王女の苦悩
アデライン王女殿下は苦く笑う。
「婚約者候補の方は皆良くしてくださいますわ。ただ……私は選べる立場にはありません。そして今回の件……恐らく婚約者候補の方達は一度候補から外されます。私の方に問題があり、それが正されるまでは候補も置かないでしょう」
目を伏せる表情は穏やかで、悲痛に満ちているわけではない。
アデライン王女殿下は謹慎を命じられ、再教育されることとなった。その再教育が終わらない限り、婚約者候補を立てることもできないのだろう。つまりは今の婚約者候補の方は一度候補から外れる。
「アデライン王女殿下は……想う方はおられなかったのですか?」
「はい。私は……フィーリア様達のような婚約関係に憧れはありますが……恋というものはしたことがありませんわ。それに王女という立場でそれが許されるとも思いません。ですから別の方の幸せを見ることができ、僥倖ですわ」
私の目を見て嬉しそうに微笑むアデライン王女殿下。しかし、すぐに顔を曇らせる。
「オズウェル兄様を止められなかったことは……私の落ち度ですが……」
「いいえ、アデライン王女殿下。オズウェル様はあの断罪を望んでいらしたのでしょう?」
アデライン王女殿下の肩が揺れる。私を見る王女殿下は困ったように目を逸らした。
「……フィーリア様の言う通りですわ。兄は……あの断罪を望んでいました。私は……それを止めたいと願っていましたが……優秀なオズウェル兄様を止めることは叶いませんでした」
王女殿下の長い睫毛が三色混じる目を覆う。まだ14歳である王女殿下では知識も経験も、兄であるオズウェル様には及ばなかったのだろう。
「ですから、せめて共に断罪されようと思ったのです。私にとってオズウェル兄様は……王族という貴族の規範となるべき枠の中で……唯一、家族と呼べる方でしたの」
アデライン王女殿下の瞳がこちらを向く。私が話の先を促すように微笑むと、頷いて続きを話す。
「私が産まれた時、母に負担がかかったようで母は療養中となりました。母の病がフィーリア様と同じ病だったのは驚きましたが……幼い頃の私は、母が私を産んだ後から体調を崩したとあって申し訳ない気持ちでいっぱいでした。療養中の母とあまり会えず、会っても母の負担とならぬよう一言二言話すだけ。罪悪感と寂しさでよく泣いていた私をいつも慰めてくれていたのはオズウェル兄様でした。一番上の兄は王太子となる勉学が大変でしたし、三番目の兄は魔法に興味がいっておりましたので……オズウェル兄様が私の相手をしてくれましたわ」
思い出を語るアデライン王女殿下の表情はとても優しい。しかしその優しい表情には悲しみも隠れている。
「私はオズウェル兄様に構ってもらって嬉しかったのです。けれどオズウェル兄様はずっと何かが足りないような顔をしておりました。そしてそれが……きっと、断罪で得られるものだったのでしょう。オズウェル兄様は母が来た時……安堵するような表情でしたわ。……私では、兄の力にはなれなかったのです」
悲痛を訴える声。私はアデライン王女殿下を真っ直ぐ見据える。
「アデライン王女殿下、気持ちはお察し致しますわ。けれど嘆くだけでは得られないものもあるのです。私もディオンにとっては『守る者』でした。ですがそれはディオンが決めたこと。私は私の力でディオンに守られるのではなく守ることを選びました」
アデライン王女殿下の顔を微笑みを浮かべながら見返す。
「ですから、そうすれば良いのです。何かを待つことも、誰かを待つことなく、アデライン王女殿下自身が納得される為に。そしてアデライン王女殿下が守る為に」
笑ってそう話すと、アデライン王女殿下はくしゃりと顔を崩した。
「そうですわね、そうですわ……。そう、でしたわ……」
顔を伏せたアデライン王女殿下は耐えるように呟いた。
決してもう元には戻らない。それでも今からでもできることはあるはずだ。
アデライン王女殿下が顔を上げる。
「オズウェル兄様に私の気持ちを書いた手紙をお渡ししますわ。全てはもう起こったこと。何かが困ることはあり得ません。けれど……心の内は変わることもあり得ますから」
清々しい顔で微笑むアデライン王女殿下に私も微笑み返した。
青く澄み渡った空の下で確かな平穏がそこにあった。
寝落ちしておりました。
更新が遅くなりすみません。
この先もよろしくお願いします。




