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今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
299/371

熱が先に立つ

朝は、

音から始まった。


町の中央通りで、

木が割れる乾いた音。

続いて、

人の叫び声。


ミナが即座に立ち上がる。


「……来たな」


ソラは短く言った。


「事故や。

 まだ、

 揉め事ちゃう」


一行が通りへ出ると、

荷車が横倒しになっていた。


車輪の軸が折れ、

積まれていた木箱が

道に散らばっている。


怪我人はいない。

それだけで、

十分に幸運だった。



◆原因は風か


だが、

人はすぐに理由を探す。


「……今朝、

 風向きが変わったろ」


「だから、

 車が煽られたんだ!」


「いや、

 管理が甘かっただけだ!」


声が重なり、

熱を帯びていく。


ルナが小さく言う。


「……風……

 今朝……

 強くない……」


実際、

風は弱い。


むしろ、

人の声のほうが

空気を押している。


カール(蒼術)が

壊れた軸を確認した。


「……金属疲労だ。

 長く使われている。


 今朝の風で

 折れたわけじゃない」


だが、

その説明は

今の場では

受け入れられにくい。



◆燃えやすい空気


役職者の男が、

人垣の前に立つ。


「落ち着いてください。

 原因は――」


その瞬間、

後方から声が飛ぶ。


「また隠す気か!」


「風を自由にしたせいだ!」


言葉が、

刃物のようになる。


ミナが歯を噛む。


「……これ、

 説明合戦やったら

 負けるな」


ソラも頷く。


「理屈が通るかどうかより、

 “誰が不安か”の話や」


アリアは、

即座に決めた。


「……火消しはしない」


ミナが目を見開く。


「え?」


「火を小さくする」



◆場を冷ます


アリアは、

役職者の男に近づき、

小声で言った。


「……今、

 誰かが“正しいこと”を

 言い切ると、

 逆に燃えます」


男は、

一瞬戸惑ったが、

すぐ理解した。


「……では?」


アリアは答える。


「話題を、

 “直すこと”に戻してください」


男は深く息を吸い、

人々に向かって言った。


「……まず、

 道を空けましょう。


 荷を片づけ、

 通れるようにする。


 原因の話は、

 それからだ」


その言葉は、

意外なほど

すんなり通った。



◆手が動くと、声が下がる


ソラが

倒れた荷車を起こす。


ミナは

散らばった木箱を集め、

通りの端へ寄せる。


誰かが、

それを手伝う。


「……持つで」


別の誰かも加わる。


「こっち、

 空いてるぞ」


声は、

自然と

作業のためのものに変わる。


ルナは、

人の動きに合わせて

風を見る。


風は、

少しずつ

均一さを失い、

人の隙間を縫うように流れ始めた。


「……風……

 今……

 混ざってる……」



◆残る火種


作業が終わるころ、

誰かが呟いた。


「……でも、

 風の話は

 まだ終わってへんよな」


完全に

収まったわけではない。


だが、

今は誰も

怒鳴っていない。


それで十分だった。


アリアは、

一行にだけ聞こえる声で言った。


「……今日は、

 これ以上

 踏み込まない」


ミナがうなずく。


「一回、

 冷やしただけでも

 上出来や」


ソラが続ける。


「火種、

 見えたしな」



◆夜の風


夜、

宿の屋根の上。


風は、

町全体を

ゆっくり巡っている。


強くもなく、

弱くもなく。


だが、

昼よりも

自然だ。


ルナが小さく言う。


「……風……

 今日は……

 “責められへん日”

 やった……」


アリアは、

その言葉を胸に留めた。


(……答えを出さなくても、

 燃えない時間を

 作ることはできる)


町は、

まだ揺れている。


だが――

爆発する一歩手前で、

 踏みとどまった。


それは、

まかない部が

この町で果たした

最初の役割だった。

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