仲睦まじい二人
前のエピソードを修正しました。
けれどこのまま読んで頂いても支障ないです。
音が鳴った扉を見たディオンはふう、と息を吐いて顔を離す。
ハンカチを取り出して私が少し流してしまった涙を拭ってくれる。ハンカチは昔あげたクローバーを刺繍したもの。
ディオンの目元も少し濡れているので私もハンカチを取り出そうとしたらその前にディオンが乱暴に指で拭った。
「ええ!?どうしてハンカチを持っているのに使わないの!?」
驚いて声を上げるとディオンが不思議そうに首を傾げる。
「フィアがくれた大事なハンカチだよ?俺なんかの涙を拭くのには使えないよ」
まるで当たり前のように答えたディオンにぽかんと口をあけてしまう。
――え……ええ……?ディーってば……おかしいわ……?おかしい……わよね……?
ディオンが当然だという態度なので自分の感覚がおかしいのかと疑ってしまう。
――そういえば……あのクローバーのハンカチ……あげたの何年も前なのに今もすごく綺麗よね……?
きちんと使っているのかという疑問まで出てきた。
思わず顔を寄せながら唸っていると、扉が再び叩かれた。
――しまったわ!今は王妃陛下の応対をしないと……!
「は、はい、どうぞ!」
待たせてしまったと焦って声を上げる。
「あ、フィア」
ディオンの声掛けに振り向くと、顔が近い。
――はっ……!ディーの膝から降りてない……!
早く降りないと、と思ったところで無慈悲に扉が開く。
中に入ってきたのは白銀の髪を持ち、青に金が混じる壮年の男性。その顔はこの国の民であるならば知っておくべき方。
国王陛下だ。
ひゅっと息を飲んで立ち上がろうとした……ところで笑い声が響く。
「ふふふ、相変わらず仲が良いですね」
国王陛下の後ろで笑う王妃陛下。銀の目が楽しそうに私とディオンを見ている。
「はは、確かにな。王妃に聞いておった通りだ。ああ、二人共そのままでよいぞ。今はもう私的な時間だ。畏まることはない」
国王陛下も王妃陛下に続いて朗らかに笑う。
そのままでいいと言われてしまったけれど、畏まらないなんて無理だと思う。
――というか……私……もしかして、このままディーの膝の上で国王陛下や王妃陛下とお話するの……?
そのままなんて恥ずかし過ぎる。
「父上。そのままでよいと言われてしまってはむしろそのままでいるしか選択肢がなくなってしまいますよ。楽にしてもよい、と言われたほうが良いと思います」
王妃陛下の後ろには白銀の髪と青の瞳を持った青年。『父上』と国王陛下を呼ぶということは王太子殿下だろう。青の目が私とディオンを捉えて微笑む。その青の目は金色が少し煌めいている。
――お、王家の方々が……!い、いっぱい……!
思わずぎゅうっとディオンに抱き着く。高貴な方々を目の前にして気が遠くなりそうだ。
「ふむ……しかし、仲睦まじいから問題なさそうではないか?」
「確かにそうですね」
そう言われてハッとする。またもやディオンの膝から降りる機会を逸してしまった。
どうしようと思ってディオンを見ると、にこにこと嬉しそうに笑っている。
「……ディオン、国王陛下、王妃陛下、王太子殿下の御前だ。フィーリア嬢を膝から降ろしなさい」
更に現れたのは青みの強いブルーグレーの髪と深い藍色の目を持つ、ディオンの父であるルディウス様だ。ルディウス様の後ろにはプラチナブロンドと空色の目を持つ、ディオンの母であるアイリス様。赤味の強いブロンドと私と同じ若葉色の目を持つ私の父。
ルディウス様とアイリス様は少し呆れたような表情だ。しかし父は私とディオンのこんな様子を見慣れているからか優しく微笑んでいる。
――お父様!そこは注意してほしいわ!
心の中で叫びながらルディウス様の言葉に不満そうなディオンを見つめる。ディオンは私の視線に気づくと、仕方ないように笑った。
「わかりました、父上」
そう言って隣に降ろしてくれた。
――よかったわ!みんなに見られちゃったけれど……でも膝に乗ったまま話を聞く事態は回避できたわ……!
ディオンが立ち上がるのに合わせて私も立ち上がる。
「国王陛下、王妃陛下、王太子殿下。挨拶が遅れまして申し訳ございません。ディオン・ユーフィリウムでございます。私の隣にいるのは『私の婚約者』であるフィーリア・トルメリアです」
ディオンに紹介され礼をする。『私の婚約者』という言葉が強調されていたような気がした。ディオンの物言いが不敬にならないか不安になってくる。
「畏まらなくともよい。この場は非公式の場だ。座りなさい」
国王陛下に促され、ディオンと目を合わせてから座る。私達のソファーの後ろに父、ルディウス様、アイリス様が並んだ。
机を挟んだ向かいには国王陛下と王妃陛下。その後ろに王太子殿下がいらっしゃる。
――非公式の場……。ということは、お父様達で話はついたのね……。
私達はまだ学園も卒業していない子どもだ。今回の出来事の結末は大人達で話し合って決めたのだろう。
息を吐く。この部屋に漂う王妃陛下の魔力は優しさと……少し哀しさが混じっているように思えた。




