私の婚約者
「ぜひ、よろしくお願いします!」
そう言って満面の笑みで王妃陛下へと返事をしたのが一週間程前。
「フィーリア・トルメリア様、この度は申し訳ありませんでした」
一週間経った今、私はアデライン王女殿下が暮らしている宮のガゼボで謝罪を受けていた。艶やかな金が濃い白金の髪が垂れ、王女殿下の顔を覆い隠している。テーブルに用意されているお茶と茶菓子は暫く出番がないだろう。
あの後、私の体調を考慮しながら王宮の阻害魔法を改良する話し合いの場が設けられた。この改良に加わり成果が出れば、王宮魔導具師に推薦して頂けるとのことだ。そういった前例もあるので特別扱いでもないようで安心する。
多少は国王陛下達からの配慮もあるとはいえ、実力を評価してもらって王宮魔導具師になりたいのだ。
そうして話し合いを終えた後、王妃陛下からアデライン王女殿下が会って謝罪をしたいという話を聞かされた。
私はアデライン王女殿下に聞きたいことがあったのでその申し出を快く受け、今日に至る。
今日も阻害魔法改良の話し合いを終えた後だ。
しかし、謝罪を受けるとは言ったものの対応に困る心はなくならない。
「アデライン王女殿下、私は気にしておりませんわ。頭をあげてくださいませ」
ここ最近で王家の方々に何度頭を下げられているだろう。この前よりはまともに対応できるようになった。
――国王陛下達に頭を下げられるよりは心臓に悪くないもの……!
私の言葉に顔を上げたアデライン王女殿下の顔は苦悩に満ちている。
「ですが……」
「ディオンに聞いていますわ。私とディオンのことを気に掛けてくれていたと。ですから気にされないでください」
それでも申し訳なさそうなアデライン王女殿下に微笑む。
「ディオンがアデライン王女殿下に『きついことを言ってしまって申し訳なかった』と言っておりました。アデライン王女殿下が気に病むとディオンも自分がきついことを言ったせいだと気にいたしますわ」
ディオンからの伝言を伝えるとアデライン王女殿下は青と金、そして銀が混じる三色の綺麗な目を伏せた。
「いえ……私の考えが甘かったのだと、教えていただきましたわ」
……ディオンは私の元へ戻るつもりがなかったようだから、かなり強く言ったのだろう。
――まったくディーってば……変なところ頑固なんだから。
それでももし、ディオンが私の元に戻ると言っていたとしても……私はディオンを取り戻しに行っただろう。だって、ディオンが一瞬でも他の人と婚約するのは許せないから。
「ディオンの言葉がアデライン王女殿下の教えとなったのでしたら幸いでございます。しかしこれ以上は気に病まれないでください。ディオンは頭が固いですが、私がディオンを離しませんわ。ですから私とディオンはずっと婚約者のままですもの」
アデライン王女殿下に向かって綺麗に微笑む。一瞬たりとも、私がディオンの婚約者でなかったことはないのだと示すように。
私を見て目を見開いたアデライン王女殿下はしばしそのままでいた後、堪えられなかったように顔を崩した。
「そうですね……。本当に、そうですわ……」
納得したように呟いた王女殿下はふわりと笑う。
「わかりました。ありがとうございます、フィーリア様。フィーリア様とディオン様の二人はお似合いの婚約者同士ですもの。想い合っていてとても素敵です。……私、貴方達のような婚約者に憧れておりました」
恥ずかしそうに、しかしどこか諦めたように呟くアデライン王女殿下は、王女ではなく14歳の少女の顔をしていた。
「想い合い、互いの為であればどのような事も厭わない姿勢……。本当に素敵です」
息を吐きながら憧れを口にする王女殿下。それに答えようとしたところで先に王女殿下が顔を上げた。
「あ……私お茶も勧めておりませんでした。どえぞ食べてくださいませ。王宮のシェフが腕によりをかけて作ったものですの」
そう王女殿下に勧められると断れはしない。それに元から断るつもりもなかった。
「ではありがたく食べさせていただきますわ」
美味しいお菓子とお茶に舌鼓を打ちながら、しばし考えを巡らせる。そうして作戦を考えたところでアデライン王女殿下に話し掛ける。
「アデライン王女殿下、殿下にも婚約者候補の方々がいらっしゃるではありませんか。その方達はどうなのです?」
私の問い掛けにアデライン王女殿下は目を瞬かせた。そして少し困ったように眉を下げる。
私はその様子をじっと見つめていた。




