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今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
302/370

越えてはいけない線

夕方、

町の空気が再び変わった。


市場の喧騒が、

ざわめきではなく、

一点に集まり始める。


声が、

揃い始めていた。


ミナが眉をひそめる。


「……あかん。

 あの揃い方は、

 “決めつけ”や」


ソラも足を止める。


「誰かが、

 旗振っとる」


風は、

町の上で

わずかに高くなった。


暮らしの高さから、

一段だけ上へ。


ルナが小さく言う。


「……風……

 引っ張られ始めてる……」



◆強い声


広場の一角で、

人だかりができている。


中心にいるのは、

会合には姿を見せなかった男だ。


声が大きく、

言葉が断定的。


「だから言っただろう!

 風は管理すべきなんだ!」


「今日の粉挽きの遅れ、

 見ただろう!」


「迷いを許せば、

 町が止まる!」


言葉は、

不安を整理するためではなく、

押し切るために使われていた。


ミナが低く言う。


「……あの言い方、

 “分からんやつは黙れ”や」


ソラが頷く。


「対話する気、

 ないな」



◆風を証拠にする


男は、

空を指さした。


「見ろ!

 風も、

 迷っているじゃないか!」


それに呼応するように、

風が一瞬、

強く吹く。


意図的ではない。

だが、

そう見せるには十分だった。


ルナが、

はっとする。


「……風……

 今……

 “使われた”……」


風は、

苦しそうに揺れている。


引き金を引いたのは

自然ではない。

言葉だった。



◆一線を引く


アリアは、

一歩前に出た。


だが、

声を上げない。


男の正面にも

立たない。


横に立つ。


それだけで、

場の視線が

少しずれる。


アリアは、

低く、はっきり言った。


「……風を、

 “証拠”に使うのは、

 やめてください」


男が睨む。


「何を根拠に――」


アリアは遮らない。


「根拠の話ではありません。


 それを始めた瞬間、

 この町は

 戻れなくなる」


ざわめきが、

一段下がる。



◆守る線


男は、

苛立ちを隠さず言う。


「では、

 何も決めるなと?」


ミナが、

ここで口を開いた。


「決めてええ。

 でもな、

 風を殴り棒にすな」


ソラが続ける。


「風は、

 誰の味方でも

 ない」


ルナが、

震える声で言う。


「……風……

 嘘、

 つけへん……」


その言葉が、

人の胸に

静かに刺さる。



◆空気が割れる


男は、

一瞬、言葉に詰まった。


怒りが、

支持に変わりきらない。


その隙間で、

別の声が上がる。


「……今の言い方、

 ちょっと強すぎや」


「風のせいにしても、

 昨日の軸は

 直らんかったやろ」


一枚岩だった空気が、

割れ始める。


風は、

その隙間を

すっと抜けた。



◆退くという選択


アリアは、

それ以上、

踏み込まなかった。


勝たない。

論破しない。


ただ、

越えてはいけない線を

示しただけだ。


ミナが

小さく息を吐く。


「……これ以上やったら、

 “敵”になるとこやったな」


ソラが頷く。


「線、

 見えたからな」



◆夜の風


夜、

風は再び

暮らしの高さへ戻る。


揺れは残る。

だが、

引き裂かれてはいない。


ルナが

小さく言う。


「……風……

 今日は……

 守られた……」


アリアは、

町の灯りを見つめた。


(……この町は、

 まだ選べる。


 武器にするか、

 共に生きるか)


そして、

まかない部が

守るべき線も、

はっきりした。


風を、

 人の正しさの

 道具にしない。


それが、

この町での

次の基準だった。


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