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今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
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手を放す位置

水車の音が、

夜の町に溶け込んでいた。


規則正しくはない。

ときどき間が空き、

ときどき少し速まる。


だが、

耳障りではなかった。


ミナが窓辺に立ち、

その音を聞きながら言う。


「……止まるかもしれん音って、

 案外、

 落ち着くな」


ソラが頷く。


「次どうなるか、

 決めつけられてへんからな」


ルナは、

風の光を見つめていた。


「……風……

 今……

 町と……

 同じ速さ……」


風は、

水車にも、人にも

寄りすぎない距離で流れている。



◆役割を下ろすか


翌朝、

男は一行のもとを訪れた。


表情は落ち着いている。

だが、

迷いが消えたわけではない。


「……相談があります」


アリアは静かに促す。


「どうぞ」


男は言葉を選びながら話した。


「私はこれまで、

 風の調整を

 一人で担ってきました。


 ……もう、

 やめるべきでしょうか」


ミナが即答しなかったのは、

珍しかった。


ソラが先に言う。


「やめる、

 やなくて……

 降りる高さの話やな」


男は目を見開く。


「……高さ?」


アリアが続ける。


「全部握る位置から、

 少し下がる。


 でも、

 見ていない場所へ

 行くわけじゃない」


男は、

少し考え、

小さく笑った。


「……見張りではなく、

 隣に立つ、

 ということですか」


ルナが静かに頷く。


「……風……

 それ……

 好き……」


風の光が、

ほんの少しだけ

男の方へ近づいた。



◆若い世代の動き


その日の昼、

数人の若者が

水車のそばに集まっていた。


昨日の修理を、

興味深そうに見ていた者たちだ。


一人が言う。


「……あのさ。

 風、

 毎日同じやないんやろ?」


男は答えかけて、

言葉を止めた。


代わりに、

アリアが言う。


「同じ日は、

 ほとんどない」


若者は、

少し考えてから言った。


「……なら、

 毎日、

 見に来るほうが

 自然なんちゃう?」


ミナが笑った。


「それ、

 ええな」


ソラも頷く。


「“管理”やなくて、

 “様子見”や」


男は、

そのやり取りを

少し離れた場所で聞いていた。


胸の奥で、

何かがほどけていく。



◆去る前に残すもの


夕方、

まかない部は

町外れで集まっていた。


ミナが腕を組む。


「……結局、

 何、

 残していく?」


ソラが答える。


「仕組みは、

 もう触った。


 言葉も、

 十分置いた」


ルナは、

風を見て言う。


「……一緒に……

 失敗しても……

 戻れるって……

 感じ……」


アリアは、

静かに決めた。


「……“正解”は、

 置いていかない。


 代わりに、

 迷っていい空気を

 残そう」


ミナが微笑む。


「うちららしいな」



◆男の決断


出立前、

男は町の人々を集めた。


大げさな場ではない。

水車のそばだ。


「……これから、

 風の調整は

 一人でやらない」


小さなどよめき。


「毎日、

 誰かと一緒に見る。


 止まったら、

 止まったなりに考える」


誰かが言った。


「……失敗したら?」


男は、

はっきり答えた。


「そのときは、

 皆で

 失敗する」


沈黙のあと、

誰かが笑った。


それで、

決まりだった。



◆別れの朝


町を出るとき、

今度は見送りがあった。


多くはない。

だが、

誰も不安そうではない。


ルナが風に囁く。


「……ここ……

 もう……

 大丈夫……」


風の光は、

町の上を一度巡り、

それから、

一行のもとへ戻ってきた。


だが、

昨日より少しだけ、

距離が近い。


それは――

「同行する理由」を

再び選び直した距離だった。



◆次の道


街道に出る。


前方には、

さらに人の多い地域がある。


ソラが前を見る。


「……次は、

 もっと、

 声がでかいとこやな」


ミナが肩を回す。


「揉めるやろな」


アリアは頷く。


「……でも、

 今回より

 静かには終わらない」


風は、

一瞬だけ強く揺れた。


それは――

次に待つものが、

より複雑で、

より人の思惑に満ちていることを

告げる前触れだった。


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