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今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
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台所のずれ

魔王城の調理場は、

朝から静かだった。


音がないわけではない。

包丁の音、

鍋の蓋、

水を張る音。


だが――

どれもが、

わずかに遅れている。


ミナが

寸胴鍋を覗き込み、

首を傾げた。


「……まだ、

 煮立たへんな」


火は入っている。

弱くもない。


それなのに、

湯が立つまでの時間が

いつもより長い。


ソラが

薪の具合を見る。


「火力は

 足りとる」


ルナは、

床に座り込み、

石の感触を確かめていた。


「……床……

 冷たい……」


それは、

朝だからではない。

冷えが抜けにくい。


アリアは、

調理場全体を

一度見渡した。


(……風じゃない。

 でも、

 生活が鈍っている)



◆食材の違和感


次に気づいたのは、

野菜だった。


皮は張っている。

傷もない。

見た目は、

いつも通り。


だが、

包丁を入れた瞬間、

ミナが小さく息を止めた。


「……水分、

 少ない」


ソラが

切り口を見て言う。


「昨日の納品やな」


倉庫の記録を

確認すると、

確かに新しい。


「……輸送中に

 傷んだ感じやない」


ルナが

静かに言う。


「……地面……

 力、

 出してない……」


それは、

作物の話だった。



◆数が合わない


昼前、

兵への配膳準備。


量は足りている。

だが――

余りが出ない。


いつもなら、

少し残る。


それを

翌日の仕込みに回す。


だが今日は、

ぴたりと尽きた。


ミナが

眉をひそめる。


「……計算、

 合いすぎや」


ソラが

静かに言う。


「余白が

 消えとる」


アリアは、

その言葉を

心に留めた。


余白が消えるのは、

逼迫の兆しだ。



◆城の内側


午後、

廊下ですれ違う職人の会話。


「……石の乾き、

 遅なってる」


「地面、

 湿ってるのに

 水は染みん」


城は、

まだ機能している。


だが、

効率だけで

 回り始めている。


それは、

長くは持たない。



◆まかない部の判断


夕方、

調理場で

簡単な打ち合わせ。


ミナが言う。


「……これ、

 表に出る前に

 気づけたな」


ソラが頷く。


「食いもんは、

 嘘つかへん」


ルナは

床に手を当て、

静かに言った。


「……大地……

 まだ……

 壊れてない……

 でも……

 疲れてる……」


アリアは

はっきりと決めた。


「……魔王に、

 もう一度

 報告する」


成果ではない。

危機でもない。


**“兆しの段階”**で。



◆風の不在


この日、

風は調理場に来なかった。


それは、

異常ではない。


むしろ――

正しい。


ルナが

小さく言う。


「……これは……

 風の仕事やない……」


アリアは頷く。


「……だからこそ、

 私たちの仕事」



◆静かな確信


夜、

調理場の灯りを落とす。


火は消える。

だが、

冷えは残る。


ミナが

ぽつりと呟いた。


「……これ、

 放っといたら、

 風のときより

 厄介やで」


ソラが

低く答える。


「せやな。

 “分かりにくい”からな」


アリアは、

城の奥を見つめた。


(……風の問題は、

 目に見えた。


 だが、

 足元の問題は、

 生活が崩れるまで

 気づかれない)


まかない部は、

城の異変を

 最初に感じ取る場所にいた。


それが、

次の役割だった。


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