
少しばかりドヤ顔の松下さん。
それと、アリスティアの声マネを聞いて露骨にイラッとしてる茜。
いや、違くて。そうじゃない。
松下さん、何いきなりぶっ込んできてるか知らんが面倒くさいからスルーして、だ。
……あいつ、女神に会うとか大丈夫か。
声も聞こえないとか言ってたのに。
しかもわざわざ「面倒くさいアリス」なんて残して、俺に言われたの気にしてんじゃねぇよ勇者のくせに。
伝言一つでどこまでも面倒くせぇやつだな、本当に。
「……ふっ」
俺に面倒くさいと言われて、微かに笑った勇者の顔を思い出して鼻を鳴らした、そんな時。
「…………ねぇ」
隣から、心臓が跳ね上がるほど冷たい「殺気」が膨れ上がった。
恐る恐る隣を見る。
そこには、またしてもハイライトの完全に消えた紅い瞳。
俺の顔を至近距離で覗き込むように見つめてくる女が、一人。
「……ねえ、モチヅキ。一つ、聞いていいかしら」
「……なんだよ」
もう聞かなくても言いたいこと分かるけど。
「ねぇ、今、あいつなんて言ったの? 『ユウト』……? ねぇ、『ユウト』って、なに? なんであいつが、アリスが、私のモチヅキに馴れ馴れしく呼び捨てにしてるの?」
「あ、いや、茜……?」
「私だって、まだ『モチヅキ』って呼んでるのにっ……!」
「待て待て、違う! それはアリスが勝手にっ……!」
「……『アリス』? ねぇ今『アリス』って言ったの? 貴方も……そう……。……ねえ、答えて。やっぱり昨日の夜、何か、あったの?」
「いや、なにもしてな「なにしたのアリスとっ!!」
「だから何もして「ナニしたのね《《あの女》》とっ! ……ねぇ? 答えて? モチヅキ? ねぇ?」
茜の目がグワッとガン開きになる。
ギチギチと指先に力がこもり、俺の服の袖が今にも引きちぎれそうだ。
あれ、待て。今さらっとなにか大事な事言わなかったか?
「女神に会う、ですか……。しかも『勇者』として……ふむ」
松下さんはこっちの修羅場を当然のように無視して、一人で思案に耽っている。
おい、無視すんなベテラン刑事。
市民の危機だぞ、助けてくれよ。
「……お、お前なぁ! そんなに呼びたいなら、お前も名前で呼べばいいだろ。別に減るもんじゃないし、あいつに張り合うな! 面倒くせぇ!」
俺が半ば逆ギレ気味にそう告げると、茜の殺気が霧散した。
「えっ、あ、ちょっ……な、名前……? い、いいの? あ、えっと……ゆ、ゆう……ゆう……」
途端に顔を真っ赤にし、口を金魚のようにパクパクさせながら視線を泳がせる茜。
チョロい。
さっきの迫力はどこへ行った。
名前一つでテンパるとか、中学生かお前は。
俺は赤面してフゴフゴ言っているポンコツ乙女を無理やり視界から外し、松下さんに話を戻した。
「松下さん。勇者が言ってました。二つの世界が融合《《していっている》》と。今はまだ魔物だけですが、きっと次があるはずです」
「なるほど。考えられるのは建物や土地そのもの。あるいは、あちら側の住民……。そして、アリスさんが言っていた神や女神といった存在の可能性もありますね」
「はい、勇者は明確には言いませんでしたが」
「ふむ。なんにしても、今のうちに防備を固めなければ、この場所はただの『資源地』に成り下がりますね」
俺と松下さんが今後の防衛体制について言葉を交わし始める。
その時だった。
ピロン!
スマホの通知音。
「ん、なんだ?」
ピロン!
続いて、松下さんのスマホからも音が鳴る。
スマホの電波はもう死んでいる。
インフラが軒並みやられて常に圏外だ。
つまりこれは、あの例の謎アプリ「終末はじめました」からの通知だろう。
「レベルアップ、とかじゃないよな」
「今の話題が話題だけに、タイミングが気になりますね。確認してみましょう」
そう言って、俺たちがスマホを取り出そうとした、その瞬間――
ピロンピロンピロンピロンピロンピロン!
避難所の至る所から爆音が鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
まるで緊急地震速報のような、聞いていると心がザワザワしてくる、本能的に不安を煽るあのチープな電子音。
俺は急いでスマホを取り出し、画面をチェックする。
いつものように黒い背景に白い文字。
質素なドット文字で描かれたレトロゲームを彷彿とさせるような画面。
そこに書かれていたのは――
==========
《生存プレイヤー数が規定値に到達しました》
《これによりチュートリアルを終了します》
《続いて、本編「終末はじめました」を開始します》
==========
「…………は?」
ドォォォォォォォォォォォォオン!!!!
文字を読み上げた瞬間、世界が咆哮した。
避難所の建物がかつてない震動に大きく揺れて悲鳴をあげる。
「皆さん、伏せてください!」
松下さんが咄嗟に声を張り上げる。
「くっ……! 茜!」
「もうやってるわ!」
俺は揺れに耐えながら茜に指示。
茜は既に反射的に血液魔法を発動。
飛散する物資、割れるガラス、崩れ落ちる壁や天井。
それらから避難民を守るため、血の盾を周囲に展開し弾き飛ばす。
まるでミキサーに入れられてかき混ぜたような、そんな激しい揺れが絶え間なく襲ってくる。
「きゃっ!?」
「くそっ、地震か!? 地域的にあり得るし!」
「あり得なくもないですが、それにしては揺れ方がおかしい!」
踏ん張りが効かずに倒れそうな茜を抱き止めて叫ぶ。
俺が住んでるこの辺の地域は、昔から『もうすぐ大地震が来るぞ』って言われ続けてる地域だ。
子供の時からの訓練の賜物か、ある程度の揺れには耐性があるはずなんだが……。
「茜! 槍でも何でもいい、床に打ち込んで支えにしろ!」
床に槍を杭として打ち込み、俺たちは床に跪いてただ耐える。
一分。
二分。
まだ終わらない。
五分。
六分。
あ、ちょっと慣れてきたわ。
なんならあまりのスケールの大きさに少し楽しくなってきた。
子供の頃の地震体験車を思い出すなぁ。
それから十分程経って、ようやく揺れが収まった。
嵐が過ぎ去った後のような、不気味な静寂が避難所を包み込む。
宙を舞っていた埃が、割れた蛍光灯の僅かな光に照らされてキラキラと輝いていた。
「……終わった、か?」
俺の声に反応するように、周囲から呻き声や安堵の溜息が漏れ始める。
「茜、血液魔法を解いていいぞ。……怪我はないか?」
「ええ、平気よ。……なによ今の揺れ。あんなのあっちでも経験したことないわ」
茜が床に突き立てた血の槍を霧散させ、ふらつきながら立ち上がる。
俺は彼女の肩を支えながら周囲を見渡した。
棚は倒れ、備蓄品が散乱しているが、幸いなことに松下さんの迅速な指示と茜の盾のおかげで、致命的な怪我人はいないようだ。
「皆さん、動ける方は周囲の確認を! 怪我人の救護を最優先に!」
松下さんが埃を払いながら、即座に指揮を再開する。
その背中は相変わらず頼もしい。
だが、眼鏡の奥の鋭い視線は、既に《《次》》の事態を警戒していた。
「……松下さん」
「ええ、分かっています。今の揺れ、ただの地震ではありませんね。あの話題と通知の直後だ、嫌な予感しかしません」
「ですよね……もろに、フラグですもん」
俺はうへぇっと嫌な顔をして頷き、窓際へと歩み寄った。
窓ガラスは無惨に割れている。
そこから、今まで嗅いだこともない、濃厚な《《森の匂い》》。
「……マジかよ」
そしてさらに、ひりつくような《《魔力の気配》》が流れ込んできてるのを感じる。
「おい、茜。嫌だけど外、見るぞ。めっちゃ見たくないけど」
「……ええ、私も同感よ」
俺と茜は、せーので割れた窓枠の前に立った。
「「……うわぁ」」
そして、そこに見えた光景に、言葉を失った。
駐車場だったはずの場所には――、
木があった。
馬鹿でかい、木。
木、木、木。
それが何本も。
というか、森である。
「あー……はいはい、そっちのパターンね」
アスファルトを紙細工のように引き裂いて、樹齢数百年はあろうかという巨木が天を突くようにそそり立っている。
見渡す限りに。
「ゆ、ゆう……んんっ! 望月、それだけじゃないわ。あれ、見て」
さらに、見慣れた住宅街の向こう側、本来なら地平線が見えるはずの場所には――
なんか、城がある。
ダークなソウルな雰囲気の、かっちょいい感じの。
「おぉ〜、ファンタジー」
禍々しい黒岩で築かれた巨大な「城塞」が、山そのものを飲み込むように鎮座していた。
空の色は不気味な紫に染まり、雲の合間からは、この世界のものではない巨大な鳥……いや、翼竜の群れが悠々と羽ばたいているのが見える。
世界の融合。
アリスが言っていたことが、文字通り「物理的」に行われたのだ。
「これ……融合というより、上書きじゃない」
茜が震える声で呟く。
俺の知っていた街並みは、異世界の地形によって強引に上書きされ、グチャグチャに書き換えられていた。
ピロン!
また、通知音。
手の中のスマホが冷たく光った。
==========
《「終末はじめました」本編スタート!》
《「本編開始ボーナス」を配布します》
==========
「ボーナス、ねぇ……」
そんなもん、この地獄を生き残るための「手切れ金」みたいなもんだろう。
まぁ、貰えるものは貰っておくけど。
俺はボーナスという言葉に弱いんだ。
スマホをポケットに放り込む。
隣では不安そうに俺の服を掴む茜がいる。
こいつビビってんのか?
お前の故郷がやってきたんだから、別にビビる必要なくね?
「しょうがねぇな……」
少しだけ震えてる茜の手を、今度は自分からしっかりと握り返した。
「……ほれ、大丈夫か?」
「!? え、ええ、大丈夫……じゃないからもっと強く握ってくれないかしら?」
茜は一瞬だけ呆けたような顔になったが、すぐにまたいつものニヤニヤ顔へ。
俺の腕を絡み取りムギュッと挟む。
どことは言わないが、柔らかい。
「お前なぁ……」
俺は、目の前の現実と、腕に伝わる夢心地な感触を味わいながら内心でボヤく。
これから世界はどうなんだろ。
このまま終末へ向かうのか、それとも……。
いずれにしても、俺のやることは変わらない。
最初に決めたように、
無理はしない。
調子に乗らない。
欲張らない。
慎重に、堅実に、モブらしくしぶとく生き残る!
――「グルォォォォォォォォォ!!」
「うぉ!? なんだ今の鳴き声!?」
「あ、あそこに飛んでるの……ドラゴン?」
……生き残れるよな?
「魔物使い、はじめました。」も、これで100話となりました。(幕間とか抜かせば多分そのくらい)
これにて「小説家になろう」での望月くんの冒険は少し休憩です。
あとは、茜の幕間が1話。
なぜか影山の幕間が5話くらい?
そのあと三章を〜って感じです。
まだ三章は書き始めたばかりでストックが何もないので、なろうでの投稿は幕間を投稿したら一時停止です。
すぐ読みたいって感想とかがあれば……不定期に投稿しますが、まぁないでしょう。
感想ってか読んでる人めっちゃ少ないしねこれ。
では、ここまで読んでくれてありがとうございました。




