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今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
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声が先に立つ町

街道の先に見えたのは、

これまで立ち寄ってきた集落とは

明らかに規模の違う町だった。


門は大きく、

人の出入りが絶えない。

荷車、商人、巡回兵。


風は――

町の外周で、

一瞬だけ滞った。


ルナが足を止める。


「……風……

 ここ……

 入る前に……

 様子見てる……」


ミナが苦笑する。


「そらそうや。

 声、多すぎるわ」


ソラも周囲を見渡した。


「風より先に、

 人の思惑が

 ぶつかっとる」


風は強くない。

だが、

町全体を覆うような

重さがある。


それは自然の圧ではない。

人が集まりすぎた場所特有の密度だった。



◆町に入った瞬間


門をくぐると、

すぐに声が飛んできた。


「……あれか?」


「風の話の連中って」


「魔王城から来たって……」


噂はすでに先回りしていた。


誰かが指をさし、

誰かが距離を詰め、

誰かが様子を見る。


ミナが低く言う。


「……あかん。

 もう、

 “見る”んやなくて

 “測られとる”」


アリアは頷いた。


「ここでは、

 沈黙は

 中立じゃない」



◆迎える側の代表


町の中央広場で、

一行は止められた。


豪奢ではないが、

よく整えられた服を着た男が

前に出る。


役職者だと、

一目で分かる。


「ようこそ。

 我が町へ」


口調は丁寧。

だが、

距離は詰めない。


「噂は聞いております。

 風を“解放した”とか」


その言葉に、

ざわめきが走る。


ソラが小さく息を吐く。


「……もう、

 評価始まっとるな」


男は続ける。


「我々の町では、

 風は重要な資源です。


 水運、

 乾燥、

 粉挽き――

 生活の根幹」


アリアは遮らない。


男は、

そこで一拍置いた。


「ですから、

 “自由にする”という考え方には、

 慎重でありたい」


それは、

町の総意を背負った

言葉だった。



◆風の反応


風は、

男の言葉に

直接反応しなかった。


だが、

町の上空で

流れが細分化し始めている。


ルナが小さく言う。


「……風……

 分かれ始めてる……」


カール(蒼術)が補足する。


「圧力が一点に集中していない。

 意見が割れている証拠だ」


つまり――

この町は、

すでに一つではなかった。



◆ぶつかる正しさ


人垣の後ろから、

別の声が上がる。


「でもよ、

 去年の突風で

 倉が飛んだろ!」


「管理してなかったからだ!」


「いや、

 管理しすぎたんだ!」


議論は、

すぐに感情を帯びる。


ミナが眉をひそめる。


「……ここ、

 火ぃつけたら

 一瞬やな」


ソラが低く言う。


「うちらが何か言う前に、

 勝手に燃える」


アリアは、

一行にだけ聞こえる声で言った。


「……今日は、

 “答え”を

 持ち込まない」


ミナが即座に理解する。


「聞く側やな」



◆町の内側


その夜、

一行は町の端に宿を取った。


風は、

屋根の上で

落ち着きなく揺れている。


ルナが呟く。


「……風……

 ここ……

 誰の声を

 聞いたらいいか……

 分からん……」


アリアは答える。


「……風も、

 迷っていい」


ミナがため息をつく。


「今までで

 一番ややこしいな」


ソラは、

静かに前を見る。


「せやけど……

 避けて通られへん場所や」


町の中心では、

まだ議論が続いている。


正しさが、

互いに相手を

押しのけ合っていた。


風は、

その上を

静かに漂っている。


それは――

人の声が風より先に走る町で、

初めて立ち止まった風の姿だった。


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