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今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
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削れないところ

報告は、

短く済んだ。


余計な比喩も、

感情も省いた。


「調理場で、

 熱の立ちが遅れています」


「食材の水分が、

 数日前から

 下がっています」


「量は足りていますが、

 余白が消えています」


魔王は、

机に肘をつき、

黙って聞いていた。


途中で、

一度だけ言う。


「……風ではないな」


アリアは頷く。


「はい。

 生活の底です」



◆数字の報告


報告のあと、

別室で

城の管理担当が合流した。


帳面を抱え、

淡々と話す。


「食料在庫は

 計画通りです」


「消費量も

 想定内」


「無駄は

 出ていません」


言葉は、

すべて正しい。


ミナが

静かに言う。


「……“無駄”が

 なくなっとる」


担当者は

即答する。


「効率化の成果です」


ソラが

一歩踏み込む。


「……余白と

 無駄は、

 同じちゃう」


担当者は

首をかしげる。


「数値上は

 同義です」


その瞬間、

部屋の空気が

わずかに冷えた。



◆温度差


アリアは、

魔王のほうを

一度だけ見た。


魔王は、

口を挟まない。


聞かせている。


ミナが

ゆっくり続ける。


「余白があるから、

 遅れても

 回る」


「失敗しても、

 食わせられる」


「具合悪いやつが

 一人出ても、

 全体が崩れへん」


担当者は

少し苛立つ。


「それは

 感覚論です」


ソラが

低く言う。


「……感覚が

 壊れたら、

 数字は

 後から崩れる」



◆削れないもの


ここで、

ルナが

珍しくはっきり口を開いた。


「……地面……

 疲れてる……」


全員の視線が

向く。


「……疲れてるときは……

 頑張らせたら……

 壊れる……」


担当者は

言葉に詰まった。


理屈では

否定できない。


だが、

帳面には

書いていない。


アリアが

静かにまとめる。


「……削れるのは、

 速度です。


 削れないのは、

 回復の時間」



◆魔王の判断


魔王が

初めて、

はっきり言葉を発した。


「……数字は

 嘘をつかない。


 だが、

 数字が示すのは

 過去だ」


担当者が

息を呑む。


「今、

 必要なのは

 次の一手だ」


魔王は、

まかない部を

見た。


「……何が

 必要だ」


アリアは

即答した。


「止める日を

 作ってください」


静まり返る。



◆止めるという提案


ミナが

続ける。


「毎日、

 最大で

 回すのを

 やめる」


ソラも

言葉を重ねる。


「城全体やなくてええ。

 まずは

 台所と倉庫」


「回復のための

 何もしない日を

 作る」


それは、

数字の世界では

最も嫌われる提案だった。



◆沈黙の重み


長い沈黙。


担当者は

帳面を

閉じかけ、

閉じなかった。


魔王は

窓の外を

一度見る。


そして、

言った。


「……三日に一度」


短い。

だが、

重い決断だった。



◆余波


部屋を出たあと、

ミナが

小さく息を吐く。


「……通ったな」


ソラが

頷く。


「線、

 守れた」


ルナは

床に手を当て、

微笑んだ。


「……大地……

 休める……」


アリアは

心の中で

確認する。


(……削れないものを

 削らなかった)


それだけで、

この城は

もう一段、

持ちこたえる。



◆静かな始まり


その夜、

調理場の火は

少し早く落とされた。


完全に止めるわけではない。


だが、

急がない。


風は、

遠くで

静かに吹いている。


出しゃばらず、

関わらず。


それが、

今の正解だった。



城は、

まだ崩れていない。


だが、

削れないものを

 守れた城になった。


それは、

大きな変化だった。

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